透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

フェアバンクスの空間

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「あ、いた!朝、探検しようよ。」

「え。嫌な予感。」


いつもの反応の朝を捕まえて、私達がやって来たのは始めに到着したホールだ。

すっかり美しい姿を取り戻した、そのホールは。

何処からか降り注ぐ、明るい光に照らされて青が白に映えとても爽やかな空間に仕上がっている。

「うん。」

一人出来栄えに納得して頷いている私を見ながら、朝はぐるぐるとホールを周っていた。


「で?やっぱり、行くの?」

「そりゃ行くよ。だって、折角?あるんだし?奥がどうなっているかは分からないけど、ここは全部使っていいんでしょう?」

「まあ、そうなのかもね。でも、何があるか分からないんだから程々にしなさいよ?」

「はーい、分かってますよ。でも、大丈夫でしょう?」

「まぁね。」

この、フェアバンクスの空間は黒いデヴァイの中で唯一スピリットが住まう空間だ。

きっと、おかしなモノは。

入って来れないに、違いない。


「でもねぇ、まだあの子達しか「形」になれないでしょう?」

「………うん?」

朝と反対周りに、ぐるぐる周る。
どの通路から行こうかと考えあぐねていた私は、その意味が分からなかった。

「「形」?」

「そう。多分ね、ここにスピリット達の気が満ちていたならば。きっと、もっと沢山の子達が形になった筈なのよ。でも、あの子達四人だけ。守りはそう硬くないかもしれないわ。油断禁物よ?」

「ふぅん?………そうなんだ…。」

確かに。

そう考えれば、あの子達の目の届かない、何処か端の方ならば何かが紛れていても気が付かないかもしれない。

今の所、嫌な感じは無いけれど。

「ま、油断するなって事ですよね?はーい、分かりました~。」

「大丈夫かしら………。」


そうして私達は、覗き込んだ感じが一番明るい道から、攻める事にした。
私について来ていた、蝶達がヒラリと入っても平気そうだったからだ。

「じゃ、行くよ?朝。」

「はいはい、サラッと終わらせるわよ?」

「えー、サラッと?」

私のツッコミを無視して、スタスタと進んで行く朝。
とりあえず、置いて行かれない様後を追った。





「意外と、何もなくない?」

「そうねぇ……。」

通路を調べているうちに、私の蝶達が良い働きをすることが分かった。

廃墟と化した、足元が悪い道を先導してくれる蝶。

きちんと歩き易い様、飛んでくれる蝶達に感謝しつつ順に通路を調べていった。
穴が空いていたり、足元が悪い様な場所は避けて飛んでくれるのだ。
すると結局、荒れた部屋や倉庫の様な場所があるだけで、特に何も無さそうな事が分かってきた。


八つの道のうち、扉の通路が二つ、デヴァイへ繋がる道、それ以外の何も無かった道が四つ。

私達は最後の一つを調べようと、一度ホールへ戻った所だった。

「ここで最後ね。」

「うん。ここに何も無かったら、何処に創ろうかなぁ。」

「何か創るつもりなの?」

「うーん、なんか…私の、秘密の部屋?遊ぶ部屋?お茶する、部屋?」

「何それ。ま、とりあえず行きましょ。」

「うん。………いや、必要だと思うんだよね…ほら、トリルとか来た時にさぁ…」


再び先へ行った蝶の後を、朝が追って入る。

ウイントフークや金色が来ないかと、ホールを振り返ったが人の気配は無い。
私達が調べている間に通ったのだろうか。
多分、様子的に何処かへ出掛けるのだと思ったのだけど。

「あ、朝待って!」

振り返っていた朝の尻尾が見えなくなって、慌てて通路へ急ぐ。

そうして、最後の調査が始まった。


「ふぅん、でもここも同じかなぁ………?」

禿げた壁紙はきっと青かったのだと思う。

他の通路も。
所々、残っている所は青かった。


ホールからの続きの様な道を歩きながら、辺りを確認していくがここも他の通路とそう大差ない様子である。

板が飛び出す床、ほぼ壊れている棚や落ちている額縁、枠だけ残された窓。

しかし暗くはなく、あのホールと同じ様に何処からか降り注ぐ光はあって、昼間の様な明るさの通路。
その中にあって、枠だけ残された窓の外は暗い。

あの、外の廊下で見た黒い、窓。
それと、同じ様に見える。


「やっぱり、外は同じだって事なのかなぁ………。」

四つの廊下のうち、物置の様なものしかない短い廊下が二つ、あとの廊下はそこそこ距離があって幾つかの荒れた部屋が残されていた。

ここは、どうだろうか。

朝の尻尾が角を曲がるのが見えて、初めて廊下が折れている事に気がつく。

「ん?広いな………。」

突き当たりの大きな黒い窓がなんだか不安を煽る。

「急ごう。」

辺りを舞う蝶達に声を掛けて、足を早めた。



「うん?………朝?」

もう、大分進んだ筈なのだけど。

姿が見えない朝、終わりの無い廊下。

流石の私も「おかしい」と思い始めていた、その矢先一つの扉が現れた。

先には、まだ終わりの見えない何処までも続く廊下がある。
その、途中に突如現れた扉。

これまでの廊下と同じく、何の変哲もない、禿げた扉に見える。
ただそれは、これまで何も無かった廊下に一つだけある、「異質なもの」だという事はけれど。

でも、多分。

開けぬ訳には、いかないのだろう。


そもそも、「私」がこれを無視できない。


流石にが、何か別の空間で。

私が、に騙されるのか、試されるのか、それとも取り込まれるのか。

それは、判らないけど。

ただ、一つだけ分かるのは「私はこれを無視しない」ということだけだ。


「………挑戦的だね?」

何も無い長い廊下、何の気配もなく、暗くもなく明るくも無い、そうして気が付くと荒れてもいないこの場所。

そう、よく見るとただ薄い青の壁が続くその道はきっと「以前の様子」でただ存在していて。

それを見て「悪いものではなさそうだな?」と思った私は、一応辺りをもう一度見渡す。


そうして一つ、頷くと。

そっと、その扉に手をかけたのだ。
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