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8の扉 デヴァイ
まず始めに
しおりを挟む新しい金色を、補充してから。
この頃ぐるぐるしていた私が、まず最初にやったこと。
「なんだ、お前は何を始めるつもりだ?」
そう、ウイントフークが言うくらいは私の仕業は増殖していた。
「いいえ、これは。やっぱり、心の安定の為には必要なんですよ。見て美しく、嗅いでいい香り、愛でて楽しく、食して美味しい。そんなの、最高に決まってるじゃないですか。」
そう、大仰に宣っている私の前にあるのは沢山のプランターだ。
私は、この青の空間に。
瑞々しい、花やハーブ、小さな野菜の種を植える事にしたのだ。
この頃のモヤモヤをどうしようかと考えていた私は、金色と話していた時にふと、思い出した。
あの時、私の部屋で、結局。
見ていたくせに、銀の区画で何があったのかを話す様言われた私。
そうしてモゴモゴ言いつつも、庭園の説明をしていた時に花壇の話になった。
そして「あれはまじないなのか、なんなのか」という話になった時に、金色はこう言った。
「あれは、多分。あのまま、彼処にただ。存在するものなのだ。」
その言葉を聞いて、何故だかシュンと沈んだ私の心。
その、意味は。
きっと、枯れる事はないがあの花は。
大きくなることもないし、種を植え、双葉が出て徐々に成長する事もなく、ただずっとそこにそのまま、あり続けること。
それは、良いことなのかもしれない。
いつでも、美しくあること、枯れないこと。
でも。
「そう、じゃないんだよね、多分………。」
胸の中の、このシュンとした想いが何なのかは分からない。
分からないけど。
「よし、とりあえず、育てよう!」
そう言って、金色が帰った後魔女部屋を散策しに行ったのである。
そして案の定、そこには幾つかの花の種とハーブ、野菜の種があった。
まるで、そうするのが必然の、様に。
部屋の隅にあった幾つかのプランターを模して、私の石からプランターと、土を創る。
土も、少しだけ保存されていた。
きっとハーブを作るのに使っていたのかもしれない。
それにしても、誰の部屋だったんだろうか………。
そうして、殆どのものが調達できた私は早速「青の庭園」を作る準備を始めたのだ。
「しかしお前、これは。「庭園」じゃなくて精々「箱庭」じゃないか?」
「まぁいいじゃないですか。でも。やっぱり、ここ以外だと、無理だと思いますか?」
銀の庭園には植栽は無かった。
後でウイントフークに訊くと、やはりまじない量を抑える為に作るのは花止まりなのだそうだ。
「見た目だけ」美しく装うならば。
確かに木が無くても、花だけで華やかさは出る。
「でもやっぱり最終的には木を、森を。作りたいですよね?あの、洗面室?見ましたよね?やっぱり、木よりも、森。あの豊かさに勝るもの、無し………」
「程々にしておけよ?………とりあえず出てくる。」
そう言って私の頭をポンとすると、あの通路へ入って行った。
今日は何処へ行くのだろうか。
あの、お父さんに薬でも届けるのかなぁ…ていうかウイントフークさん、薬も作ってたっけ?
そういやハーシェルさんに何か………ああ、いけない思い出しちゃった。
慌てて首を振り、天井を仰ぐ。
高いアーチ天井、空間を満たす新しい空気がその繊細な装飾を、より美しく見せている。
「うん。」
その、青く繊細な空気を一つ、味わうと再び丸く並べたプランターに向き合うことに、した。
私の庭園は、ここだけではないからだ。
青のホールに、床のタイルに合わせ丸く並べた、プランター達。
礼拝室の白く何もない空間に、囲む様に配置した花のプランター。
魔女部屋には勿論、ハーブだ。
とりあえず三箇所、私の庭園を作り今は植えたばかりの種の様子を見ている所。
これから何の花が咲くのか、どんなハーブが育つのか。
楽しみに、育てようと思う。
「ヨルが、元気でいれば。よく、育つと思いますよ?お料理にも使えると良いですね。」
そう言ってくれたのはマシロだ。
花やハーブも私から「漏れ出している」ものを養分に育つらしく、この空間が明るい所為だと思っていたが、やはりそれだけではないらしい。
「少し前に一段空気が澄んで。また、元気なものが増えてきましたから。また生まれるかもしれませんね。」
「えっ。スピリットが、っていう事?」
「はい。力が増えれば、「カタチ」を取れますから。」
「成る程。頑張らなくちゃね……。」
クスクスと笑うマシロは「無理はしないで下さい?」と言って、フワリと去って行った。
やはり、色々な事が自由なのだ。
スピリット達は。
そうして魔女部屋から消えた気配を少し寂しく思いつつも、次の予定について考える事にした。
私の楽しみは、作った。
いつ芽が出るか、それを待つ間に。
お宅訪問をすれば丁度良いかもしれない。
「白の家?はウイントフークさんと一緒に行くのかなぁ?パミールとガリアに連絡って、どうやって取ればいいんだろう?」
そう、言えば。
ここに話石はあるのだろうか。
なにしろウイントフークが帰って来ないと話が始まらなそうだ。
それなら。
とりあえず小さくてキラキラした石を一つ、プランターに入れ部屋を出た。
多分、石があれば。
よく育ちそうな気がしたからだ。
扉を閉め、何も無い青の廊下を進む。
上を見ると、天井も綺麗な青だった。
「うん。」
整った空間、これから育つ新しい生命、私が、元気でいること。
じゃあ、あれかな?
ふと、ウイントフークが帰る迄はシリーとお茶をしようと思い立つ。
そうして足取りも軽く、食堂へ向かったのだ。
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