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7の扉 グロッシュラー
レナと貴石
しおりを挟む「それにしたって。怖しい、色ね。」
「ちょっと、「怖しい」は、ないんじゃない??」
「だってこれは。やり過ぎよ。問題が、起こらないといいけど。」
「まぁ、それは………。でも、レシフェが「大丈夫だ」って。言ったんでしょう?」
「まあ、そうね。」
旧い神殿の、池の辺り。
今日も透明な清水が揺ら揺らと湧き出るこの池の周りは、そう変化していない。
少しだけ、靴に感じる砂の感触が「サラサラ」から「サクフワ」になった気がして、灰色の下にはもしかしたら茶の土が、隠れているのかなぁなんて思うけれど。
しかし、土を弄り始めたらまた脱線する事は分かっている。
青く、ふわりとした髪が水面に垂れているのを見ながら私も同じ様に蹲み込んだ。
そうして二人して、ぐっと身を乗り出し覗き込んでいるのは、池の中の石を見る為なのだけど、何故だかご不満なレナの様子。
私は茶の瞳を窺いつつも、手を伸ばして順に石を拾い上げ始めた。
その、レナが文句を言いイストリアが「美しい」を連呼していた石は、確かにそのどちらも当てはまるものだ。
数こそそこまで多くはないけれど、私が想像できる、ありとあらゆる色が揃っているその様は圧巻である。
「もう、この色とか。何色って、言っていいのか分かんないもんね?」
「確かに、そうね。」
「私が好きな色にして、いいのかな?」
「貴石に関しては。そう、言ってたわよ?あ、ただ「癒し石にしろ」とは言ってたけどね。」
「ふぅん?分かった。」
レナの青い髪に似た美しい石を拾いながら「こんな癒し石あったらいいな」と思っていると、珍しくレナが色の希望を述べた。
「でも私は「紫」がいいと思う。」
「うん?そうなの?なんで?」
「言ってなかった?「色」が、あるのよ。あそこは。見た目も、違うでしょう?」
その言葉に思い浮かんだのは、あの派手な外観。
「確かに?て、事は………。」
「そう。六色あるんだけど、まあ正確に言えば七色?とりあえず、石を渡す一番上の姉さん達が「紫」なのよ。あとは、あれね。まじないと同じ順よ。」
「ん?じゃあ銀とか、白、黄、茶……って事?」
「ああ、銀は無いわ。流石に、作れなかったのかもね?もしかしたら………ううん、いいわ。」
レナが言い淀んだ内容に、心当たりはある。
多分。
ディディエライトの事ではないだろうか。
あの部屋は、彼女一人しか使った事が無いようだったし。
あの後も、「誰も入っていない」と言っていたエルバ。
この前、レナには部屋にあった本や小物は、全て持って来てもらった。
一つくらい、「証」として残そうかとも思ったけど。
「おいていく」、ことが。
何故だか、できなかったのだ。
「それで?エルバの分は、どうする?」
レナの声に、ハッと意識を戻す。
いかん。
この頃すぐ何処かへ行く私の思考は、フワフワとして安住の地を無くしてしまったかの様なのだ。
もしかしたら、あの金色がそばに居ないからかとも、思ったけど。
いや、前からだよね………。
すぐに思い直して、返事をした。
「うーーーん?エルバか。…………これ、じゃない?どう?」
「いいね。ぽい。」
私が掴んでいるのは、少し茶がかった橙の石だ。
しかし透明度が高いので、華やかなそれはこれまで貴石を守ってくれていた温かいエルバにピッタリな色だ。
少し茶が入っている所が、明る過ぎなくて、いい。
「あとは、紫、ね………。」
水の中で気持ちよさそうに眠っている石達は、どんな主の元へ行きたいだろうか。
紫にも、色々あるね………。
濃淡の違いや、青みが強いもの、赤寄りのもの。
かなりピンクに近い、可愛らしいものも、ある。
「ねえ?その、「姉さん」は私の知らない人だよね?」
本人を知ってると、想像しやすいんだけど?
そう思って訊ねると意外な返事が、返ってきた。
「一人は、知ってると思うけど。エレファンティネよ。」
「え?…………ああ。」
そういうことか。
あの時の、あの質問、あの目と、あの様子。
エレファンティネの深い、赤茶の瞳がパッと思い浮かぶ。
「そうなんだ、ね。」
その私の様子を見て、説明をしてくれるレナ。
どうやら、彼女は元々私をよく思っていなかったらしい。
「エレファンティネは。どちらかと言うと、私の店に反対派なの。まあ、「反対」と迄は言わないけど。「これまでと、変わらず」やっていくみたい。石も受け取ってくれるか、どうか。でも、もう一人の姉さんに渡すから多分、貰ってはくれると思うけどね。」
「もう一人の、姉さん?」
「そう、その人はラエティアっていう名前。「紫」は二人しかいないのよ。ラエティアは私の案に賛成してくれてる。なんなら、一緒にやっても、いいと言ってくれてるわ?でも始めから巻き込むのもあれだから、とりあえずは一人でやるけどね。」
「………大丈夫?」
「言ったでしょう?………大丈夫よ。それに。」
懐から、私の癒し石を出した、レナ。
「私には、これがあるし。」
「ちょっと、もう懐かしいねこれは。」
「ね?そう、経ってないんだけどね?」
首から外して、見せてくれたそれは久しぶりに見ると少し色が変化した気がする。
確か最初は橙寄りの赤だった筈だ。
「うん?ちょっと、黄色っぽくなってない?」
「そう?」
レナは、そう言うけれど色に煩い私はハッキリと覚えていた。
それに、自分が作った、ものだし。
でもきっと、レナのこれまでが積もってこの色になった筈なんだ。
その、時折金色にも見える黄が入った赤を光に透かして、確かめる。
うん。
綺麗だ。
そうしてその石を光に翳した事で、以前よりも空からの光が明るく、増えた事も判る。
明るくなった空、まだ時折しか青空は覗かないけれど。
レナが沁みて変化した石、空と、これからの、こと。
上を見て、思う。
やはり、未来は明るい筈だ。
そう、思えて心も晴れて、きた。
そして手のひらの石を、軽く握って力を通す。
すると、メダイの中にあった小さなキラキラがクッキリして金平糖の様に、変化した。
小さな、気泡の様なキラキラだったけど。
私の、あのいつも溢れる星屑の様な金平糖の様なキラキラが、中に入ったのが分かる。
「うん、可愛い。」
そう言って、レナに返す。
じっと、石を見つめていたレナは「ありがとう。」と一言だけ言い、再び首にかけた。
「て、いうか。レナは?石、どう?」
そのまま「はい」って、あげちゃおうかとも思ったけど。
私の癒し石を受け取った様子を見て、なんとなく訊ねた。
多分、「これがあれば、いいわ。」と言うだろう事は、分かっていたけれど。
池を見つめたまま予想通りの返事をしたレナは、こうも、言った。
「これは。透明度は新しい物より劣るかもしれないけど、「そういうこと」じゃ、ないでしょ?」
「う、うん。」
多分、私が思っていた事をそのまま、言ったレナ。
「何その顔。」と言って、もう池を覗き込んではいるけれど、やや照れている事は間違い無い。
ちょっと、ジンときちゃったけど………。
「いや、レナも大分私ツウになってきたね!」
「いやそれ、嬉しくないから。」
「えー?嘘!」
キャイキャイ言いつつも、再び石を拾い始める。
そう、そうなんだよね………。
それを、みんなが。
解って、くれるといいんだけどなぁ………。
そう静かに思いつつも、「………紫、だよ。」とブツブツ言い、それを探す。
「ねぇ、そのラエティアさんは。どんな、感じ?」
「うーん、そうね?結構、サッパリしてるわ。エレファンティネを見てるとそういう人を想像するかもしれないけど、正反対ね。」
「えー?正反対?…………余計分かんないな。ま、こんな感じかな………。」
エレファンティネは瞳に合わせて赤寄りの紫にしようと思っていた私。
正反対、って事は。
青紫、ですよね…………。
手頃な大きさ、二つの紫の石を拾い上げた。
「ああ、いいんじゃない?分かり易いかも。こっちが、エレファンティネでしょう?」
「流石。正解。」
レナが赤紫の石を指して、そう言う。
今回できた石に、大きさの違いはそう無いがあまり大きくない方がいいだろう。
なにしろ、小さい方が身に付け易い。
エルバの石と合わせて、チカラを通し癒し石に、する。
特に、意識してるわけじゃ、無いんだけど。
どうして「私の力」を通すと、癒し石になるのだろうか。
今度ウイントフークに訊いてみようか。
いや、シンかな?
シャットで「向いている、いやそれしかしなくていい」と言っていたのは、シンだ。
そこから、レナの店にこれを使おうという話に、なって。
ここまで来て、私は共に、やる事はできないのだけど。
「なんか、よろしくお願いします。」
そう言って、変化した石をレナに渡す。
「なに、言ってるのよ。ありがとう。それは、こっちのセリフよ。」
そう言って、石をハンカチに包みポケットに入れたレナ。
ただじっと、まだ池の中を見つめる私に彼女はやはり、こう話す。
どう考えても「私ツウ」じゃないかと、思うんだけど。
「さあ。私は、ここであんたの石を使って癒しを広めて行くんだから。あんたは、あんたの、場所で。やってくんでしょう?」
「留まってなんて………いや、止まってなんて、いられないくせに。どうせすぐに、むずむずし出すんだから。それなら、いつもの様にウキウキして。行きなさいよ。分かった?」
「………うん。」
「やっぱり、出るか………。」
「だってレナが………。」
「ああ、丁度いいわ。」
何が?
そう、思ったけれど。
ギュッと、抱きしめてくれたレナが少しして、腕を解きいつもの腕に私を託したから。
再び、もっと涙が出てきてしまったのだった。
「大丈夫、すぐ会えるわよ。じゃあ、よろしくね?」
「ああ。」
二人の会話を、揺ら揺らとしたいつもの焔の中で聴きながら。
ゆっくりと、沈み込んで行ったのだ。
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