透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

これからのこと

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「えっ?じゃあウイントフークさんの事は、ベオ様のお父さんがチョロまかしてくれたって事ですか?」

「お前、チョロまかすって何だ。」

「うん?「誤魔化した」?「隠蔽した」?」

「…………まあ、いい。とりあえず、だからあまり余計な事は言うな。ボロが出るとしたら、お前からだからな。」

「………。はぁい。」

多少文句も言いたいところだが、否定できないのが辛いところだ。


結局、私達の事についてはイストリアが殆ど根回ししてくれていた様で。

いや、そもそもあの人自体が出奔してるんだもんね………。

そう、イストリアはここからウィールに行き、その後飛び出してラピスへ行って、結婚、ウイントフークが生まれて。

その後はシャットに戻ったり、やはりデヴァイには居られなくてグロッシュラーに行って。
あの、空間へ住み着いた、と。
確か、大体そんな感じだった気がする。

何故、ラピスへ戻らなかったのか。

それは、ウイントフークははっきりとは言わなかったけれど。
どうやらイストリアは、白の家でもかなりいい所のお嬢様だったらしい。
ラピスへ戻ると、情報は中央屋敷へ集まる。
それに、ウイントフークが「イストリア」と言う人の子供だという事は、知っている人は知っているのだそうだ。
何れ、足が付くと思ったのだろう。

きっと白の家のしがらみへ巻き込みたくなかったイストリアは、自分がまじない空間へ籠る事を選んだのだ。

うん、でもあの人の場合は。
殆ど、半分趣味だとも、思うけれど。


ベオグラードの父が、手を回したのかは分からない。
けれども、ウイントフークをフェアバンクスが後継に指名して、それを、後押しするくらいには。
どうやら、イストリアに弱いらしいのだ。

何か弱味でも握られてるのかな………。


「なにしろ、ここ暫くは表立って向こうに出る予定は無い。俺は少し出掛けるとは思うが、お前は家で好きにしていろ?基本的にここには、誰も来ないからな。」

「まだ誰も知らないって事ですよね?」

「まあ、そうだが徐々には知れるだろう。俺も仕事を始めるしな?しかし基本的に訪ねて来る者はいない筈だ。連中からすれば、「ここ」の方が穢れているだろうからな。」

「ええ~。」

逆じゃない?

そう、思ったけれど。

でも、誰も来ないならばその方が都合はいいのだ。
突然、誰かに訪ねて来られても。
困るのは、私なのだ。


「とりあえず私は、ここから出なきゃあの辺は自由にしていいって事ですよね?あの、模様が違う通路に行かなければいいんですよね?」

「うん?そうだが………。言ったか、あそこがデヴァイへの通路だって。」

ウイントフークが怪しげな目で私を見ている。
その言葉で思い出したが、多分私がを知っているのは。

「あの人」の中に、入っていたからだ。

そう考えると、気になってきた事がある。

「ウイントフークさん、あの。ホールの所にある、ここ以外の扉って。何処に繋がってるか、分かりますか?」

顎に手を当て考えているウイントフークは、何故私がその質問をするのか。
それも、怪しんでいるに、違いない。

「いいや。しかし、あそこは。「開かずの間」だと聞いている。」

「え。」

やば。

完全にロックオンされた私は、茶の瞳からどうやって逃れるか頭の中を総動員していた。

が、しかし。

そう、私の頭の中を全部使っても。
ウイントフークに勝てるとは、思えない。

いやいや、別にやましい事は無いのよ、無いの。
でも、なんとなく………。

下を向いていた顔を、チラリと上げる。

「うっ。」

何も言わないところが、逆に怖い。

「さあ、話せ」と、目が。
無言で、圧をかけているのだ。


仕方無い。
うん?仕方無いのかな??
でも、ウイントフークさん、もう家族だし隠し通せないよね?

というか、絶対に。
ボロが出る気がするし、なんなら彼の助けが必要な事にも、なりかねない。

きっとあそこは。

まじないの、扉なのだろうから。


「うーん?私の所為じゃ、無いんですけど。」

少しの抵抗を試みるも、冷たい視線にあしらわれとりあえず続きを話し始めた。



「多分、ジュガが私に部屋を見せてくれようとして。そしたら、誰かの中に居たんです。それで、その人があの扉の中に入って行って。あの中は洞窟みたいな場所でした。で、男の子がいて「黒い石」とか言ってて、それで帰ってきたんですけど………」


黙って見てられると、怖いんですけど…。

頷くでもなく、じっと私の様子を見ているウイントフークは何を考えているのだろうか。

しかし、整理されていない私の話が更にしどろもどろになってくると、溜息を吐き、口を開いた。

「それはお前の部屋の、主だって事だな?」

「多分。」

「「黒い石」、と言った。」

「そうですね?」

「洞窟?岩だったか?土?」

「どちらかと言えば、「岩」かな……?」

「そうか。」

え。

なに?
心当たり、あるの??


それっきり、黙り込んで何かを考え出したウイントフーク。

こうなればもう放っておいた方がいいだろう。


見慣れた様子を確認すると、シリーに合図して片付けを始め、今日はみんな休む様に言う。

「シリーの部屋は大丈夫だった?」

「はい。基本的な物は揃えてもらっています。」

「えぇ~。「基本的な物」?ウイントフークさんの??ちょっと、見に行こうか。」

「だ、大丈夫ですよ。」

怪しい………。

「みんなは?大丈夫?」

「はい、私達は。元からが、家ですから。」

「うん、とりあえずそれなら。また後で部屋を創るね。とりあえず今日はシリーだよ。」

「大丈夫です………。」

シリーはそう、言っているけれど。


粗方片付けを終えた私は、まだ遠慮しているシリーをズリズリと連れて部屋へ行く事にした。

だって、あの、ウイントフークが。

女の子の部屋に、用意する物なんて。
知っているとは、思えない。

下手すりゃ、ベッドだけとか………。
いやいや、箪笥くらいはあるか?
それもどうなの………。


そうして鼻息も荒く、シリーの部屋に向かったのだった。






「………ん、………あれ?」

見慣れた、金の刺繍、星の様なドレープと夜空。

あれ?
外かな?

いや、でもフカフカしてるしな………。
でも私の部屋じゃない。こんな、夜空じゃないし………?


「ああ、あの部屋か………。」

うん?

記憶を、手繰り寄せる。

確かシリーの部屋に行って。

やっぱり、ベッドと机しか無くて洗面室とクローゼットとか色々創って、疲れて帰って来て?

ベッドに、転がってたんだっけ??


ぼんやりと見える天蓋の房が、星ではないと判別できてきて。

視界の隅に、赤紫と茶金が映っているのが、分かる。

「千里…?」

首を動かすのも面倒で、「そうであろう」名を、呼ぶけれど。

動かないその極彩色のフワフワは、その毛を揺らしながらこう、言った。

「今日はもう寝た方がいい。」

うーん?
そうか、お風呂に入りたかったんだけど………。

まあ。

無理か………。


首だって動かしたくないのだ。
どう考えても、無理だろう。

素直にその言葉に従う事にして、ゆっくりと目を閉じる。

フワリと、布団を掛けられた感覚。


今、思えば。

あの、小さな狐みたいな体で「どうやって布団を掛けたのか」そう、思うのだけど。

眠過ぎて頭が働いていない私は「ありがとう」とだけ、言って。


そのまま、フワフワの感触を味わいながら眠りに落ちて、いったのだ。

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