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7の扉 グロッシュラー
全てを繋げ
しおりを挟む繋げ
繋げ
全てを この大地を
走れ 謳え
全てを目に入れ 漏らさぬ様に
あの雲も
あの灰色の砂も 土地も
大きく 冷たい灰色の神殿も
天空の門 まじないの木
大きな壁 細長い窓
四角く 空色を湛えた大きな池も
全てを駆け抜け
網羅しろ
石の館
灰色の倉庫
多色の貴石
石の橋
白く 旧い神殿
そして 黒い あの場所
全て 全てだ
見て 一つ残らず見て 漏らさぬ様に
祈り 謳い 舞い
叫べ
必要なものは全て届き
必要でないものは 風に吹き飛ばされる
そう
きっと 風が吹く
強く 荒い風が
要らないものを 吹き飛ばしてくれる風が
吹く
走れ
走れ
乗れる 私は 風に
いける
そう
いつだって
どこへでも
私は
自由に 飛んで行ける
だって
私を 縛るものは
どこにも ない
誰も いないの だから。
「ちょっと、待ちなさいよ!!」
「キャハハ!」
「キャハハじゃないわよ!っ、もう!」
朝に小言を言われながら灰色の大地を駆け巡る。
そう、私は朝から走っていた。
何故だか、そんな気分だったからだ。
昨日、シンに会ったから?
ハイテンションなのかも、しれない。
祭祀の前にやる事は大体終わって、あとは待つだけの私。
そう、ぶっちゃけ暇だったのだ。
そうして何故だか有り余るエネルギーを消化する為、祈りを隅々まで届かせるには…なんて考えていたら、急に走り出したくなったのである。
うん。
あるある、そんなこと。
「ちょ、あんた待ちなさいよ………。猫のが疲れるって、どういう事………。」
朝に小言を言われながら辿り着いたのは、旧い神殿だ。
勿論、隅々まで見ようと思えば、ここに辿り着く。
彼方の神殿よりも、白い、ここ。
入り口に立ち、崩れた回廊を見上げる。
切り取られた雲、残る柱とかつて在ったであろう植物達を写した壁。
壊れて、未だ残るもの特有の美しさを放つそれらを堪能すると、久しぶりに中へ入る事にした。
静かに流れる水の間を進むと、いつの間にか中へ入り階段を少し下がる。
太陽の踊り場に出て、その、意味が解る。
「ああ、そうね。やっぱり、そうだ。」
自分の考えが正しかった事が分かって、また一つ納得できた。
やはり。
太陽は。
あって、この地を照らして。
植物達も豊かで、きっといい土地だったに違いない。
ここも。
こんなに、美しいのだから。
踊り場を抜け、礼拝堂へ入りそう思う。
以前感じた怖さ。
空気。
違和感、知らぬ場所という感覚。
それらはもう無く、そこにあるのは「ただ美しかった空間」。
「時が経つ」という、事実。
そうしてそれを「繋いでいきたいという想い」。
「絵に、描きたいなぁ。」
でもきっと、私の実力では。
「これ」は、表せないんだろうけど。
ふと、あのカードの事を思い出して楽しくなる。
あれは「デヴァイに作者がいる」と白い魔法使いが言っていた筈だ。
もしかすれば。
芸術面に、秀でた人がいるのだろう。
「ここと、あっちが繋がれば。ここに来て、描いてもらえるかも??やだ!いい!」
一人ジタジタしていると、目の前を朝が横切っていく。
冷たい目付きだ。
うん、とりあえず進もう。
相変わらずの瓦礫の中を進み、凹んだベンチのクッション、時折落ちている気配に耳を澄ませる。
誰も、いないんだけど。
「誰かが、いた」のは、分かって。
きっとどんなに素晴らしく造られても、誰も、ここで祈らなければ。
無かったであろう、この空気。
途中から、祈りの対象は変わったとしても。
きっと。
真摯な、「祈り」は届いた筈なんだ。
だって、「祈り」には力がある。
それが、石に吸い込まれるだけとか。
「それは。多分、無いな…。」
きっとどこかにある。
眠っているのかも、しれない。
力になる部分は吸い取られてしまったとしても。
みんなの。
「想い」の部分は。
きっと、どこかに登っている筈なんだ。
「もしかしたら、もう空にあるのかもね?」
なんとなく「想い」がふわふわと空へ登る姿を想像して、一人納得する。
うん、でも多分。
ちゃんと、あるから。
「大丈夫。」
そう言って、円窓への階段を登った。
「祈っちゃ、ダメよ?」
「分ーかーってるって!」
「怪しい。言わなきゃ、漏れてたね。」
「漏れるって何よ………。」
しかしあながち間違いでも無いだろう。
テンションが上がった私は、基本的にきっと何かを撒き散らしている自信がある。
それは、見えないものなのだろうけど。
きっとウキウキして寝れない遠足前の子供からも、出ていそうな「何か」。
それを感じてはいたので、気を付けて真ん中を見に行く。
あの、ハキが出てきた所だ。
「結局、この文字は「祈り」について書いてあるんだよね…?」
結果としてあの本は長へのラブレターでは無かったけれど。
これは、祈りについて書かれているのは変わっていないだろう。
今はもう使われていない文字。
それが示す、祈りのこと。
この場で、祈るということ、それがあの場所へ繋がるということ。
この島の核、あの子の元へ。
きっと、以前は。
もしかしたら、あの子も。
「地上に、在ったりして………?」
でも本当に、争いがないならば。
みんなが、力を受ける術を知っていてそれぞれが豊かに自分の色を体現していたら。
「できる、よねぇ?うん、理想かもしれないけど。」
「なに?止めてよ?」
朝の尖った声に笑いつつも、でも、やっぱり。
「目標は、高く!」
「嫌な予感しか、しないんだけど。」
「ちょっと、朝漫才じゃないんだけど…。」
「そんなつもりないわよ。至って正常な反応。」
「なにそれ。」
円窓のカーブを見上げ、その曲線を目でなぞってゆく。
生き物の動きをなぞる曲線、丸いかたち、「円」ということ。
一つ一つが葉のように見える小さな窓から差し込む光は「そうだよ」と言っている様に見える。
私達一人一人が回す「輪」、世界の繋がり、「人」の繋がり、「生命」の繋がりも、みんな輪で、円で。
この、踊り場の形も、真ん中の文字、丸く形取った鏡の様なこれも。
小窓を含む大きな、窓の形も。
みんな、丸くて円で、繋がっていて。
それが壊れて、今は違うカタチだ。
向こうの神殿を思い出す。
「デザイン的には、素敵だけどね………。」
細長く四角い窓、辛うじてアーチ型にはなっているけれど。
「うん、でも。これから、繋げればいいし。」
古いものが好きで、時間に想いを馳せるのが好きで。
でも、時間は止まらず絶えず、動いてゆく。
それが、堪らないのかもしれない。
ずっと、止まっているもの、思い通りに遺しておけるものならば。
きっと、この感情は生まれないのだろう。
振り返り高い位置からこの礼拝堂を眺める。
いつか、誰かも見たであろう、この景色を。
「みんな」が、美しいと思ってくれると、いい。
「時間は、偉大なり。」
「大丈夫かしら…………。」
失礼な呟きが聞こえてくるが、無視しよう。
うん。
そうして私はこのテンションのまま、旧い神殿をぐるりと堪能し、最終的に飛んてきた「目耳」に回収されたのであった。
うーん?
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