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8の扉 デヴァイ
私の部屋 2
しおりを挟む「イタっ、うん?あれ?」
木は?
強かにおでこをぶつけた私は、混乱していた。
浴室の奥、森の様な木々の奥へ足を踏み入れた、つもりだった。
しかし、おでこをぶつけて唸っている始末。
一体、結局、どうなっているのだろうか。
「朝?」
「はーい。」
足元へトコトコと歩いて来た朝は、楽しそうに私を見ていてきっと「こうなる」事が分かっていたに違いない。
「酷くない?」
「いや、だって。流石に、「森」じゃないでしょう。」
「まぁね。」
どうやらこれは、まじないで。
「森に見える」、壁紙か何かなのだろう。
目の前をまじまじと見る。
深く、奥まで続いている木々はどう見ても、森の中で。
今は薄暗い木立だが、枝葉のシルエットが美しく怖い感じはない。
道などは無く、ただ、木々が並ぶ静かな空間だ。
遠く、見える何処からか差し込む光が。
この木立を怖ろしく幻想的に見せて、誘い込まれる様な感覚に陥ってしまう。
「それにしても。凄くない?全然、分からない。」
「確かにね。でも、私は判ったけどね?」
「ふーん。狡いなぁ。」
きっと動物なら、判るのだろう。
腕組みをして朝をチロリと見るけれど、尻尾を振り入り口の方へ行ってしまった。
他もチェックしに行ったに違いない。
「ふぅん?予想以上だね。」
「あっ?えっ?え??」
入れ替わりに、背後から来た千里が私の足元をすり抜けて行く。
そして。
その、私がおでこをぶつけた壁紙の森へ入って行ったのだ。
「えー?!?」
そうして木々の間を縫って行くと。
一度だけ、くるりと振り向きキラリと紫の眼を光らせて。
木立の中へ消えてしまったのだ。
「……………何コレ。大丈夫なの?」
呆然と立ちすくしていると、朝が戻って来てこう、言った。
「大丈夫よ。それより。あっちも、凄いわよ?」
「えっ?ホント?!」
朝は何か気が付いているのだろうか。
それも、気になったけれど。
そう、新しい洗面室の誘惑には勝てなかったのである。
ま、後で聞けるでしょう。
木々の間に極彩色は、もう見えない。
仕方ないよね?
そう思って、ウキウキと踵を返した。
少し戻って、入り口近く。
この洗面室は意外と広い。
半分以上お風呂スペースだが、それがまたこの森の雰囲気をよく醸し出していて、ここから見るととても素敵に見える。
さっきよりも少し明るくなった気がする木々の緑が、爽やかな空間を演出していてあのバスタブに入りたくなってきてしまう。
「いかん。」
まだ、部屋だって整えていない。
振り返るのを止めて、洗面台を見る事にした。
どう、見ても。
まじないっぽい鏡が、そこにあったからだ。
横に広がる、楕円の大きな鏡。
この、森の洗面台にピッタリな深い青の額縁の様な、美しい石に囲まれた鏡だ。
うん?
これ、あのお風呂もそうだけど石なのかな??
あの、小さい石から?
この、鏡とかお風呂が?できちゃったって、こと??
振り返ってみても。
美しい、バスタブは静かにそこに鎮座していて。
深く、落ち着いた光の森の中、白く光るバスタブ。
ものっ凄く、気持ち良く入れそうだけど。
「不思議。」
そう、まるで絵本の中の様な空間なのである。
「まあ、でも今更か。」
「なぁに言ってんのよ?とりあえず、あっちも素敵よ?」
「うん?トイレ?」
朝が戻って来たのは向こう側の扉からだ。
少し開いている、その小さな部屋はきっとトイレに違いない。
もう一度、チラリと鏡と洗面台を見るとそのまま向こうも探検する事にした。
軽くチェックだけしてもう、部屋を整えた方がいいだろう。
そうしてもう一つの扉へ向かうと、チェックをして部屋を整える事にした。
「さて。」
トイレも勿論、素敵だった。
落ち着いた深い緑の色合い、ずっと篭れそうな不思議な感覚。
いや、その説明はとりあえずいいだろう。
とりあえず、部屋だ。
荒れた部屋に戻ると、朝がぐるりとチェックをしているのが見える。
部屋にあるのは、ベッド、机、箪笥のみ。
しかも、どれも壊れたものだ。
どう、しようか。
きっと、石を使ったならば。
「元に戻す」事は、可能なのだろうけど。
「うーん、新しくするのもいいけど、古い部屋を再現するのにも惹かれるよね…。まあ、思ったものしかできないから、そのまんまにはならないんだろうけど。」
灰青の館の部屋は、特に古くも新しくもなく、質素過ぎず豪華過ぎない中程度の調度だったと思う。
中央屋敷に比べたら。
質素だったと、言ってもいいだろう。
「まあ豪華さは求めてないんだけど、ここまで来たら…。」
この、「搾取」「贅沢」「神の一族」の。
片鱗くらいは、見たいものだ。
正直、まだ廃墟みたいな場所しか、見ていないのだから。
「じゃあ、「再現」かな?」
「珍しいじゃない?好きに創らないの?」
私の独り言に朝が戻って来る。
確かにこの、何もない部屋なら好き放題できる。
いつもの、私なら。
きっと迷わず、好きな部屋にしたのだろうけど。
「うーん、なんでだろうな…多分、ここの。調度がどのくらいのアンティーク加減なのか、見たいかも?」
「ああ、それもあるわね?」
私の古いもの好きをよく知っている朝は納得した様で、そのまま壊れたベットに飛び乗り変化を見守る様だ。
さて。
何から、手を付けようか。
その時、「キィ」と入り口の扉が揺れて。
小さな影が、部屋へ滑り込んだ。
「あれ?ジュガ?」
何故だか真っ直ぐ洗面室へ向かった小さな影は、そのまま暫く戻って来なかった。
「えっ。大丈夫かな?まさか、千里を追いかけてったとか…?」
「大丈夫じゃない?だって、あの子が「主」なんでしょう?」
「いや、主じゃなくて、主だよ。でもややこしくなるから名前で呼んでよ?」
しかし、そうしているうちに再びひょっこり、顔を出したジュガ。
洗面室からこちらを覗いているが、部屋の様子を見に来たのだろうか。
「どうしたの?大丈夫?」
蹲み込んで、手を伸ばす。
私の側まで来て、立ち止まったジュガはそのままクリっとした、その茶の瞳で私を見つめていて。
うん………?
なんだ、ろうな?
彼の意図を読み取ろうと、私もじっと見つめ返す。
洗面室、私の目、洗面室、私の目。
その、ジュガの瞳の、動き。
えっと、あっちに行こうってこと?
うん?違う?
なら、アレが気に入った?
ああ、そうなの、良かった。
お風呂、使ってもいいよ?
あ、それはいいのね。うんまぁ、そうか。
それが?
ここ?ここが………あっちみたく?する?
違う。
えー、何だろうな?
ジュガの瞳と、無言で会話をする。
何が言いたいのかは分からないが、私の考えている事に首を振って返事はしてくれるのだ。
でも、何か言いたい事があるかやりたい事があるから、ここへ来たって事だよね?
それなら?
「もしかして?この、部屋………。」
そうだ。
私は、この部屋を。
「再現」しようとして、いる。
ジュガは「一番古い」スピリットだ。
それならきっと。
「知っている」、筈なんだ。
「ありが、とう?」
ここへ来たのは。
偶然か、「そうしよう」「そうしたい」と思って、来たのか。
分からないけど。
「それなら、力を借してくれる?」
そう言って、手を、伸ばした。
そうして近づいて、私の手をそっと両手で取ったジュガ。
その瞬間。
再び、私はあの空間へ旅立つ事に、なったのだ。
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