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7の扉 グロッシュラー

白い彼

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どう、しようか。


でもな?
祈るの、私だしな?

でも、会いたい、かな?

それならこの前みたいに。

始めは「私」で、後から交代すれば、いい?



つらつらと考えながら、ラギシーを使ってここまでやってきた私。

そう、既に私は白い部屋の前に立っている。

姿は、そのまま。
赤い髪は止めた。

途中から交代するにしても、今は「依る」として会いに来たからだ。


でも多分、私が来るの分かってると思うんだよね………。

なんとなくだけれど、何もかもを見通す様な不思議な彼は今日の私の訪問を知っているに違いない。

普段、何をしているのかは全く見えないし予測もつかないけれど。

「何だろうね、でもきっと。守って、くれてるんだと思うけど。」

多分、私以外のもの、きっとこの大地をも。
見守ってくれているのだろうと、今はすんなり思える。


「さて………。」

ノックをすべきか、どうかな?

濃い灰青の廊下には、誰もいないし来る気配もない。

しかし静かな夜の時間、シンとした空気と揺れる青い炎、この青い静寂を崩すのは躊躇われる。
勿体、無いのだ。

しかし、迷っているうちに予想通り、扉は開いた。

「…。」

無言で差し出された手を取ると、部屋の中へ引き入れられた私。

音も無く閉まる扉、彼は真っ直ぐ私を奥の寝室へ連れて行った。







なんかおかしな感じ………。


相手はシンだ。

お茶を飲むわけでもない。


ただ、静かに少し距離を取ってベッドに座る彼をじっと見ながら、どうしようかと考えていた。

そう、私はノープランなのである。


何故だか「祭祀の前に会いに来なければ」とは思っていたけれど、基本的に出たとこ勝負の私はきっと彼を目の前にすると自分の言いたい事が判ると思っていた。


もしかしたら、ないのかもしれない。


でもなんとなくの、自分の直感を信じてただそこにいる銀色の彼を眺めていた。


金色と同じ様に美しい彼は、結局何者なのだろうか。

なんだかいつも、この疑問について考えようとすると何かに邪魔をされるか、頭に靄がかかる。
でもきっと、考えなくてもいい事なのだろう。

悪い事ではないのは、判る。

それなら、いいんだ。


私の事を守ってくれている事は、確かなのだから。


自分の白い部屋とは全く違う青い光が差す、この寝室は冷たく張った氷の湖面の様なのだけど。

そこに在る彼が、時折揺らす白い髪が少しの柔らかさを差してこの空間が冷たいだけではない事を知らせる。

少し、あの柔らかそうな髪に触ってみたいけれど。

なんとなく、をしてしまうと「あの人」のターンになる事が分かるので、今は我慢だ。

とりあえず自分のすべき事を、考え始めた。



それにしても、綺麗な色。

夜の明かりに光るそれは、紺色の部分と灰青の部分、キラリと銀色に光る部分の境目を見分けようとする私の目を楽しませていた。

白い彼から視線を外し、ベッドカバーを撫でていた私は、案の定色に気を取られていた。

いかん。

ふと、顔を上げ白い彼に視線を戻す。


その、何の色も写さない綺麗な顔を見て。

もしかしたら、「言う事なんて無いのかも」とも、思う。


多分、この祭祀が終われば私が次の扉に移動する時間はもう、すぐなのだろう。

姫様の石も見つけた、気掛かりな事は向こうに行かなければ分からない事が多い。
大体、ここでの仕事はきっと終わったのだ。

そう、思えたから。

挨拶、しに来たかったのかな…?


会いたい時にすぐ会える金色と違って、この人はきっと時が来れば姿を消すのだろう。


少し、目がじわりとして来る。


駄目駄目。

きっと、次も。

会える。


そう、だよね?


薄明かりに光る赤い瞳は、美しく恐ろしいものだけれど不思議と私の事を受け入れているのは解る。

その、何とも言えない色と揺らぎが。

肯定と、そうして何か懐かしいものを見る様な不思議な色を宿して。

「うん、ありがとう。」

何を言われているのかは、分からなかったけれどなんとなく励まされている気は、する。
それに。

多分、ここまで来れた私を労ってくれているのだろうと思った。




私は、うまくやれているだろうか。

「本当のこと」に、きちんと向かってる?

大丈夫?

間違えてない?

誰かを傷つけてはいない?

誰も取りこぼしていない?


きちんと祭祀を行なって。

みんなを、送って。

ギフトを配って。



、できる、かな??




「知っているのだろう、「こたえ」を。」

そう、静かな声で話し始めた彼。


夢の中の様な空気は、口は動いていないけれど声が聞こえる様な、不思議な感覚だ。

黙って、頷く。


そう、私は「こたえ」を知っているし。

「できる」と思っていて、それを「知って」も、いる。


ただ。

この、不思議に私を見守ってくれている彼に。

少し、背中を押して欲しかったんだ。



ここへ来てから、表立っては現れないけれどいつも影から、いや天から見守ってくれている様な気がしていた、シンの事。

いつの間にか、「私だけを見ていてくれる、神様」の様な存在になっていたのかもしれない。


そんな、都合のいい事あるわけないんだけど。

そうは思いつつも、としか思えない彼をじっと、見つめる。


ただ黙って私を見つめるその赤い瞳は、やはり私をしっかりと肯定してそして私の中の何かを固める手伝いをしてくれていて。

やはり「赤」は力になる色なのだなぁと、感じるのだ。


あの金色が、空から降るあの光に似たチカラになる色と同じで。

この、赤も。

燃えて、みんなを照らすあの赤く激しい星によく、似ていて。

静かなのに、激しく。

燃えるその、確固たる瞳に鼓舞されて。


チカラを、貰えるんだ。


繋がらなくても。

触れなくとも。

「想い」が、繋がれば。


私達は、共有、できる。



「与えられた」とかじゃなくて。

私が「欲しい」と思って、奪うのではなく「感じて」「見て」自分の糧にするもの。

私にとっては、そういうもの。


「きっと、力も。なればいいのに。」

この、夜の今ですらきっと、降り注いでいるのであろう「空」からの力。


受け取る事を忘れた人たち。

受け取り方を忘れた、人たち。


本当はきっと。

私達は、呼吸をする様に力を受け取ってそれを生かして、いける筈なんだ。

奪うのではなく。
争うのではなく。

ただお互いの事を思って、光を。

受け取り、生かすだけ。


「それだけ、で。いいのにね。」


私の独り言を黙って聞いていた彼は、不思議な事を言う。

はそうして。この世を、遊んでいるのだろうよ。」

「え?」

遊んでる?

そんな、事あり?


じっと白い彼を見ながら考える。

でも。

確かに。


この事態を引き起こしているのは、私達で。

きっと自然や、この島や、世界は何も、していなくて。

ただ。

私達が?

ジタバタ、しているだけ??


うん?

そうなの???






分かんないな………。

ちょっと難易度高いよ………。




顔を上げ白い彼を見ると、少し表情は和らいで私を見守っているのが分かる。

うん、ぐるぐるはまた後だね………。


少し、自分の中に問い掛けてみる。


どう?

訊かなくても、分かるけど。

多分、

これが、最後だと思うから。





「おいで。」


シンがゆっくりと手を出した所までしか覚えていない。



ただ、次の朝起きた私の目は少し赤くて。


ああ、やはりは。


「あるべき処」へ帰らなくてはならないのだ、と思った。


私、一人では。

しあわせに、ならない、と。



「みんな」が、「私」が。

「還りたい場所」へ帰るのだと。

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