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7の扉 グロッシュラー
雨の祭祀 陽動
しおりを挟む曇り空に響き渡る、いつもの鐘の音。
見慣れた灰色の下には、青空の様なローブ達とそれを綺麗に映す池がある。
耳慣れた音に響めきが収まり、皆が祭祀に意識を戻したのが分かる。
さあて、そろそろ始まるか。
ある意味依るは、こっちが心配しても「どうしようもないこと」になる場合が多いから、見ている事しかできないんだけど。
アラルエティーが祈るとなると「大丈夫だろうか」「光のタイミングは」「緊張していないかな」と色々心配になってきた。
私の位置から、細かい表情迄は見えない。
でも、躊躇いなく流れる様に動いて、手を、上げたアラルエティー。
それを、見て。
彼女の、覚悟が解った私はその他を観察し始めた。
あの子は、大丈夫。
それなら他に危険が無いか、見張っていた方がいい。
そう、思えたからだ。
「 祈れ 祈れ 」
アラルエティーの声が響き始める。
丁度いいタイミングで雨の雫が落ちてきた。
さっき迄は乾いた空気だった筈。
しかし一陣の風と共に、雨が連れてこられた様だ。
あの子達、テレパシーでも使ってるのかしら………?
そう思ってしまう程、いいタイミングである。
これなら。
見てる、見てる………。
アリススプリングスは回っている白水色のローブを凝視していて、明らかに固まっている。
祈らないのかしら………。
辺りを見渡しながら、「こっちに依るが居たら、怒るわね」と思ってしまった。
だって。
アリススプリングスは固まってるし。
ウェストファリアは案の定、メモを出している。
向こう側の池にいる客人達は囁き合いながら、アラルエティーを見ているし。
ちょっと、何しに来たワケ?
まあ、あの子達を、見に来たんでしょうけど。
ちょっと、あからさま過ぎや、しませんかね………。
空はいつもの曇り、緩く風が吹く前庭の池。
時折頬を打つ雫に構わず、手前側のいつもの人々は、真剣に祈っている様子。
向こう側の、主にネイアと客人達は、気もそぞろ。
間に挟まれた、クテシフォンとイストリアが目を光らせていてウェストファリアがやはり浮いている。
そうこうしているうちに、一際強い、風が吹いた。
「ブン」と空気が震えて、上空に異変が起きたのが判る。
私が上を見た時、まだ誰も気が付いていなかった。
人間には聞こえなかったのかも、しれない。
しかし、徐々に空間が靄と共に揺らぎ、虹色の揺らぎが現れ始めた。
そうしてそれがゆっくりと、形になり四角くなってきて「扉」を形作ろうとしているのが、判る。
誰も気が付かないのかしら………?
眼下に視線を戻すと、大抵の人達はアラルエティーが舞うのを見ていてきちんと一緒に祈っていた。
よしよし、これならいいかな?
しかし、やはり向こう側の池に挙動不審な男が、いる。
それも一人じゃなくて、数人。
やたらと辺りを見回したり、アラルエティーを見て動かなかったり、明らかに怪し過ぎて逆に心配になるくらいだ。
「おぉ、上だ!上を見ろ!」
その時、誰かがそう、叫んだ。
「うわ!」
「出た!」
「光は?」
「凄い…………。」
「、 」
口々に上がる歓声と、驚愕の声、声も出ない人。
前回いたメンバーは大体、感動している様だ。
確かに、あれは初めて見ると恐ろしいだろう。
巨大な、半透明のしかも虹色という見たこともない様な色の扉が、突然空に、現れたのだから。
怖がるなと言う方が、無理かもしれない。
そうして徐々に、その扉が開き始めているのが、判る。
内側から白い光が漏れているからだ。
あれ?
本当に扉から光が出るのかしら?
それなら、いいわね??
そうして騒めく池の周り、そろそろ祈りに戻ろうかと何人か、集中し始めた人が出てきた頃。
何処かで「ボン」と小さな爆発の様な音がした。
「爆発だ!」
「逃げろ!火が出るぞ!」
耳慣れない、低い男の声が大きく空気を震わせる。
一瞬で場の空気がザワリと変化し、所々で悲鳴が上がり始めた。
「大丈夫です。落ち着いて!」
「カーン」とミストラスが高く鐘を鳴らし、向こう側でクテシフォンが小さな火を消しているのが見える。
しかし、次の火の手が上がる。
手前側の女性のローブに、火が着いたのだ。
甲高い、悲鳴が響いた。
ヤバい。
一瞬でそう、悟ったけど時既に遅し。
次々と上がる悲鳴に、他にもあちこちで小さな爆発音、煙。
まじない道具であろう事は分かるが、池の周りはパニックだ。
音と煙に紛れて上がるいくつかの火の手と、悲鳴、怒号。
しかし殆どの人が大声を上げていない事は私には分かっていた。
何人かの怪しい動きのローブが、あちこちで悲鳴と陽動をしているのだ。
戸惑う人々の中で意志を持ち、明確に行動する者は目立つ。
誰だ?
いや、みんな同じローブで判らない。
でも多分。
「向こう」から来た人間に、間違いはない筈だ。
怪しい動きに気が付いたレシフェがローブを捕まえたのが見える。
「目耳」が幾つか飛び回るのも見え、視線をアラルエティーに戻した。
大丈夫だろうか?
しかしその、彼女が見ていたのは。
祈りを止め、見上げていたのは空。
釣られて上空に視線を移すと、そこには初めて見る、黒い、雲があった。
何故だか私はその瞬間、「まずい」と思いアラルエティーに向かって走っていた。
多分、あの子は。
「祭祀を無事終わらせる事」に、賭けていて。
きっと「光が降る」ということ。
「青空が見える」ということを、完成させねばならないと、思っている筈だ。
あのどす黒い、雲を目にしてしまったなら。
「心が折れるかもしれない」と心配になった私は、全速力でアラルエティーの元へ向かっていた。
火が着いたローブが増えてきて、逃げ惑う人に踏まれないように走る。
多分、叫んでも猫の声は届かない。
そのぐらいはこの場は混乱していて、きっと奴らの思惑通りなのが分かる。
「いた!」
あの目立つローブが目に入って、駆けて行くと近くの人の火を消す手伝いをしているのが見えた。
あら、思ったよりも気丈ね…。
ホッと、少し足を緩めたその時私を追い抜いた男が、いた。
「アラルエティー!!」
多分、声は届かなかったろう。
しかしこの混乱の最中、一目散にその方向へ進む、男の意図は明確で。
瞬時に悟ったものの、私の声は届かず男の手が伸びるのが、見えた。
その瞬間、「もう、駄目かも」と思った私の目に飛び込んできた閃光と雷が落ちる様な、音。
「ど、わっっ!!!」
物凄く眩しい光が、物凄い音を立てて降ってきて。
思わず、目を閉じてその場に蹲み込んだわ。
縮み込んだの方が、正しいかも、しれないけど。
その光が青かったから、「依るだ」という事はすぐに分かった。
とにかく、その光に潰されない様に。
その場に留まり、辺りの様子を伺う。
何しろその光は、降ってきただけではなく、その場に光の柱として留まっているのだ。
何コレ。
どーなってんの??
しかし、その怪しい男とアラルエティーを遮っているのだけは、判る。
と、いう事は。
他の怪しい男の前にも、コレが落ちるのか。
それとも、どこかが囲まれるのか。
なにしろ私の勘は、「これだけじゃ、終わる訳が、ない」とビシビシいっている。
アラルエティーの様子を確認すると、驚いてはいるがアリススプリングスがそちらへ向かっているので任せる事にした。
とにかく、子供達を避難………できるかしら?
そうして考え踵を返すと、向こうの池の端から光の柱が降り出したのが、分かる。
「ヤバい。」
それなら早く、逃さなくちゃ。
とりあえずは、大丈夫そう。うん。
最後にもう一度アラルエティーを振り返り確認すると、子供達の方へ向かって、走ったのだ。
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