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8の扉 デヴァイ
金色の焔
しおりを挟む久しぶりの、燃える金の瞳が目の前にある。
それは、あの窓辺で見た時の様に恐ろしく綺麗で、吸い込まれそうな、瞳。
この前、空間を直してからハッキリと物が見える様になり、細部も鮮やかに感じられる様になった。
まさか。
その、成果が。
ここにも出ているとは、思わなかったけれど。
ううっ、綺麗。
綺麗、過ぎる。
何故だか少し、変化して見えるその焔は複雑な色を含んで私の目の前をチラチラしている。
そう、始めは瞳の中で揺らめいているだけだった、あの焔はいつの間にかそこを飛び出し彼の周りを回り始めた。
透ける様な金髪、燃える焔の瞳、その眩しい彼と私の間を時折チラチラと通り過ぎる焔。
少し、気になるけれど。
それすら有り難かった。
この、瞳の前では。
何も、誤魔化せないし。
私が感じた、不安も、不快感も、緊張も驚きも、そう、意外とお兄さんと楽しく会話してきたことも。
何も、誤魔化せないからだ。
そこまで考えて、はたと気が付いた。
成る、程。
私、案外楽しかったのが後ろめたいんだ………。
そもそも「ブラッドフォードの婚約者」という、意に沿わない役をやる事になったこと。
「悪の枢軸」の本拠地が実は、私にとってはかなり魅力的だったこと。
そして。
「今度連れて行ってやる」
そう、ブラッドフォードとは約束までしてきた。
まるで、デートの様だと。
側からみれば思う、様な。
彼はどう、思っただろうか。
眼前の焔はまだ楽しげに舞っているし、美しい金の瞳は。
揺らがずただ、真っ直ぐに私を、見ている。
その、瞳を私も真っ直ぐに捉えると、少し落ち着いてきた。
恥ずかしくて、後ろめたくなって反省して、ぐるぐるして、上目遣いになって。
無意義に、甘えるように「許して欲しい」と思って、しまった。
だって。
仕方なかったんだもん。
緊張したし?
多分、無理にでもテンション上げてないと駄目そうだったし?
行ってみたら本の街だったし、私の好きなものばかりこれでもかって並べてるし…。
お兄さんとの関係も、ギスギスしたってしょうがないし…でも私がこの人他の人とデートの約束してきたらもう、ダメかも………。
自分の中での言い訳が、泥沼に嵌った頃。
ふわりと、温かい腕に包まれた。
久しぶりの安心感、何よりあの森のお風呂よりも格段に落ち着くこの小さな空間に、改めて驚く。
その、温かさが心地良過ぎて。
思考を放棄して、ただ、それに身を委ねていた。
そう、イストリアさんも「ただあれ」ば、いいって、言ってたし。
ていうか、もう、無理………。
微睡の中、段々と金色の体温が私に浸透してきて。
彼が、怒ってはいないこと。
ただ、私を心配していたこと。
ただ私を、包みたいこと。
ただ、私を。
想って、いること。
それが伝わってきて、自然と涙が、出る。
最近、泣いてなかったのに。
なんだ、ろうか。
この、涙は。
悲しくはない。
寂しくも、今は、ない。
嬉しい?
いや?
安堵?
なんだ、ろうな………。
ただ、涙が出ること。
この腕の中では泣いてもいいこと。
その、涙の意味が「何」であったとしても良くて、ただそれを包み守って、癒してくれること。
そんな有り難い存在が。
在っても、いいのだろうか………。
いや。
いいよね?
私、頑張ってるし?
一人で扉に旅に来て、いや一人じゃないけど人間は一人………
まぁそれはいいか。
自分で自分を慰め出した頃、腕が動いていつもの様に髪を梳き始めた。
暫く、その心地の良い感触に微睡んでいたが、ふと顔を上げる。
彼は今、どんな顔をしているのだろうか。
それが、気になったのだ。
えっ。
言葉が、無い。
その瞳は、深みを増した焔が静かに揺らめいているだけで、これまでよりもぐっと、落ち着いて見えた。
あの、色が増えてから。
こうもあからさまに瞳に現れることは、無かったけれど。
様々な色を含んだ焔は、いつもより重く太く揺れていて更に強固になった彼の意思が見て取れるものだった。
何ものにも、揺らがない、焔。
自らの意思で揺らぎそれを燃え上がらせる事はできるが、決して他者からの干渉は受けない。
そんな、力強さを感じさせる焔なのだ。
私はただ、そんな彼の瞳をじっと、見つめていた。
ああ、「変わった」んだ。
成長、したんだ。
石は、変わらないのかと思ってたけど。
いや、でも。
私のキラキラを取り込んで変化はしてたな?
また?
成長、したの?
これ以上?
私を、置いて、行かないで………?
侵し難いその雰囲気、だがそれすら私の中の何かは求めて止まなく、自分の中が彼を欲しているのが解る。
ああ、あれが、欲しい。
あの、美しい焔。
何ものにも、侵す事のできない、けれどもどうしても魅力的な、あの。
私の。
私の、だよね?
瞳の焔が一瞬赤く染まり、「了」の意を汲むと背中に電流が走る。
何をされた訳でも、ない。
彼の手は私を抱え、片手は髪を梳いたまま。
ただ、私はその瞳を見上げ「色」を確かめただけだ。
それだけで。
何故こうも、心も、身体も。
震え、血が沸騰した様に熱くなり背中には電流が流れるが如く、ビリビリとして。
自分のものではないような身体、震える心、しかし心地よくもあるその、感覚。
一瞬で、私を変えてしまう彼。
なんだか悔しい。
でも、それは心地よくもあって。
少し恥ずかしくも、ある。
だって………。
「感じるままで、良いのだ。」
見上げた私に、再びの言葉。
今、それ、言う………?
でも。
抗えない。
その、魅力には。
「新しい、色なのかな。」
「さあ?お前の「中」に。取り込んでみれば、解るのではないか?」
………ずるい。
なんかこれ、半分揶揄われてない?
でも。
結局。
お願い、しちゃうんだけど。
でも。
あなただって、欲しいでしょう?
「いっぱい、頂戴?それで、これを、治めて………。」
多分、金色を注がれれば。
このゾワゾワも、落ち着くに違いないから。
「勿論。吾輩はいつでも、お前を欲しているからな。」
更に私の全身が熱くなったところで、それを治める様に、金色が注がれる。
わざとだ、ろうか。
勢いよく流れ込んでくる金色に混じって、沢山の、複雑な色が。
光、が。
まだ、とても小さいけれど以前は無かった焔の色が橙と金色の大きな羽を彩って更に美しく変化したのが解る。
それはもう、夢の様な現実で。
そんな、景色が、あること。
彼の、中に、私の中にも。
そうしてきっと、それは、この世界にも創ることが可能なのだろう。
あの、暗い廊下やこの闇の中の世界にも。
少しでも、光の届く場所が、あれば。
この、焔で照らし何もかもを明るい、光の元に晒せば。
「できる、かな………?」
「お前が、望めば。」
新しい金、強い瞳。
あの、「望めば、成そう」と言っていた頃の彼とは少し違う。
多分、芯は変わっていない。
だけど、きっと。
より、広く、深く、きっと「私と共に」在ると決めてくれた、彼ならば。
より良い、変化となるのだろう。
「うん………じゃあ、頑張る。とりあえずは、敵状視察からだね。」
「あまり張り切るな?碌なことがないからな。」
「ちょっと、今いい話だったんだけど…。」
「それにアイツも、気に入らないしな。」
珍しい。
ハッキリとそう口にした気焔に、やはり変化を感じる。
私の身体を抱きしめたまま、腰の辺りを撫でているのはブラッドフォードの所為だろうか。
それとも、あの悪戯狐の所為か。
なんだか、段々くすぐったくなってきて緩い腕を解く。
そうして、彼をベッドへポンと座らせると。
「久しぶりに、ゆっくり話そうよ?」
そう言って隣に腰掛け、青の家の話を聞く事に、した。
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