433 / 1,700
8の扉 デヴァイ
明日の支度
しおりを挟む「て、言うか。え~?何が?なんで?二人とももう来てたの?うん?いつ?卒業とか?」
「クローゼットは、ここね………えっと、どうしようかな。」
「私達はもう二年目だったしね。それにしても第二位に行くのよ?それなりにして、行かないと。」
「第、二位…。」
ワヤワヤと、話が混線中である。
二人が来る丁度少し前、テーブルセットを創っておいた私はそこにお茶の支度をしながら二人に事情聴取をしていた。
でも、二人は私のクローゼットの中に顔を突っ込んで、服を選ぶのに夢中だけれど。
すると、ノックの音がして返事をする前に千里が入って来た。
「なんだ。また、来る。」
「ん?」
また、ってあなた、いつも部屋に居るじゃない。
まるで「後で訪ねて来ます」的な千里の言い草に、心の中でツッコミながら糞ブレンドを注いでいた。
「え。でも?なに?あれも、人形?」
「そうなんじゃない?あんな髪色の人、いたら問題よ。」
「確かにそうね…?でもヨルの周りだと、あり得るからね。油断できないよ。」
千里が顔を出したのは、一瞬だったのだが二人はしっかり姿を見たらしい。
すぐに千里の話題になって、服選びを中止しテーブルへ戻って来た二人。
お茶の支度が調うと、パミールが感心した様にこう言った。
「これはヨルの家のお茶なのね。やっぱり、美味しいしいい香りよね。」
「確かに。懐かしいわぁ、もう。」
そうだ。
確か二人にお化粧する時、この糞ブレンドを出したんだっけ………。
確かあれは、雪の祭祀の前だった筈だ。
「確かに、懐かしいってのも頷けるかも…。」
「そんなに、時間は経ってないんだけどね。まあ、色々あり過ぎよ。私達の、今迄からすれば。」
「そうそう!だから凄い昔の事の様な気がするわよね。あれから半年…と、ちょっとかな?もう、ヨルが婚約かぁ…。」
「いやいや、だから…」
「分かってるって!あの、彼とはどうなの?大丈夫?」
ガリアの青い瞳が私をじっと、見つめている。
多分、気焔との事を心配しているのだろう。
パミールも「言いたい事があるならどうぞ」とばかりに、カップを置いて私を見た。
「うーん。でも、思ったよりは。大丈夫って言うか、まだここに来てからお兄さんとは会ってないからね…。」
「あ、そうそう!あのベオグラードのお兄さんだもんね?」
「あれ?そういやベオ様は帰って来ないのかな?」
結局、祭祀に参加したみんなには、会っていない。
リュディアやシェランもどうしているだろうか。
シュレジエンがいるから、大丈夫だとは思うのだけれど。
「なんかベオグラードは暫くあっちに居るみたいよ?珍しいんだけどね。普通は、シャットかグロッシュラー、どちらかしか。行けないから。」
「そうなの?」
「そうね?大体、それでここへ帰ってきて家を継ぐのよ。そうそうウロウロ出来ないんだけど、お兄さんもいるしね、あそこは。」
「ふぅん………?」
ベオグラードやリュディアが戻らないのは寂しいけれど。
きっと向こうも、変化したばかりでバタバタするだろう。私的には、造船所や地階の事も心配だ。
あの、二人がいてくれれば。
多分、偉そうなデヴァイの人達よりいいと思うんだよね…。
「で?彼よ、彼。」
「うん?気焔?」
「違う、違う。どうせラブラブなんでしょ?そっちは。分かるわよ、訊かなくても。」
「………じゃあ、誰?」
「さっきの!」
「ああ、千里か………。うん、人形だよウイントフークさんの。」
この二人に、嘘を吐くのは心苦しいけれど。
何か、危険があってもいけない。
「そっか………。それにしては、珍しい色にしたんだね?」
「ああ、まぁ。実験、じゃない?」
確かに。
なんにせよ目立つ千里は、人形向きでも、ないのだ。
しかしウイントフークの変人振りはここデヴァイでも健在の様で、それについて疑われる事はなかった。
「ふぅん。どっちにしろ、ここにはいないタイプね?私的には、結構好み!」
「えっ?そうなの?」
「そうよ!ここはずっとこうだから、青白い男が多いのよ。健康的よね、彼は。」
まあ、健康的と言えば。
そう、なのかもしれない。
「うーーん。」
そうして私が「健康的」と「海賊の親分」について擦り合わせているうちに、二人は明日の準備について話し始めていた。
「で、とりあえず明日だけど。初めて、行くのよね?」
「うん?うん、そうだね。」
「第一印象か。まあ、ヨルは喋んなければ大丈夫だと思うけどね。」
「そうね。だから、できるだけお淑やかそうな服にして………」
何やら失礼な言葉が色々聞こえて来なくもないが、否定できない所が、辛い。
しかし私には、服装よりも気になる事が幾つも、あった。
そもそも、この世界で。
「婚約」とは、どういったもので。
何を、するのか。
全く、知らないからだ。
「そう言えば、ガリアはどうしたの?解消、した??」
確かガリアは悩んでいた筈だ。
「うん、帰ってきたドサクサに紛れて。やっぱり、祭祀のインパクトが強過ぎて。みんな、それどころじゃないみたい。流石ヨルだわ。」
「あ。そう言えば、結局どうなったの??」
「みんな無事」という事は、手紙や何か、イストリアから等で知っているけれど。
結局、具体的な事は殆ど聞いていない。
大地は、緑は、木々は。
神殿は、石は、空は。
どう、なったのだろうか。
「二人は、いつ戻ったの?」
「そうね、私達はつい二、三日前よ。本当なら春の祭祀が終わったらすぐに移動なんだけど。戻るとすれば、ね。でもあの後、環境が変わって本家からも色々調べてくる様に言われたり。」
「うちもよ。グロッシュラーへできるだけ伝手を作ってこいとか言ってたけど。そもそも、ネイアくらいしか居ないしね?館には勝手に行けないし、年寄りは何がしたいのかよく分からないわ。」
「え、どう?木は?空は、お日様は?出た?」
環境が変わった、という事は。
イストリアも言っていた、緑が増えたと。
「畑もできるかもしれないな?」と。
これまでのあの灰色の土地からは、想像ができない。
しかし、私のその言葉に顔を見合わせている二人。
何か、まずい事でも。
あったのだろうか。
パミールが金茶の髪を、ふわふわと弄りながら揺らし、艶が光る。
その、艶々した様子を見ながらガリアが口を開いた。
「お日様って、凄いのね。私、本当はあっちが良かった。」
「………。」
「ああ、誤解しないで。ヨルの所為じゃない。寧ろ、ヨルのお陰だし?だから、諸々解決したら。改めて、向こうへ行けばいいものね?」
「そうよ。その為に、帰って来たんだから。」
「………その為に?」
「だってヨル、やらかすんでしょう?本当は、あっちに居ても良かったんだけど。まあ、面白そう、だし?」
「そうね。それに、ヨル一人に任せるなんて、できない。」
「うっ。」
「違う違う。だって、私たちのことだもの。」
「そう。私達の、これからのことでしょう?それをこんな場所にヨル一人で、放っておけないわよ。きっと、面白い事が起きるのに。」
「それある。」
「ちょっと………。うん、でも。………ありがとう。」
勿論、既に私の目は大分、じんわりしている。
私を見て優しく微笑んで、茶化している二人の優しさがふわふわと身体を包んで。
今迄、「一人」だと自分が感じていた事が分かる。
魔女部屋で、金色には癒されたけれど。
どうしたって、手探りの、この暗くて広い、世界で。
あの金色の他にも見える光がある事は、とても心強いのだ。
自分の中から込み上げてくる温かい気持ち、それと共にふわりと舞い出る、私の蝶達。
「わ………ぁ。なあに?」
「凄いわね………大丈夫なの、でもこれ。他の場所で出しちゃ駄目よ?」
驚く事なく、私の蝶を楽しむ二人を見て、また更に舞い出てゆく蝶。
ガリアの側を飛ぶ子は瞳と同じ青で、パミールには黄色の可愛らしい蝶が髪に留まる。
「フフッ。可愛い。」
そうして暫く、お茶と共に蝶達が舞う青い部屋を楽しんだ、後。
「さ、やるわよ。時間が無いわ。」
その、ガリアの掛け声で私の明日の用意がやっと、始まったのだ。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
皇帝はダメホストだった?!物の怪を巡る世界救済劇
ならる
ライト文芸
〇帝都最大の歓楽街に出没する、新皇帝そっくりの男――問い詰めると、その正体はかつて売上最低のダメホストだった。
山奥の里で育った羽漣。彼女の里は女しかおらず、羽漣が13歳になったある日、物の怪が湧き出る鬼門、そして世界の真実を聞かされることになる。一方、雷を操る異能の一族、雷光神社に生まれながらも、ある事件から家を飛び出した昴也。だが、新皇帝の背後に潜む陰謀と、それを追う少年との出会いが、彼を国家を揺るがす戦いへと引き込む――。
中世までは歴史が同じだったけれど、それ以降は武士と異能使いが共存する世界となって歴史がずれてしまい、物の怪がはびこるようになった日本、倭国での冒険譚。
◯本小説は、部分的にOpen AI社によるツールであるChat GPTを使用して作成されています。
本小説は、OpenAI社による利用規約に遵守して作成されており、当該規約への違反行為はありません。
https://openai.com/ja-JP/policies/terms-of-use/
◯本小説はカクヨムにも掲載予定ですが、主戦場はアルファポリスです。皆さんの応援が励みになります!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
パパLOVE
卯月青澄
ライト文芸
高校1年生の西島香澄。
小学2年生の時に両親が突然離婚し、父は姿を消してしまった。
香澄は母を少しでも楽をさせてあげたくて部活はせずにバイトをして家計を助けていた。
香澄はパパが大好きでずっと会いたかった。
パパがいなくなってからずっとパパを探していた。
9年間ずっとパパを探していた。
そんな香澄の前に、突然現れる父親。
そして香澄の生活は一変する。
全ての謎が解けた時…きっとあなたは涙する。
☆わたしの作品に目を留めてくださり、誠にありがとうございます。
この作品は登場人物それぞれがみんな主役で全てが繋がることにより話が完成すると思っています。
最後まで読んで頂けたなら、この言葉の意味をわかってもらえるんじゃないかと感じております。
1ページ目から読んで頂く楽しみ方があるのはもちろんですが、私的には「三枝快斗」篇から読んでもらえると、また違った楽しみ方が出来ると思います。
よろしければ最後までお付き合い頂けたら幸いです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる