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8の扉 デヴァイ
銀の相談室
しおりを挟む「アレは、まずいわ。」
「そうね。配るのは、確実に駄目よ。せめてお金は貰わないと。」
「そうね?有料なら、いいかもね?」
「この部屋もいい感じだし、ヨルはハーブもある。なんなら話してるだけで元気になるしね?いいんじゃない?」
「でも婚約者は?」
「煩いかしら?あの人。」
「どうだろうね。でも銀だからなぁ。」
「あ、の~?何の、話?」
私抜きで進んでいる、何かの、話。
でもきっと、私の話だろうというのは、分かるんだけど。
何故だかパミールがお茶のお代わりをみんなに注いでくれる間に、ガリアが説明を始める。
「あのね、ヨル。初めに言っておくけど。」
「うん?」
「あなたは、普通じゃないからね?」
「うん??」
えっと。
それは。
どう、いった意味で………??
「ガリア。それじゃ、ヨルには伝わらないわよ。そもそも、仕方無いわ。ここだって、外からすれば。「普通」では、ないでしょうに。」
「まぁね。」
あ、良かった………。
とりあえず私が光って見える訳じゃ、ないみたいね…。
何やら真剣な顔をして話し合っていた二人から出てきたのは、やはり私を心配しての言葉だった。
でも、何故だか「私が普通じゃない」という、前置きから始まったけれど。
でも、二人はあの祭祀も、見たし。
勿論私がちょっと、おかしい事も、知っている。
その二人に改めて、「普通じゃない」と言われると、どんなに凄く普通じゃないのかと、思ったけど。
「えっと、この石を「あげちゃう」のが、駄目って事だよね?」
「「勿論。」」
揃って頷く二人を見て、安堵の息が漏れる。
どこまで、何を。
話すか、知られてもいいか。
この世界は思ったよりは、普通だけれど。
「悪いものは寄ってこれない」と言っていた、青の鏡。
アラルを捕まえようとしていた、デヴァイの謎の人々。
スピリットがいなくなった空間と、その理由。
やはり、何処で誰が聞いて、見ているかも分からないし、何が危険で何が危険じゃないのかも。
私は、解っていない。
そもそもこの世界について、まだまだ知らない事が、多いのだ。
……本当は全て話して、相談でもできたなら。
隠し事は、苦手なタイプだ。
嘘も下手だし。
でも。
危険に巻き込む事は、やはり、できない。
「………ヨル?聞いてる?」
「…ん?え?ああ、ごめん。えっと、お金を貰えば。いいって、こと?」
いつの間にか、一人俯いてぐるぐるしていた、私。
顔を上げると少し、眩しく感じるパミールの髪が目に入る。
今日もお天気のまじない窓は、いい仕事をしてくれている様だ。
金茶の髪が光に透けて、とても綺麗である。
そうして一旦、目に明るい色を入れその色彩を取り込むと、大きく深呼吸して座り直した。
どうやら二人は、私抜きで大分話を進めていたらしい。
説明を兼ねこの世界の話を含めつつ、私が飛び付きそうな話を、してくれた。
「あのね、それぞれの家が商売をやっているのはもう見たでしょう?」
「うん。いいよね!パミールとガリアの所は何をやってるの?今度行ってみたいなぁ…。」
「そうね。でもそれに関しては婚約発表、そのお披露目が終わってからの方がいいでしょうね?」
「うん、私もそう思う。ベールを着けているからどうしたって銀なのはバレるしね。多分、発表した後なら大丈夫じゃない?でも今まで見た事ないけどね?みんな、どうしてたのかしら。」
やはり銀が他の色の家に行く事は、かなり目立つらしい。
「ま、それは後でいいとして。そのね、ヨルの所はあの人が帰って来たから安泰なんだろうけど、ヨル自身も。お店をやったら、どう?」
「お店……?」
それは。
ウイントフークも言っていた、素敵な提案の事だろうか。
ある意味ウイントフークは偏っているので、本当にやれるかどうか判断に困っていたところは、ある。
でも、この二人からそう、言われるならば。
やっても、大丈夫なのではないか。
少し身を乗り出して、続きを聞き始める。
「そう。ヨルはさ、お友達できたらきっとホイホイ石をあげちゃう気がするんだよね…。それでも大丈夫な人も、いるだろうけど。」
「「ね。」」
「十中八九、利用されるわ。それなら、始めから商売にしちゃった方が、いいわ。」
「………十中八九。」
「そうね。勿論悪い人ばかりでも、ないんだけど。きっとこれは、大きな影響を持つ。どうしたって、取り込もうとする人は出るわ。まあ、銀だからあからさまではないかもしれない。婚約もしているし。」
「そうね。それにこの家は昔から「石」を扱う家だから。石を使って、うーん、何だろう?癒しや相談事を扱うまじないの店ならば。不自然では、ないしね。」
「成る程………。」
二人が、かなり考えて提案してくれているのが分かって、つい笑みが出る。
「何、笑ってるのよ。真剣な、話よ?」
「だって………ありがとう。嬉しい。」
私の言葉に、三人顔を見合わせて微笑んだ。
グロッシュラーのあの生成りの部屋で、女子会をした事が大分前の様に感じられる。
そう、時間は経っていないのだけど。
それぞれの変化した環境、変わった世界、私達を取り巻く問題はあまり変わっては、いない。
だけど。
そうしてまた、パミールがお茶の葉を変えてくれて。
ガリアがクッキーを取り分け、私に一枚持たせる。
その一枚をとりあえず食べ、お茶を飲んだ私は座り直して真剣に二人と相談を始めた。
そう、どうすればこの世界で「普通の店」を開けるのか。
その方法を、本格的に聞く事に、したのだ。
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