透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

雨の祭祀 回収

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無数の光、それに照らされ光る雨の、粒。



虹色のそれを瞼に映しながら、ゆらゆらと揺蕩って、いた。



「大丈夫?」

「いや、いけない」

「これでいいの?」

「駄目だ こんな目に合わせて」

「そうだ やり返そう」

「可哀想に 辛かったろう」

「いこう」

「そうだ」
「ああ」
「懲らしめねば」
「なあ」






……………うん?

物騒な話をしているのは、誰?



揺れている様な揺蕩うこの感触は、何だろうか。

この、懐かしい様な、どこか知っている様な感覚は…。
最近、微睡んだ、よう な



「んん?」


パッチリと、目を開けた。

「ああ!」

ここは、あの揺り籠の中だ。


「ん?でも………?」

少しだけ、変化した様なこの空間には以前よりも、色が、ある。

茶、紫紺、灰土、深緑………

大地を連想させる「いろ」が加わっているのが分かって、言わずと祭祀の効果が、知れる。


何しろ、無事終わったのだろうか。


私が、に居るということは。


あの金色に連れてこられたか、自分で逃げ込んだのか、兎に角安全圏に隠されている事だけは、分かるのだけど。


「これ、いつ出ればいいんだろう………。」


しかし、あまりに心地の良いこの、空間と取り囲む揺らぎに。

「ま、いっか…………。」

大分、疲れてもいた私はすぐにゴロリと、横になった。





て、いうか。


耳に響くコポコポという音、心地良く私を撫でる水の様な動き。

チラリと出てくるあのローブ達への思いは、フッと何処かへ追いやられて。

代わりに、さっき話していたのが誰なのか、気になってきた。


は。

滅多な者は、入れない、筈だから。


辺りに自分を拡げて、確認する。


もう、やり方は解っている。


私をこの心地よく流れる水に、溶け込ませて。

じわり、じわりと拡げてゆくのだ。




「ああ。」


わかった。


あの子達ね………。



私が、預かったものたち。

「怒り」や「憎しみ」「恨み」「辛み」「どうしようもない想い」、「持っては行けない想い」達だ。


しかし、その辛さのみでできた様なものたちでも。

私の事を、心配していたのが分かって。


「なんだよ………。」


堪えていた、涙が溢れ出して、きた。




そう、大変だった。

混乱した。

ぐちゃぐちゃに、されたけど。


それでも祈りは。


きっと届いて、「あそこへ行きたいもの」はきちんと、入って。

「まだ残りたいもの」はこの庭へ。


そうして沢山の「想い」が昇って、流れて、美しく光り、瞬いて。


そう、「ひと」は。


やはり、美しかったんだ。




嫌なことも沢山ある。

あいつらも、嫌。

駄目なところも、あるんだけど。



「でも、やっぱり。」



それには、それの、色もきっとあって。

綺麗な色、ばかりじゃ、ない。

けれど。


「私」は。



人として、生まれたからには美しくありたいし、美しいものが見たい。

美しいものが知りたい。

美しいものが食べたいし、飲みたいし、触れたい、包まれたい。



そうして沢山の、「美しいもの」を見て知って、自分の中に沢山「これでもか」と、取り込んで。


「私自身」も。



美しいものに、なりたいんだ。


美しく、在りたいんだ。




そう、あの金色に輝く。

あの、羽の、焔の、ように。





みんな、一人一人、それぞれの色を、持っていて。

それが輝き、昇る、さま


美し過ぎる、あの光景が、一人一人が「在る」うちに、見られていたなら。



止め処なく出る涙、しかし私を見るものは誰もいない。

あの子達、以外は。


でも、いい。

あの子達には、私の全部を見られても。
見せて、染み込ませて、この「ひとは美しいのだ」という、想いを。

「知って」、そうして染み込ませて、少しでも癒やしてそうしてきっと、そのまま抱えて。


いつかたどり着くであろう、「その場所」まで。


きちんと、持って、行く。

連れて、ゆくんだ。




そう、何となくこの祭祀で見えた、自分の役割が。


「まさか、運び屋…………?」



  「そうなのかもな 」


あれ。


思わぬところから返事が降ってくる。

この、心地の良い音はこの揺り籠の主だろう。


私と共に、みんなを受け入れてくれて。

「ありがとう。」


  「なあに。元々はこの大地の、もの。」


そう、言ってくれると。


嬉しい。



「ところで。ねえ、知ってる?」


結局、祭祀はどうなったのだろうか。

光は?

チカラは?

降りた?

巡った?

この、後はどうなる?


私の思いが分かるのだろう、少し辺りを探る様な水の流れがあって、大地がこの島を巡るのが、わかる。


凄いな、この、感覚。


緩く、流れる泥の様なゆっくりとした動き、厚みのある色と程よい重さが感じられるこの大地の、「なかみ」。

灰色の砂が変化しているのが分かって、緑が育ちそうだと何となく思った。
きっと、そうなのだろうけど。


  「光は、降った、チカラは巡った 」


  「充分過ぎる、程にな 」



「それなら、良かった。」


何処からか光が差して、一部黄色の氷の様な空間が見える。

なにしろ、みんなを送って、チカラが流れたのなら。

それで、いい。


後は、アラルが無事でみんなの怪我が。
酷くないと、いいのだけど。


火のついたローブ、逃げ惑う人々が思い出されるが、この島は今揺らいでいない。

多分、大丈夫な、筈。



しかし疲れて散らしていた自分を、回収する私。


やはり、それなりに力を使ったのだろう。

ここで揺られている分には、まだいいのだけど。


これ、外に出たら相当駄目っぽいわ………。


自分の身体に意識を向けると、が解る。


それなら。


大人しく、起こしていた身体を再び横たえる事に、した。






水面が揺らめく様な、天井を見て。

「やっぱり、ここ、いいわ…………。」

キラリキラリと光る何か、時折横切る様々な、いろ。

以前は見えなかった色があるのが、嬉しい。


そうして流れる色、心地良い空気と温度、音と頬を撫でる感触。

その、どれも全てが心地よいこの空間に、抗える訳がなくて。


そう、やっぱりいつの間にか。


ストンと、眠りに落ちて、いたのだ。


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