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8の扉 デヴァイ
私達の関係
しおりを挟むうっ、綺麗だな………。
どうしても、寝そべる千里と「あの狐」姿の可愛らしい千里が、噛み合わない。
どちらかと言えば猛禽類か、猛獣の様な雰囲気を醸し出すその人型は何故こうして私の見張りの様な事をしているのだろうか。
金色とは、知り合いらしい。
ベイルートは「目的は同じ」と、言っていた。
本部長の、お咎めも無し。
………それなら?
いや、それなのに?
「見張り」なの?
いやでも、「見極める」って、言ってたな………?
「なんか、怪しい。」
私はぐるぐるしながらも、千里の瞳をずっと、見ていた。
その、私のぐるぐるに合わせて変化する、色。
まるで私の疑問に返事をする様に変わるその色を、不思議な思いで見つめていた。
だって本当に。
「全部お見通し」の様に、その色が変わるからだ。
この人、「サトリ」とかなんじゃないの………?
家にある妖怪の本を思い出しながらそんな事を考えて、いた。
うっ、ニヤニヤしてるわ………。
その顔を見ていると、なんだか急に馬鹿馬鹿しくなってきた。
そう、私はこの人の事について考えるのを辞めた筈だ。
あの三人が、許しているならば。
きっと、考えるだけ無駄な筈なのだ。
「やーめた、辞めたっ!」
そう言って、パッとベッドから降りクローゼットから着替えを出す。
そうして洗面室へ向かいながら、一つだけ注意をしておいた。
「その、お前達の達って。気焔、だよね?お兄さんじゃ、ないよね??」
「そこかよ。………まあ、そうだろうな。」
そうだろうな、って何よ?
「分かった、それならいいの。」
そう言って、緑の扉へ滑り込んでハタと気が付く。
あ!
そっか、ベッドに入んないでって言わなきゃいけなかったんだ!
しかし、時既に遅し。
部屋へ戻ると既に紫の姿は見えない。
ただベッドの真ん中が、あの大きな身体の跡を示していて。
「………ベッドメイキングして行ってよ。」
そう愚痴りながら、朝の支度をする事にした。
もう!
何なのかな、あの狐は。
………でも。
ふと、思う。
色は違えど、それはそれで落ち着く、あの腕の中。
何か知っている様な、居心地の良いあの空間。
うーーーーん??
「で?洗うの?洗わないの?」
「ひゃっ!………ああ、ごめん。」
タオルを持ったまま、鏡の前でぐるぐるしていた私。
それを見て、どうやらヤキモキしていたらしい鏡に突っこまれてしまった。
そうしてとりあえず、朝の支度を始める事にしたのだ。
「どうかな?上手になったでしょう?」
無邪気な顔をしたイリスに訊かれながら、少し焦げた朝食を食べていた。
「うん、味は美味しいよ。」
「なら、良かった!」
スピリットに細かな言い回しは通用しないのだろう。
食べながらもあれこれイリスに教えているシリーを横目で見ながら、つい笑ってしまう。
まあ、楽しそうに毎日張り切ってやってるみたいだから、何よりでしょう…。
そうして私達が朝食を摂っていると、朝が食堂へ入ってきた。
「…結構そんな格好も似合うわね?」
「あまり目立つわけにはいかないからな。」
あれ?
聞き慣れた声に、振り向いた。
「えっ。」
「なんだ。」
「……………いや………うん。」
そこには、金色が立っていたのだけれど。
「なぁに、見惚れちゃった?」
「いや、うん、まあ。」
「揶揄い甲斐のない子ね。」
朝に茶々を入れられながらも、目が逸らせなかった。
入ってきた、金色が。
見た事のない、服を着ていたからだ。
え………何それ………私の服は?
まあ、仕方ないのか………?うん?
なに、青の家から支給されたって事?
ラガシュ?
ラガシュなの?
この仕業は………。
見た事のない、服とはいえデザイン的には以前ベオグラードが着ていた服に近い。
私の世界で言えば、詰襟だろうか。
紺地に青の装飾が付いたそのジャケットの様なもの、白のシャツに同色のパンツ。
初めて見た、そのきっちりとした姿に私の頭は混乱していた。
「え、うん。………ああ。」
まごまごしている私の様子を見ながら、朝が言う。
「依る、あなたお風呂、見てもらった方が。いいんじゃ、ない?」
「う?うん?そうね、うん。」
そうして私達は、澄ました顔の朝に見送られ食堂を出た。
いや、追い出されたに近いかも、しれないけど。
えーーーーーー、?。
青い廊下を歩きながら、まだ私の頭は混乱していた。
その、混乱の原因が背後を歩いている。
何故だか並んで歩かないのは、わざとなのだろうか。
逆に、落ち着かないのだけれど。
ぐるぐるしているうちに、部屋に着いた。
まあ、そう長い距離でもない。
当然の様に、扉を開けてくれた金色の横を目を合わせない様スルリと通り抜けた。
いや、見れないのだ。
そちらを。
とりあえずそのまま真っ直ぐ、ベッドに座った。
私の頭の中からは。
「お風呂を見てもらう」なんて事は、すっかり飛んでいたからだ。
何故だか近付いてこない、金色は下を見ている私の視界に足元だけが映っている。
見慣れない靴。
紺のパンツはピシリとした生地で、良いものだろうという事が分かる。
センタープレスが効いたパンツに、アラビアンナイトが噛み合わない。
いや、似合っている、似合い過ぎているのだけれど。
私の頭の中が、混乱中なのだ。
痺れを切らしたのか、声が降ってくる。
「どうした?あいつが何か…?」
あいつというのは、千里の事だろうか。
まあ、何も無いわけじゃないけど……。
いつもなら、なんとなくでも私の言いたい事が解る金色は見当外れの事を心配している。
つい、この間迄はずっと一緒にいたから。
勝手に、私の言いたい事など察してくれるものだと、思っていた。
でも………。
えっ。
言うの?
何を?
「千里の事じゃなくて………」?
「あなたの事です」、って??
なにが?え?
なんだろう?うん??
自分でも自分が「何に」ぐるぐるしているのか、金色の何に、戸惑っているのか分からなくなってきた。
ふと、顔を上げた。
見れば。
解るかと、思ったのだ。
あ
まず………
その、金色の瞳と目が合った瞬間、私の中の何かがブワリと燃え上がり、顔が一瞬で熱くなる。
身体全体もザワリとして。
爪先から、頭まで「あの焔」が駆け巡った様に自分が一瞬で塗り替えられたのが分かる。
居た堪れなくたって逃げ出したいけれど、私は既に「あの瞳」に捕まっていて。
そう、逃げ出せない事は解って、いた。
彼が私に近づいて来て、言い様のない感覚に襲われる。
久しぶりの金色、会っていない時間はそう長いものではないけれど。
多分、私達にとっては、長かったのだ。
再び自分の中の金色の分量が、減っている事に気付いてドキリとする。
近づいて来た、彼が。
何をするのか、解るからだ。
恥ずかしくて拒みたい気持ちと、早く欲しい気持ち、そんな事を考えてしまう自分がまた、恥ずかしくて。
しかし、私の前で一度立ち止まると、そっと手を取った金色。
その、握られた手から何か、判るのだろうか。
「感じたままで、良いのだ。」
そう、言われてしまったら。
もう、恥ずかしいとか。
そんなのは、押しやって。
スルリと、私の気持ちを口に出した。
多分、想えば、伝わるのだろうけど。
口に出して、言いたかったのだ。
「いっぱい、頂戴?金色が、溢れるくらい…。」
顔から、火が出そうだったけど。
ああ、これ私も炎出せるかもだわ………。
そんな事を思いながら、深く、安心できるその腕の中に沈み込んで、行った。
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