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8の扉 デヴァイ
初めての探検
しおりを挟むうっ、はーーーぁ。
豪華な彫刻の額縁、知らない人の、肖像画。
四角の重なる額縁、幾重にも重なる色とその中に収まる何処かの風景。
丸く可愛らしい装飾、華やかな彩りの良い花束の額。
見た事もない美しい石が嵌められた、鏡。
長細い鏡は、嵌められた石とその横向きに掛けられた様子から、鏡としての用途ではなく完全に飾りなのだと知れる。
等間隔に並ぶまじないのランプ、それに照らされる美しい装飾の数々。
そのランプすら、芸術品の様に美しい彫金で、嵌められているガラスもまるで鏡の様に綺麗だ。
曲線の美しいテーブルには、煌びやかな壺の様なものが置かれていて。
少し離れて小さなキャビネット、向こうには大きな鏡も見える。
ここは。
悪の、巣窟かと思っていたけれど。
天国、なのか………??
いやいや、待って、待て。
違う違う、いや、でも。
抗い難い、この、廊下は。
黒い壁紙、しかし透かしの様な不思議な模様が入るこれは壁紙なのだろうか。
灯りの届かない部分は真っ黒にしか、見えない。
しかし一度、ランプに照らされる範囲を見ると。
縦縞に何か紋章の様なものが入った柄が、浮かび上がるのだ。
うっわぁ~、これって何かの紋章なのかな?
家紋とか?
めっちゃ気になるけど今訊いたら怒られるよね??
後で覚えてるかなぁ………いや、無理だな。
まだ、向こうにもいっぱいあるし………。
うん?でもずっと喋れないわけじゃないよね??
これから外出する時だってあるわけだし?
うーん………忘れそう…。
いやいや、とりあえずはこっちだよ………。
私の脳内は、勿論忙しかった。
何せ、見るもの、全てが。
私が見ても、一級品だと分かる、その佇まい。
勿論置いてあるものは全てそうだし、そもそも壁から、床から。
そう、今私を取り巻く全てが「ヤバい」ものばかりなのである。
ぶっちゃけ、あのフェアバンクスの通路を出てから。
多分、三メートルくらいしか、進んでないんじゃ、ないだろうか。
それだって、時折私の手をぐいぐいと引っ張る千里に促されて、やっとこ進んだ距離なのである。
いや、でも。
仕方なく、ない??
正直、ここにあるもの一つ一つをじっくり見るだけで、帰ってもいい。
だって、また来れば良くない?
ラギシーがあれば、こうして………。
ん?
いつになく強く引かれた手、そのまま千里に抱き止められて何が起きたのかと目を丸くしていた。
私の手は。
一方が千里に繋がれていて、もう一方は自分の口に当てたままだったから。
しかし抵抗する理由もない。
きっと、私の安全の為に取った行動だという事は流石に分かる。
目だけを動かして、辺りを見ていたが自分が他から見えない事を思い出してキョロキョロしてみる。
抱えられているので、千里がどの方向に注意を向けているのかよく分かる。
自然とその方向を、目を凝らして見ていた。
ん?
なに、か………人、かな?
蠢くものが見えるけれど、人かどうかが判らない。
千里は人ではないから。
あそこまで、見えるのだろうか。
キラリとベイルートが光って、千里の肩に留まったのが分かる。
ベイルートさん、浮いてますよ………。
そう思いつつも、もしあの人が人間だとしても、この距離では小さなベイルートが見えない事も分かっている。
二人は何かまた通じ合っている様だったが、一つ頷くと千里はそのまま構わず私の手を引き歩き始めた。
大丈夫なのかな………。
徐々に近づくに連れ、それが人だという事が判ってきた。
怪しい…。
なに?
何してるんだろう?
何か落としたのかな………?
そう、薄暗い廊下を蠢くその人は見事な彫刻の扉の前で蹲み込んで何かをしているのだ。
後ろ姿しか、見えないが多分若い男の人ではないかと思う。
千里はその人の背後を距離を取って通り過ぎると、少し離れた場所から見守る様に立ち止まった。
お陰で、その男性の観察ができる。
ま、千里がこうして止まってるなら大丈夫なんでしょう…。
ここ、デヴァイで初めて見る、人間だ。
私だって、じっくり見たいに決まっている。
この廊下は、薄暗いが何故だか装飾品の豪華さは、よく分かる。
まじないなのか、普通の照明ならばきっと見えないであろう、その人の細部も。
それなりに、見えるのだ。
確かにどんなに豪華で細かい物を作っても、見えないと意味無いもんね………。
誰だろうな、こんな画期的なランプを考えたのは。
薄暗いお陰で、この重厚な雰囲気と壁や絨毯の色、調度品の数々がより一層の絢爛さを醸し出しているのだ。
うーん、深い。
そんな事を考えつつも、私はきちんとその人の事を観察していた。
だって、私達がここへ立ち止まってから。
そこそこ、いい時間が経っていると思う。
けれども未だ蹲み込んだまま、懸命に何かをしている彼は一体何者で、何をしているのだろうか。
とりあえず参考までに、服装を観察する。
しかし、目が行くのはそのぐるぐるとした、紺色の髪。
短いが、「ぐるぐるとした紺色」でシュレジエンを思い出した私は、なんだか楽しくなってきていた。
ふぅん?
近づいて、見ちゃ。
ダメ?
そこら辺にあるであろう、千里の顔を見て目で尋く。
しかし、返事は、ない。
千里が私の質問の意図を解っている事を「知っている」私は、そのまま千里の手を引いて、少しずつ彼に近づき始めた。
多分、この調子ならば。
きっと、気が付かれない筈だ。
厚く柔らかい絨毯は、忍び足には最適だ。
姿は見えずとも、音は、出る。
足音と、気配を気取られない様に少しずつ、ゆっくりと近づいて行った。
しかしその予想は、裏切られた。
ピクリと、紺色の髪が動く。
その瞬間、ぐっと背後に引かれる身体、振り返るぐるぐるの頭と遠ざかるその人、しかしその緑色の瞳は。
しっかりと、私の瞳を。
捕らえて、いたのだ。
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