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8の扉 デヴァイ

魔女部屋で

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走れ  走れ


 お前のやるべきことは  なんだ

進むべき 道は  走っているか


 その 手に持つ灯を掲げ

 走れ 先頭を


 この 未だ暗い  闇の世界を

 先ずは  照らすのだ


さすれば  まず 仲間がお前を見つけるだろう


 ひとり ひとりの  光

 今は  とても 小さな 光

 しかし それが 集まれば。




掲げろ  走れ  触れ回るのだ

光が あること

灯りが  燈ったことを 知らせるのだ


 さすれば 自ずと


今 ある光は 集まるだろう


  そう  大きな光の 核になる

  
     小さな  光たち が。















夢だろうか、なんだ、ろうか。

この頃、ふと頭の中に浮かぶ、光景。


いや、どこからか、響く。

声、なのだろうか。




二人との、約束の日。

朝、思い立って礼拝室から石を持ち出した私は、青い廊下を軽やかに進んでいた。



「♪   」

そうしてそのまま、部屋の中でも。

無意識の鼻歌、軽くステップを踏みながら机の上を並べ替える。

長机よりも、こちらの四角の方が見易いだろう。


大きな机の上の道具を、一部長机に移しこちらに石コーナーを作る。

今日は、あの二人がここへ、遊びに来て。
おまじないよろしく、気に入った石を選んでもらうつもりの私。

そう、普通のお茶会の筈なのだが、何故だかあの二人が消耗している気がする私は、二人の為に石を並べていた。


なんとなく、だけど。

ここへ「帰りたくない」と言っていた二人は、窮屈な実家へ帰って疲れていると思ったのだ。

「ま、もしじゃなくても。可愛い石を見て、選ぶのは楽しいしね?」

そう独り言を言いつつ、グラデーションで石を並べていく。



前もって、ウイントフークに許可は貰った。

グロッシュラーでも私の石を配る際には、白い魔法使いに相談したりしていたし、ホイホイ配っていいものではない事は流石に解っていたからだ。


「小さなものに、しておけよ?ああ、あと薬は完成している。」

「え?薬?」

「そうだ。以前、ファルスターと作ると、言っていただろう?お前の石を加工して作った、薬なんだが…。意外と万能なんだよな。」

「ん??あの?シャットで言ってたやつですか?」

「そうだ。」


ウイントフークが言うには、あの時グレフグ君に使った粉を利用して、癒し薬的なものを作ろうとしていたらしい。
なんだかドーピングみたいになった、アレだ。

一旦ラピスに帰った時にフェアバンクスと協力して、泉へ通っている人に希望者を募り配ったところ、効果は的面だった。

は、精神薬としても、簡単な怪我を治癒する、薬としても。

一定の効果が出たらしいのだ。

「兎に角、害にはならない事が判っているからな。希望があれば、投与する事にしている。」

「えー…。まあ、確かに。「癒し」しか想って、ないんだけど…。」

副作用とか、合わない、とか。
確かに、そういった部分は心配ないかも、しれないけど。

「一応、自分が作ったものから出来てますから…心配ではありますね…。」

「何かあれば、全て責任は俺が取る。お前は何も心配せずに。光っていれば、いいんじゃないか。」

「ん?光る?」

「聞いてないのか?最近お前が光ってるって、あのスピリット達が言ってたぞ?」

「え、ええ~??」


「漏れ出してる」と、「振り撒いてる」以外に、今度は「光ってる」??

それって、どうなの??


ぐるぐるしている私に、ウイントフークはこう言って去って行った。

「ま。いつもの事だろう。」

うーん、他人事。

でも。
ウイントフークさんが、そんな感じ、だから。

「うん。ま、いっか。」

私も、そう深刻にならずに過ごせているのだろう。


そうして「あの人今日はどこ行くのかな」と思いつつも、私は魔女部屋に来たのである。




「水はあるから…ヤカン…あ、あったあった。コンロ?はあるかな?」

一応、ソファースペースもある魔女部屋。

私のお気に入りバーガンディーはひとり掛けのソファーで、長机の端にある。
それ以外にもきちんと、中央にはお茶ができそうなスペースが用意されていた。

もう少しソファーの脚が長ければ、もっと飲食しやすそうだけどな………。

いや、多分お茶の為の場所では、ないんだろうけど。


無事ミニキッチンを隅に見つけ、ヤカンをセットしておく。
初めにこの部屋を見た時は、気付かなかったけれど。

そもそもきっと、今なら私の都合のいい様に変化する気がする、この部屋。
今日はお茶会をしようと思いながら、向かっていたのは事実だ。

もしか、したら。

「うん、あり得る。」

ウイントフークよろしく、あまり気にしない事にしておこう。

そうしてヤカンも、チェックする。
私好みという事になれば、これもカンカン言うだろうか。
いきなり驚かない様、一応心の準備だけはしておく事にして、部屋の最終確認を始めた。


うん、大丈夫そう。

お茶オッケー、石オッケー、オヤツはシリーお手製のクッキーだ。
そう、ここへ来て私はグロッシュラーで腕を奮う場所が無かったクッキーの技を伝授していたのだ。

レナは、クッキーを作っているだろうか。

あ。いかん。

危険な想像を横に置いて、机に置いた話石を手に取った。






「いきなりラガシュが来た時は、ビックリしたけどね?」

「うん、でもそれが一番。いいかと、思って。この間も送ってくれたじゃない?」

「そうだね。でもよくタイミングよく、アレだったね?」

「うん。」

丁度、私が弄んでいた話石を机に置いた時。
ハクロが二人を案内し、部屋へやってきた。


ハーブの香り漂う魔女部屋は、パミールとガリアの来訪により、一層明るさを増していた。

単に人数が増えたと言うよりも、二人の衣装が。
グロッシュラーにいた時よりも、華やかなものになっているのが大きいだろう。
二人とも髪色によく映える、若草のワンピースと濃い赤のセットアップ。
勿論、個性的な方がガリアだ。

私のクローゼットを見て「地味ね」と言っていたのも、頷ける。


そうしてお茶の支度が整い、一息ついた、ところで。

ガリアから出たのが、ラガシュ来訪の件だった。
どうやら、青の家というよりは他の色の家から来訪する事自体が、少ないらしい。


「うん、あの人ウイントフークさんの所によく、来るから。その時お願いしておいたんだ。二人に連絡する手段が無いから。どうしようかと思って。」

「そうね、すっかり言い忘れてたもの。前もって預けておけばよかったわね?」

パミールが言うには、今は既に決まりきった連絡先しか無い為、話石は殆ど使わないのだそうだ。


「じゃあ各家が連絡を取る時はどうするの?」

「そもそも他の色の家と会う事なんて、そう無いわよね?」

「そうね、買い物で直接行くか、何かあった時くらいしか……最近だとやっぱりヨルの婚約の話題よね。ああ、各家に通達は来るのよ?流石に銀の婚約だしね。それでそれぞれの色の中で噂になる訳よ。ま、それは仕方無いわね。」

「やっぱり、知らされるんだね………。」

内緒にしておける、訳は無いんだけど。

やはり、ブラッドフォードの家だけではなく公然の事実となってしまう事に抵抗が無い訳では、ない。

自分で決めた、事だけど。


「大丈夫よ、ヨル。とりあえずはわ。」

「そうね。新しく来た銀の娘を野放しにしておく訳にはいかないもの。」

「うん………。」

野放しって………。
うん。


大丈夫。
ウイントフークさんもいるし、みんなで考えた作戦だ。
なんとか、なる。
そう、私には図書館に行くというミッションも、あるし?


とりあえずのモヤモヤは横に置き、私は今日の本題について話す事にした。
明るい話題で、気分を変える事にしたのだ。


「で?実家はどう?祭祀の後、なんか大変だって。言ってなかった?」

「「そうね……。」」

何やら考え始めた、二人。

そもそも二人はあの祭祀の所為で、こちらへの帰還が遅れた筈だ。
何か、無理難題でも押し付けられて、いないか。

それも、心配だった。

「うーん、うちはあまり煩くなくなった、とでも言うか。大人達は他の事に気を取られ始めた感じはあるわね?これ迄はある意味、ずっと同じ事の繰り返しだったから。新しい話題、新しいものに食い付いている、って感じ?誰がグロッシュラーに行くかで揉めてたわよ?初めてよ、こんなの。」

そう言ったのはガリアだ。

「うちはそもそも、ネイアが多いからそこまでじゃないわね。でも、あの子。アラルエティーと友達かどうかは訊かれたけどね。」

「えっ。」

「まぁね?大概は、が青の少女だと思ってる訳だから。でもそれに関しては、本人とも話したんでしょう?」

「………うん。でも。心配は、心配。」

「少なくとも、まだあっちに居るうちは。大丈夫だと思うわ。」

「そうそう、こっちから何ができる訳でもないしね?それに、一応彼女も銀よ。」

「うん。」

二人に心配かけない様、曖昧に微笑んではみたけれど。

祭祀でのアラルへの動き、不審な人々、アリススプリングスが向こうにいないこと。
心配な点は幾つも、ある。


後でウイントフークさんにお願いしておこう………。
レシフェ辺りが様子見てくれるといいんだけど。


「で?ヨルは、衣装の事で呼んだんじゃなかったの?」

「あっ、そうだ!でも待って。二人に、フフフ…。」

「えっ、何怖い。」

「いやいや、いいモノがあるんだよ…。」

「えっ。余計に怖い。」

「なんで?どういうこと?!」

笑いながら二人を大きな机に促し、石を見せる。

「う、わぁ。」

「………綺麗。」

小さなキラキラした石達は、大きさこそ無いけれども透明度はそこそこだ。

この、世界では。
多分、高価な部類に入るだろう。

でも、やっぱり癒しとして眺めるならば。


見て楽しく、美しく、輝きがないといけないと思うんだよね………。

そう、思っていた私。

しかし、二人にとってそれは「高価」という言葉で表すには不十分なものだったらしい。


「えっ。なに?これ。」

「まずくない?」
「ね。」

「何が?」

「「………。」」

急に無言になった二人は、顔を見合わせ目で会話している。

ずるい。
私も、入れて欲しいんだけど…?


「もしかしなくても、ヨル。これ、私達にくれるつもりじゃないでしょうね?」

「えっ。うん、そうだけど………。」

何か、不都合があるのだろうか。

物を貰っちゃ、いけないとか?
いやいや、でも知らない人とかじゃ、ないよ??
うん??


私がぐるぐるしている間に、二人は声に出してなにやら話を始めていた。


そうして私をソファーへ、引っ張って行くと。

「ちょっと、まあ、座りなさい。ヨル。」

そう、言って。

なんだか二人に、お説教?される雰囲気になったのである。

うむ。
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