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8の扉 デヴァイ
石と扉
しおりを挟む「ねえ、どうする?どうしたら、いいと思う?」
白い、礼拝室。
私は、その祭壇の前でぐるぐる、ぐるぐると回っていた。
私が話しかけているのは、ジュガだ。
しかしジュガはそれに返事をするでもなく、楽しそうに私と、石を交互に見ている。
その、祭壇の上には。
そう、色とりどりの、私の石が乗っていた。
うん、乗ってるのよね。
いいのよ、それは。
だって、石が出来たんだから。ここでも。
池は、無いからどうしようかと、思ってたけど。
でも。
まさか。
あの、扉から。
出てくるとは、思ってなかったよ………。
そもそも、私はウキウキとスキップをしながらこの礼拝室へやって来た。
そう、この溜まったワクワクをどうしてくれようかと、それなら祈れば、いいのだと。
「名案!」と思って、ここへやって来たのだ。
そして扉を開けると、いつもの様に隅の棚の陰にはジュガがいて。
浮かれていた私は「一緒に歌おうよ!」とジュガを引っ張り出して、くるくる二人で、回っていたのだ。
歌いながら。
そう、テンションは上がりきっていた。
これから何かが、起こりそうな、くらいには。
「いやでも。まさか。………ん?でも前も祈った時、開いたか…。」
確かに以前、祈ってあの扉が開いて。
スピリット達を、消してしまったのは記憶に新しい。
ふわり、ふわりと私の蝶が石の周りを飛んでいる、美しい光景。
なんだかそれを見ていると、悩むのが馬鹿らしくなってきてとりあえずジュガを抱えてベンチに腰掛けた。
あーー。
綺麗。
もう、いいかぁ。
綺麗だし。
石も、出来たし?
あの、鉱山に石を採りに行けるかは、分かんないしね?
そうそう。
悪い事はないんだから、いいよね………。
扉が閉じて、優しい光になっている白い礼拝室。
天井から降り注ぐ光、反射する壁の白、ベンチのサテンも美しく照り返していて。
眩しくて目を閉じた私は、案の定ウトウトとしていた。
だって、ジュガなんかあったかいし…。
子供体温?
うん?
スピリットって、あったかいのかなぁ………?
そのまま、寝ようかと、思っていた頃。
なんだか、外が騒がしくなってきた。
バタバタと人の足音、扉が開いたり閉じたりする、音。
しかし一つの足音が、真っ直ぐここに向かって来るのが分かって。
私は、パッチリと目を開けた。
「予想以上だな?」
扉が開く音と同時に、聞こえてきた千里の声。
なにが………?
半分寝ぼけていた、私はそう思ったけど。
「あ。」
ヤバ。
そう、振り返った私が見たのは真っ直ぐ祭壇に向かって歩く千里と脇目も振らずに歩いて来るウイントフークの姿だった。
えー。
怒られない、よね??
とりあえず、石に釘付けの二人を残して。
私は食堂に避難する事に、した。
丁度、お腹が鳴ったからだ。
「よし、今のうち。」
そうしてジュガを抱えたまま。
こっそりと、礼拝室を抜け出したのだ。
「て、いうかさ、歌ったら。ザックザックと扉から石が降ってきてさぁ!めっちゃ面白かったんだけど………」
「阿呆。面白かったじゃないだろう、全く。」
「あばば。」
扉が開いた、音。
キャラキャラとシリーに笑いながら話していた私の、背後からツッコミを入れたのはウイントフークだ。
どうやら、礼拝室は調べ終わったらしい。
昼食を食べに来たであろうウイントフークと、楽しげに尻尾を揺らす千里が一緒に入ってきた。
「まあ、でも。良かったんじゃないか。」
軽い調子でそう言う千里に、表情の見えないウイントフーク。
勿論私も。
石が出来た方が、いいとは思うのだけど。
「ま、分かってた、こうなる事は。」
溜息混じりのセリフに、千里と顔を見合わせる。
どうやら問題事が増えたと思っているウイントフークだが、石が増えて困る事は無いだろう。
なんなら、ウイントフークさんの仕事に使ってくれても、いいんだけどね?
しかしウイントフークは、私が石をここでも創ることは粗方予想の範囲内らしく「やっぱりな」と言いつつも、どうやって出てきたかの方が気になるらしかった。
「あの、扉が前に祈った時の様に開いたのか?」
「そうですね?まあ、歌ってたのでちゃんと見てなかったんですけど。気が付いたら、石が降ってきてて見たら扉からポンポン出てくるから…まるで「打ち出の扉」じゃん、と思って可笑しくて…」
「何を言ってるんだか。」
どうやらこの世界では「打ち出の小槌」は通じないらしい。
石が出てきた時の様子を説明しながらも、私は石をどう使おうかと考えていた。
でも、基本的には。
本部長の、言う通りにしようと思っているけれど。
その時、私がぐるぐる考えている様子を見て、ウイントフークが素敵な提案をしてきた。
始めは少し、耳を疑ったけれど。
だってそれは、私にとって物凄く都合のいい、展開だったからだ。
「お前、あの部屋。仕事部屋に、したらどうだ?」
「ふん?」
パンを千切っていた手が、止まる。
喉に詰まらない様、水を飲んで質問しようとしたが先に手で制された。
私が喋り始めると、止まらないと思ったに違いない。
「あそこは何に使ってもいいが、折角だから癒し石を使って何かしたらどうだ。どうせ友達を連れて来たり、何やらやるつもりなんだろう?それならラピスの時みたいに、やったらどうだ。」
「えーーー。………私は物凄く賛成だし、嬉しいですけど。なんか、ウイントフークさんがそう提案してくれるのが、意外。」
そこまで言って、失言に気がついた私は慌てて誤魔化し話題を変える。
あの部屋については、ウイントフークの気が変わらないうちにちゃんと道を作ってもらわないといけないのだ。
危ない、危ない………。
「で、その。私の、姿の件って決まりましたか?」
一番の、関心事はこれだろう。
なにしろこれが決まらないと、私は外へ出られないのだから。
「うん?あれ?青の家へは、行ったな…??」
「あそこはいいんだ。そもそも、セフィラとそのディディエライトについて確かめに行った様なものだからな。その姿の方がいい。」
そんなに直ぐは、決まらないのかな………。
ウイントフークの表情を見て、そう思ったけれど。
しかし、サックリとした返事が来た。
そもそも、そんなに迷っていなかったらしいのだが金色が心配していただけらしい。
「俺も、その方がいいと思ってたしな?しかしあいつはお前と離れたし、心配なんだろう。ここは、少し特殊だしな。これ迄の扉とはまた違った、「気」がある。」
「その、スピリットがいない事と関係ありますか?」
「まあ、あるだろうな。多分、これ迄の様にあいつも力が使えるのか。まだ、未知なんだろう。ま、お前はそう心配しなくていい。お前が揺れるのが、一番悪影響だからな。」
「…………はい。」
なんとなく、それは解る。
私が、気焔に心配かけるのが。
一番、良くない事は。
じっと見つめていた手元のパンを、パクリと口に入れる。
スープも飲み干して。
皿を下げつつ、お茶を持ってきてくれたシリーに目で頷いて、パチンと頬を叩いた。
とりあえず。
やれる事から、やろうっと。
幸い、私の仕事場に。
していい、みたいだし?
そうと決まれば。
「ウイントフークさん、早く食べ終わってあそこ作ってくださいよ。」
手が止まっているウイントフークを急かしながらお茶を啜っていると、扉が開いて誰かが入って来た気配が、する。
違和感のない、この気配は。
「ああ、丁度良かった。道を作るから、こいつを見張ってろ。」
「?ああ。」
「ちょっと、どういう事ですか。」
そう、入って来たのはいつもの金色で、私のお守りを頼んでいるウイントフーク。
きっと、あの空間が自由にできたならば、暴走すると思っているに違いない。
まあ、否定できないけど。
「それなら、さっさと行きますよ!」
そう言って、ちょっとだけプリプリしたフリをして。
実際はニヤニヤを隠しながら、ホールへ向かったのだった。
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