透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

其々の祈り

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以前、ミストラスが言っていた「何を考えているかは、判りません」という言葉。


確かに「お腹空いた」かもしれないし、「力が欲しい」かも、しれない。

今、ここにいるメンバーはきっと真面目な人ばかりだ。
もしかしたら、真剣に神に祈ったり。
長に、祈ったり、していたのかもしれないけど。


白い部屋の中を、ぐるりと見渡す。

みんな真剣に考えてくれている様だ。
しかしそれぞれの顔に浮かんでいる色が、分かりやすくて面白い。
そんな中、一番分かりやすい人が、いた。


あ、一人完璧に長に祈っている人、いるな………。

今回は、どう祈るんだろう?


私の視線に気が付いたのはそのミストラスが一番だった。

もしかしたら、答えは初めから、決まっているからかもしれない。
きっと、いつでも、勿論今回も。

彼の祈りの対象はいつだってなのだろう。

そういや「姿が神々しい」みたいな事、言ってた気がするな………?
なんか、光ってる?とかなのかな??


ミストラスはただ黙って頷いていて、「私には訊かなくていいだろう」的な事を思っているのが分かる。

それなら、と順にみんなの表情を確認していく。
視線を彷徨わせて、早速白いローブに捕まったけれど。

いやいや、ウェストファリアさんもいいかな………。
クテシフォンさんも、大体解るし………。
めっちゃ真面目な回答返ってきそうだから、その後の人困るかもしれないな?

「私に訊いていいぞ」という顔のウェストファリアには敢えて訊かない。

うん。
それがいいと思う。

そのまま窓の側にいる、イストリアと目が合った。


あれ?
でも、イストリアさんは何に、祈ってるんだろう?
そもそも、祈るイメージ、無いな?


そんな失礼な事を考えていると、半分バレているのだろう、面白そうにこう言われてしまった。

「私だって、一応は祈るよ?しかし、これまではまあに祈っていたかな?私の空間を維持してくれる、大切なものだからね。祈りが、あれの力になるのは、判っていたし。しかし今回は。」

一度言葉を切ったイストリアは、部屋をぐるりと見渡す。
そうして一つ、頷くとこう言った。

、祈るよ。私達の「青の少女」に。風を起こす者に、最大限の、感謝を。みんな多分、だと思うけどね?いや、ブラッドフォードあたりはどうかな?」

頷いているクテシフォン、シュレジエン、ラガシュ。
それを見て嬉しくなると共に、ジンとしてしまう。
感情が漏れ出さないよう、下を向いた。


私は祈られる様な、ものではないのだけれど。

でも、きっと。
これは、受け取っておいた方がいい、想いで。

口を開くと危ない私は、顔を上げ、頷くみんなの顔を見て応える。
言葉には、出せないけれど。

きっと。
みんなには、伝わる筈だ。

一人一人、目を合わせると再び目頭がまずい。


駄目駄目、私、大人になったし。
涙腺君、仕事してるし。


そうして私が一人体勢を立て直していると、いつの間にかみんなの視線がブラッドフォードに集まっていた。


「私、は。」

注目を浴び、口を開いた彼はしかし頭の中は纏まっていないのだろう。

でも、その「しっかり考えて話す」という向き合ってくれる姿勢が嬉しい。

結局、ブラッドフォードの真意はまだ分からないのだけど。
こうして一つ一つ、彼の行動から読み取っていくしかないのだ。


静かな部屋の中、しかし流石に注目に慣れているのか緊張した様な様子はない。

始めの一言から少し、考えると彼は再び、口を開いた。

「私は、この世界の、未来に。」

そう、一言だけ言った、彼。


なんだかラガシュは不満そうな顔をしているが、大体は意外な顔、イストリアはやはり楽しそうだ。

勿論私も、嬉しかった。

「未来」を、想ってくれるならば。

それは、この停滞した世界を少なからず動かしたい、と思っているという事で。

きっとこれからのデヴァイを背負って立つうちの、一人に違いない彼が言うならば。


決して、為し得ない未来ではないのだと。

思える、からだ。



各々がきっとブラッドフォードの言葉を飲み込んだ頃に、自然と視線が私に集まってきた。

もう、他のみんなは「聞かなくても解るだろう」的な顔をしていて。
みんなが、私の「お願い」を待っているのが分かる。

そうそう、質問したの、私だしね………。



祈り。

何故、祈るのか。
どう、祈るのか。

ここへ来て沢山考えて。

色々な人の、想いを見てきたけれど。


多分、私が思う、ことは。

ただ一つ、なんだ。


「あの。皆さんそれぞれの祈りがあるのは当然だと思いますが。私の「お願い」って、多分これしか無くて。」

頷いてくれなくてもいい。

解って、もらえなくてもいい。

みんな、其々の祈りがあっていい。


ただ、も、心の隅に置いて。


祈ってくれたなら。

きっと。


「「みんな」の、為に。生きている者、いない者。全てのこの島に、いや、にある、ものに。」

「かつてあったもの、今は無い自然や空、見た事がないかもしれないけど太陽や月。草花や虫、小さな命や、……今はもう、見えない祈り。」


「力は。吸い取られていたとしても。きっと「想い」は、昇って。「そら」に。若しくはこの島の、何処かに。きっと、あるから。」

頑張れ、私。

目元がじんわりしてきたけれど、我慢だ。
きちんと、話さなくてはならない。


「みんな」の、「祈り」の為に。


「「みんな」を想って祈れば、多分これまでの想いも。これからの想いも、風に乗ってきっと島を巡ります。がチカラになってきっと新しい何かが始まる。私達の、世界は私達が、創る。できるんですよ、きっと。祈りが、カタチになって。今まで見えなかったものが、無いと思われていたものが、きちんと祈りが届くと、芽吹いてそして、生命いのちに、なる。」

「お願いは、「みんなに祈る」ことと「信じること」それだけです。「みんな」とは、「ぜんぶ」「すべて」のこと。生命あるもの、ないもの、分かりにくいかもしれないけど、とりあえず「目に映るもの、全て」。」

「祈りを信じるのか、力を信じるのか。何を根拠に、「できる」と言うのか。………それは私を、信じて欲しいし、「自分」を信じて欲しいし、きっとできる。いや、やるんです。絶対、できるもん。……この祭祀が終わった時に、笑顔に、なれるように。私達は。やるんだ。」

そう、「みんながみんなのために」祈れば。

できない事なんて、きっと、無いのだから。



一気に喋って、大きく、息を吐いた。


言いたい事は、言えた。
全然、纏まってなかったけど。

意味が、解らなかったかもしれないけど。


あとは。

みんなが、どう、捉えて。

どう、祈ってくれるかは信じようじゃあないか。



少し力が抜けて腰を下ろした私に、朝が寄り添ってくれる。

「仕方が無いわね」とでも言いたそうな顔だけど。
その朝の行動ですら、ジンときてしまう今の私。

祭祀に向けて、気が昂っているのだろうか。

でもきっと、それでいい。
私は、「想い」を。

ありったけ、乗せなければならないのだから。




「さ、後は。其々で考えろ。解散、解散。確認したい事があるやつは残れ。後は明日の、準備へ。」

敢えてだろう、何も言わずにウイントフークはこの場を締めた。


私に頷いて見せて、最初に部屋を出たのはシュレジエンだ。
小さく手を振り「子供達をよろしく」と目で言っておく。

それからミストラスが続き、ラガシュ、クテシフォンは私の頭にポンと手を置き、挨拶をする。

そうしてみんなが出て行って、レシフェが本部長と作戦を詰めているだけに、なった。


いや、いつものメンバーは勿論居るんだけど。

イストリアが未だ楽しそうに私を見ているので「?」と首を傾げる。

その、薄茶の視線がゆっくりと動いてゆく。


「あ。」

それを共に追った先に、残っていたのは。

ブラッドフォードだ。


どうしたんだろう………?

青い瞳と、目が合う。

しかし一瞬だけ、深い青に変化したその瞳はすぐに逸らされ、壁際の金色を一瞥すると彼はそのまま、出て行った。

うん?
大丈夫、かな………。

何しろ、明日になれば。

きっと、分かるんだ。


みんなが祈れば、きっと解る。

何が、見えるのか。

光か、色か、それとも何か起きるのか。


イストリアに視線を戻すと、既にウェストファリアと何かを話し込んでいる。

本部長は気焔を呼んでレシフェと三人、いつものメンバーで話を始めていて。

隣には、朝。
目の前にはベイルートがキラリと、光る。


そうして私は再び一息吐きながら、「明日以降もこの光景が見れるといいな」とビロードを撫でながら思っていた。


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