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7の扉 グロッシュラー

謳え 謳歌しろ

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「少しだけ。」

そう言って辿り着いた、旧い神殿の倉庫。

まじないの畑を通ってフワフワしている扉を捕まえ、願ってここへ出てきたのだ。


レシフェが帰ってから。
午後までまだ時間がある私は、一人思う事があってここへ来ていた。

多分、最後、会いたい人にはこの後会うし。

今日会えない人には、前もって会いに行って挨拶もしてきた。
造船所にも顔を出したし、ラギシーを使ってランペトゥーザに手紙も置いてきた。


いや、その男子部屋に忍び込むのが意外と、楽しかったんだけど。

みんなが授業に出ている昼間、誰も居なそうな時間を見計らって部屋に忍び込んだ、私。
やはり灰青の館はまじないの類いなのだろう、「男子部屋に手紙を置きに行きたいの」と正直にお願いしたら、きちんと廊下が繋がったのだ。

「ラッキー」とばかりに、部屋へ向かった私。
ランペトゥーザは一人だけ銀だから、すぐに分かる。まぁ、あいつもいるけれど学年で部屋の様子が違うのですぐに判るのだ。

机の上に、そっと置いてきたのは手紙と癒し石。

ちゃんとウエストファーレンとオルレアンの分も「よろしく」と書いて置いてきた。

帰って来てから朝に「勝手に部屋に入るって、どうなの。」と言われて気が付いたけど。
うん。
まあ。
多分、ロウワも入るだろうから。

多分、見られて困る物は、無かったと思うけど??


そうして無事ミッションを成し遂げ、心残りは無い、筈なのである。
うん。


やり残した事は無いか、つらつらと考えながら倉庫を出て礼拝堂へ入った。



「青い、ね。」

なんとなく青い光が入る円窓は、今日も美しい曲線を描いてこの時間の止まった祈りの場を幻想的に縁取っている。


再び、ここへ来るのは。

いつに、なるだろうか。

しかし、きっとまだ私が生きているうちには。
が、崩れる事はないだろうけど。


デヴァイにいる人は、絵を描いてくれるかな?

でも職人はやっぱりシャット?

贅沢しているなら、素晴らしい調度品とかがあるかな?

ここの様な、「時間ときの重みが感じられる」ような場所が、向こうにもあるだろうか。


でも、イストリアの言っていた言葉。


「神のおわす場所」

その、言葉が私の頭の中で膨らんでいて。

きっと暗いだけの場所ではないだろうと、思える。


「そう、思えることは。幸せな、事だよね…。」

でも、多分。

きっと、ここと同じ様に沢山の事が捻じ曲げられて。

「神」は、「神として祀っていたもの」は。

もしかしたら、消えているのかも、しれないけれど。


「やっぱり、「長」に、なっちゃってるのかなぁ。」


独り言を言いつつ、階段を登り丸い踊り場に立ち、見上げた窓。
 

ここは、いつだって。

私を、歓迎してくれていて。

「そうね。」

初めから。


「在る」と、「いる」と、「ここに、存在する」と、確かに。

訴えていた、筈なんだ。

受け取っていた。

「在った」もの。
「ある」こと。
「続いている」こと
「繋いでいく」こと。

あの時感じた、感覚。


言葉にできない、もの。

想い。

見えないけれど、「ある」なにか。


入った時から感じていた違和感、しかしそれは怖しいものではなく掛け違ったボタンの様な、もので。

多分、きちんと。

今からでも、いつからでも「そら」に祈れば。

小さな窓、そのまた雲の隙間から覗く青が、増える様に。

「みんな」が、「私」が、祈れば。


  きっと。


できる、見える。
青空のグロッシュラーが、できる筈なんだ。

それなら。
これからの、私達に。


「そうね。感謝を。示して、旅立たねば。ならぬ、だろうな?」

「「 だろうな。 」」

やっぱり、あなたも。

、思う?


「それなら何処で、祈ろうかなぁ。」

ここ?

あそこ?

池の前?

何処が、いいかなぁ?



「「 うたう なら。最後に。も歌わせてやれば、善かろうぞ。 」」


「成る程。確かに。」

ある意味、場所は、関係ない。

全てが、祈りの場なのだから。


「祈り」とは。

特別なものでは、なく。

もっと、日常に溶け込んだもので。

もっともっと、生活に根付いて、気軽に祈って感謝して。
そうして日々少しずつ、天に届いた「想い」が。


再び、「そら」から降り注いで。

チカラに、なる。


「循環」するんだ。「輪」に、なるんだ。



そうか。

そうだよ。



謳え  踊れ  走れ


 あそこへ。


何処だっていいけど  でも


 今は  なんでもない あの  あの子の場所へ


走って また  歌わせてあげれば。

きっと、喜ぶ。

みんな。

この、神殿、いやこの島の。

  
        みんな が。




軽く踏み出した脚が速くなり、走ってあの部屋へ向かう。

太陽の踊り場、狭く短い廊下を走るともう、すぐにあの扉だ。

「バン」と開けて、あの時と同じ光景を、見る。


四角の窓枠、切り取られた空には違った景色が映っていて。

少しだけ見える青、雲の足も速く感じるのはきっと「色」があるからで。

何も動かない部屋に舞う、キラキラした埃すら美しい、止まったままの空間。


「お待たせ。」

そう言って。

あの、オルガンの蓋を、開いた。

あの時、私がそっと閉じたままの、その蓋を開けたんだ。




「待ってたよ。」

「えっ?!」

突然喋り出したオルガンに驚いたけれど、私にとって物が喋る事は珍しくない。

でも、これまで沈黙していたオルガンが。
どうしていきなり喋り出したのかは、気になるところだ。

「この前は、どうして黙ってたの?」

「ポーン」と一つ、「ド」の音を響かせながら訊く。

どう答えるのか、楽しみにしていた私。
するとやはり、期待通りに「音」で応えてくれる、オルガンは既に楽しそうである。

「まだ、力が足りなかった、君が。みんなと、祈ってくれたから 」

「再び、歌う、ことができる 」


押してはいない鍵盤がひとりでに動き、奏でる音が「ことば」になって。

そうして。

「おと」も「うた」も、一緒になって、だから「いのり」も。

そう

「みんな、「想い」は。「おんなじ」なんだ。」



さあ、謳え。


 奏でろ。

声を、響かせ

   喉を  鳴らせ。


 回れ   踊れ   歌え

   
     こころの、ままに。


 ルールなんて ない

   
   「想い」は  「自由」で。


  いつでも  どこでも  誰でも


    遠く   近く


       有り 無し   

  見えるも   見えない も  関係ない


  「ある」と 思えば  あるし


   「ない」が いいならば  無くてもいい



 ただ   「私」は。


    確実に ここに在って


       それだけは  確かに


   わかる ことで。 



「私」が  「私」であって

ここに  「在る」 こと


 祈りたいこと  歌いたいこと

  声を響かせたいこと

 この島に  大地に そらに  みんな

 人に  全てに


    感謝 していること



何故だろうか

どう して?


でも。

誰も  私を拒まなかった

この世界


ここへ来て

色んなことを知って  沢山の人と会って

いいこと  嫌なこと  いい人 悪い人

色々  いたけれど

いたんだけど

でも  みんな。


誰も  世界は  私を拒まなくて。

「私」を 「本当に」否定する人は

  誰も  居なくて。


それは  どうしてなのか。


何もかもが思い通りにならない この世界へ来て尚


私が 自分の意志で進めるのは 何故 なのか



「私」が  みんなの世界 に入っているのか

それとも どこまで行っても

「私」は  「私」の中なのか。


「どっちだ、ろうね?」

分かんない。

わからないけど。


それでも、私の中のみんなは、みんなで。

そこに居て、動いて、生きてて、在って、そして私を受け入れて、くれたから。


「うん、感謝?だよ、ね??」

こんがらがって、きたけれど。

「本当のこと」は、わからないのだけど。
 


「「例え何が、どうだと、しても。

  「おまえ」の真実ほんとうは。


         おまえのもの。 」」


そうだよね?

なら。

祈る、のみで。


ただ。  真摯に、祈れば。


それで、いい。

今は。


だって、頭で考えたって。

わかんないもん。


時には、開き直りだって。

必要、だ。


うん。



そうして狭い筈の、この部屋で思いっきり回って、舞って、謳うんだ。

大きく響かせるのは少し、疲れた。

なら。

想いを飛ばすだけでも、いいし。
なんでもアリ。

なんでも、いい。


そうして、謳って踊って、回って走って。

この、「瞬間」を楽しんで。

ただ、ひたすらに。


「人生を、謳歌すれば。いいんじゃ、ない?」


そうと決まれば。

「よし!じゃあ、行ってくるね!」

「ああ。また、待っているよ。」

「うん、ありがとう!」

きっと、歌ったせいなのだけど。

狭さを感じなかった部屋だが、歌を、想いを巡らせたくて、振り撒きたくて、部屋を飛び出し再び廊下を走る。


太陽の踊り場、礼拝堂の入り口を潜り円窓の下を目指して真っ直ぐ、くるくる回りながら進む。

ポンポンと軽い、足取りで踊り場まで上がるとそこでも一頻り回って、右から下りる。


そこから回廊へ、池を通り「この場所」、神殿裏までぐるりと、回って。

腕を振り上げ、想いを振り撒いて。

自分が思う、全ての場所に祈りを振り撒き満遍なく、彩るんだ。




くるくる、ぐるぐる気の済むまで回った後に、息を整えながら歩いていた。

なんだか、スッキリして。
出発前に、静かな気持ちに、なれたかもしれない。

チラリと見た池には可愛らしい色の石が沢山、増えていた。

そう、こんな感じで。

自由に。


思う、ように祈れば、想えば。


「よし!」

パチンと頬を叩いた。





戻ってきた回廊から、空を見上げる。

そこにはまた、変化した景色があって。

思った通り、青が拡がるその、切り取られた空に。

やはり、間違いないと。
頷き、心強く、思うのだ。


「想い」は、届くのだと。

信じて、進めば、いいのだと。



「よし、じゃあ拾って。帰りますか。」

ここを発つ前に石を拾っておかなくてはならない。

「うん?袋が、無いな?スカートで、いっか?」

下に履いてるから、よくない?

叱られそうだと思いながらも、何も持っていない私。
「倉庫に何かあれば後でそれに入れればいいや」と思い、とりあえずは池に向かうことに、した。
無かったら、仕方が無い、うん。


そうして最後の仕事を全うすべく、勇んで向かって行ったのだ。


  

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