447 / 1,751
8の扉 デヴァイ
まず始めに
しおりを挟む新しい金色を、補充してから。
この頃ぐるぐるしていた私が、まず最初にやったこと。
「なんだ、お前は何を始めるつもりだ?」
そう、ウイントフークが言うくらいは私の仕業は増殖していた。
「いいえ、これは。やっぱり、心の安定の為には必要なんですよ。見て美しく、嗅いでいい香り、愛でて楽しく、食して美味しい。そんなの、最高に決まってるじゃないですか。」
そう、大仰に宣っている私の前にあるのは沢山のプランターだ。
私は、この青の空間に。
瑞々しい、花やハーブ、小さな野菜の種を植える事にしたのだ。
この頃のモヤモヤをどうしようかと考えていた私は、金色と話していた時にふと、思い出した。
あの時、私の部屋で、結局。
見ていたくせに、銀の区画で何があったのかを話す様言われた私。
そうしてモゴモゴ言いつつも、庭園の説明をしていた時に花壇の話になった。
そして「あれはまじないなのか、なんなのか」という話になった時に、金色はこう言った。
「あれは、多分。あのまま、彼処にただ。存在するものなのだ。」
その言葉を聞いて、何故だかシュンと沈んだ私の心。
その、意味は。
きっと、枯れる事はないがあの花は。
大きくなることもないし、種を植え、双葉が出て徐々に成長する事もなく、ただずっとそこにそのまま、あり続けること。
それは、良いことなのかもしれない。
いつでも、美しくあること、枯れないこと。
でも。
「そう、じゃないんだよね、多分………。」
胸の中の、このシュンとした想いが何なのかは分からない。
分からないけど。
「よし、とりあえず、育てよう!」
そう言って、金色が帰った後魔女部屋を散策しに行ったのである。
そして案の定、そこには幾つかの花の種とハーブ、野菜の種があった。
まるで、そうするのが必然の、様に。
部屋の隅にあった幾つかのプランターを模して、私の石からプランターと、土を創る。
土も、少しだけ保存されていた。
きっとハーブを作るのに使っていたのかもしれない。
それにしても、誰の部屋だったんだろうか………。
そうして、殆どのものが調達できた私は早速「青の庭園」を作る準備を始めたのだ。
「しかしお前、これは。「庭園」じゃなくて精々「箱庭」じゃないか?」
「まぁいいじゃないですか。でも。やっぱり、ここ以外だと、無理だと思いますか?」
銀の庭園には植栽は無かった。
後でウイントフークに訊くと、やはりまじない量を抑える為に作るのは花止まりなのだそうだ。
「見た目だけ」美しく装うならば。
確かに木が無くても、花だけで華やかさは出る。
「でもやっぱり最終的には木を、森を。作りたいですよね?あの、洗面室?見ましたよね?やっぱり、木よりも、森。あの豊かさに勝るもの、無し………」
「程々にしておけよ?………とりあえず出てくる。」
そう言って私の頭をポンとすると、あの通路へ入って行った。
今日は何処へ行くのだろうか。
あの、お父さんに薬でも届けるのかなぁ…ていうかウイントフークさん、薬も作ってたっけ?
そういやハーシェルさんに何か………ああ、いけない思い出しちゃった。
慌てて首を振り、天井を仰ぐ。
高いアーチ天井、空間を満たす新しい空気がその繊細な装飾を、より美しく見せている。
「うん。」
その、青く繊細な空気を一つ、味わうと再び丸く並べたプランターに向き合うことに、した。
私の庭園は、ここだけではないからだ。
青のホールに、床のタイルに合わせ丸く並べた、プランター達。
礼拝室の白く何もない空間に、囲む様に配置した花のプランター。
魔女部屋には勿論、ハーブだ。
とりあえず三箇所、私の庭園を作り今は植えたばかりの種の様子を見ている所。
これから何の花が咲くのか、どんなハーブが育つのか。
楽しみに、育てようと思う。
「ヨルが、元気でいれば。よく、育つと思いますよ?お料理にも使えると良いですね。」
そう言ってくれたのはマシロだ。
花やハーブも私から「漏れ出している」ものを養分に育つらしく、この空間が明るい所為だと思っていたが、やはりそれだけではないらしい。
「少し前に一段空気が澄んで。また、元気なものが増えてきましたから。また生まれるかもしれませんね。」
「えっ。スピリットが、っていう事?」
「はい。力が増えれば、「カタチ」を取れますから。」
「成る程。頑張らなくちゃね……。」
クスクスと笑うマシロは「無理はしないで下さい?」と言って、フワリと去って行った。
やはり、色々な事が自由なのだ。
スピリット達は。
そうして魔女部屋から消えた気配を少し寂しく思いつつも、次の予定について考える事にした。
私の楽しみは、作った。
いつ芽が出るか、それを待つ間に。
お宅訪問をすれば丁度良いかもしれない。
「白の家?はウイントフークさんと一緒に行くのかなぁ?パミールとガリアに連絡って、どうやって取ればいいんだろう?」
そう、言えば。
ここに話石はあるのだろうか。
なにしろウイントフークが帰って来ないと話が始まらなそうだ。
それなら。
とりあえず小さくてキラキラした石を一つ、プランターに入れ部屋を出た。
多分、石があれば。
よく育ちそうな気がしたからだ。
扉を閉め、何も無い青の廊下を進む。
上を見ると、天井も綺麗な青だった。
「うん。」
整った空間、これから育つ新しい生命、私が、元気でいること。
じゃあ、あれかな?
ふと、ウイントフークが帰る迄はシリーとお茶をしようと思い立つ。
そうして足取りも軽く、食堂へ向かったのだ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。

裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる