透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

石と礼拝室

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「さて、と?」


腰に手を当て、周りを見渡す。

ジュガ以外の四人は、落ちている物を片付けたり、剥がれた床材を集めたり、剥がれかけた壁紙を取り払ったり。
せっせと立ち働いて、いる。

千里はふらりと出て行ったり、また帰って来て様子を見たりと片付けに参加する様子はない。

金色は「また、来る」と言って、何処かへ行ってしまった。
結局、どう、するのだろうか。

今日からもう、青の家に行くのかな………?


そんな事を考えつつも、片付けられて何も無くなっていく部屋を見渡す。

ハクロが廃材を纏めて何処かへ運び出し、マシロが何処からか箒を持って来てイリスと一緒に掃除を始めた。


「てか、これ。直すんだろう?」

綺麗には、なってきたけど?

床?
壁紙?
業者?いない、よね??

これはもしや…………。

そう思っていると、タイミングよくシリーが帰って来た。


「ヨル、主がこれを。」

「うん?」

なんか、シリーに「主」って言われると、変な感じ………。

しかし、他の人達がそう呼ぶのならばきっとシリーだけ「ウイントフークさん」なのは本人が了承しないだろう。
それも、解る。

それなら私が、慣れるしかないか…。

そう思いつつも、シリーが差し出した小さな袋を受け取った。


「なぁに?これ…。」

あ。

多分これ、だわ………。


袋を受け取り、その固くて小さな感触を確かめると「それ」が何なのか、すぐに分かった。

多分、で。

この部屋を直せ、という事に違いない。


そっと小さな袋を開け、手のひらの上に石を出した。

「ふうん?」

「ちょ、急に乗らないで??」

ビクッとして、石を落としそうになったわ………。

最初の時と同じく、私の肩にいつの間にか乗っていた千里。
重さを殆ど感じないので、話すまで気が付かなかったのだがいつから乗っていたのだろうか。

見て、「いる」と思えば。
多少の重さは、感じるのだけど。

「クスリ」と笑って、足元に降り立った千里は興味深そうに私の周りをぐるぐる回り始めた。


「ウイントフークさん、なんて言ってた?」

「渡せば解るって。言ってましたよ?」

「やっぱりか………。」

多分、これは以前お風呂を作る時にくれた石と同じ様なものなのだろう。

「でもこれ。私の、石じゃん。まぁいいけど。」

そう、その石達は私がここへ来る直前に池から拾った石達に間違いない。
小さな可愛いらしい色の石達が、コロコロと手のひらに収まって主張しているのだ。


「なににする?」
「どう?」
「おおきいのも できるよ!」
「わたしもやるわ!」

うーん、やる気があるのは、結構。

ウイントフークはきっと、支度をしている間にパパッと何か細工でもしたに違いない。

きっと、私が願えば。
この子達が、部屋を整えるのを手伝ってくれるのだろう。

「まあ、それなら。やりますか。て、言うか。ここって、礼拝の部屋だよね?」

「そう、思うね?」

長く居る、というジュガに訊いたつもりだったが、返事をしたのは千里だ。
ジュガはまだ部屋の中をそっと移動したり、見たりしていて。

もしかしたら、これまではこっそりと存在していたのかもしれない、と思った。
それなら。
とりあえず、見守っておこう。


そうして私は、千里とシリーに「礼拝には何が必要か」を尋き始めた。





「足りるかな?」

「そう、思うね?」

再び、その返答をした千里は何を知っているのだろうか。


礼拝室になるこの部屋に必要な「物」は、そう多くはなかった。

しかし。

結構、一つ一つが、大きいのだ。

「これ一つでかなりできると思うけどね?」

「そうなの?てか、結局って、どうなってるんだろ………。」

以前、ウイントフークに貰った石はそこそこの大きさでお風呂と洗面室のみ、変化させた。

ここは、広い。

さっき通ってきたホールに比べれば狭いが、あの灰青の館の私の部屋、全部合わせたよりは広いのだ。

「一個でとりあえずどの位、できるか。やってみれば、いいか………?」

小さな石の中でも比較的大き目のものを選んで、手に握る。

ま、駄目だったら。

また、歌えばいいし?
ていうか、ここだと石ができる池が、無いな??

つらつらと考えつつも、目を、閉じた。



「さて。」

色は、一番薄い色。乳白色のものにした。

礼拝と言えば。
白が、いいだろう。

グロッシュラーでは、灰色や灰青の空間だったけど。
私が、創るなら。

「白ね。」

そう、「光」の様な、白だ。

きっと本当は「光」は沢山の色を含んで、「透明」でも、あるのだろうけど。

虹色の礼拝室や、まさか透明にする訳にも、いかないもんね?


そして、目を瞑るとよく分かるが、ここはまじないが心地良く拡がる空間である。
千里が「住みやすい」と言うのも、頷ける空気が漂っていて。

確かに、これなら。

私の石の力も、通りやすそうだ。

さあて。

、しようかな?


必要なものは、そう多くない。


「対象があると、祈りやすいかもね」
「棚ですかね?」
「ベンチ?椅子でいいかな?」
「オルガンが欲しい!誰か、弾けないかな?」
「もう、好きな様にしたら?」

そんな会話を繰り広げて。

結局、私の「いいように」創ればいいと決まって。


うん?「対象」?
「神」的な、「なにか」って事だよね?

えー、「長」とも言われなかった。
「石」でも、ない。

スピリット達は。

どういう、存在?

この、「世界」は。

、存在しているの?


目を瞑っていても、みんながどの辺りにいるのか判る。

粗方片付けが終わって、ハクロも戻ってきた。
私の握っている石以外を持っている、シリーにみんなが集まっていて。

やはり、「それ」がきっとみんなの「養分」的な、何かの役割を果たすのではないかという私の予測を裏付けようとしている。

ふぅん?

それなら。

「歌う、オルガン」も、創れそうね?


握った手の中に、問い掛けてみる。

「ねえ?どう、かな?」
「うた、とは?」

「そうね、なんでも、いいんだけど。でも楽しいのが、いいかなぁ。別に賛美歌とか、祝詞とかじゃなくてもいいよね?うん。」

そう、一人納得すると、息を吸い小さな声で歌い始める。

この子に、教える為に。


みんなで歌って、祈るなんて。

良くない?最高、だよね?



自分の知っている歌で、声が伸びる、楽しげな、歌。

それを歌って、声をこの高い天井まで、響かせる。
目を瞑っている事で満ちている自分の感覚、部屋の隅まで届いたに、歌を、乗せて。

隅々まで、「うた」で満たして、ゆくのだ。



美しく、白い、祈りの空間。

高い天井、幾重にも重なるアーチ、上からは光が、降り注いで。

その、白い清浄な光に照らされるは白い石の、美しいタイルだ。
丸く、紋様を描き歩くと「カツン」と涼しい音がする様な。
そんな、美しい、床。

そうして壁も、真っ白にして光を映し上から降る光と下から照らす光、それを増幅させ何者をも、浄化する様な白い空間を、創る。

黒いものも、何色のものも、入っても、いいけれど。

出る、時には。

全てが、「浄化」される様な。

気持ちの良い、空間に。
清々しい、場所に。


造り付けの棚はみんなが使い易い様、低目にして何か飾れる様にしようか。
花は?
咲かない?
ううん、それなら「咲かせれば」いいし。

椅子?ベンチ?
心地が良いのは、どちらだ?

ベンチかなぁ………。
いざとなれば、寝られるしね?
誰が寝るんだよ…って感じだけど。

あとは?


うん?


ああ、「あれ」ね。
あれ。

えー。

「なに」に、祈ろうか。


「なに」に、祈り、たい?

知ってる筈よ?

「私」は。



「祈り」

「願い」 「想い」

「感謝」して。


私が、常に。

「自分」の心の、「真ん中」に、置きたいもの。


なんだ?

探して? ある から。


自分 の   なか に。




ぐるぐると、頭の中を探って、みた。

でも。多分。

「真っ白な光」しか、思い浮かばなくて。

が、何なのか。
「光」なのか、「神」なのか、「天使」とかなのか。
「祈りそのもの」か、「想い」なのか。


多分、「今」は。

わかんない、な………。


それなら、いっか。

そうそう、何事も結果良ければなんとやら。

また、「こたえ」は探せば、いいし。
多分、私がきちんと前に、進んでいれば。

は、自ずと。


近づいて、行くものなのだろうから。


「それなら、「光」にしよう。」


そう、宣言すると周りがビクッとしたのが、判る。
それと同時に目を瞑っていても判る、明るい「もの」が出現したのが、解って。

「ああ、光だ。」

そう、思ったのだけれど。

その、どんどん増してゆく光と動く、みんなの気配と。
同時に聞こえてきた、声。

「おま、ちょっと一度閉じろ!」

うん?
ウイントフーク、さん??


その、ウイントフークの声と同時にみんなが掻き消えたのが、分かって。

「え?やだ!」

咄嗟に「閉める」事を想像し「バタン」と閉じた音、同時に「パッ」と目を、開けた。



「うぅん??」

そこに、現れていたのは。

正面の壁、上方に細長く白い扉。
観音開きであろう、その窓にも見える扉は、鳥やリボン等の美しい彫刻で飾られている。

その前は祭壇に登る階段が数段、少し下がってそれを取り巻く左右のベンチ。

脇にはきちんとオルガンが一台、あって。

部屋の横には造り付けの棚、白い壁にタイルの床、天井も美しいアーチが重なり合う、想像通りの礼拝室だ。

ただ。

スピリット達が、消えているけれど。


「えっ?嘘でしょ?私?!ど、どうしよう………。」

「落ち着け、とりあえず。で、なんだ?」

ウイントフークに宥められ、シリーが私をベンチに座らせてくれる。

勿論、尋ねたのは千里に、だ。

一人残っている千里は、その極彩色の美しい尻尾を優雅に揺らしながら部屋の隅を見ている。


………なに?

その、視線を追うと見えたのは。

「ジュガ………。ああ、良かった!」

シリーが止める間もなく立ち上がり、駆け寄った私。
構わずジュガを抱き上げ、思わずスリスリしていた。

「力?まじない?年数か?」

「どうだろうね?なんにせよ、は他のものとは桁が、違うからね。」


ウイントフークと千里がなにやら話しているけれど。

他の子は、靄だったから消えちゃったって事?

「嘘………。」

思わずギュッと、力が籠る。

「そんな………。」

初っ端から?
これ?

駄目じゃん………。


目頭が、熱くなってきて。
「ヤバ」と思った時に、腕の中が動いた。


「だいじょぶ」

そう、小さな声で言ったジュガ。

そうして彼と、目が合うと。

その、くりくりした茶の瞳に、吸い込まれて行ったのだ。

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