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8の扉 デヴァイ
不思議な仲間
しおりを挟むフェアバンクスのここでの主として、ウイントフーク。
その一応、「姪」でラピスのフェアバンクスの養子という位置付けの、私。
私付きの侍女という、シリー。
そして。
真ん中に集まっている、スピリットであろう人々に目をやる。
まずはこの屋敷を取り仕切る予定であろう、執事らしい男性が一人。
年の頃は多分、四十代だろうか。
落ち着きはあるが、鋭い黒に金が混じった瞳をしているその人はあの黒豹に違いない。
その隣は、シリーの上司という形になるのだろうか。
メイドのような格好をした大人の女性。
きっとこちらが白豹に違いない。
ふわりとした灰色の髪を纏め、落ち着いたあの青い瞳は。やはり、藍に似て柔らかな雰囲気である。
そしてやはりメイドの格好をした少女が一人。
私とそう年頃も変わらない少女は、きっとさっきのリスの様なスピリットに違いない。
だって毛並みが、髪の、色が。
同じ、緑と、黄色なのだ。
「えっ。これすぐ、バレない?」
明らかに「人」とは違う髪の色に、ウイントフークは「とりあえずは大丈夫だろう」と言う。
「ここへは殆ど人は来ない筈だ。来るとすれば、ラガシュや向こうから来る奴だけだろう。若しくはあいつは、来るかもな………。」
誰ですか、「あいつ」って………。
嫌な予感しかしないので、ここでは訊かない事にして再びみんなを確認していく。
もう一人、大人の男の人がいる。
とは言っても「お兄さん」くらいの年齢だろうか。
やはり青緑の髪色をした青年は上を飛んでいた鳥だと思うのだけど。
灰色の目を細めてニッコリと微笑まれ、少しドキドキしてしまった。
スピリットって、喋れるよね?
しかし今のところ、まだみんな無言である。
最後に気になっている方に視線を投げた、私。
中央で集まっていたスピリット達は、千里を除くとこの四人だ。
しかし未だにチラチラと視界の隅を動く、その小さな、人。
勿論、あれも?
スピリット、だよね………?
チラリと千里に視線を投げると頷いているので、そうなのだろう。
しかし、この子は。
あの、金色と同じくらいは私の事を読んでいる気が、するのだけど?
なんとなく、このスピリット達と千里は「違うもの」の様な気がする。
チラリと金色を、確認してみるけれど。
あれ、絶対気が付いてるよね………。
こちらを見ようとしないので、何も言う気がないのだろう。
とりあえず、小さい人の所へゆっくりと近づいて行った。
壊れて扉の無い、棚の陰。
そっとしゃがみ込んで、様子を伺う。
これだけ姿を見せるという事は、出て来たくない訳じゃないとは思うんだけど………?
私がいるのが分かるのだろう、チョロチョロするのを止め、そっと顔だけを出した、小さい人。
くるりとした茶髪に茶の瞳は、殆ど人間と変わらなく見える。
「お名前は?」
なんとなく、そう尋いた。
きっと、「このかたち」ならば。
呼ばれた事が、あると思ったのだ。
しかし暫く返事は無い。
ま、でも。
そんなにすぐは、仲良くなれないよね…?
そう思って、差し出していた手をそっと引っ込めた。
しかしそれを見て、ゆっくりと。
小さな手が、差し伸べられたのだ。
「ジュガ」
そう、小さな声で言った彼。
多分、男の子だと、思うのだけど?
「よろしくね、ジュガ。」
そう言って、ちょこんと人差し指を小さな手に乗せて。
握手をした私達は、ニッコリと笑い合った。
ぐっ。
めっちゃ、可愛い………。
「よし、合格だね。それなら、行こうか。」
「うん?」
いつの間にか私達を側で見ていた、千里。
楽しそうな眼でジュガと私を交互に見ると、「さあ行くよ」という風に鼻を動かし、みんなの方へ歩いて行く。
「え?何が、合格?」
とりあえずみんな、説明不足だと思うんだけど?
私の質問にくるりと振り返り、優雅に尻尾を揺らしながらこう、言った。
「そいつが。ここの、主だ。」
「は?」
そのままスタスタと歩いて行く千里。
て、言うかホントに。
説明が足りないと思うんだけど??
「ねえ。」
駆け寄り追い付くと、そのまま隣を歩きながら質問をする。
「主って、なに?」
「それは言葉のままさ。ここのスピリットの中で。一番、古くから在るのがあいつで。名が、在るのもあいつだけだ。姿も変わらない。」
「うん?そう、なんだ?千里は?名前、あるよね??」
「………私は別のところから、来たからな。住み着いたんだ、ここに。」
「ふぅん?えっ?待って、ならあの人達は名前が無いの?」
少し、離れた場所から四人を見ている私達。
未だ話をしている様子の無いスピリット達は、「その瞳で見る」のが楽しいのだろうか。
辺りを興味深そうに見渡している。
「そうだね。依るが名を付けたら話し始めるだろう。」
「そうなの?!そういう、仕組み?」
「多分。」
「多分なんだ………。」
「何せ「人型」は初めてだろうからね。」
「そうなんだ………。」
なんだか、よく、分からないけれど。
とりあえず、千里が言うには「人が来るのは嫌だからスピリットが手伝う」のだそうで。
だから人型になってくれたらしいスピリット達四人と、ここの主というジュガ。
力の弱いもの達は、実体化が難しいらしいが辺りをふわふわと舞っている。
私の蝶達と交差して、なんだか楽しそうだ。
「ふうん。」
上を見て一言、そう言った千里。
そうして私に「名付け」を言い渡すと、ウイントフークの方へ歩いて行った。
「名前。なまえ、かぁ~。何がいいかな………。」
ぶっちゃけ私にネーミングセンスは、無い。
朝を「朝」と名付けたのは私では無いが、うちの家族の誰かである事は間違いない。
その血が受け継がれているであろう、私も。
きっと、「そんな感じ」の名前しか付けられない様な気がするのはきっと気の所為じゃ、ないだろう。
「とりあえずはここかな。」
そう言ってシリーを連れ、他の部屋を見に行ったウイントフーク。
ここはやはり礼拝室らしく、先ずは祈りの場を調える必要があるとその他全員はここに残されている。
それに。
本当に名を付けないと、この人達は話せないらしく、私は「まず、名を付けろ。余計な事はしなくていいからな?」と釘を刺され、ここに残されているのである。
「余計な事って、なに………。」
そうしてブツブツ、独り言を言いながら。
ある意味いつも通り、ウロウロしつつみんなの名前を考えていた。
とりあえずは一番喋らなきゃいけない人からいこうか。
あの、黒豹と白豹である。
「あ、決まった。」
「マシロ」にしよう!
白豹は真っ白だった。
カッコいい名前なんて思い付かない私は、とりあえず覚えやすくて、呼びやすい、そしてイメージピッタリの名前にしたのだ。
うんうん、この調子で決めて行こう。
黒ね、黒………。
こちらも名前に「クロ」を入れたいと思うのだけど。
「なんか可笑しな名前しか、思い付かない………。」
「シロ」はいいけど「クロ」は。
何を付けても、変になるかおかしくなるのは何故だろうか。
「うーーーーーーーん。これしか、ないな………。」
結局、一択だった。
「よし!「マシロ」と「ハクロ」にしよう!」
そう、私が宣言した瞬間。
そう、大きな声では無かったのだが向こうで其々片付けをしていた二人が、飛んできて。
ニコニコしながら、私の事を見下ろしているのだ。
うん?
聞こえた??
流石、耳がいいな………って言うか、背、高っ。
二人と言うか、二頭と言うか、二体?と言うか………。
豹である時と同じ様に大きな二人は、ウイントフークと同じくらいだろうか。
マシロも、女の人だけど。
ハクロと、背格好は、ほぼ同じである。
「よろしくね?」
見下ろされて、とりあえずそう言った。
「「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。何なりと、お申し付け下さいませ。」」
………ハモってる。
そうして同じ様にお辞儀をすると、再び作業に戻った、二人。
本物の、執事やメイドは見た事がないけれど。
きっと、こんな感じなのだろう。
それにしても、スピリット達は。
何処で、こんな事を覚えてくるのだろうか。
そうして後の二人にも同じ様に名を付け、呼ぶとやって来て挨拶をしてくれたのだが。
「イリスって!素敵な名前だね!」
「うっ、うん、ありがとう?」
黄緑の髪のイリスは名を呼ばれると「ドーン」と胸に飛び込んできて、こう言った。
先の二人とは全く反応が違って、驚いた私は彼女を受け止めつつも、もう一人の「リトリ」にもヒラヒラと手を振る。
リトリは苦笑しながらも「よろしくお願いします」ときちんと挨拶してくれた。
やはり、お兄さんっぽいキャラクターなのだろうか。
「こら、主にその様な態度は止めなさい。」
イリスを引き剥がそうとするリトリに、そう言われてふと、気が付いたけれど。
「なんか、「主」が。多くない?私の事は「ヨル」って、呼んで?」
「しかし………」
「いいの、いいの。ややこしくなっちゃう。一応、外での事もあるし。ウイントフークさんが、「主」で私は「ヨル」ね。それでいこう。」
「かしこまりました。」
「いや!丁寧過ぎなくてもいいよ。まぁ、それは追々、かな………?」
「わかりました。」
「そう!それそれ!」
「オッケー!」
「ちょ、「オッケー」とか、何処で覚えるの?え?私、か??」
くるりとしたイリスの瞳は、真っ直ぐに私の目を覗き込んでいて。
きっと、他意なく私の事を「読んでいる」のかもしれないなぁとも、思う。
「スピリット」とは。
どんな、存在なのか。
ただ、便利に使うようなものでは、無いと思うのだけど。
しかし、名を付けた事で生き生きと「人」らしくなった気がする、スピリット達。
これからどうなるのかは、分からないけど。
とりあえず、楽しそうだから、いっか。
結局いつもこれだな………。
再び棚の陰に戻っているジュガを手招きする。
「ジュガも。よろしく、ね?」
「うん。」
可愛っ………!
抱っこしたい衝動に駆られるが、相手はきっと私よりもずっと長く生きている、ものなのだ。
もうちょっと仲良くなったら、訊いてみよう…。
そう、頑張って耐えた私は「さあ、どこから手伝おうか」と立ち上がり、辺りを見渡し始めたのだった。
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