透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

お屋敷創り

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あの、以前の青い廊下の様子を想像しながら、歩いていた。


なにやら一人でブツブツ言っていた鏡をそのままに、食堂へ向かう事、暫く。

「いかん。」

全然食堂に辿り着かない、自分に気が付いてポソリと呟く。

あそこには花台があって、絵もあったし、ここには棚もあった…?
腰壁の煩いけれど素敵な色合いは絶対再現したいしな………。

そんな事をつらつらと考えながら歩いたり、立ち止まったりしていたのだ。
きっと、みんなはこれからの事や千里についての事などを話し合っているに違いない。

「また、お小言いわれるなこれは…。」

まあ、自分の所為なんだけど。

そうして頭を切り替えて、真っ直ぐ食堂へ歩いて行った。




「あれ?」

昨日よりも少しだけ片付いている、食堂。

ハクロ達が片付けてくれたのだろう、隅に追いやられていたガラクタが無くなっている。

昨日一つだったテーブルが二つになっていて、手前に私の食事の準備、奥のテーブルでは。

ウイントフークと気焔、それに何故だか狐に戻った千里が、いた。


「どうしたの?なんで?ていうか、どっちが、本当??」

開口一番そう質問した私に、フワフワと大きな尻尾を振る千里。

うっ。
この姿だと、可愛いな………。

くるりと大きな紫の眼が回り、悪戯っぽい顔をした千里。
丸い椅子に座ったそのちょこんとした姿からは、とてもあの「海賊の親分」的な雰囲気は読み取れない。
どうして。ああなったのだろうか。

うーーむ?

「どちらがかと、言われれば。」

「ん?」

意味ありげに、言葉を切った千里。

、本当ではないね。」

「………。」

聞きたい事は、沢山あるけれど。

多分、千里に言うつもりがない事は分かっている。
あの、悪戯っぽい眼。

また、私の事揶揄ってるな………。


「とりあえず、食べてしまえ。話はそれからだ。」

不満顔の私に本部長から声が掛かる。
隣の金色も頷いているし。
とりあえず、お腹も空いてきた。

それに気が付いて、手前のテーブルに座る事にした。



「シリーは?もう食べた?」

「はい。朝は早いので………。」

「うーん、今日は私がのんびりしちゃったからなぁ。待ってるようだったらいいんだけど、一緒に食べれる時は食べようね?」

「はい。」

クスクスと笑いながら給仕をしてくれるシリーは綺麗なブルーのワンピースがよく似合っている。

昨日、部屋を整えた時に。

クローゼットと共に幾つか服も、創ったのだ。


ふわりとした茶の髪に飴色の瞳のシリーは、どんな色でも似合うと思うけど。
とりあえず、私の好みの色の服を何着か揃えたのだ。
多分、希望は聞いてもまだ分からないかもしれないと、思ったから。

灰色ローブのロウワ達は、基本的に地味な色の服ばかりだ。
灰色か、茶か、それ系統で薄いか濃いか。
その程度の違いだ。

「地味。地味過ぎる。」

普段からそう言っていた私は、ここぞとばかりに明るい色を用意したのだ。


「うんうん、やっぱり。青も似合うね。」

「そうですか?少し、恥ずかしいですけど…。」

「いやいや、すぐ慣れるよ。」

パンを持って来てくれたイリスと並ぶと、二人ともとても可愛い。

「うんうん。」

髪色の一部を取ったのか、黄色の可愛いらしいメイド服を着ているイリス。
二人が厨房へ去って行く後ろ姿を見ていると、「オッサンみたいよ」という朝のツッコミが聞こえてきた。

うん、きっとニヤニヤしていたに違いない。
気を付けなければ。



食事を終えて、飲み物を受け取り奥のテーブルへ向かう。

みんなはもう、千里の事は話し終わった様でなにやら別の話をしている様子の本部長達。

一人、耳だけウイントフークの方へ向けた千里が。
「ここに座りな?」という風に、自分の隣を尻尾で指しているからだ。


その提案を素通りして、金色の隣に座る事にした。

さっき、ちゃんと金髪をわしゃわしゃしておいたけど。
未だ彼の中身が、回復したのかは私には分からなかったからだ。

それに、ウイントフークを挟んで両脇に座っている二人の、こちら側に座るのは。
とても、自然な事の様に感じられるから。

うん、いきなり慣れない人の隣に座らないよね………。
可愛いは、可愛いんだけど。
いやいや、もう騙されないよ………。


なにやら二人は、デヴァイの様子について話している様だ。
「青の家」という単語や、気焔の行動予定等を報告しているのが聞き取れる。

難しい話を聞く気がない私。
そのまま千里と睨めっこをしながら話のタイミングを見ていると、いきなり矛先がこちらへ来た。

「こいつの服はお前に任せる。」

「?こいつ、って………」

「指を指すな、指を。」

だって?
え?
狐で、行くからなってるんじゃ、なくて??

「結局、人になるんですか?」

「そうだな。」

少し考えた本部長は、私にこう説明した。

「俺は常にお前といられる訳じゃないからな。気焔だって、一応は青だ。いざという時はまだしも、ブラッドフォードの手前、ずっと一緒は無理。だからこいつは、俺のまじない人形という事にしておく。それでお前に付けておくから。そういう事だ。」

「………成る程………?」

確かに、まじない人形ならば。

この髪色でも、いいだろうし服だけ決めれば後は多少の不思議な事が起ころうとも。

「ウイントフークのまじない人形」ならば。


「言い訳が立つ、と…。うーむ、流石本部長。」

「何言ってるんだ。兎に角こいつの事に関しては、そういう事だ。後は任せる。」

「はーい…?」

うん?
丸投げ?
結局、なんなの?千里は?

はっきりしない男達、極彩色は呑気に尻尾を、揺らしているけれど。

微妙。
微妙に、納得できない。

でも、仕方がないのも、分かる。


私がぐるぐるしている間に再び何か話していた男達は、気が付くと解散の雰囲気だ。

「では。」

私の山百合にチョイと触れると、席を立ち出て行った気焔。

向かいの、紫の視線が痛い。

くぅっ、自分は出て行くからって………。

まごまごしているとウイントフークも、今日は出かける様だ。

「これを渡しておくが、力の使い過ぎには気を付けろ。よく、見ておいてくれ。」

「分かった。」

どうやら私の見張り役を仰せつかっている千里は、テーブルに置かれた小袋と私を交互に見て微笑んでいる。
いや、ニヤニヤしていると言った方が正しいか。


「夕飯迄には帰る。」

そう言って、出て行ったウイントフーク。

私の目の前には、きっと追加の石と悪戯な笑みを浮かべている狐だけだ。

さて、どうしようか。


「とりあえず、何処を整えればいいのか。聞く所からかな?」

そう思い立って、ハクロを探す事にした。






「フッフッフ。任せなさぁい。」

そう言って、私が仁王立ちしているのはあの初めに着いたホールだ。

ハクロと相談して、整える場所は決めた。

・ホール
・中央廊下
・応接室
・みんなの部屋
・食堂

・ウイントフークの部屋のチェック

最後の、アレは。
本人は嫌がるかもしれないけど。

きっと誰かしら来る事もあるであろう、ウイントフークの書斎。
自室はまだしも、書斎は色々な道具や資料がある筈だ。
きっと、ラガシュやもしかしたらウェストファリア、レシフェなんかも来るかもしれない。

いや、レシフェはには慣れてるか………。


ウイントフークの部屋は後回しにするとしても、できる所まではやっつけておきたいのだ。

うん、時間が余ったら探検してみたいしね………。

私が手を入れるのは、主にあの大きな扉の中とこのホールだけ。
しかし、通路はまだ他にもある。

あの、デヴァイへ繋がる道には行けないとしても。

「あと、六つ。」

そう、ここにはあの小さな扉も含め、あと六つの通路があるのだ。
今、駄目だと言われて我慢したとしても。

「絶対、探検には行くと思うんだよね…うん。」

「何、言ってるんだ?次はここを創るのか?」

「あ、うん、そうそう。」

千里の相槌に慌てて誤魔化して、石を選ぶ。


実はもう、主通路は完成済みだ。

何度も通ったあの廊下のシュミレーションは、ほぼ完璧に近かったと、思う。
私の記憶と、寸分違わぬ、美しい青の廊下が。
きちんと、出来上がったのだ。

そうして後でジュガに聞いてみようと思いつつ、次はホールだと張り切ってやって来た所なのである。


そしてきっと青かったであろう、このホールの真ん中に立っていたら。
ウイントフークが通った筈のあの通路を見て、思考が脱線していたのだ。

いや、見ていなくとも。
脱線するのは、いつもの事だけど。


「さあて、では。やりますか。」

「ああ。」

すっかり男言葉になった千里に、再び違和感を抱きつつも目を閉じた。

やはり、あの狐姿だと。

可愛らしいので、女の子にも見えるのである。


いやいや、あの人あれで大人だから。
海賊だから。


そんな余計な事を考えつつも。

私は「あの人」の中で見たフェアバンクスの青を、緩りと思い描き始めたのだ。

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