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8の扉 デヴァイ
透明の私達
しおりを挟む意外な事に、ベイルートはそう反対しなかった。
「少しだけだぞ?………しかし上手く行き合えばいいが。」
そんな事を言いつつも、千里を見ている。
もしかして………?
私が部屋へ行っている間に、千里が何か言ったのだろうか。
…分からないけど。
でも、許してくれるなら私に異論は無い。
しかし、「行き合う」とは。
どういう事だろうか。
実際問題、ベイルートが先に来て「何処へ行って何を調べていたのか」を聞いていない私は、とりあえず外の様子を質問する事にした。
でも。
確か、ダーダネルスは「美しい檻」だ、と。
そう言っていたデヴァイ。
外もない、出る事すら許されていないと。
そんな事って………?本当に、あり得るの?
そうしてワクワクとドキドキ、色々な感情が混ざったまま口を開いた。
「ベイルートさんって、もう中は全部把握してるんですか?どんな感じです?」
私の言葉に、少し考えている様子のベイルート。
首を傾げる様子に似た動きがキラリ、キラリと玉虫を反射させ美しく光っている。
うっ。
可愛いけど………ここで掴んで「可愛い!」とか言って、機嫌を損ねたら…いかんいかん、我慢だ、ここは。
私が一人、愛でたい衝動に耐えていると返事が来る。
「いや、あそこはやはり変わった造りでな?各家のスペースは小さな町の様になっているが、其々は廊下で繋がっている。多分、家のスペースには入れないだろう。廊下だけなら、そう人と会う事は無いから心配は無いが、…反対に。」
「そうか!誰にも会わないと、分かんないですもんね?」
「そうだ。都合良く年格好が近い奴が歩いているとは限らない。まあ、それでも良ければ………。」
「行くに、決まってるじゃないですか!」
「だよな………。」
チラリと千里を確認したベイルート。
何かを分かり合ってる気がするけど、それは放っておいて私は臙脂の袋を開け、中身を出した。
ラギシーは一枚で足りるだろう。
「ん?ベイルートさんはそのままで?いいですかね?」
「ああ。ずっとこれで調査していたからな。」
「千里は?どうする?狐に戻った方がいいんじゃないの?」
小さい方が、都合が良くはないだろうか。
私はラギシーを使っている時に、見つかった事も人とぶつかった事も、ない。
もし、「姿は見えないけれど触れば分かる」のであれば。
身体の大きい、人の姿の方が不便な気がするからだ。
少し考えると「そうだな」と言った千里は、「ポン」と狐に戻った。
「ほわ~。」
「何?」
「だって。見てる時、変わるの初めて見たから………。」
「別に面白いものでもないだろう。」
いや、充分不思議ですけどね………。
そうして私達、三人は。
初めての、デヴァイ探検に行く事にしたのだ。
うむ。
「………じゃあ、私がやりましょうか。」
青いホールで腕輪を出した、私。
何か言いた気なビクスは、それでも自分がやると言って私の姿を隠してくれた。
少し、その様子が気になったけれど私の関心は既にあのアーチへ向いている。
「いってらっしゃいませ。くれぐれも、気を付けて下さいね?」
心配そうなマシロと、千里に念を押すハクロ。
二人に見送られながら、豪華な紋様が施されたアーチを潜って行く。
入り口天井まで施された模様、少し暗いその先は紺色に変化して奥は見え辛い。
振り向いて手を振ると、キラリと光るベイルートを頼りに通路を進んで行った。
「ねえ?いるよね?」
「ああ。足元だ。依るは俺が見えないのか?」
「見えないよ。それがラギシーだもん。」
どうやらこの口調から察するに、千里は私の事が見えるらしい。
どうしてだろうかと思いつつも、「狐だから」と何故か納得して玉虫色を見失わない様、気を付けて歩く。
そう、通路はデヴァイへ繋がるあの道と同じ位は薄暗くて。
でも、何も見えない程じゃないこの道は大人二人が並んで歩ける程度の狭い、通路だ。
あの時の、闇の道は。
どこまでも続いている気がする、広い空間だった気がする。
そう言えば、あの通路で感じた事は。
いずれ、判るのだろうか………。
「ん?」
いかん。
考え事をしていたら、ベイルートが見えない。
「嘘!?」
「おい、ここだ。」
焦ってワタワタしている私の足元を撫でる、フワリとした毛並み。
「え?ちょっと、どこ?」
「仕方ないな………。」
「ポン」という音がして、人の手が私を引っ張るのが判る。
「ごめん……。」
結局千里が人になって、引っ張ってくれる様だ。
少し反省しつつも、少しずつ明るくなってくる辺りの様子に嫌でも高まる、胸の鼓動。
「頼むから、声は出すなよ?」
なんで分かるんだろう?
まるでウイントフークの様に、そう私に釘を刺す千里。
繋がれている手から、何か感じるのだろうか。
とりあえず改めて深呼吸をして、口をキュッと結ぶ。
なんなら、手も当てておいた方がいいだろうか。
どんな景色が待っているのか、それ次第では黙っている自信がない。
キラリと見えたベイルートを目指して、更に明るい方へ向かう千里。
姿は、見えないけれど。
頼もしいその手は何故だか知っている様な気がして、なんだか懐かしくなる。
この、薄暗い空間で感じられる温もりが距離を縮めるからなのか。
それとも、この人は。
何か、私に関係のある、人なのか。
て、いうか。
人なの?何なのかな………。
いつものぐるぐる、しかし明るくなってきた通路の様子が見えてきて、その装飾に気を取られるのはすぐだった。
う、わ………。
慌てて口に手を当て、声が出ない様にする。
まだ、通路である。
序盤からこの調子では。
この先、絶対声が出るに違いないからだ。
いや、でもこれは………。
人に会わなくても、絶対、楽しいやつじゃん………。
徐々に露わになってきた通路の様子は色が変わって、黒を基調とした重厚な装飾に変化していて。
これこれ!
これが、贅沢の、アレじゃないの?
徐々に見えてくる紋様の細かさ、使われている金彩と青を基調とした柄がはっきりと見える。
そうして私が壁に気を取られているうちに。
どうやら、目的の場所へ到着した様だ。
立ち止まった千里が、ベイルートを待っているのが分かる。
見えなくなっていた玉虫色がキラリと旋回してこちらへ戻って来るのが見えたからだ。
きっと、誰もいないか確かめに行ってくれたのだろう。
いや、誰かに会う為に来たんだけどね………。
そう思いつつも、近くの壁に留まったベイルートの注意事項を聞く。
「廊下は割と広い。きちんと注意していれば、ぶつかる事はないと思うが何せお前の好きそうなものが沢山あるからな。ああ、人型になったのか。その方がいいかも知れん。とりあえず、ヨルは周りを見ないと思っていた方がいいからな。頼んだぞ。」
「分かった。」
「ん?ちょ……。」
一応、抗議をしようと思ったが。
「私の好きそうなものが沢山」?
ある、の??
まあ、これまでの事から考えて贅沢と搾取が所狭しと並ぶ場所ならば。
「………確かに。」
「もう、口を塞いでおけ。行くぞ。」
むぅん。
仕方が無い。
きっと「そうなる」事は、自分でも分かるから。
「パタン」と口に手を当てて、引かれる手について行く。
そう、そこにはベイルートの言う通りに。
私の涎が出そうな空間が待っていたのだ。
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