透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

ホールと千里の服

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青と白。

その、繊細な紋様と金彩のマリアージュ。
アラベスクに花や羽などが加わり、複雑な紋様となっている特徴的な天井。

何とも美麗でしかし不思議な雰囲気を醸し出すその青と白は、あの中央屋敷よりは幾らかシンプルにも見えた。
きっと、白の分量が多いからだろうけど。


八角形のこのホールには、広い壁は無い。

主にあの主通路と小さな扉、デヴァイへの通路であろう道が、豪華な装飾になっているのでその重要さがよく、分かる。

やはり。
あの、小さい扉も。

何かしら、重要だという事なのだろう。

アーチ型の扉と通路が青と金で縁取られ、それぞれ違った装飾で彩られている。
デヴァイへの通路よりも、主通路へ繋がる扉の方が。
紋様が豪華なのが、ちょっと面白い。


それぞれの通路、その間にある壁のモールディング、切り取られた四角の縁取り。
青と金で囲まれたその凹みが、白い壁に程良いアクセントとなりそれぞれのアーチを繋ぐ。

二つの扉は大きさは違うが、同じく青で塗られていて。
金のノブと、白で描かれたアラベスクが紺色で締められてアクセントになっている。
デヴァイへの通路にも紺色が使われていて、やはりこの三つが特別なのだと見るからに主張しているのだ。

行け、っていう事かな………。

そう、思いつつも。


うん?
思い出してる割には、めちゃくちゃ詳細だな??

確か私は目を閉じて、ホールの真ん中に立った筈だ。
でも。
明らかに。

で、見ているのだ。


これは、もしや………。

「ジュガ、でしょう?いるの………?」

動かない場所、しかし見たい方向は見ることができるホールの様子。
身体は回っていないと思うけれど。

なんだか不思議な、感覚なのである。


そうしてホールを見回していると、少し経って返事が来た。
しかし姿は、見えない。

「廊下が 素敵、だったから」

そう、ポツリと言い残し、小さな気配が消えた。



「ん?あ、あれ??」

ふと、気が付くと私は朽ちたホールに立っていて。

自分の身体を、ぐるりと回して周りを観察していた。


「え?嘘?ジュガは?」

「どうした?」

フサフサと尻尾を揺らして千里が足元へ来た。

その不思議な紫の眼をじっと見ていると、なんだか現実に戻ってきた気がする。
くるりと回した、その紫の深みに落ちて行きそうな気がして。

「いかん。」

自分を立て直して、頬を叩いた。


「………えっと……?」

ぐるりとホールを見渡して、現状を確認する。
間違いなくそこはあの古いホールで、未だ朽ちたままの床、壊れた装飾と禿げた壁。
荒れ果てたまま、である。

「あの廊下が気に入ったんだろうな?をそのまま、創れば。いいと思うぞ?」

「………。」

まるで見ていた様にそう、言う千里。

やはりこの子は。
何か、他のスピリットとは違うな?


そう思いながらも、確かにここにずっと留まっていても仕方が無いと思い直す。
まだ、私の仕事は残っているのだ。

ホールは、見て来た。
それなら、ちゃちゃっと。
創ってしまえばいいだろう。

さあ、やるか。

ここは広い。
それなら、と青と白っぽい石、二つを選んで再び目を瞑ったのだった。





「フッ、完璧。」

「お見事。」

ん?

上から声が降って来た気がして、パッと振り向いた。

「キャッ!」

「何だよ。」

「…………てか、急に人になるの、止めてくれない?」

それに………。

なんだか、初めの時よりも砕けた雰囲気になっている気がするのだけれど。
気の所為、だろうか…。


背の高い千里の雰囲気は、これまでいなかったタイプの大人に見える。
最初に「海賊の親分」と思ったからなのか。
強いて言えばシュレジエンに近いと、思う。

その私のイメージに、ピッタリ沿うように変化した気すらする、その言葉遣いと風貌。

ベッドに座っていた時は、そうじっくり見た訳じゃない。

でも、こんな感じだったっけ?

そう首を傾げるくらいは、中性的な狐の姿から大きく変化している彼。
たっぷりとした生地の緩いシャツに、黒のパンツも緩めのデザインだ。
シャツの襟と、腰紐が垂れるその姿は「風が吹いたらもっと海賊っぽいな」なんて、くだらない事を考える位には充分、似合っていて。

「え?この人を紳士っぽくしろって事?」

「失礼だな。」

そう、私が思わず呟いてしまうくらいにはワイルドな雰囲気の千里に、デヴァイで似合う服など見つけられるのだろうか。

うん?
て言うか、私が創るのか??
他の男の人って?

どんな格好、だったっけ??


基本的に皆、ローブを羽織っているので服装は見え辛い。
神殿に来ていた人達や、アリススプリングス、ユレヒドールの姿を思い浮かべてみても服装まではやはり、分からない。

唯一、しっかり思い出せるのはブラッドフォードなのだけど。

いやいや、お兄さんとは。
タイプが、違い過ぎるよ流石に…。

てか、こんな系統の人、デヴァイにいないと思うけどね………。


「化けるんだったら、もっとハクロみたいになってくれれば良かったのに。」

ポソリと呟いた、その一言を。
意外な返事で返して来た、彼。

「初めが肝心なんだ。俺、いや私の姿を見て。依るが思い浮かべたのが「この姿」だったって事なんだけどな。いやしかし話し方は変えないとまずいか…。」

そうして真剣に考えている姿を見ると、なんだか私が悪い事をした様な気分になってきた。


いやいや、待って。
意味が分からない。

なんで?
「私が思い浮かべた」?
なんで私が思い浮かべた姿に、なるワケ?

いや、でも………マシロ達もそうなのかな…。
うーん??


暫くぐるぐる、していたけれど。

「駄目駄目、服を。服を、変えるんだった。もう、すぐ脱線しちゃうな………。」

とりあえずこの子の不思議については、後だ。
きっとそのうち、分かってくる事もあるだろうし気焔と千里の様子を見ている限り。
私に教えるつもりが、「今のところは」無いのが判るから。

それなら目の前の問題を、解決する事からだよね。
うん。


そう一人頷いて納得すると、恐ろしい提案が降って来た。

「ウイントフークと同じでいいじゃないか。」

「え?ちょっと止めてよ。」

思わずそう、言ってしまった。

だってあの人。
「白衣」、だったけど?

ある意味いつも通りだったから、見逃してたけど。

「おかしく、ない??」

「まあ、ウイントフークだからな。」

「え、あっ!!」

そう言ってキラリと私の目の前に飛んで来たのは、見慣れた玉虫色のキラキラ。

なんと、先に来ていたベイルートだ。

「やだ!!ベイルートさん!どこ行ってたんですか?って言うか先に調べてくれてたんだろうけど、………もう!心配しますから…。」

「分かってる。大丈夫なんだって、言ったろう?」

私の顔を見て、更にこう言う。

「「だって」は、無しだ。で?どうしたって?」

もう………。
心配くらいはさせて下さいよ……。


若干ウルウルし出した私の顔を見て、視線(?)を千里に移したベイルート。

それを見てハッと気が付いた。

「…あれ?もしかしなくても初対面です、よね?」

くるりと回って私の肩に留まったベイルート、それをじっと見つめたまま何も言わない千里。

その雰囲気を見て、察した私。

「まさか、ベイルートさん?」

、って何だ?まぁ俺はここへは先に様子を見に来ていたからな?姿は知っているが、「人」になったのは初めてだな?」

「ああ。まあ、よろしく。」

「………よろしく。目的は俺とで、いいな?」

「ああ。」

え?
ちょ、また??

自分の肩と千里を交互に見ながら、再びのこの不可解さになんだか溜息を吐いてしまったけれど。

でも。
この様子ならば。

気焔の様子も含め、「私の為」に言わないのだという事が、確実になった。

それなら、私は余計な事を考えない方がいい。
きっと、悪い様にはならない。
それが、確実だからだ。


「まあ。………しょうがないか。さて?じゃあ千里の服!服なんですけど……。」

ベイルートは商家だ。
服だって扱っているに決まっている。

そう思って、前のめりに質問したのだけれど。

私の期待とは違う答えが、返ってきた。


ベイルートさん、それは………。

そう、ベイルートがキラリと背中を光らせながら説明してくれた、その答えは。

なんだか、服の様子がフワッとしか想像できないのだ。

「シャツとパンツでピシッとしてるのが多いな。生地は勿論、最高級の糸で織られているから光沢が綺麗だ。縫製も勿論、いいし高いものは透明の石が幾つも必要だが一体何処から調達してるんだか…。」

話が彼方此方散らかりがちなのと、具体的な部分が何一つ、分からない事。
その後もつらつらと説明は続いたのだが、どうも話が流通や素材に脱線しがちでデザインについては全くと言っていい程、出てこないのだ。

ああ、これはダメだわ………。

途中でそう悟った私は、別の策を考え始めた。

そう、やはりデザインが一番分かる、方法は。

「アレしか、無い、よね………?」


そうして二人をチラチラと見つつ、どうその作戦を実行するかを考え始めたのだ。
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