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8の扉 デヴァイ
これからの私について
しおりを挟む「あの家の中でだけ、千里はそれでもいい。だが普段は人形のフリをしておけよ?まあブラッドフォードの前だけしか、その姿になる必要も無いだろうがな。」
どうして、お兄さんの前でだけ。
狐になる、必要があるのだろうか。
寧ろそれが気になるんだけど。
そんな私をお構いなしに、二人は別の話を始めた。
きっとあの「侍医」と話していた内容なのだろう。
「薬」がどう、など体の具合の話を始めた狐とウイントフークを放っておいて朝食に集中する事にした。
この頃は、大分腕を上げたイリスがいつも感想を聞きに来るからだ。
「うん、美味い。」
「ヨル、」
「あ、ごめんごめん。」
お姉さんなシリーに注意されながら、一緒に朝食を食べるのは定番である。
私が寝坊しない限りは、待っていてくれる様になったシリー。
しつこく「一人じゃ寂しい」と言っていたからかも、しれないけれど。
ウイントフークは勝手に部屋で済ませている事も多いので、広い食堂に一人はやはり、寂しいのだ。
「留守の間、何も無い?シリーも大分慣れた?」
「はい。大体ハクロがやってくれますし、朝も見てくれるので。あの子達がいないので、楽なくらいですよ?」
笑いながらそう話すシリー。
しかし、ずっと子供達といたのだ。
寂しくない、訳はない。
うん、もっと頑張って仲間をつくるからね!
うん?
どうやって?
仲間?スピリット?人間??
私が一人ぐるぐるしていると、フワリと蝶が一匹出た。
その、蝶は。
シリーと同じ、茶と鮮やかな黄色から橙のグラデーションが美しい蝶である。
それは私から舞い出ると、そのままシリーの周りを飛び始めた。
「そうか。ありがとう。」
「え?」
「多分、この子が。シリーの友達になりたいみたい。また増えるかもしれないけど、とりあえずよろしくね?」
「…ありがとうございます。」
フワフワと自分の周りを回る、蝶に嬉しそうなシリー。
やはり色が似ているからか、馴染みがいいのかもしれない。
きっと、私の中から彼女の色を模して。
出てきたのだろう。
こうして改めて見ると、シリーも大分変わった。
初めて見た時は、まだガリガリで痩せていたシリーも今は年頃の娘らしくフワリとした身体付きになっている。
うーん、こうして見ると。
美人だし、可愛くもあるしフワフワの茶髪がまた瞳の色と合って、今日のグリーンのワンピースとまた最高にピッタリじゃない?
私、グッジョブ過ぎるんだけど…。
どうしよう、シリーがお嫁に行くとかなったら………どうやってザフラに知らせようかな、いやそれより世界を繋がないと結婚式に来れないからそれはもうちょっと後だな…。
「………ヨル?」
「下げますよ?」というイリスの声に、ハッと気が付く。
「ああ、ごめんごめん…。今日も美味しかったよ。」
「それは良かった♪」
いつもの調子のイリスに苦笑しながらも、隣を見ると既にシリーは一緒に片付けを始めていた。
さっき迄食堂にいたウイントフーク達も、もういない。
いかん。
この後「どうするのか」話を聞くんだったのに。
そうして慌ててお茶を飲み、私も書斎へ向かうことにした。
「ウイントフーク、さん?」
ノックはすれども返事は無い。
「居るわよ、多分。」
いつの間に来たのか、隙間から慣れた様子の朝が入る。
やはり、ウイントフークの所にノックは要らないらしい。
私も続いて部屋へ入ると、いつの間にやら金色が話に混じって、いた。
この人、いつ来たんだろうか。
飛んできたのかな?
パッと?
そういえばあの、焔にして連れて行ったこと。
分かるの、かな?
見てた?
え?ウソでしょ?
「見てた」なら。
えーーー。
………大丈夫、だよ、ね………??
その時、チロリと私を見た金の瞳で。
瞬時に悟った私。
そう、「知って」いるのだろう。
あの、銀の区画で。
何が、あったのか。
その、全てを。
うぅ…自分で連れて行ったんだけど………。
え?でも大丈夫じゃない?
何か、あった?
腰に手を回されたくらいだよね?
後は別に………うーーーん?
久しぶりの「あの瞳」にドキドキしながらも、段々と三人の話が耳に入ってきた。
どうやら、スピリットの話をしている様だ。
「じゃあ今は安定してきてるんだな?」
「そうだ。依るがいる限りは大丈夫だろう。今のところはコイツも、問題無い様だしな?」
「………。」
気焔に、問題?
意味深に言葉を投げかけた千里に対して、無言の金色。
腕組みをしたまま、いつもの壁際に陣取っている。
どうしてどの部屋に居ても。
壁際に立ってるんだろうな………?
私の思考が脱線した頃、再びウイントフークが話し始めた。
「まあ、それならいい。なんにせよ、あの家の中だけなら秘密は守られるだろうからな。しかし、まじない人形でも駄目か。」
「油断しない方がいいかもな?何か、あるのか。それか、依る自身に。興味が、移ったのか。」
うん?
話の雲行きが怪しい。
金色がずっと黙っているのも気になって、私が口を挟む事にした。
千里はどうも、気焔を揶揄いがちだから。
「じゃあ、千里については。そう心配しなくてもいいって事ですよね?」
「まぁな。しかし、お前の危険度は上がった。あんなモノを連れていると、知れてしまったからな。漏れないとは、思うが完璧でもないだろう。気を付けては、おく様に。」
「はぁい。で、結局どうなったんですか?御披露目の事は?それに、お父さんの具合?それに、あの人のオーラ……」
「ん?お前、オーラが見えるのか?…いや、見える様になった、のか。いや待てよ?ここに来てからなのか………」
本部長が、何処かへ行った。
そう、いつもの様にピタリと固まり動かないのだ。
しかしこの部屋を彷徨かれるよりいいだろう。
あの、ガラクタ屋敷よりは片付いてはいるけれど、壁際の気焔、立って話している千里、それにウイントフークまでウロウロされたなら。
この部屋が、物凄く狭く感じるに違いないからだ。
えーー。
まだ、聞きたい事全然聞いてないんだけど………。
しかし、こうなっては仕方が無い。
「千里、あなた大体話聞いたんでしょ?教えてあげたら?」
ソファーでゲンナリしている私に、助け舟を出してくれたのは朝だった。
だが案の定、千里の答えも。
私が満足いく様な、答えではなかったけれど。
「うん?特に無いと思うが。披露目までは他の家に挨拶に行くとか言っていたが、多分行くとしても白だけだろうな。他はあの、二人の所には遊びに行ってもいいと言っていた。」
「え?あの二人って、パミールとガリア?」
「多分、な?」
「やった!それならいっか………披露目の衣装とか、その辺色々聞いてこいって事だよね?あの人その辺全然、疎そうだもんな………。」
「そうじゃないか?俺は普通に同行するし、ブラッドフォードでなければ人型で大丈夫だろう。銀の娘が一人で出かける訳にはいかないし、コイツを連れて行く訳には。いかないからな、今は。」
再び、含みのある言い方をしてチラリと金色を見る千里。
この二人の関係は、一体何なのだろうか。
多分、千里が年長だから………?
でもシンと気焔の関係とも、違う気がするんだよね……。
そういえば………?
シンは…。
「話が終わったなら、こちらへ。」
しかし、私のぐるぐるを中断したのは、金色の腕だった。
そうしてそのまま、私を青い廊下に連れ出して。
そう、私の部屋の扉を、開けたのである。
ううっ、マズイ、予感。
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