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8の扉 デヴァイ
白い空間
しおりを挟む白はやはり、白かった。
いや、本当にね?
本当に、白いのよ…。
大きな四角の扉を潜ってから。
ウイントフークと別れた私達は、白い店の前を歩いていた。
少し開けた空間に並ぶ店は、同じ形態で売っているものが違う、所謂モールの様なお店だ。
それが規則正しくカラカラと並び、魅力的なものが沢山見える。
しかし「案内をする」という筈なのに、その魅力的な店には目もくれずユークレースは真っ直ぐに歩いていた。
青の区画は、「夜かな?」と思う雰囲気の紺色の空間が頭上に拡がっていて「ドームか空か」という不思議な空間だった。
銀は「暗い夜の街」といった雰囲気。
ここは、例えて言うならグロッシュラーに近いかも知れない。
白い雲に覆われている様な、そんな空間なのである。
上も白い、建物も白い。
地面も白い。
一体、何でできてるんだろうか。
殆ど人の居ない表の店を、どんどん素通りして何処かへ向かっている彼。
その紺色のくるくる髪をチラチラ見つつも、人がいないのをいい事に私はチョロチョロとお店も覗いていた。
店頭に並ぶ様々な不思議なものたちを、確かめたかったからだ。
しかし、暫く歩くとグッと手を引かれ店先から遠ざけられる。
「ん?」
「見失うぞ。」
そう言って千里は私の腕を掴んだまま、スッと突き当たりの道へ入った。
凄っ。
初めてこの空間の突き当たり見たんだけど?!
どの区画でもその空間の終わりを見る事はなかった。
しかし案外普通の壁だったその場所は、ズラリと並んだ店の最後に現れた路地の様なもので、もしかするとただの壁なのかもしれないけれど。
でも、なんとなく。
私の勘が、「ここが端っこ」だと言っていたのだ。
ふぅん?
千里の地図でも、丸く区切られてたもんね?
あの大きな地図を思い出しながら、白い道を進んでいた。
「えっ。なにこれ、めっちゃ街っぽくないですか?」
「白はそうだな、こんな感じだ。結構何でも規則正しく並んでる感じだな?」
コソコソとベイルートと話す私は、声こそ抑えていたがその動きは全く抑えていなかった。
前を歩くくるくるの紺髪は見失わない様、最低限の注意は払っていたが首だけはキョロキョロと激しく動かして辺りを確認する。
この、白い規則的な建物が立ち並ぶ、不思議な空間を。
さながらそこは、二階建ての白い長屋がズラリと続く様な場所で私達はどうやらその分岐点にいる様だ。
きっとさっきの店の裏側なのだろう、白い壁のある開けた場所からは筋の様に真っ直ぐ道が伸びていて、それぞれがずっと奥まで続いているのが分かる。
ここからは、突き当たりが見えないところを見ると中々白は広い空間らしい。
家なのか、なんなのか。
その、時折高い建物がある以外はずっと同じ様な箱が並ぶ空間は中々圧巻である。
「さて。店だと他の色が来る可能性が無い訳じゃありませんから。ここならいいでしょう。」
その分岐点を少し歩いた所で立ち止まり、振り返ったユークレース。
くるりと振り返った彼を、思わずじっと見つめてしまった。
緑の瞳、ふわふわとぐるぐるの紙一重の紺髪に、少しくたびれたシャツとパンツ。
歳の頃も若いであろう彼は、雰囲気で言えばラガシュに似ている気がする。
いや、あんな所に蹲み込んでいるのだから、ウイントフークに近いのかもしれない。
何しろ、警戒感など抱かせぬ彼の様子にすっかり安心した私は欲望のまま質問を口にした。
「あ、の。ここって、まじないとか美術品とか。沢山、美しいものがあるんですよね??」
そんな私の様子を、何故だか不思議そうに見つめる彼。
やはり「お淑やか」じゃないとおかしいのかと、首を傾げた私に、彼はこう言った。
「あなたは、ブラッドフォードと婚約するのですよね?」
「………?はい。」
何故、そんな質問が来るのかが分からない。
しかし頷くしかない私は、余計な事は言わない方がいいと、大人しく返事だけをしておいた。
だが、取り繕った私をいとも簡単に引っ剥がす疑問を、この人はぶつけてきたのだ。
「では何故。色が、違うのですか?………確かブラッドフォードはこの色ではなかった筈…。」
え?
色??
いきなりブツブツ言い始めたユークレースの意味が分からなくて、首を傾げる。
すると、耳元でブレーンが呟いた。
「多分。ヨルから漏れてるやつが、見えるんじゃないか。」
「えっ!」
まずっ。
大きな声が、出た。
キラリと楽しそうな色が浮かぶ緑の瞳、そこには「本当はどうなのですか」と興味津々の色が浮かんでいる。
多分。
この人は、分かってるんだ。
ブラッドフォードが何色なのか、私は知らないけれど。
私の中にあるのが「金色」で、それがブラッドフォードとは違う色だということ。
ん?
えっ?
ちょっと、待って??
「私の中にある色」が、見えて?
それが、お兄さんと違ってそれが示す事、が。
「私の相手が違う」ということ。
え?
じゃあ何?
私がアレを、注がれてるって、この人気付いてるって、こと????!?
ど
どうしよう 絶体絶命
無理無理無理無理無理無理無理
えーーーーーーーーーーーーー?!?
幸い、顔はベールで隠れている。
しかし。
そういう、問題でも無いのだ。
え ちょっと この場から
逃げたいんだけど?!
せめて身を隠したい………隠れる場所…?
ベイルートさんは小さ過ぎるし…。
ハッとして振り返り、楽しそうな顔の極彩色の背後へ、隠れた。
多分、千里は。
私が何を考えているのか、解るのだろう。
それも無理だけど、あの瞳の方がもっと無理!!
そうして暫く。
「とりあえず、僕の工房まで行きましょうか。」
その、ユークレースの声が聞こえてくる迄は千里の背後から出られなかった、私。
しかしその「工房」という言葉には、抗えなかった。
そうして、歩き出した千里の背後から私もこっそりとついて行ったのである。
勿論、頬をピタピタと叩きながら。
「ベイルートさん。あの人って、私と………その、あの、あのその………」
「ん?あのその、なんだ?」
「いや、あの「色」がえっと…私の、中の…うん。」
私がしどろもどろになっていると、いきなり前から声が降ってきた。
「依ると交わっているのが、違う奴だって事だろう?」
「ちょ!ま、まじ………その言い方、止めてくれない?!?」
「何故?事実だろう。」
いやいやいやいやいや、アナタ。
それは、ちょっと、乙女に対してその言い方は………。
しかしそれに構わず話を続けるベイルート。
みんな、乙女心をもっと慮って欲しいものである。
「成る程、ユークレースがそれに気が付いているのか、って事だろう?そうだろうな。まあ、あまり気にするな。婚約しているならそれくらい……?は、どうなんだろうな?」
「気にするなって………うん、まぁ、どうしようもないんですけど…。それに、「違う人」だっていうのが、問題ですよね?」
「うーん、でもあの感じだと。気にしてないんじゃ、ないか。だから話したんだろうあんな所で。」
確かに。
本来ならば、往来の真ん中でする様な話では、ない。
それに私は一応、銀の娘なのだ。
他の人と、通じていること自体。
バレると、面倒な事は言われなくとも解る。
「何しろ行けば、話すんじゃないか?」
「そうですね………。」
その話の間、私の心臓保つかなぁ………。
まだ白の区画に着いたばかり、しかも何も見てもいない。
大きく息を吐いて、とりあえずは辺りを観察することに、した。
ユークレースが進んでいる右端の道、そこには。
小さな看板のかかった店の様なものがズラリと並んでいる、見るからに楽しそうな場所だからだ。
「うん、とりあえずこっちに集中しよっと。」
「どちらにしても。興奮、し過ぎるなよ?」
「はぁい。」
そうして彼との間に極彩色を挟みつつも。
再びの、観察を始めたのだ。
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