透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

千里

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フワフワの感触、温かい布団。

柔らかな温かさに、抱えられて寝るのは気持ちがいい。


もう、朝かなぁ?

今日の、予定は?

あったかい………けど、何かちょっと………。

違う?
匂い?
何だろう、気焔服装でも変えたのかな………。
だと、アラビアンナイトってワケにはいかないもんね………。

ていうか、いつ来たの?
寝てる間?
まあ、いいか………。

一人だと、寂しいもんね…?



「そう、一人は寂しいよね。」


ん?

う…ん?

何だろう、違和感。


一瞬にして強張った身体、何かがおかしいという本能的な感覚。

温かい、布団。
少し違う香りは、お香の様な香りがして。

閉じていた目を、ゆっくりと開けていく。


「?」

目に飛び込んできたのは、紫と金色、茶が混じった複雑な、色で。

しかし、確かに抱えられている私、毛色は千里で匂いは落ち着いた、お寺の様な匂い。
白檀だろうか。

結構この香りは。
好みだ、けれど。


視界から入ってくる情報と私が持っている情報が一致せず、暫くそのまま固まっていた。

そうしてその目に映る毛色が、「毛並み」ではなく「髪の毛」だと、判るまで暫く。


「え?!」

うん?
あれ?

なん、で???

恐る恐る、自分の予想を確かめる。

多分、これは「髪の毛」で。
長い、それは私の目の前、抱えている人の胸の辺りを流れている。

と、いう事は………。

「まさか………?」

少し、私を抱える腕が、揺れた。

気焔よりもがっしりと大きな、胸。
太い腕は、意識すると重い。
そう筋肉質な気はしないが、気焔は割と細い方だから………この人は。

多分、それより大人?なの、かも………?


モゾモゾと腕から抜け出し、「その人」を確認すると。

紫に入った金髪と茶色の髪、メッシュの様に赤と灰、銀色に見える毛も混じった見覚えのある髪色。

大きな身体はやはり、大人の男の人だ。
年の頃は多分、30前後だろうか。

男の人の年齢なんて、分かんないけど。
気焔は「青年」のイメージだから。
この人は「大人」に、見えるんだ。


全体を把握した私の驚きと無意識に伸びる山百合への手、思わず漏れた「嘘でしょ……」の言葉と不敵に微笑む、その紫の瞳。

「まさか…………」
「その、まさか」

「どうした…」

パッと現れた気焔に抱えられベッドから下ろされた、私。

天蓋付きのベッドに悠々と寝そべる、その人は。

「星空のベッドに似合うな」と、つい思ってしまうくらいには、美しい色で。


「いい加減にしろ。」

「だって、そのほうが都合がいい事も、多いだろう?」

「………やっぱり、千里だ。」

私を見て、ゆっくりと微笑む、その人は。


え?
てか、あの狐は??
なに?どこ行ったの??
仮の姿?
どっちが、「本当」?



ひたすらぐるぐるしている私、何も言わずに千里を睨んだままの気焔、当の本人は未だ悠々とベッドで寛いで、いる。

て、言うか。

なんだろうか、この、オーラは。


千里は、年の頃は青年を通り越した、大人なのだけれど。
可愛らしかったあの姿は何処へ、今はまるで海賊の親分みたいな、雰囲気で。

フワリとした極彩色の髪色はそのまま、長く垂れている癖毛はフワリとシーツに伸びている。
がっしりと大きな身体はグロッシュラーでのシンと同じくらいだろうか。
ガタイの良さは、クテシフォンに近いかもしれないけれど。

余裕の表情は狐の時よりも細くなった瞳が、印象的な浅黒い顔。

どこか悪戯っぽさが残る精巧な顔立ちは、親しみの持てる私の見慣れた顔立ちで。
日本人に、近いのだと思う。

そんな事を考えながらも、暫くその極彩色から目が離せなかった。




「て、いうか。どっちが、の千里?」

千里を観察している間に、私の中で纏った考えは「この二人は知り合い」という事だ。

昨日の、気焔の態度。
今も、そこまで警戒していないこの様子。

そして未だ、何も言わない事。

きっと、気焔が言わない事は。
「今必要のない事」か「私にとって危険ではない事」、「巻き込みたくない事」のどれかで。

多分、今彼に訊いても。

答えが返ってこない事は、分かっているからだ。

それなら。
千里に、訊いた方がいい。


て、いうか本当この子は何なんだろうな?
でも一緒に寝てて「嫌な感じ」は、無いんだけど。

思ったより、馴染む?いや?
まあ、でも。
と、比べちゃったら駄目だけど。



「……………なんだ。」

無意識に、金色を凝視していたらしい。

いつもなら、見つめ返されて私が観念するところだけど。
今は、そんな場面では無い様だ。

くるりと振り返って、楽しそうに私達を見ている千里に視線を戻した。

「で、どうなの?千里はスピリットじゃないとは、言ってたけど………。」

確か「何処かから来て、住み着いた」って。
言ってた、よね?


起き上がり、ベッドに座っているその毛並みは、やはり見惚れるくらいは見事な色で。

思わず触りに行こうと踏み出した私を、ぐっと戻す金色の腕。
その、いつもの感触が久しぶりに感じて、ホッと息を吐いた。


「私は、君を守る為に、ここにいる。あの姿のが、楽だけれどあのままでは外には出れないからね。」

丁寧なその口調と声があの姿のままなので、違和感がある。
見た目クテシフォン、話し方イストリアといった感じか。

これは後で何とかしないといけないかも………?
いや、まさか女の人じゃないよね?
流石に違うか………?

そんな事を考えている私を知ってか、座り方を変え、再び気焔を見ている千里。


やっぱり?
知り合い、だよね?
て、いうか目で会話してない?この二人…。

千里はずっと、余裕の表情でニコニコしているけれど。

私を抱えたままの金色の微妙な空気の変化が、判る。
流石に、これだけ近いと。
私の中に残る、金色が彼に同調しているのだ。


ふむふむ。
とりあえず、そう、仕方無い、みたいね………?

チラリと金髪を見上げるけれど。
あまり顔には出ていないその表情からは、何も読めない。

しかし、千里が「この姿でここにいる」事には。

反対ができない、そんな感じなのだ。


私は気焔が、それでいいなら、いいんだけど。

良くなさそうな気配も感じて、話す必要がある事が分かる。
話してくれるか、分からないし解決する様な問題でも、無さそうなんだけど。

とりあえず。


「ねぇ、とりあえず千里はこの姿、人に見られてもいいって事だよね?」

「まあ、人前に出る為にしているからな?」

あ、言葉遣いが変わってる。

やはり、読まれている気が、するけれど。
とりあえずは、こっちだ。

「それなら、ウイントフークさんの所とか、シリーに会ってきて?あ、最初にウイントフークさんの所ね?ちゃんと?うーん、どうやって説明するんだろ………とりあえず、本部長がなんとかするでしょう、うん。」

「………分かった。それなら、。」

「うん、ごめんね…。」


あの、含みのあるセリフ………。
絶対、気焔に言ってるよね?


くるりと向き直って、金の瞳を確認するけれど。

複雑な、色はそのままでしかし、少しの安堵の色も、見えて。


うーん、どうだ、ろうか。

そう、思いつつも。

とりあえずは、解いた腕をベッドに引っ張って行き「ポスン」と。

座らせて、みたのだった。

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