透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

その、先

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目を開けるとそこは、どう見ても廃墟だった。



うん?

あれ?

贅沢?搾取?いいとこ取りの、豪華、絢爛は?


キョロキョロと周りを見る私、隣で辺りを警戒しているシリー。

ウイントフークはウロウロと歩き回っていて、金色はただ、上を見ていた。


「?」

釣られて上を、見上げたけれど。

高い、天井。
どうやら建物の中なのは、間違いない。

しかしあの旧い神殿に似た、廃墟の様なは凡そ私が想像していたデヴァイの様子とは、似ても似つかなかった。


「ウイントフーク、さん?」

ぐるりと周囲を確かめている彼に、声を掛ける。


結局の、ところ。

デヴァイって、何?

ホントに、「外」が無いの??

めっちゃ広い、建物の中?
ショッピングモールみたいに、広いってこと??


私のぐるぐる顔を見て、何故だかチラリと金色に目をやるウイントフーク。

その気配に気が付いたのか、何も声を掛けられていないのに返事をした金色は、やはり「ここ」へ来た事があるのだろうか。

「遠い、昔に。「誰か」が、ここを創ったのだろう。」

その、言葉尻から。

きっと「この空間」がまじないか、何かの類いな事が、判って。
きっと「外」がとか、そんな問題では無いのだという事が、解る。


多分、ここはきっと。

「誰か」が「何か」の為に、創ったであろう空間で。
ある意味、グロッシュラーに似た場所なのかも、しれない。
あそこは「祈りの場」としてあると、聞いた事があるからだ。

それでは「ここ」は。

「何の為に」、創られた空間なのだろうか。


「ふぅん?」

それ以上口を開かない金色は、何かを知っていて話さないのか、それともそれ以上は知らないのか。
何にしても、今、口を開く気が無いのは分かる。

再び周囲を確認しに行ったウイントフークの後ろ姿を見つつ、シリーの瞳を確認した。

勿論、私も。

この場を彷徨く気、満々だったからだ。


「気を付けて下さいね?」

「はぁい。」

冷ややかな目の金色を横目で見つつ、咎められないので辺りを徘徊し始めた私。

新しい扉を潜ったならば。

そこは、探検しなくては、ならない。

うむ。
それは、決定事項の筈なのだ。

そうして二人の視線を背後で受け止めつつも、止まらずに歩き始めたのだ。




「て、言うか。広っ!」

私達が眩しい光の中から到着したのは、廃墟の様なホールだ。

あの、小さな光が徐々に大きく、眩しく、なってきて。

引かれるまま、目を瞑りシリーの手を掴んで、熱い手を頼りに出てきた先が、ここだったのだ。


そのホールは高い天井が礼拝堂のアーチの様になった「美しかったであろう」場所だ。
しかし今は、ほんの少しその面影が残るのみで廃墟と化してしまっている、この場所。

通路があるのだろうか、幾つかのアーチ状の穴になった壁の場所、扉が未だ残る所も幾つかある。
もしかしたら、交差点の様な場所なのかもしれない。


姿が見えなくなったウイントフークは、そのうちのどれかに入って行ったのだろう。

「て、言うか。ホント、ここ、どこ。」

人の気配、生き物の気配が全く、しないこの空間で。

私は調子に乗り始め、いつもの様に独り言を言い始めていた。


「外がない」とは言うものの、まるで陽が差している様に上から降り注ぐ光。

さっき、上見てたよね?

金色を確認して再び上を見てみても、照明の様なものは見えないし、窓がある訳でもない。
ただ、「きっと絵が描いてあった」であろう美しいカーブの天井から明かりが、降り注いでいる。


どう、なってるんだろ………?

でも、さっきの言い草から、すれば?
多分、まじない館ならぬ、「まじない街」?みたいな?感じ??

て、言うか。
人も、生き物の気配もなければ、生活の気配も無いし??

ここ、住むの?
ウイントフークさん?

え?リフォーム??

てか、これ、「家」なの??


ぐるりとホールを周って行く。

グロッシュラーの大きい礼拝堂より、少し広いかというこの場所は中々に明るく気持ちのいい空間だ。
辺りは、壁が少し崩れたり壁紙の色は殆ど判らないし、床も剥げてしまっている。

しかし、「汚れている」雰囲気の無いこの場所を私は割と気に入っていた。

きっと、きちんと片付けたり塗り直したりしたならば。
とても素敵な空間になる事が、予想できるからだ。


「なんかでも、どっかで………この、感じ。見た?かな?うん??」

色使いや僅かに残る、壁紙の雰囲気。
あちらとこちら、二箇所だけ残る扉の意匠などなんとなく見覚えのある気がするのは、気の所為だろうか。

「しかも。なんか、青くない?」

人が歩くであろう場所には、殆ど残っていないが。

きっと素敵な青であったろう、タイルが端の方に僅かに残る床はどんな紋様だったのだろうか。
幾つか色があるのを見て、きっと床にも何かが描かれていただろうと、思うのだけど。


そうしてこの丸い空間をぐるりと周り終わった、私。

「いち、に、さん…」

丸いと言っても勿論角はあって、数えてみると八角形の場所なのが分かる。

そのそれぞれに道があって、扉が残るのは二つのみ。
しかし元から扉は無く、通路であったろう道もある。

もう、ここで見るものは、何も、無い。
褪せた天井、剥げた壁と床。

探検は終わった。
勿論、次は。

この、どれかの道を進みたいと、思うのだけど………?


「………ですよね。」

きっとシリーがいるからだろう、金色は未だ上を見ながらゆっくりとこの空間を歩いている。
何かを確かめる様に歩く彼を横目で見つつも、正面のシリーと目を合わせる。

「駄目ですよ」

口にこそ出していないが、そう言っている飴色の瞳。

ウイントフークは、まだ戻らない。
帰るまで、待てという事だろう。

きっと、もう一人に訊いてみても。
同じ答えが返ってくるに、違いないのだ。


案外、いいコンビなのかも………。

「分かってる」という顔を見せておいて、再び辺りを彷徨き始めた。

それならもっと、残った装飾をよく見ようと扉へ近寄った、その時。

「痛っ?!」

「あ?」
「あら。ごめん、ごめん。」

「バン」と、その扉がいきなり開いて強かにおでこをぶつけたのだ。


「ああ、大丈夫ですか?」

駆け寄って来るシリーとは裏腹に、扉から出てきた朝が、ウケているのは何故だろうか。

「………ちょっと、朝。」

「だって………ごめんってば。」

しかし、朝の事を心配していた私は同時に安心もして、ほっと息を吐いた。




「ん?じゃあ、この中が、家??」

シリーにおでこを確かめられながらも、肝心な事を質問する。

まさか?
この、奥に?

豪華な、部屋でもあるの??


「残念でした。これから、掃除よ。」

「え?どういう事?」

だ。さあ、行くぞ。」

「えー??この先も?これ?」

いや、不満がある、わけじゃないけど??

結局、どうなってるの、これ?


振り返ると、一応一緒に行ってくれる風の金色が近づいて来る。

それを見たシリーが、気を使ったのか先に扉に入って。

手を取られた私は「どうなってるの?」の目を向けたのだけど。


再び「少し嫌なものを見る目」をした金色は、何も言わずに私の手を、引いた。


「その目」を見て、きっとこの中も楽しそうな事が分かる。

それなら。


ウキウキしているのがバレない様に、口に手を当て、足取りも軽く進んで行ったのだ。


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