透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
445 / 1,751
8の扉 デヴァイ

金色の焔

しおりを挟む

久しぶりの、燃える金の瞳が目の前にある。

それは、あの窓辺で見た時の様に恐ろしく綺麗で、吸い込まれそうな、瞳。

この前、空間を直してからハッキリと物が見える様になり、細部も鮮やかに感じられる様になった。

まさか。
その、成果が。

ここにも出ているとは、思わなかったけれど。



ううっ、綺麗。
綺麗、過ぎる。

何故だか少し、変化して見えるその焔は複雑な色を含んで私の目の前をチラチラしている。

そう、始めは瞳の中で揺らめいているだけだった、あの焔はいつの間にかそこを飛び出し彼の周りを回り始めた。


透ける様な金髪、燃える焔の瞳、その眩しい彼と私の間を時折チラチラと通り過ぎる焔。
少し、気になるけれど。

それすら有り難かった。


この、瞳の前では。

何も、誤魔化せないし。

私が感じた、不安も、不快感も、緊張も驚きも、そう、意外とお兄さんと楽しく会話してきたことも。

何も、誤魔化せないからだ。


そこまで考えて、はたと気が付いた。

成る、程。

私、案外楽しかったのが後ろめたいんだ………。


そもそも「ブラッドフォードの婚約者」という、意に沿わない役をやる事になったこと。

「悪の枢軸」の本拠地が実は、私にとってはかなり魅力的だったこと。

そして。

「今度連れて行ってやる」

そう、ブラッドフォードとは約束までしてきた。
まるで、デートの様だと。
側からみれば思う、様な。


彼はどう、思っただろうか。


眼前の焔はまだ楽しげに舞っているし、美しい金の瞳は。

揺らがずただ、真っ直ぐに私を、見ている。

その、瞳を私も真っ直ぐに捉えると、少し落ち着いてきた。


恥ずかしくて、後ろめたくなって反省して、ぐるぐるして、上目遣いになって。

無意義に、甘えるように「許して欲しい」と思って、しまった。


だって。
仕方なかったんだもん。
緊張したし?
多分、無理にでもテンション上げてないと駄目そうだったし?
行ってみたら本の街だったし、私の好きなものばかりこれでもかって並べてるし…。
お兄さんとの関係も、ギスギスしたってしょうがないし…でも私がこの人他の人とデートの約束してきたらもう、ダメかも………。


自分の中での言い訳が、泥沼に嵌った頃。

ふわりと、温かい腕に包まれた。


久しぶりの安心感、何よりあの森のお風呂よりも格段に落ち着くこの小さな空間に、改めて驚く。


その、温かさが心地良過ぎて。

思考を放棄して、ただ、それに身を委ねていた。


そう、イストリアさんも「ただあれ」ば、いいって、言ってたし。

ていうか、もう、無理………。



微睡まどろみの中、段々と金色の体温が私に浸透してきて。

彼が、怒ってはいないこと。

ただ、私を心配していたこと。

ただ私を、包みたいこと。

ただ、私を。

想って、いること。


それが伝わってきて、自然と涙が、出る。


最近、泣いてなかったのに。
なんだ、ろうか。

この、涙は。


悲しくはない。
寂しくも、今は、ない。
嬉しい?
いや?

安堵?

なんだ、ろうな………。



ただ、涙が出ること。

この腕の中では泣いてもいいこと。

その、涙の意味が「何」であったとしても良くて、ただそれを包み守って、癒してくれること。


そんな有り難い存在が。
在っても、いいのだろうか………。




いや。

いいよね?

私、頑張ってるし?

一人で扉に旅に来て、いや一人じゃないけど人間は一人………
まぁそれはいいか。


自分で自分を慰め出した頃、腕が動いていつもの様に髪を梳き始めた。


暫く、その心地の良い感触に微睡んでいたが、ふと顔を上げる。

彼は今、どんな顔をしているのだろうか。

それが、気になったのだ。



えっ。


言葉が、無い。

その瞳は、深みを増した焔が静かに揺らめいているだけで、これまでよりもぐっと、落ち着いて見えた。


あの、色が増えてから。

こうもあからさまに瞳に現れることは、無かったけれど。

様々な色を含んだ焔は、いつもより重く太く揺れていて更に強固になった彼の意思が見て取れるものだった。


何ものにも、揺らがない、焔。

自らの意思で揺らぎそれを燃え上がらせる事はできるが、決して他者からの干渉は受けない。

そんな、力強さを感じさせる焔なのだ。


私はただ、そんな彼の瞳をじっと、見つめていた。


ああ、「変わった」んだ。

成長、したんだ。
石は、変わらないのかと思ってたけど。

いや、でも。
私のキラキラを取り込んで変化はしてたな?

また?
成長、したの?

これ以上?

私を、置いて、行かないで………?



侵し難いその雰囲気、だがそれすら私の中の何かは求めて止まなく、自分の中が彼を欲しているのが解る。


ああ、あれが、欲しい。

あの、美しい焔。
何ものにも、侵す事のできない、けれどもどうしても魅力的な、あの。

私の。


私の、だよね?



瞳の焔が一瞬赤く染まり、「了」の意を汲むと背中に電流が走る。

何をされた訳でも、ない。

彼の手は私を抱え、片手は髪を梳いたまま。

ただ、私はその瞳を見上げ「色」を確かめただけだ。


で。


 何故こうも、心も、身体も。

震え、血が沸騰した様に熱くなり背中には電流が流れるが如く、ビリビリとして。
自分のものではないような身体、震える心、しかし心地よくもあるその、感覚。

一瞬で、私を変えてしまう彼。


なんだか悔しい。

でも、それは心地よくもあって。

少し恥ずかしくも、ある。


だって………。


「感じるままで、良いのだ。」


見上げた私に、再びの言葉。


今、それ、言う………?
でも。
抗えない。

その、魅力には。


「新しい、色なのかな。」

「さあ?お前の「中」に。取り込んでみれば、解るのではないか?」


………ずるい。


なんかこれ、半分揶揄われてない?

でも。
結局。

お願い、しちゃうんだけど。


でも。
あなただって、欲しいでしょう?


「いっぱい、頂戴?それで、を、治めて………。」


多分、金色を注がれれば。
このゾワゾワも、落ち着くに違いないから。


「勿論。吾輩はいつでも、お前を欲しているからな。」

更に私の全身が熱くなったところで、それを治める様に、金色が注がれる。

わざとだ、ろうか。


勢いよく流れ込んでくる金色に混じって、沢山の、複雑な色が。
光、が。

まだ、とても小さいけれど以前は無かった焔の色が橙と金色の大きな羽を彩って更に美しく変化したのが解る。


それはもう、夢の様な現実で。


そんな、景色が、あること。

彼の、中に、私の中にも。

そうしてきっと、それは、この世界にも創ることが可能なのだろう。

あの、暗い廊下やこの闇の中の世界にも。

少しでも、光の届く場所が、あれば。


この、焔で照らし何もかもを明るい、光の元に晒せば。


「できる、かな………?」

「お前が、望めば。」

新しい金、強い瞳。


あの、「望めば、成そう」と言っていた頃の彼とは少し違う。

多分、芯は変わっていない。
だけど、きっと。

より、広く、深く、きっと「私と共に」在ると決めてくれた、彼ならば。


より良い、変化となるのだろう。



「うん………じゃあ、頑張る。とりあえずは、敵状視察からだね。」

「あまり張り切るな?碌なことがないからな。」

「ちょっと、今いい話だったんだけど…。」

「それにも、気に入らないしな。」

珍しい。

ハッキリとそう口にした気焔に、やはり変化を感じる。

私の身体を抱きしめたまま、腰の辺りを撫でているのはブラッドフォードの所為だろうか。
それとも、あの悪戯狐の所為か。


なんだか、段々くすぐったくなってきて緩い腕を解く。

そうして、彼をベッドへポンと座らせると。

「久しぶりに、ゆっくり話そうよ?」

そう言って隣に腰掛け、青の家の話を聞く事に、した。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

処理中です...