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8の扉 デヴァイ
そのままの食堂
しおりを挟む結局、あの洞窟の様な場所は。
何だったのだろうか。
まだ朽ちたままの廊下を歩きつつ、つらつらと考えていた。
「お前、洗面室も創ったんだろう?」
「いいえ、明日にして下さい?私も、そっちを見に行きますけど?ちゃんと、部屋にしました?」
「まぁな。」
怪しい………。
私の方を見ずに歩くウイントフークを見つつ、廊下の様子もチラチラと確認していた。
あの、「誰か」の中で。
実は、私の部屋よりも廊下の方がよく見えていたからだ。
ぶっちゃけこっちのが、リアルに再現できそう………。
そう、思いつつも水色の髪について行った。
食事をする部屋は、この廊下の始まり近くに位置していた。
ホールに繋がる大きな扉が見えて、「ここから出るのかな?」と思ったのも束の間、右側の扉を開けたウイントフーク。
「わ、ぁ………。」
開けた瞬間、いい匂いがして期待が高まる。
しかし、部屋は「そのまま」だった。
ただ、美味しそうな食事が。
辛うじて残っていたであろうテーブルに、並んでいたけれど。
「明日からは、ぼちぼち他の部屋も頼む。俺は特にこのままでもいいんだがな?しかし、誰も来ない訳でもない。ブラッドフォードでなくても、ラガシュや、あとお前の友達も。来るんじゃないのか?」
「友達………。」
「こっちに帰ってくるだろう?」
「ああ、そうか!そうですよね!じゃあそれ迄にはなんとかしないと………。」
ぶつぶつ言い始めた私に構わず、ハクロに何やら指示をし始めたウイントフーク。
そう、友達とはパミールやガリア、トリルの事だろう。
確かに「お客様」ならば、応接室でも創っておけば安心だろうけど。
「友達」ならば。
勿論、私の部屋やお泊り?うーん、それもいい。
ご飯だって一緒に食べたいし?
あの、美しい礼拝室でまったり寛ぐのも、いいかも。
いや、眩しいかな………。
「フフフ………それなら張り切って創らないとですね…。」
「ん?ああ。俺も手伝ってもいいんだが………。」
「あ、はい。気持ちだけ頂いておきます。」
いつの間にかデザート代わりのアイプを食べているウイントフークは、「ほらな」と言う顔をして肩をすくめている。
いや、この人に任せておいたならば。
全くもって、このお屋敷に合わない部屋が出来上がるに違いないからだ。
そうして白いお皿のスープを啜りながら、今日のメニューを改めて、見る。
少ない種類の野菜サラダ、スープは具なしである。
パンは、美味しい。
そしてウイントフークが食べているアイプが、私の分も運ばれてきて。
ハクロとマシロが給仕をしていて、奥の部屋に人の気配がする。
もしかして、リトリが作っているのだろうか。
イリスが料理をしている姿は。
想像、できないのだけれど。
いや、それは失礼かもしれない。
うん。
しかし、途中でマシロに確認すると料理はやはりシリーとリトリ、マシロで作ったのだと言う。
成る程、シリーに訊いて作ったなら。
スピリット達の、この慣れた味も頷ける。
材料は多分、イストリア経由だろう。
殆ど、あそこに滞在していた時と食材は変わっていない。
ちょっと、品数は少ないけれど。
「て、言うか。贅沢はどこですか、贅沢は?まあ、でもここは。ずっと誰も居なかったから、こうなんでしょうけど。」
私の言葉を聞いたウイントフークは、チラリと茶の瞳を向けると再び手元に視線を戻した。
さっきから、手元を見ているけれど。
何か、手に持っているのだろうか。
「なんだ、別に贅沢がしたい訳じゃないだろう。」
「まあ、そうですけど。折角ここまで来たなら、片鱗くらいは味わいたかったと言うか………。」
「まあ、まだ暫くはこの生活だろうな?もう少し経って屋敷も完成して、お前もここに慣れたら。嫌でも、外であっちの生活になるんだ。今のうちにこの質素さを満喫しておくんだな。」
「え?」
また?
イマイチ意味が分からないんですけど??
溜息を吐いたウイントフークは、手のひらにあったものをテーブルにコロリと転がした。
私の、石だ。
「ここが、調ったら。ブラッドフォードとの披露目があるだろう。うちに招待する気は無いが、あっちには行かなくてはならない。向こうでは、贅沢三昧だぞ?胃の調子がおかしくならない様に何か調合しておいた方がいいかもな………。」
ん?
んん?
「俺は今のうちに仕事の算段を付ける。」
「ん?ウイントフークさんの、仕事?」
「そうだ。ここではどの家も、「家業」と言うか流通の分野を持っている。独自で手を入れている家もあれば、流通だけをやっている家もある。「ウチ」は。まあ、相変わらずまじない屋だけどな。」
「また、まじない道具をやるんですか?」
ウイントフークはラピスでも石とまじない道具専門だった。
そういえば。
デヴァイでも、何やら道具で有名だったとかなんとか、言っていた様な気がするな?
「簡単に説明すると、昔はデヴァイでもスピリット達にこうして色々手伝ってもらっていたらしい。しかし、まじないが落ち、「気が悪く」なってくると。」
「居なくなっちゃった?」
「そうだ。だから、こいつらはここに集まってはいるが、向こうにはいない。その代わりに、まじないと石を動力とした人形がいるんだ。昔は俺より優れた研究者が沢山いたからな。そんなモノも造れた。ほぼ、見た目は人と変わらない「まじない人形」が。それが、使用人を担っている訳だ。」
「だが、それももうガタが来ていてな。核になる石の力が弱まったりして、壊れる事が多い。以前から頼まれてはいたんだが、今回生業とするには丁度よく稼げるって事だ。どの、家にも。あれは、不可欠だからな。」
「ふぅむ?」
神の、一族の。
世話をするのは、誰なのか。
どっかでチラッと、思った様な………?
「私、あの人達のところにはロウワがいるんだと思ってました。」
確か、地階で。
そんな事を、思った気がする。
あの、シリーの恐ろしい、話を聞いた時に。
それを聞いて頷くウイントフーク。
やはり、昔はそうだったらしい。
「しかし、どこの家だかが「ロウワを入れると穢れる」と言い出して、そこから人数がぐっと減った。いない訳じゃ無いが、少ないな。きっと各家に数人、いるかいないか程度だろう。」
「………いつ聞いても。嫌なセリフですね。」
「お前、少しはポーカーフェイスも身に付けろよ?特に爺さん連中は。お前の顔を、知っている者も多いだろう。」
「ん?あれ?」
そう、言えば。
私の「そっくり」の件は、どうなったんだっけ??
「まだ、考え中だ。「あの絵」は。常時、見える様にしてしている訳じゃ無いらしいが。まあ、古参連中は、見た事があると思っていていいだろうな。」
私の顔を読んだウイントフークは、そう言って。
面倒くさそうに、手を振りお皿を下げる様に指示している。
この人、ここにいた事、あるんだっけ?
そう言えば。
堂に入った、主振りを見せているウイントフークは確かデヴァイに滞在していた事がある筈だ。
その時は。
どういった、立ち位置だったのだろうか。
「ウイントフークさんって?白の、家って事になってたんですか?そこでまじない道具を?」
「話すと長いんだが。」
面倒くさそうだけど。
「いや、そこは説明して下さいよ。これから、私達の事とか、ウイントフークさんの事とか。訊かれる可能性も無いとは言い切れないですよね?」
「まあ。そうだな………。」
いや、観念して下さいよ………。
そうこうしているうちに、空になった食器は下げられシリーがお茶を持ってきてきてくれる。
「あれ?シリーは食べた?」
「はい。」
「ホントに~?ちゃんと食べた?ウイントフークさん、スピリット達はご飯、食べますか?」
「いや?多分、お前が撒き散らしているアレから。採ってるんだろうな。」
「ちょ、撒き散らしてるって…人聞きが悪いな…。じゃあ明日からは一緒に食べよう!」
「いえ、私は………」
「いいですよね?ウイントフークさん?」
「構わない。」
「ほら!はい、決まり。」
シリーはなんだか、まだまごまごしているけれど。
だって、三人しかいないんだから。
寂しいじゃん。
みんなで食べた方が?美味しいし??
そうしてやっと頷いたシリーが、片付けの為に厨房に戻ると。
「さて。じゃあ、お願いします。」
そう言って、嫌な目をしているウイントフークをガッチリと捕らえたのだ。
うむ。
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