透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

私の部屋 3

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騒めく人々の声。

忙しそうに立ち働く、使用人達の姿が見えてきた。


どうやらここは、最初に着いたホールの様だ。
やはり青い、美しい装飾が為されているこの空間に少しの懐かしさを覚える。

辺りを見渡したいのだけれど、首が動かない。
と、思ったら。

いきなり自分が歩き出して、一つの大きな扉へ入った。
あの、廊下を歩いている。

しかし、荒れても朽ちてもない豪華な廊下。
中央屋敷を思わせる「青」がふんだんに使われた、美しい廊下は青と生成りで明るく調えられている。

腰壁から下は縞がお洒落な壁紙。
かと思えば、交互に違う色の木が並べられているデザインだ。

花置き台や花瓶、造り付けの棚、まじないのランプ。
どれもが美しく、精巧な彫刻、青を基調に塗られた色が其々調和していて。
もっとじっくり、見たいと思うのだけれど脚は止まらない。

どうやら、誰かの視点でものを見ている様なのだ。

しかし、「誰か」は分からなくても。

「どこ」へ向かっているのかは、解っていた。
だっては、私が「あの部屋」を調える為に。

見ている、ものの筈だからだ。



そのまま真っ直ぐ廊下を進み、正面の礼拝室が見えて来ると右側の扉を開いた。

部屋の中は、チラリと見ただけだ。

ちょ、もっと見ないと分かんないけど………?

そう思いつつも、足は洗面室へ向かっている。


わ、これは…………。

「バタン」と勢いよく、扉を開けて中へ入る。

その、中は。

雰囲気こそ違うが、やはり森の中を模した部屋になっている洗面室だ。
真ん中のバスタブに向かい、お湯を張る為に蛇口を捻る。

チラリと奥に意識を向けると。
どう、見てもここでは「絵」でしかない、森があって。

あっれ?私、やり過ぎてる………?

そう、思わなくもなかったが。

いや、もう仕方無いし、あの方が。

いい、よね………?


そう、考えているうちに洗面室を出てまた部屋へ戻る。
「これでゆっくり見れる」と思った私の安堵も束の間、再び足早に部屋を出た視点は廊下を戻り始めた。


えーー?
あんまり見れなかったけど??
どこ、行くの??

ジュガ~。どうなってるの………?

この前、この中にいた時は。
私は、私のままで、場面だけが変わって。
自由に動けたと言うか、そう考えると「動いて」はいなかったかもしれない。

もしかしたら。
「誰か」の視点の中でなければ、動けないのだろうか。

まあ、そう都合良くはいかないのかもね………。


そう思いながら、とりあえず成り行きを見守る事にした。





美しくなっている廊下を戻ると、再び先程のホールに出る。

ぐるりと回る、視点。

やはりここでも扉は二つしかないのが分かる。
今、私が通った扉よりも小さな扉が、一つ。

しかし、小さいとは言っても普通の大きさだ。
もう一つの扉はきっと、この場所のメインであろうあの廊下への扉だから、大きいのだろう。

あとはそれぞれ、アーチ型になった通路が何処かへ続いている様だ。
一つだけ、施された装飾が違う通路があってそれが何なのか私は知っている気がした。

行った事はないけれど。

多分、私が「入っている」この人が。

知っているに、違いない。


それは多分、このデヴァイへ繋がる通路の筈だ。

ウイントフークは「暫く誰も住まないから外れている」と、言っていたけれど。

この時点でも、既に離れてたって、こと………?


でも、もしかしたら他の家の屋敷でもこの様な造りなのかもしれない。
その件については、機会があれば調べよう。


そうこうしているうちに、少し立ち止まっていた足はもう一つの扉へ向かっていた。

少し、ホールで行くかどうか、悩んでいた様な感じだ。

しかし、今真っ直ぐ進む足取りに、迷いは見えない。
そのまま扉の前に立つと、辺りを見回し確認する。

もしかして、こっそり行きたいのかな………?

そうして、誰もいなくなった事を確認すると。

「  」

何かをポソリと呟いて、その扉を開け滑り込んだのだ。





うーーん、暗い。


コツコツと響く靴音、明らかに変わった空気。

しかし何故だか慣れ親しんだ空気の様な気もして、不思議な感覚だ。

多分、少し湿気があるのではないだろうか。


その、扉の向こうは暗い洞窟の様な感じだった。

いや、殆ど見えないこの場所で私が分かる事と言えば。

少しの湿った空気、硬い地面、どうやら外っぽい?事は間違いない。
だって少し。

風が、あるからだ。


真っ暗ではない理由はこの人が持っていた小さなまじないランプだ。

きっとここへ来るのにバレない様に、小さなものにしたのだろうがお陰であまり、周りは見えない。
岩肌の様な壁と、なんとなく、地面が見えるだけ。

しかし、道が狭くなると本当にが岩肌なのが、判った。

岩と言うか、土と言うか。

なにしろ、あのお屋敷から。

繋がっている様な場所とは、とても思えない。


まじない空間………?

そう思いつつも、とりあえずは成り行きを見守っていた。




時折響いてくる金属音、遠くの人の声。

しかし、それに近づく事は無くそのまま迷路の様な道を進む。

すると、小さな人影が見えた気がした。
ランプの影が。
フワリと揺れたからだ。


その、揺れた方向に向かい再び歩き始めた足は、を探しているのだろうか。

て、いうか。

人なのかな?動物?
でもそれにしては、大きかったけど………。


「…………だよな。………かない。」

声が聞こえる。

子供だ。

そして、その声の方へ進む足。
徐々に足場は悪くなっていて、石が沢山落ちている様な、歩き辛い場所になっている。

しかし、慣れているのかそう躊躇する事なく進む足取りは軽く、やはりあの部屋の主なのだろうと、思う。

多分、この子も。
子供なのだろう。

幾つくらいなのか、それは分からないが身体が軽いし、足取りも。
ぴょんぴょんと跳ねる様に、進んで行くからだ。


そうして声が聞こえる場所を、見つけた。

多分、ここだ。


「………無理か。いや、いける。」
「だよな。………もっと…………」

話し声に聞こえたので、耳をそば立ててみるがどうやら独り言の様だ。

それは、大きな、穴だった。

いや、大きいとは言っても。
子供が入れるかどうか、くらいの大きさの穴だ。
きっとこの、穴の中で子供が独り言を言っているに違いないのだけど。


「ねえ。」

いきなり自分が穴に向かって話し掛けたので、びっくりしてしまった。

覗き込む様に屈んだかと思うと、そのまま穴の中に向かって話し掛けているのだ。

「大丈夫?」

穴の中の、独り言はピタリと止んでいて。

その中に向かって、構わず話し掛けている、私の外側の、人。
中にいる子供は。
知り合い、なのだろうか。


てか、ホントここ、どこ??
なんでデヴァイから、こんな洞窟みたいな場所に繋がってる訳?

暫く、返事は無かった。

私がぐるぐるし始めると同時に、ガサガサと何かが擦れる様な音が聞こえて来る。

多分。
この、中の子供が動いてるんだと思うけど。


少しずつ、気配が近づいて来る。

手に持っている小さなランプを翳し、穴の入り口を照らして待っていた。



徐々に見えてくる、赤茶のフワフワしたものが髪の毛だと認識できる頃には、ボロボロの服と子供の手足も見えてきた。

ゆっくりと、こちらを窺う様に這い出てきた、その子供は。


なんっか、見た事あるな………。

茶の、瞳を丸くしてこちらを見ているその男の子は幽霊でも見る様な顔をしている。

私も自分の姿を確認したかったけれど。
青っぽい服を着ているのは分かるが、流石に鏡を見ていないので分からない。

でも、幽霊じゃないのは、確かだけど。


「………本当にいるんだな…。」

えっ?何が?

その、男の子が私に向かってそう、言うと。

「もっと奥に、あなたの石が、あるわ。」

そう、言った私の、口。

なんだか、よく分からないけれど。

なに?
石の、案内人か何かなの??


その男の子は未だ少し怯えた様子はあるが、コクリと頷くと再び穴の中に消えて行った。

それを見て、もう一度穴の中を確認すると「黒よ。」、通る声でそう一言だけ言って。
踵を返して、再び来た道を戻っているのが判る。


そうして再び、あのホールへ出る扉を開けて辺りに人がいない事を確認すると、スルリと外へ出てそっと扉を閉めた。

そして、あの大きな扉を開けて部屋へ戻ると。

真っ直ぐに、ベッドにゴロリと横になったのだ。


えー………。
上しか、見えないんだけど…。

結局、なんとなく青い部屋、女の子らしい装飾の天蓋付きベッドから下がる豪華な房飾り、美しい金の刺繍のドレープ。
そのくらいしか、細部は観察できなくて。

視界の端に映っていた、箪笥や廊下の花台などを思い出していると視界がぼんやりしてきたのが、分かる。


ああ、終わりなんだ………。

てか、結局。
「あそこ」、関係あるの??

そう、思いつつも。

ぼんやりと薄れてゆく、刺繍を留めようと最後の足掻きをしていたのだった。





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