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8の扉 デヴァイ

スピリットと部屋作り

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「だいじょぶ」

そう、可愛く言われたのだけど。



うーん?
また、ここ、どこ??


私は、青い部屋にいた。

それも、何となく見覚えのある、部屋だ。


うーん?
どこ?何処で、見た??

こんな豪華な部屋、見たら忘れないと思うんだけど?
この壁紙の紋様、腰壁の感じ、調度品の精巧さとセンスも中々………。
ああ、あの辺の織りは中央屋敷の椅子にも似てるしね………。
シャルム元気かな………。ちゃんとエローラに告白したかなぁ?

「ん?あれ?これ、じゃない??」

何処かで、見た事があると思っていたけれど。


最初に着いた場所の、装飾。

「そうか。」

あれも。

多分、中央屋敷に、似てるんだ。


でも、考えてみれば。
当然なのかも、しれない。

だって、ここはフェアバンクスの、屋敷だったのだ。

「青が好きな、一族なのかなぁ?」

確かに、あそこが残っていれば。

もう少し、青味は少なかったと思うけどこんな感じの雰囲気だったに違いない。
そう気が付くと、何かがピタリと嵌りここが何処だか判るようになった。


場所は、変わっていない。

しかし礼拝室ではないだろう。

でも、このフェアバンクスの屋敷の中で。
きっと違う部屋の、昔の様子なんだ。


改めて部屋を見渡すと、少し年代を感じさせる調度品や装飾がある。
良いものなので、流行り廃りはあまり無いがやはり歴史を感じさせるものが、多いのだ。


「ジュガ………?」

そう、多分ここは。

あの子が、ずっと昔に住んでいたであろう、部屋で。


でも、どうしてここに………?



少し考えてみたけど、分からない。

そのまま部屋を見渡しながら、考えて、いた。



「カチリ」

いきなり扉が開いて、メイド姿の人が入ってきた。

「あ、すいません!お邪魔してま、す………?」

全く私に反応を示さないその人は、掃除を始める様だ。
パタパタとハタキをかけ、小物を片付けたりしている。

そうしているうちに、また一人、部屋へ入ってくる。
そうして拭き掃除も、始まった。


え?これ、どうなってるの??

しかし多分。
私はきっと、あの人達から見えない仕様になっているに違いない。
直感的に、そう思う。


「ジュガ?」

未だ返事はないが、多分これはジュガの瞳の中の筈だ。
「瞳」の中なのか、「ジュガ」の中なのかは。

分からないけど。


とりあえず、そのまま成り行きを見守る事にした。
きっと、害にはならない。

それが、解っていたからだ。




少し経つと、場面が変化して調理場になったり、寝室になったり。

私の事はやはり誰も気が付かず、そのままみんながお喋りをしたり、仕事をしたりしている様子を眺めていた。
声はあまり聞き取れないが、なんだか楽しそうなのは伝わってきて。

勿論、私も楽しくなってきた。

この、なんとなく「覗いている」様な感覚も。
不思議で、悪戯をしている様な気分になるのである。


「いいなぁ。昔も、楽しそうだね?」

調子に乗って、独り言も出るけれど。
未だ、返事は無い。

「でも、きっと。これからも、楽しいよ?みんなは、消えちゃったけど。また、祈れば?願えば?きっと。「なくなった」、訳じゃ、ないよね?」


それは、願望としかし私の中の、確信で。

こうして落ち着いて屋敷の様子を眺め、楽しそうな様子を見る事で、を再び体現したいと思い。

きっと、を。

「想って」、「願って」、「できる」と、思えば。


「そっか。「実現」、するって事だ。」







「ヨル?!ヨル?」

「お、大丈夫そうか?」


何これ。

ウイントフークさんの顔が、迷惑そう………。


私は多分、まだ礼拝室の片隅で。

腕の中にはその茶の瞳をくりくりさせたジュガ、千里は素知らぬ顔でまだフサフサしているし。

自分が蹲み込んだまま、そのままの体勢で何処かへ飛んでいたのだと、気が付くのに少し、かかった。


うーーーん?


とりあえず溜息を吐き私から離れるウイントフーク、私を立たせてベンチへ座らせてくれるシリー。

うん、優しさが滲みるわ………。




一頻り、ジュガを撫でて、いた。

頭が戻って、来るまで。


部屋は、白い。

正面の扉、高い天井、白い床に、全体的に、眩しい、部屋。

うん、眩しい、

眩し い?


「ああ!」

そうだ!消えちゃったというか、消しちゃった?んだ!


うん?

「てか、ジュガは分かるとして。千里、は?」

くるりと、そちらを見る。

余裕そうな素振りで尻尾を揺らす千里は、こう答えた。

「私は、外から来たからね。言ったろう?住み着いた、と。」

「ふぅん?」

なんっか、含みがあるんだよなぁ………?

気には、なるけど。


とりあえずはみんなを戻す方が、先だ。


「ええと、、したらいいかな………。」

「歌えば?も、あるし。」

「うん?………ああ、そうだね?名案!早速、役立っちゃう!」

千里が提案したのは、オルガンだ。

うんうん、それなら。
きっと、沢山、溢れそうじゃ、ない?


そうして一つ、深呼吸すると。

ジュガをそっと隣に下ろして立ち上がったのだ。




白く塗られたシンプルなベンチの座面は美しく光を反射しているサテンだ。
その光を目に入れ、そのままそっと、目を瞑る。


うーーん?

優しい歌が、いいよね?

それなら。がいいかなぁ?


自分の中にある、優しい、柔らかい音色が響く音を緩やかに引き出していく。

そっと、少しずつ。
今度は、眩しすぎない様に。


うん?
眩しい?

そもそも、「そこ」じゃ、ない?


確か「光」を思って。
が眩し過ぎて、こうなった筈なのだ。

それなら、その「光」を。

少し、抑えねばならぬだろうな?


多分、あの正面の扉が光の窓なのだろう。

、なってるのかな?

興味は、ある。
開いてみたい。

でも待って。
ウイントフークさんも眩しそうだったよね?

うん?あれかな??
あの、太陽を直接見ると眩しい、みたいなやつ。
いやぁ、「あれ」とは少し、違うんだけどなぁ。
ま、それはいいとして………。

 
扉は観音開きの扉でアーチ型になっている美しい扉だ。
この、部屋に合う。
スッとした、美人って感じのね?

少し、願って中の光を。
「抑えて」、もらって。

うん?
「誰」に?

何だろうな………。

うーん?
でも、「光」なんだよなぁ…。
ま、そのうち「わかる」か…………。


馴染んだ旋律を歌いながら光を調整して、自分の中で確かめた、私。

なんだかまた、楽しくなってきてしまった。

「よし、うん、オーケー!」

パッと目を開けると、未だ閉じたままの扉、腕組みをしたウイントフーク、行儀良く立っているシリーが目に入る。

ジュガはまた、隅っこ見に移動していて、それも可愛い。


まだスピリット達の姿は見えないので、声は伸ばし続けていた。

でも、ちゃんとオルガンが。
私と一緒に、歌ってくれていて。

それだけでもう、かなり楽しい。

そう、踊っちゃう、くらいには。


ベンチの間をするり、するりと抜けて煌びやかな色の千里をパッと抱き上げる。

軽いな………。

そう、思いつつもあの悪戯の意趣返しとばかりに、尻尾をマイクにして歌い出す私。

「あ、コラ」なんて言っているが、そんなの気にするワケが、ない。

フフン、だ。
こうしてやる。
いや、でもコレ普通に楽しいな?
クセになりそう。


千里は丁度私の腕の中にスッポリと収まるくらいの大きさだ。
それに、体と同じくらいの大きさの、フワフワが見事な尻尾が付いていて。

優しく掴んで、フリフリしながら歌うのだが案外いいサイズとその色の複雑さに、思わず歌が逸れてきた。
なんだか、「いろ」が。

深いのだ。

目の奥に深く入り込む様な、その複雑で深い、しかし美しい、色。

丁度一曲終わった事もあって、私の歌は少し、「明日を想う」様な切ない、歌に変わっていて。

それに合わせてオルガン君の音色も少し、変化した気がする。

くるり、くるりと回っていたのを止め、静かに正面の扉の前に立つ。

そうしてただ。
前を見て、真っ直ぐに。
顔を上げ

歌う。


ここへ来て。

意外と、気持ちがいい場所なこと。
みんなが、スピリット達がいてくれたこと。
この場所が「美しかった場所」であること。
「青」が残っていること。
「昔」を見せてくれた、ジュガ。
ここへ来てくれたウイントフークと、シリーも。

みんなみんな。

「感謝」だな………。



徐々に声が抑えられ、静かになってきたこの白い礼拝室。

私の声以外に、音は、無い。

オルガン君ももう、休んで歌は、お終いだ。


でも、最後に。

そう、この扉が開く。

そうしてきっと、見えるのは。


初めの時と違い、柔らかな光が降り注ぐ、いや柔らかくただ、「そこに在る」光だ。

何の、もなく、ただそこに。


「ある」、そう光。



そうして千里を小脇に抱え、もう一方の右手をゆっくりと拡げ扉を開いていく。


「わ………。」

背後から、珍しくシリーの声が聴こえた。

ただ、それも解るくらい。
その、光はただ美しくて。

「ああ、これならあの子達は戻れる」

そう、素直に思って目を閉じた。


ハクロ、マシロ、イリス、リトリ。

ごめん、ね?
もう、大丈夫だから。
また、楽しく「おうち」、しよう?


背後に発生し始めた靄、それがどんどん形作られていくのが、分かる。

振り向こうかとも思ったが、目を瞑っている方が空間が把握し易いのでそのまま待つ事にした。

ああ、良かった…。
みんな、ちゃんと。
いる。

うん?
でも?

なんとなく、前より何かが「充満」した気がして目を開け振り向いた。




「しかし、何でもありだな…。」

唸っているウイントフークを無視して、みんなに近づいて行く。

ぱっと見、そう変化した所は、無い。

うん?でも??

明らかに満ちている私の「色」、みんなのキラキラした様子と嬉しそうな、顔。

笑顔で応えて、じっと観察を始める。
だって。
こんなの。

見なきゃ、損だ。


ハクロは元々、ビシッとした執事の格好、隙のない目をした「できる執事」といった雰囲気だった。

しかし今は、サラリとした黒髪には更に艶が出て何故だか光を受けると天使の輪が虹の様に見える。
その、黒い瞳の中の金は抑えられているがチラリと赤の様な色も、見えて。
多分、多色になった違いない。

そう、「できる執事」から「誰にもNOと言わせない執事」みたいに変化したのである。

えー。
ちょっと、格好良過ぎない?

マシロは薄灰色だった髪が同じく光が当たると虹色に見える部分が、あって。

「これって、大丈夫かなぁ………。」

思わず独り言が出るくらいには、美しさが増した、美人さんになっているのである。

元々真っ白だったからか、肌も白く美しい髪、それに優しげな青水色の瞳。

「ヤバくない………?ウイントフークさん、ここに来る「あいつ」って誰ですか?あの、ラガシュとか以外の人。」

心配になって、思わず訊ねた。

「ああ、ブラッドフォードだ。もしかすれば、来る事もあるだろう。なんせ「婚約者」だからな?」

しれっとそう答えるウイントフークは、既に閉じられた扉の下で何やら調べようとしている。

まあ、放っておこう。

それよりも、あとの二人だ。


くるりと振り返ると、楽しそうな瞳が私を見ているのが、分かって。

ついつい私も楽しくなって、イリスの元へ駆け寄る。

「これなら、他の人にも会えそうだね?」

「そうかな?」
「言葉遣いに気をつけろ。」

相変わらずの二人に安心すると、変わった所をチェックする。
でも、髪色だけだろうか。

黄緑や青が入った、「人」ではあり得ない色だった二人の髪はそれぞれ落ち着いた色に変化していた。

イリスは茶ベースで、まだ所々黄色と緑が入っているがこの位なら許容範囲だろう。
リトリは灰色ベースの髪になって、青は入っているが光の加減で「見えるかな?」程度である。
綺麗なアッシュにも見えるサラサラの髪は、ちょっと羨ましいくらいだ。

「うーん?でも、私も。やれば、できる筈。うん。」


「何を、する気なんだ。ここはもう終わりにしろ。」

気が済んだのか、立ち上がりこちらへ来つつお小言を言うウイントフーク。

しかし、シリーも心配そうな瞳だ。

うん、今日は。
もう、大人しく、してようっと?


でも、寝るとこ、どうなってるんだろ??

ぐるりと白い部屋を周り、天井、壁の白、床のタイルや調度品を確かめる。


そうして礼拝室の出来栄えを楽しみつつも、現実的な事が気になってきたのだった。


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