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8の扉 デヴァイ
その、扉
しおりを挟む「ああ、因みにフェアバンクスの家は。「石」を、扱っていた。」
そんな気になる事を、朝になって言い出したウイントフーク。
パンをちぎりながら、何気無く始まったその話に私は勿論飛び付いた。
昨日はそんな事、一言も言ってなかったのに。
不満そうな私の顔を見ながら、「俺だって今朝思い出した」というウイントフークは、何故今その話を思い出したのかを説明し始めた。
「ほら、お前が前にあの扉へ夢で入ったと言ってたろう?あれが、鉱山なんじゃないか。」
「…………うん?…………ああ!」
夢と言われて首を傾げたが、ジュガの空間での事だろう。
確かに、言われてみれば。
あの、空気感と岩肌、暗く狭い道。
それに、あの男の子に。
「石」の話を、していた筈だ。
「え?でも待って下さいよ。鉱山って、デヴァイの、鉱山?うん?山って、一つしかないの?なんで人がいたんだろう………?なんとなく私、ラピスかと思ってた………。」
その私のぐるぐるをじっと見ているウイントフーク。
嫌な色の瞳と、目が合ってしまった。
あれは。
何か、そう、危険な目なのだ。
私に、無理難題をふっかける時の。
「御明察。多分、俺としては鉱山は一つだと思っている。元々な。だからフェアバンクスはラピスに移ったのだと思うんだが。まぁ直接今度訊いてみるが、お前一応あの扉が開くかどうかだけ調べておいてくれ。」
「くれぐれも。勝手に、行くなよ?」
「………うっ。はーい。」
そんなに念を押すなら、私に「開けるな」って言えばいいのに。
目の前にニンジンをぶら下げられて、触れるのに食べるなって言われてる感じ。
でも。
なんとなく、だけど。
あの扉を開けられる可能性があるのは、多分ここでは私だけなのだろう。
ウイントフークの口調で、判る。
ジュガの空間と、私のまじないで直した、この場所。
何かそれが、関係あるのだろうか。
「なにしろ今は、暫く使われていない筈だ。何があるかは、判らん。開くかどうかだけ、確認しておけ。」
「それ、開かない扉を開けろって言われるより嫌ですね………。」
言うだけ言って、さっさと部屋へ引っ込んだウイントフーク。
とりあえず私も、朝食を終えてホールに行ってみる事にした。
なんとなくだけど、見て、確認したかったのだ。
「今って、石はどうしてるのかなぁ。」
「知らん。」
「まあ、そうだよね………。」
千里に訊いたつもりは無かったけど。
私の独り言に返事をした千里は、今は狐の姿でホールを彷徨いている。
私としては、こっちの方が可愛いからいいんだけど。
しかしその可愛らしい姿で、千里は気になる事を言い出した。
「しかし今は、ウイントフークのまじないがあるからいいだろう。石はもう枯渇し始めていたからな。何事にも限界は、ある。与えもせずに、採り続ければ。何れ限界は迎えたろうな。」
「え?」
振り返った私を、無視して廻り続ける千里。
また、答える気がないに違いない。
自分で考えろと、いう事だろうか。
ていうか、そんだけ喋るんだったら教えてくれてもいいじゃん………。
そう思いつつも、私もぐるぐる、廻る。
どうせ扉を確かめて、開いたとしても今日は。
中へ、行く事はできないのだ。
それならとりあえず千里の言っていた事が気になる。
「石が、枯渇する………。」
ずっと前、まだラピスにいた頃。
ハーシェルから聞いた話で、みんなは子供が産まれると鉱山へ行くと言っていた。
それに、一人で幾つか石を持っている人だっている。
ハーシェルも、そうだ。
「確か、三つくらい持ってたような…?」
あの、ウイントフークの店にあった屑石も。
やはり、採りすぎると無くなってしまうのだろうか。
まあ、それはそうか………。
それに、もしここが本当にラピスと繋がっているとすれば。
「全部の扉の、石が。一つの、鉱山から賄われているって事だよね…?そりゃ、無くなるか…。」
だから?
だから、フェアバンクスの家はここを閉ざして。
ラピスへ、移動したのだろうか。
この家が、石を供給しなくなってからはみんなどうしていたのだろうか。
えー、もし、それで石が足りなくなって。
「奪う」という事に、発展したのだとすれば?
え?フェアバンクスさんの、所為?
そんな事………うーん?ない、よね?
でも、石は継ぐこともあると言ってた筈だ。
なんにせよ。
「無いから、奪う、って言うのは。ちょっと暴力的よね………。う、キャッ!?」
青のタイルを見ながら、ぐるぐると廻っていた私は。
何かに、ドスンとぶつかって転びそうになった所を、その何かに支えられそれが千里だと分かる。
「ちょ、何?」
キロリと睨んだ先には、高い位置にある紫の瞳。
そう、いつの間にか人型になっていたのだ。
「そろそろ、試した方がいいんじゃないか?」
「え?………ああ、そうか。」
すっかり忘れて、ぐるぐる廻っていたけれど。
私の目的は扉を確かめる事だった筈だ。
「だって千里が気になる事言うからじゃん………。」
ぶちぶち言いつつも、もう一つの青い扉へ向かって歩く。
あの時「別の人」の中から見た、あの扉と寸分違わぬ出来栄えの、その扉は。
記憶の中のその様子を思い出させるには、充分にそっくりな空間である。
そうして、ある事も一緒に思い出した私。
確か、この扉を開ける時に。
「あの人」は、何かを呟いていた様に感じたのだ。
それがあの時は、何だか分からなかった。
「えっ、まさかの、まさか?」
とりあえずノブに手を掛け、回してみるけれど。
案の定、開かないのである。
多分、その何か言葉が必要なのだろう。
「えーー………、千里?」
くるりと振り返って、確認する。
チラリと見えた、その極彩色の尻尾は一つの通路を消えて行くところで。
「え?ちょっと、何処行くの??」
私が開けられないと踏んだのか、何処かへ行ってしまった千里。
知ってるかと思ったんだけどな………。
真鍮色の、そのノブをじっと、見つめる。
派手過ぎないその彫りが、シンプルな扉にピリリと効いている、その様子を見てふと、思う。
「………やっぱり。」
扉と言えば。
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チラリと振り返っても、極彩色は見えない。
それなら。
そうして私は、小さな声で呟いた。
「開け、ごま。」
そう、やはり開かない扉と言えば。
そうしてそっと、ノブを回したので、ある。
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