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7の扉 グロッシュラー
大地の変化
しおりを挟む「なにしろね?凄い、綺麗だよ。美しい。動ける様になったら、見に行くといい。君以外はきっと触れられないだろうから。」
どうやらさっき話していた、「火傷がどうの」という話。
それは、あの池にできた私の石の話だった。
色とりどりの光を降らせた、最後の時。
自分が何色を降ろしたのか、分かっていなかった私はきっとそこに行けば何色が降りたのかが分かると、思った。
「うん?でも………。」
結局、「ある色」は分かっても「ない色」は。
「見れば、分かるかなぁ??」
私の独り言を聞いていた朝が、言う。
流石に言いたい事が分かるようで、長年の訓練の賜物だろうか。
すっかり解説しなくても、話が通じるようになっているのである。
「何色が「無い」のかは。分かんなかったわよ?結構ね、色数はあるのよ。だから余計にね。」
「そうなんだ………。」
「まあ、その辺りはウェストファリアが張り切って調べてたから、時期分かると思うよ?」
「そう、ですね………。」
イストリアの言葉にゆっくりと頷いて。
確かに、白い魔法使いは「大体の色は調べた」と言っていたから資料を探せば見つかるのかもしれない。
その、「光が降りなかった者たち」。
具体的に、二人から話が出た、訳じゃないけれど。
流石にそう、思って降らせたのは、私だ。
「受け取れなかった者」がいるのは、当然なのだ。
それが、「正しい」のかは、解らないけど。
少し、思考が停止したけれど「好きな色だけ降らせろ」と言っていた、本部長の言葉を思い出す。
私が信じるべきは、「それが良いか悪いか」では無くて、「ウイントフーク」だ。
それは、判る。
なら、いっか。
うん、いつまでも悩んでいても仕方が無い。
それに、散々奪っていた者達なのだから。
一度くらい、受け取れなくても良くない?
うん。
そうそう。
そう、一人納得してぐるぐるを止め、腕を回してみる。
「元気になったら」とイストリアも言っていたし、私も「大分疲れているな」とあそこで思った筈だ。
身体がどの程度動くのか、確認しなくてはならない。
「うーん?大丈夫、そう…………?」
「無理しなくて良いわよ。どうせ、暫くは出られないんだから。」
「え?そうなの?」
「そうだね。今日は祭祀から三日経っていて、ブラッドフォードは色々根回しをする為にもう向こうへ帰っている。君も、姿を表すと面倒だからな。祭祀後に一緒に行った事にしてあるんだ。会いたい者がいれば、会える様にはしようと思うが、基本的にはもう神殿には行かなくていい。」
「…………そうなんですか。」
なんだか、寂しい。
でも、会いたい人なんてトリルかパミール、ガリアくらいなんだけど。
多分、クテシフォンやラガシュには会えると、思う。
なんならここに、来るだろうし?
造船所も多分、駄目とは言われない気がする。
子供達にも挨拶したいし、様子も見たい。
シュレジエン達とも、話してから移動したいしな?
一頻り考えてみたけれど、具体的な理由は思い付かなかった。
でも。
「強いて言えば、「あの空間」、かな…………。」
その、私の独り言を聞いていたイストリアが「クスリ」と笑った。
「仕方が無いよ。急だったからね。あそこは、私もお気に入りだ。あの、白くて寒い空気や図書室の静かな灯り、古い本の匂い。君は島の端も、好きだろう?こちら側の神殿は、代わりに自由に過ごして良い。一度、向こうに行ってまたこちらに来れば。その時は、きっと自由さ。」
「あの、その、行き来って…………。」
「そうだね、これまでは。」
私の質問にニッコリと笑うイストリア。
きっとこの質問を予想していたのだろう、しかしその笑顔に反して厳しい答えが帰って来た。
「自由にここと、向こうを行き来する事はできなかった。しかしね?芽吹きが、見えたからね?多分、男達はこぞってやって来るだろうし、そうなれば。女達も、黙ってはいられまいよ?君の為に野菜でも作ろうかな。」
楽しそうにそう言う、イストリアの意味が分からない。
「野菜??」
「そう。食べ物だよ。これまではこの空間でしか作っていなかったけれど、大地が変化し、土が。変わったんだ。力が通ったからだろうね?石も、素晴らしいが。大地の変化は、もう何と言っていいのか。兎に角「素晴らしい」で、済む事では無いよ。」
「本当に。ありがとう。」
もしか、しなくても?
あの、揺り籠の中で感じた、大地の動き。
この島の「なかみ」の、こと。
イストリアの話で、本当に力が通り、大地が潤った事が判る。
「本当に………やったん、ですね?」
「ああ。やったよ。大成功、だ。」
「やった!!」
「むぐっ!」
思わず朝をぐっと引き寄せ、抱き締めた。
「ちょ、もう、放して!」
何か文句を言っているけど。
「だって!緑が、できるって事でしょう?草も、花も。木だって、畑も!ヤバい、リアルに楽園ができるって事じゃん!!」
「いやだから、放してから………。」
ぐっ。
「ゴホッ、ゴホ」
興奮し過ぎて、咽せてしまった。
少し、胸が苦しい気がしてまだ無理ができない事が分かる。
「ほら。」
「だから言わんこっちゃ無い。大人しく、してなさいよ?」
イストリアからハーブティーを受け取って、一息ついた。
氷は溶けて、少し薄くなっているが添えられたハーブの葉が、スッキリとした味を足している。
その、薄く緑色に変化したグラスを見て。
「畑かぁ………。うん?野菜、で?女の人、が??」
再び戻った、疑問。
薄茶の瞳へ視線を移すと、楽しそうにこう、教えてくれる。
「そうだね?これまでは、外に出る事は叶わない事だった。しかし、「ここ」がある意味みんなの「庭」になれば。きっと「声」は大きくなるだろうし、それが野菜という、女性の関わりが大きいものになれば、きっと糸口には使い易いだろう。そう、上手くいくかは分からないけどね。でも、食べるものや自分で調理するものを「選びたい」と思うのは、至極当然の事だからね。」
「「普通のこと」から、始めるのが一番だよ。なにしろ、生活は毎日だ。日々の小さな事の、積み重ね。それが一番積もるものなんだ。気が付かない様にしていてもね?いつか、限界が、来る。生活に、直結していればしている程に、ね。」
「…………成る程。」
なんとなく、分かったような、分からなかった、ような?
でも、きっと。
「大した事はない」と思う人が、多い事でも。
それが、「毎日のこと」であれば、「小さなこと」で、あっても。
積もり積もって、大変な、「想い」になるって、事だよね?
塵も積もれば山となる、的な。
でも、祈った時も思った筈だ。
私達は、「慣れ過ぎた」「我慢をし過ぎた」「声を、上げな過ぎた」と。
そういうこと、かな?
ふと気が付くと、いつもの様に私のぐるぐるを見守るイストリア、既に丸くなっている朝。
ある意味見慣れた光景である。
ん?
でも確か、ウイントフークさんが何か………。
言ってた、よね?
「母さん?」
「ああ、あの子だろう?やはり、聴こえていたのかい?」
「あ、やっぱり。夢じゃ、無かったんですね……狡いな、絶対「俺はもう言った」って、言い張るつもりだな。」
「ハハッ!まあ、いいさ。ありがとう。またきっと、機会があるよ。これからは、会えるんだから。」
「そうですね!………て、いうか。それなら、男の人は割と自由なんですか?行ったり、来たりは?」
「まあ、ここは貴石があるからね……大概来る者は決まって来ているが、これからは増えるだろうな?レナの店の事もあるし、土地も変わる。忙しくなりそうだな。」
「そう、か………。」
浮かれてたけど、それも、あるな…。
それと同時に「レナとはここでお別れ」な事にも気が付いて、ズン、と心が重くなる。
でも。
新しい、スタートだから。
「パン」と頬を叩いて、顔を上げた。
「それなら、石はどうしましょうか?配るのは?癒し石も要るし………。」
「その辺りはウェストファリアだね。後は誰にどう、するのかは………。」
イストリアと話し始めると、少し沈んでいた心が戻ってきた。
駄目駄目。
凹んでなんか、いられない。
でも、私には解っていた。
やはり、どうしたって。
移動の時は、寂しくなってしまうのだ。
しかし、寝室へ向かって来る足音に気が付くと再び気持ちを切り替える。
一人はあの金色で、もう一人はウイントフークだろう。
「母さん」について、とっちめないと。
そうしてベッドに座り直すと、少し髪を整え準備をしたのだった。
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