透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

明日の支度

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「て、言うか。え~?何が?なんで?二人とももう来てたの?うん?いつ?卒業とか?」

「クローゼットは、ここね………えっと、どうしようかな。」

「私達はもう二年目だったしね。それにしても第二位に行くのよ?にして、行かないと。」

「第、二位…。」

ワヤワヤと、話が混線中である。

二人が来る丁度少し前、テーブルセットを創っておいた私はそこにお茶の支度をしながら二人に事情聴取をしていた。

でも、二人は私のクローゼットの中に顔を突っ込んで、服を選ぶのに夢中だけれど。


すると、ノックの音がして返事をする前に千里が入って来た。

「なんだ。また、来る。」

「ん?」

また、ってあなた、いつも部屋に居るじゃない。

まるで「後で訪ねて来ます」的な千里の言い草に、心の中でツッコミながら糞ブレンドを注いでいた。

「え。でも?なに?あれも、人形?」

「そうなんじゃない?あんな髪色の人、いたら問題よ。」

「確かにそうね…?でもヨルの周りだと、あり得るからね。油断できないよ。」

千里が顔を出したのは、一瞬だったのだが二人はしっかり姿を見たらしい。

すぐに千里の話題になって、服選びを中止しテーブルへ戻って来た二人。
お茶の支度が調うと、パミールが感心した様にこう言った。

「これはヨルの家のお茶なのね。やっぱり、美味しいしいい香りよね。」

「確かに。懐かしいわぁ、もう。」

そうだ。
確か二人にお化粧する時、この糞ブレンドを出したんだっけ………。

確かあれは、雪の祭祀の前だった筈だ。

「確かに、懐かしいってのも頷けるかも…。」

「そんなに、時間は経ってないんだけどね。まあ、色々あり過ぎよ。私達の、今迄からすれば。」

「そうそう!だから凄い昔の事の様な気がするわよね。あれから半年…と、ちょっとかな?もう、ヨルが婚約かぁ…。」

「いやいや、だから…」

「分かってるって!あの、彼とはどうなの?大丈夫?」

ガリアの青い瞳が私をじっと、見つめている。

多分、気焔との事を心配しているのだろう。
パミールも「言いたい事があるならどうぞ」とばかりに、カップを置いて私を見た。

「うーん。でも、思ったよりは。大丈夫って言うか、まだここに来てからお兄さんとは会ってないからね…。」

「あ、そうそう!あのベオグラードのお兄さんだもんね?」

「あれ?そういやベオ様は帰って来ないのかな?」

結局、祭祀に参加したみんなには、会っていない。
リュディアやシェランもどうしているだろうか。
シュレジエンがいるから、大丈夫だとは思うのだけれど。

「なんかベオグラードは暫くあっちに居るみたいよ?珍しいんだけどね。普通は、シャットかグロッシュラー、どちらかしか。行けないから。」

「そうなの?」

「そうね?大体、それでここへ帰ってきて家を継ぐのよ。そうそうウロウロ出来ないんだけど、お兄さんもいるしね、あそこは。」

「ふぅん………?」

ベオグラードやリュディアが戻らないのは寂しいけれど。
きっと向こうも、変化したばかりでバタバタするだろう。私的には、造船所や地階の事も心配だ。
あの、二人がいてくれれば。

多分、偉そうなデヴァイの人達よりいいと思うんだよね…。


「で?彼よ、彼。」

「うん?気焔?」

「違う、違う。どうせラブラブなんでしょ?そっちは。分かるわよ、訊かなくても。」

「………じゃあ、誰?」

「さっきの!」

「ああ、千里か………。うん、人形だよウイントフークさんの。」

この二人に、嘘を吐くのは心苦しいけれど。
何か、危険があってもいけない。

「そっか………。それにしては、珍しい色にしたんだね?」

「ああ、まぁ。実験、じゃない?」

確かに。
なんにせよ目立つ千里は、人形向きでも、ないのだ。
しかしウイントフークの変人振りはここデヴァイでも健在の様で、それについて疑われる事はなかった。

「ふぅん。どっちにしろ、ここにはいないタイプね?私的には、結構好み!」

「えっ?そうなの?」

「そうよ!ここはずっとだから、青白い男が多いのよ。健康的よね、彼は。」

まあ、健康的と言えば。
そう、なのかもしれない。

「うーーん。」

そうして私が「健康的」と「海賊の親分」について擦り合わせているうちに、二人は明日の準備について話し始めていた。


「で、とりあえず明日だけど。初めて、行くのよね?」

「うん?うん、そうだね。」

「第一印象か。まあ、ヨルは喋んなければ大丈夫だと思うけどね。」

「そうね。だから、できるだけお淑やかそうな服にして………」

何やら失礼な言葉が色々聞こえて来なくもないが、否定できない所が、辛い。

しかし私には、服装よりも気になる事が幾つも、あった。

そもそも、この世界で。
「婚約」とは、どういったもので。
何を、するのか。
全く、知らないからだ。


「そう言えば、ガリアはどうしたの?解消、した??」

確かガリアは悩んでいた筈だ。

「うん、帰ってきたドサクサに紛れて。やっぱり、祭祀のインパクトが強過ぎて。みんな、それどころじゃないみたい。流石ヨルだわ。」

「あ。そう言えば、結局どうなったの??」

「みんな無事」という事は、手紙や何か、イストリアから等で知っているけれど。
結局、具体的な事は殆ど聞いていない。


大地は、緑は、木々は。

神殿は、石は、空は。

どう、なったのだろうか。


「二人は、いつ戻ったの?」

「そうね、私達はつい二、三日前よ。本当なら春の祭祀が終わったらすぐに移動なんだけど。戻るとすれば、ね。でもあの後、環境が変わって本家からも色々調べてくる様に言われたり。」

「うちもよ。グロッシュラーへできるだけ伝手を作ってこいとか言ってたけど。そもそも、ネイアくらいしか居ないしね?館には勝手に行けないし、年寄りは何がしたいのかよく分からないわ。」

「え、どう?木は?空は、お日様は?出た?」

環境が変わった、という事は。

イストリアも言っていた、緑が増えたと。
「畑もできるかもしれないな?」と。

これまでのあの灰色の土地からは、想像ができない。


しかし、私のその言葉に顔を見合わせている二人。
何か、まずい事でも。
あったのだろうか。

パミールが金茶の髪を、ふわふわと弄りながら揺らし、艶が光る。
その、艶々した様子を見ながらガリアが口を開いた。

「お日様って、凄いのね。私、本当はあっちが良かった。」

「………。」

「ああ、誤解しないで。ヨルの所為じゃない。寧ろ、ヨルのお陰だし?だから、諸々解決したら。改めて、向こうへ行けばいいものね?」

「そうよ。その為に、帰って来たんだから。」

「………その為に?」

「だってヨル、んでしょう?本当は、あっちに居ても良かったんだけど。まあ、面白そう、だし?」

「そうね。それに、ヨル一人に任せるなんて、できない。」

「うっ。」

「違う違う。だって、だもの。」

「そう。私達の、これからのことでしょう?それをこんな場所にヨル一人で、放っておけないわよ。きっと、面白い事が起きるのに。」

「それある。」

「ちょっと………。うん、でも。………ありがとう。」


勿論、既に私の目は大分、じんわりしている。

私を見て優しく微笑んで、茶化している二人の優しさがふわふわと身体を包んで。
今迄、「一人」だと自分が感じていた事が分かる。

魔女部屋で、金色には癒されたけれど。

どうしたって、手探りの、この暗くて広い、世界で。
あの金色の他にも見える光がある事は、とても心強いのだ。


自分の中から込み上げてくる温かい気持ち、それと共にふわりと舞い出る、私の蝶達。

「わ………ぁ。なあに?」

「凄いわね………大丈夫なの、でもこれ。他の場所で出しちゃ駄目よ?」

驚く事なく、私の蝶を楽しむ二人を見て、また更に舞い出てゆく蝶。

ガリアの側を飛ぶ子は瞳と同じ青で、パミールには黄色の可愛らしい蝶が髪に留まる。

「フフッ。可愛い。」


そうして暫く、お茶と共に蝶達が舞う青い部屋を楽しんだ、後。

「さ、やるわよ。時間が無いわ。」

その、ガリアの掛け声で私の明日の用意がやっと、始まったのだ。






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