透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
376 / 1,684
7の扉 グロッシュラー

雨の祭祀 天啓

しおりを挟む

わざとなのか、ゆっくりと飛ぶ私達は金色の光に包まれていた。


遠く、向こうの神殿の方向に赤い光が見える。

しかし、空はどす黒い、黒と灰色が混ざる雲に覆われ光が降りた様子はない。
渦を巻く様に描かれた灰色の線が辛うじてそれが雲だという事を知らせる、夜の様な空。


何故?

何が、起きてる?

あの、赤い光は何?



アラルの光だろうか?
私の石?

いや?違う?

しかしそれは徐々に近づくに連れ、光ではない事が分かる。


「え?嘘?!」

炎だ。


「なんで?どうして?!」

「下りない方がいい。」

「え?!そんなの………。」

無理、と言おうとしたが彼の言いたい事が解る。


「私は」下りない方が、いいのだ。


多分、その方がきっといい筈なんだ。

訳も分からずそう、解釈して視線を下へ戻す。



「なに、これ…………。」

所々で上がる火の手、燃えているのは何かのまじない道具だろうか。
祭祀の時に、周りに物は無い筈だ。


四角い池の周りには、逃げ惑う人々、ただ立ちすくむ人、子供達が走るのが見える。

時折ローブに火が着いた人が逃げ惑い、池に飛び込む様子が、見えて。

思わず体が動くが、がっちりと金色の腕に抑えられた私は身動きが取れない。


待って。
大丈夫。

落ち着いて。

気焔が、下さないという事は。

にいた方がいいし、きっと


なんとか、できる筈なんだ。

そう、頭を働かせてなんとか冷静になろうと頭を振った。



「え、でも、どうして?誰かが何かを爆発させたの?」

金色の腕の中、アラルの姿を探しながらそう尋ねるが、返事は返ってこない。

「あ!いた!」

近くのセイアのローブに着いた火を消す手伝いをしているアラル、それを見守りつつ何か指示を飛ばしているアリススプリングスも見える。

ほっと息を吐いて再び視線を滑らせようとすると、怪しい動きをしている男が見えた。

それと同時に、返事が返ってくる。

「いや、始めは小さな爆発だった。だが、誰かが叫んだのだ。「火だ、逃げろ!」と。「爆発するぞ!」とな。」

「えっ?あっ!」

返事をしたと同時に、アラルに近づく男、私の思考は「パニック状態だ」という事に気が付きその犯人が同時に判る。

アラルへ手を伸ばす男、何人かの怪しい動きのローブが目に、入ったのだ。



視界に映るは逃げ惑う人達の間を逆流し、怪しげに動くローブ、向かう先は「青の少女」。
明らかに視線はあの、目立つ白水色のローブへ向けられていて、それに気付いた瞬間私の冷静さは何処かへ飛んだ。


狙われている。

私の代わりの、「青の少女」が。



   瞬間、プツンと私の中で何かが、切れた。




はあ?

       ふざけないで。




「「隠せ。」」

髪に手を伸ばしアキを外してそう、命ずる。


「どうする?」

「「光だ。」」

「オーケー、特大の青い、アレ。みんなの周りを囲って。いくよ?藍、手伝って。」

「わかった」

「「了」」



「ブン」と軽く手を振り、空から光を降ろす。

「いけ。」

手は、軽くしかしチカラは込めて。
素早く、あの男からアラルを引き離して?


   先ずは、一発。皆の動きを、止めろ。


その、声と共に爆音と光の柱が降りる。
「ドン」という重い音と空を切る風、瞬間変わる、場の空気。

氷の柱か、光の筋か。

幾重にも重なる、青い宝石の柱の様な光が降り立つ。
青の光が「あの時」と同じ様に天地を行き来し、人々の動きを止めた。


よし、先ずはこれでいい。


始めにアラルの前に光を落とすと、順に池の周りを青の光で囲ってゆく。

風と音、冷たく頬を打つ雨粒と共に降ってくる無数の青い光の柱。

場は完全に凍り付いている。



さながら、「青の光の柱の中」にいる、ように。


先ずは、この場を遮断しろ。

場を、支配するのだ。




以前、この光の柱を降ろしたのは、いつだったか。

扱い方は解っている。


ピタリと動きを止めた人々は、光が降りてきた頭上を見つめているが、今は見えない筈だ。
アキに守られている私達は、安全だしきっとあの、青い光の眩しさで。

長く、上は見られない筈だ。


「原因」が解っている、レシフェとシュレジエン、イストリア達が子供達を誘導し始めたのが見える。



よし。

それなら。  いいかな?


冷静であろうとしている私の中は、怒りと憤り、アラルへの思いと惑わされた人々に対する思いがごちゃ混ぜで。

自分が、怒って、いるのか。

怒りを通り越して、冷静になれているのか。

凪いではいないが静かな心の中はしかし、ぐちゃぐちゃでもあって。


よく、分からなかった。


でも。


言いたい事は、ある。

あるんだよ。



は、腐っても「祭祀」の筈で。

あの人達に、利用される様なものでは、なくて。

みんなが。

誘導され、パニックになって。


「祭祀をぶち壊すのに利用されたこと」。

人を、傷つけたこと。

「青の少女」へ危害を加えようとしていること。


そもそも、「祈り」を蔑ろにした、こと。


もっと、もっと沢山ある気がするけど、怒りが込み上げてきて拳が震えているのが分かり、思考を止めた。



ちょっと あなたたち?


もっと  ちゃんと  「みんな」のために。


祈ったら、いかがかしら?




ドウドウと爆音を響かせ乱立している光の柱は、凡そ逃げ出せる気は、しないのだろう。

誰も、動かない。

ただ、戸惑い畏れているだけだ。


少し、手を捻り光を燻らせて遊ぶ。

空間が狭まり悲鳴が上がる。

再び拡げ、安堵の声が聞こえた頃また、狭める。



「遊ぶでない。」

いつの間にか、私は一人で立っていて囲む金色の羽に支えられているのが分かる。


「「フン。全て潰してしまえ?」」

「それは止めろ。後で、後悔するぞ。」


二人の会話を聞きながら、少し冷静になり私のする事を考える。


どう、する?


今は止まって、戸惑っているけれど。

再び、アラルへ手が、伸びたなら。


ぐん、と回る自分の中の青い、光。

速度が速くなるを、ぐっと抑える。


駄目だ、落ち着いて。

私の、仕事は。

考えろ。


  この場を、収める


  最善策は、なんだ?



「お前の。を、降らせろ」



思い浮かんだのは、本部長の言葉。

この期に及んでその一言が正解だったことが分かる。
だって多分。

それ以外の事は、思い、出せないから。




「光を降らす。「天啓」として。、だよね?」

腕輪を出し、ハキに訊く。



そう そうか

か。



ハキがキラリと白く輝き、返事が判る。

それなら。


「気焔、手伝って。「あの声」で、響かせて。」

それだけ、言って。

私は口を、開いた。




   「祈りを。想いを。忘れた者たちよ。」



ブン、と震える青の光の中の、空間。



  「お前たちが「神」を名乗るのならば。

 をそのまま返そう。


         受け取れ。


    が、「神」の意志だ。」




大きく、口を開いて。

言い切り、私は空を見上げた。


未だ暗い空、黒い雲に覆われたここは凡そ祭祀の場所とは思えない。


今 氷の刃は無い。

しかし。


「ある」と 思えば

「切る」と  想えば。


「空」は  開いて  再び。


あの  光が。


みんなを、照らす から。



自分の手のひらを見て金色の羽を確かめ。

口付けして、チカラを注ぐ。



さあ。

          開くぞ?



瞬間 手のひらの羽が大きく伸び、刀の様な形に変化した。

その黄金の羽を見て微笑むと、振りかぶって勢いだけで雲を、斬る。


「そ れっ!」


思いきり、風を切った黄金の、羽。

共に風を起こし舞い上がり、そのまま地上に風が下りるのが判る。


そうしてブワリと、目の前の光が一瞬で変わる。

一部だけ変化した空の、色。
黄色の光が見え、口の端が上がる。


「ハハッ、なんでも、できるね?」


スッパリと雲が切れたのが判って、握る羽につい話し掛けた。
これは、多分金色が変化している筈だ。


「じゃあ、もう一回。いくよ?」


もっと、もっと風が、必要な筈だ。

一回、二回と、軽く、鋭い羽を振り下ろして。


青の柱は消す。


     そして、代わりに光を。



特別な。


あいつらの言う、「神の光」とやらを。


見てろよ?


 お望み通り。



     降らせて、やろうじゃ ないか。




眼下に見える怪しげなローブ達は、未だ戸惑いの中だ。
今の、うちに。



何色?

好きな、色?


そう、ね。
でも、暗い色が嫌いな訳じゃ、ない。

レシフェは黒だし。

灰色も、綺麗。

茶も、これからは沢山見る筈だ。

赤も、青も、緑も。

黄色は、沢山あるし。


山吹も紅も、群青も青磁も檜皮葺も、若草も。


混ぜて  混ざって  沢山のいろが。


できれば、いい。


ああ  白が。  無いな?


でも。

白は「私たち」の、色。

それは            そう ね



取っておこうか。うん。


解った。あっちで。  ね。





ああ、あの、色。

「あれ」は。やめておこう。


それだけ。


あとは 全部で。


全ての、いろ

曖昧な色  ハッキリとした色

季節の色   世界の色  自然の色


宇宙そらの 見えない色ですら。


降らせよう

この、世界に。




   さあ 

        思い知れ。



  その  お前達の 言う



      「神の采配」とやらを   な。





島全体に響いたであろう金色の声を知っている私は、この光を「天啓」として、降らせる。

私の、好きな色。

嫌いな色なんて、本来は、無い。


そう、「あの色」以外は。



さあ 目を瞑って。

島全体を 取り囲め。


あっちの端から こっちの端まで

なんなら  下の  シャット迄をも 

 網羅して


きっと  ある。

わかる。



あの 橙は  見知った色だ。

私の見慣れた  あの時の  あの

「もう なんもいらない」色



それすら  無視して 

何も  見ない   自分達以外は

何も    ない


自分の為に

自分達だけのために?

何を?

光を?

止めるの?


そろそろ


  怒っても  いいんじゃないか

  私たちは  知らな過ぎた

 我慢を  し過ぎた

    許し過ぎた  慣れ過ぎた


   そう  声を上げぬ事に


     慣れ過ぎて  慣らされ過ぎて


   そうしてここまで        きたんだ




叫べ

怒れ

吼えろ

声を   上げろ。



時代ときは  来た


新しい  時代   私たちの


 そう   一人一人の 


   「色」を  表す時が  来たんだ






   「いけ。これが「天啓」の光だ。」





そう  その 瞬間


再びの爆音と共に

この 島  グロッシュラー全体が


   虹の  オーロラの  光の柱に


          包まれたんだ。













しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...