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8の扉 デヴァイ

私の計画

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勿論、反対されるのは解っていた。

でも。

いや。

だって。

この、美しい色彩の狐(若しくは海賊)に、下手な服は着せたくない。
そう、思ってしまったのだ。


気焔やシンと同じく、独特の雰囲気を持つ千里は普通の服は似合わないと思う。
だから、デヴァイでの服を参考に私が彼に合う服を創れば一番、いいと。
思ってしまうのは、仕方がないだろう。

そう、私の思い付きとは。

勿論、ここから出てデヴァイへ行き直接、向こうの人達の服装を見る事なのだ。

どう説得しようかと、とりあえず顔を上げた。



ベイルートは既に出来上がったホールを飛び回り、チェックをしているのか逐一留まって確認をしている。

いや、あの人も建築系は好きな筈だ。
普通に見てるだけかもしれないけど。

千里は一人、腕組みをしながらそんなベイルートを見たり、各通路を確認しに行ったりしていた。
通路の奥には入らないけれど、覗き込んで何かを確かめている様なそんな感じだ。

以前からここにいた彼は、あの通路の奥が「どうなっていた」のか知っているのだろうか。

ま、教えてくれなそうだけどね………。


そう思いながらも、どんな服が似合うかと背の高い千里を観察していると、彼の足が止まる。

あの、小さな扉の前だ。

「まさか…?」

ノブに、手を掛ける。

「…ん?」

音は、しなかった。

それに、千里がノブを回したのかもよく判らなかったけど。

「やっぱり、開かないな。」

そう言って、振り返ったその紫の瞳は何か言いたげな色を含んでいて。

私に、開けろって………こと?

そう、思ったけれど。


意味あり気な視線を向けた割には、そのまま何も言わずに次の通路へ進み、覗き込んでいる千里。
それを見て、ホッと息を吐いた。

何故だか「はあの扉の中へ入れる」事を知っている自分と、「内緒にしなければならない」という思いが同時に湧き上がってきて、どうしていいのか分からなかったのだ。


再び周り出した千里から視線を滑らせ、扉を見る。

あの、別の人の中で見た青い扉。

美しく再現されたは、「さあ、入って」と言っている様にも、見えるけれど。

「ん?」

ふと思い出したのだが、確かあの扉に入る前に彼女は何かを呟いていた様な気がする。

頭の中に、答えを探してみるけれど。

うーーーーー、ん??


「どうした?」

「ひゃっ!」

「すまん、驚かせたか。」

耳元でベイルートの声がして、若干飛び上がった私。
咄嗟に玉虫色が落ちない様抑え、ドキドキを落ち着かせようと深呼吸をする。

「奥も、創ったんだろう?」

「はい。色々、見てみますか?」

どうやら屋敷内を探検するつもりのベイルート。

もしかしたら…。

私の部屋や、礼拝室を見せたなら乗り気になって外出許可を出してくれないだろうか。
きっと、向こうの装飾や内装も。

「素敵だと、思うんだよね………。」

「ん?」

「いや、とりあえず色々案内しますよ!力作ですから。」

そう言って、チラリと極彩色に目をやるとどうやらついてくる気の様だ。

それなら都合がいい。
多分、外出するならば。
お目付役も、一緒でなければならないだろうから。

そうして一つ頷くと、大きな扉を潜って行った。



青い廊下を歩いている間は、ずっと飛び回っていたベイルート。

それをいい事に、私はずっとこの二人をどう攻略するかを考えて、いた。


ていうか、そもそも外にでちゃいけない理由って何だっけ?

ウイントフークの言葉を思い出そうと、頭の中の引き出しを引っ張り出してみたけれどイマイチはっきりとした理由が見つからない。


私が「そっくり」の件?
でもそれは偉そうなお爺さんとかに見つからなければいいんだよね?

でも他の人にも会わない方がいいのか………。
今はほぼ銀髪に近いしな………。

アキを付けていても、光によってはほぼ白っぽい銀髪に見える今の髪色。
普通に室内で見ると、灰色なのだけれどそれも薄い、灰色だ。
目は、まだ誤魔化せている様だけど。

「うーーん。」

それに、そもそも千里が目立つ。
多分、私よりも目立つんじゃないだろうか。


無意識に自分の部屋への扉を開けている事に、気が付いた。
背後から、千里の大きな手が扉を抑えたからだ。

キラリと光る、玉虫色が部屋へ飛び込んで扉を閉めた千里。
そうしてなんだか意味あり気に、こう言った。

「俺たちは部屋を見ている。依るは、荷物を片付けたらどうだ?」

「え?いいの?」

「ああ。まだ途中だろう。」

「うん、それなら。ありがとう…?」

何故、私の荷物解きが途中な事を知っているのか。

ここまで来ると、千里の事を不思議だと思う事自体が面倒になってきた、私。

気焔も、ベイルートさんもあの調子だし?

もう「そういうもの」だと、思って気にしない方がいいのだろう。

そうと決まれば。

そうして洗面室に消えて行った二人を見ると、荷物箱を広げ始めた。


服はある程度片付けてあったので、そう物は多くない。

お気に入り棚に色々並べて一人、唸っていると二人が戻って来た。

「あれは………。」

「………だろう?まあ、ここら辺り全部だからな。あっちはまた、更に、だけどな?」

何やら真剣な様子のベイルート、説明をしているのか何故だか得意気に話している千里。

「どうしたの?」

私の質問に、顔を見合わせている。

なんで?
普通に、訊くよね??

「まあ、とりあえず終わったか?」

「はい、あとは並びをちょっと…。」

「それは後でゆっくりやれ。先ずはその礼拝室とやらに行こう。」

「………?はーい。」

何故だか早く礼拝室へ行きたいベイルート、それを楽しそうに見ている千里は既に扉の前で私達を見ている。

それなら、と手を止めてとりあえずは礼拝室へ行く事にした。




「………はぁ。」

「ふぅん」 「………ほー。」

ぐるぐると飛び回りながら、頻りに何かに感心している玉虫色。

白い礼拝室にキラリキラリと飛び回るその色が、なんだか楽しくなってきて私もじっくりと部屋を確かめ始めた。

何気に、じっくり見るのは初めてなのだ。


しかし、タイルの床以外は意外とシンプルなその礼拝室は物凄く凝った彫刻や私の好きなアンティークっぽさは、そう多くない。

正面に掲げられた扉、天井と床以外は至極シンプルでスッキリとした造りだ。

しかし何処からか差す光、明るいアーチ天井とそれを増幅させる白いタイルと壁。

何かをじっくり見る、と言うよりは。

「感じろ、って事なのかな………。」


そう思って、円が描かれているタイルの真ん中に立つ。

床のタイルは、円を描きながらそれが幾何学模様になっている。
白の濃淡と、石の違いで描かれてたは何を表しているのだろうか。

私が、創ったんだけど。

じっと眺めてみたけれど、ベンチもあるので全貌がイマイチ掴めない。
ぐるりと回って確かめていると、視界に影が差した。

「で?依るは、したいんだ?」

見慣れない靴、影の主は千里だ。

見上げたその紫の瞳は、やはり私が何をしたいのか知っている、色。
もうそれを飲み込んだ私は、そのまま頭に浮かんだ事を口にした。

「千里は?賛成してくれる?」

「…まあ、面白そうだからな?」

「やっぱり。じゃあ後はベイルートさんだよね…。」

ぐるりと天井まで見渡すと、大分上の方にキラリと光る玉虫色が見える。

「てか、あの辺私だって近くで見たいよ………。」

心の声が漏れた所で、千里が絶妙な提案をした。

「さっき、アレを出していただろう?あの、臙脂の。」

「臙脂…?」

臙脂って………?

臙脂と、言えば。

「ああ!ちょっと、待ってて!」

「  」

千里が何か、言ってた気がするけど。


閃いた私は、一目散に自室へ戻ってあの臙脂の小袋を引っ掴んで来た。

そう、ここにはまだ。
袋いっぱいに、ラギシーが入っているからだ。


後ろ手に自室の扉を閉め、「うーん」と呟く。

やっぱり。
あの子………、いやあの人か。

ラギシーを知ってて、そう言ったであろう千里。
それに、この、臙脂の袋に入っている事も。


「うーーーん。ま、いっか。」

そう、とりあえずはこれで外へ出かけられる筈なのだ。
あの千里の様子ならきっと協力してくれるに違いない。


そう思って、沸いた疑問は脇へ押しやっておく。

とりあえずは、外だ。

「フフフ。いけない、浮かれ過ぎると絶対反対される…。」

礼拝室の前の扉で、深呼吸だ。


そうして一つ、頷くと。
ゆっくりと、白い扉を押したのだった。










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