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8の扉 デヴァイ
銀の区画
しおりを挟む「ここは銀の家の区画で、大きく三つに別れている。ずっと以前はお前達の家、フェアバンクスもここにあったが、いつからか。外れて今の場所になっている。」
そう話し始めたブラッドフォードは、東屋の中をぐるぐると歩き回っている。
話しながら、外の様子と私と千里、交互に観察をしている様だ。
「その中で第一位が。あの、アリススプリングスの家だ。あそこはあの中に二家ある。」
「ん?二家?」
「そうだ。銀以外の家は、当主の家の他に幾つか力のある家があるが、その他は普通の家も沢山ある。所謂分家が多いんだ。家の数も、人数も多い。銀だけは数が少ない。」
「はー。」
「アリスの所で二つ。うちでは三家だ。もう一つはユレヒドールの家であそこも二家。」
「え?ユレヒドールってグロッシュラーの…。」
「そうだ。あそこはグロッシュラーにも家を置いているがこちらにもある。ミストラスはユレヒドールの親戚だぞ?まあ奴も帰っては来ないだろうけどな。」
「えっ??ミストラスさんも?」
頭がこんがらがってきた。
そう言えばベイルートは何処へ行ったのだろうか。
こんな時に担当者不在だなんて。
しかし、これは公の事実なだけで、後で聞いてもいい筈だ。
自分の頭を慰めつつ、気になっていた質問をしてみた。
「ここって、どの位の広さなんですか?」
すると、腕組みをして考え始めたブラッドフォード。
そして意外な事を、話し始めた。
「正直、分からない。正確な、広さは、な。この庭園も、反対側にまた同じ様なガゼボがある。ここだけでもかなり広いが、うちの屋敷もこの位はあるかもな?他の家には、入った事はあるが全ては分からない。どの家もそうだと思うが、やはり秘密の場所はあるだろうな。」
「えー………。」
兎に角、広いこと。
他の色には沢山の家があるけれど、銀は少ないこと。
この区画だけでもかなり広いけれど、もしかしたら他の色の家は。
人数も多いし、もっと広いのかもしれないこと。
それに。
東屋のこと、「ガゼボ」って言うんだ………。
最終的におかしな方向に向かったが、何となくでも把握はできたと思う。
その他にも、各家に繋がる通路の話、表の書店のこと、ブラッドフォードとアリススプリングスの家は、図書館の管理をしていること。
ブラッドフォードが説明してくれる銀の話を、あまり口を挟まない様、頷きだけで聞く。
私が話し始めると、おかしな事になりそうな、話題が出たからだ。
そう、その危険な「図書館」というワードが出た所で、耳元で声がした。
「ヨル。そろそろ帰るぞ?」
「あ。」
「ベイルートさん!」といいそうになって慌てて口を塞ぐ。
ブラッドフォードは一通り説明し終わったと思っているのだろう、私が質問をするのを待っている様だ。
本当は、図書館について根掘り葉掘り聞きたかったけれど。
仕方が無い。
「あの、そろそろ…。」
「ああ、そうだな。そろそろ戻った方がいいかもしれない。」
「あの、おに…。いや、ブラッドは。図書館には自由に入れるんですよね?」
まだ、慣れない。
そんな私に少し笑いながら、「そうだ」というブラッドフォード。
「それなら、今度連れて行ってやる。」
「本当ですか?!やった!でもあの店も見たいなぁ…。」
「それならそれもまた今度。しかしそれは披露目の後の方が落ち着いて見れるかもしれないな。」
「はっ!そうだった!えっ、その話をしに来たんですよね?」
「そうだと思うが?しかしそれはウイントフークとうちの話だ。俺達は。まあ、ニコニコして座っていれば大丈夫だろう。特にお前はな。」
「そう、ですか?」
何も分からないと、不安だ。
でも、ここは。
ウイントフークを信じるしか、ないのだろうけど。
うーん、あの人計画は完璧だけど乙女心は全っ然、解ってないからね………。
一抹の不安を感じながらも。
とりあえず、来た道を戻ったのである。
うん。
ブラッドフォードの後をついて応接室へ戻ると、既に人型の千里がそこに待っていた。
いつの間に私達を追い越したのだろうか。
さっき迄、隣を歩いていたと思ったけど?
「こちらの用件は済んだ。それでは、また幾つか問い合わせるかもしれんが披露目迄は特に問題無いな?」
ウイントフークがブラッドフォードに色々と確認をしている。
私はそれを横目で見ながら、勿論この部屋の蔵書を確認していた。
しかし古い本が多いのか、私の読めない文字が多い事が分かると部屋の観察に切り替える事にした。
さっきは、あの人がいたから。
視線だけを彷徨かせるのも、なんだか躊躇われたのだ。
黒のアンティーク調、しかしモダンな雰囲気で纏められたこの部屋は割と好きな雰囲気だ。
黒が多い所為で少し重く見えるが、重厚感という点で言えば申し分ないだろう。
本棚、ソファー、机とガラスの飾り棚。
視線を滑らせながら、自由に部屋の中を見れる嬉しさと共に、さっきの感覚が蘇ってきた。
何故、あんなに緊張していたのか。
あの、「色」は。
なんだったの、だろうか。
後でウイントフークさんに訊けば、分かるかなぁ。
ボーッと考えていると、再び耳元で小さな声がする。
どうやらお開きらしい。
いつの間にかティーセットを片付けているメイドを見ながら「この人はまじない人形だろうか」と考えていた。
「さあ、行くぞ?」
「あっ、はぁい。」
うん?
お淑やかは?
そうして、パッと立ち上がると。
普通に返事をした自分に苦笑しつつ、部屋を出たのだ。
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