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7の扉 グロッシュラー
レシフェ
しおりを挟む「これで全部か?」
「はい、多分。」
「多分?まあ、いい。後で取りに来い。」
「はーい。」
「後で」と言われたその言葉に、安心する自分が少し嫌だ。
それはやはり、少なからず「移動したくない」と思っている事を認めることに、なるからだ。
でも、それも仕方が無い。
だって、ここも。
結局、楽しかったし沢山の人達にも、出会って。
また、お別れもしないといけないのだから。
でも、今回は以前よりも「また来られる」感があるだけ、いいかもしれない。
「結局、シャットも、ラピスも。行けてないしなぁ。」
「何言ってんだ?…支度はどうだ?あと、これ俺のも頼む。」
「あ、うん。分かった。」
部屋へ入って来たのはレシフェだ。
レナから聞いたのだろう、自分の星型のネックレスを私に差し出しベッドに座る。
それを受け取りつつ、彼が持って来てくれた荷物も確認する。
レシフェとレナには、灰青の館の部屋から荷物を持って来てくれる様、頼んであったのだ。
中程度の箱を開けつつ、中身を確認して蓋を閉める。
多分、大体、入ってそう。
全てを持って行くのはやはり難しい様で、大まかにレナにお願いしておいたのだ。
「とりあえず部屋はそのまま残しておくって。」
ミストラスからの伝言をラガシュに聞いたレナがそう言ってくれたので、ベッド周りや洗面室などの大きなものはそのままなのだ。
服や、石、お気に入り棚の中身など、とりあえず「持って行けそうなもの」を全部入れたと言っていた。
とりあえずの生活に困る事はないだろう。
それに、忘れ物をしたならば。
きっと取りに来るという口実も、できるだろうし?
一人で再び頷くと、手のひらの星を見てまた眉が下がる。
「懐かしいな。」
思っている事がレシフェの口から出てきて。
「そうだね。ありがとう。」
私の思っている事も、そのまま口から出てきた。
そのまま手を握り力を通していると、立ち上がり、壁に凭れたレシフェが言う。
「ありがとうは、こっちの台詞なんだが。結局お前は。まあ、そうなんだろうな。」
「?」
「なんだかんだ結局。問題解決していくって事だよ。」
腕組みをして大きく息を吐いたレシフェ。
いつの間にか、髪が懐かしい赤茶に戻っているのに気が付いた。
「ここは、変わった。俺はもう、多分この姿でも動けるだろうし殆どの奴の「見ている方向」が変わったんだ。恐ろしい奴だな、お前は。」
「えっ。また「恐ろしい」………。」
レナに「怖しい色」と言われた事が、ちょっと引っかかっていたのかもしれない。
ブツブツ言う私に突っこみながらも、レシフェは気になっていた事を話し始めた。
「なに、言ってんだ?まあいい。兎に角。俺はまだ自分の落とし前を着けていない。自分で納得できるまでは、貴石含め、立て直さなくてはならないからな。一緒に行って手伝いたいが、それはできない。心配ではあるが、まああの人がいれば。大概の事は大丈夫だとは思うしな。言わなくても解るとは思うが………頑張れよ?いや、やり過ぎるなよ?か??」
「………うん。程々に、するよ…。」
なんなの、このやり取り………。
きっとわざとふざけた言い方をしているレシフェ。
しかしフワリとした髪を見ていると、つい込み上げてきてしまう。
こんな時、髪色を戻すなんて。
狡いよ………。狙ってない…?
そうして少し、目の潤んだ私を見て、言う。
「おい。泣くなよ?まだ朝だぞ?」
でも、「原因」を作ったのは明らかに自分だと思うけど?
出発は午後だ。
確かに朝っぱらから泣いている訳にはいかないし、多分、金色が来てしまう。
その前に。
レシフェにはちゃんとお礼を言わなくては。
なんだかんだでずっと、私達の為に奔走してくれていたレシフェ。
出会いは、最悪だったけど。
だからこそ、沢山のことを教えてくれて、学ばせてもらったのも、彼からだ。
それに、いつも迷っている私に「そのままでいい」と言って道を示していてくれたのも。
間違いなく。
レシフェなんだ。
「あの、ね。」
それに、これは。
私から、彼に絶対、言っておきたいと思ったこと。
「ありがとう。みんなの為に、立ち上がってくれて。あのね、やっぱり。レシフェがやった事で、「そのやり方じゃ駄目」な事も沢山あって。でも、その時、その場所では「それしかなかった」事も、やっぱり今なら解るから。」
「でもね、何が一番凄いかって言うと、「行動を起こすこと」なんだよ。」
そう、きっと。
次の、扉でも。
「「やるか、やらないか」じゃなくて「できない」一択が当たり前の世界で。「やろうと思う」事、「それを実行に移す」事の難しさ、大変さ?私には、想像もできないよ。何が凄いって、そこだと思う。「誰もやっていない事をやる」、「誰に何を言われても、自分の信じている事をやり通す」。それをやっている、レシフェだからこそ。私に、「そのままでいい」って。言って、くれるんだ。」
「ありがとう。あなたがいたから、頑張れた。これからも、頑張るけど。」
あれ?
一生懸命、話してたつもりだけど?
壁に凭れていた筈の彼の、顔は見えない。
壁を向いて、そのまま腕組みをしているのだ。
まさか…………。
そーっと、近づいて覗き込んで、みる。
「馬鹿。泣いてねぇよ。」
「あれ。」
コツン、とおでこを小突かれて、またベッドに座らされた。
無言で差し出された手を、握手かと思って握る。
「違う。」
「え?」
指差されたその先には、もう一方の手に握られた、星の石がある。
すっかり力を込めた後、握ったままだったのだ。
「ああ、ごめん。ありがとう。うん、綺麗。」
レナのメダイと同じ様に。
私の星屑が入った、星の中。
「星の中の、星屑。若しくは金平糖。」
「何言ってんだ?………綺麗だな、確かに。ありがとう。」
少し黒っぽくも光る、それを再び首に掛けた彼は扉へ手を掛けた。
「じゃあ。また、後でな?」
「うん。またね。」
そう、レシフェとはここで最後だ。
館へはウイントフーク、ネイア達とイストリアしか同行しない。
また、会えるし。
何度も、繰り返してきた別れで「できるだけ気軽に」を努力してきた私。
いや、できてない時、多いけど。
でも、今度は。
きっとすぐ、会えるし最後には、全てを。
そう、繋ぐから。
閉められた扉を見て、少し顔を拭った。
「上出来。」
ベッドの下から、お褒めの言葉が来て。
少し、ビックリしたけど。
「でしょう?」と、威張ってやったんだ。
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