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7の扉 グロッシュラー
アラルとヨル
しおりを挟む「なんだか重装備になってきてない?」
「気の所為だよ。これでも足りないかも。」
「冗談よしてよ?できれば何も無いと、思いたいけれど。」
「まぁね…………。」
アラルの部屋の扉を叩いたのは、リボンが編み上がってすぐだ。
とは言っても、あの後ワンピースに取り掛かったから次の日では、あるのだけれど。
ローブに付けた石の事は、言っていない。
しかし、石が付いている事で守りになっているのが分かるのだろう、そのローブと並べられたリボン、赤い石。
私の石の中で、赤いものを選んで、持って来た。
なんとなく、だけれど。
この赤い光が打ち上がったら、私が「そっち」へ行くからと、伝えた時のアラルの顔は何かを予想している様で。
何も言わずにそれを受け取った彼女を守らなくては、と再び思う。
「どう?緊張してる?」
そう声を掛けた私に、そのまま返すアラル。
「そっちは?どうなの?大丈夫なの?」
どうして今回、祈りの場が別れたのか。
それは説明していないが、多分気が付いてはいるだろう。
だって、その理由は。
どうしたって、一つ、しか無いからだ。
「でも。ありがとう。あの後、あの人の態度も。少しは変わったわ。もしかしたらという気持ちが、芽生えなかった訳じゃ、なさそう。」
「うん?」
持って回った言い回しのアラルに混乱しつつも、明るい表情につられて微笑む。
「それなら良かった。でも。ねえ?いい、かな?」
「何が」とは、言わなかったけど。
多分、私の質問の意図は伝わったと、思う。
私の質問は「本当に「青の少女」になっても、いいのか」ということだ。
そのつもりでここへ来たと、ハッキリ言っていた彼女。
でも。
それは、危険を伴うことで。
結局、予言が未だハッキリしていないうちは結果がどう転ぶのかも、分からないのだ。
今は新説が有力視されて、「青の少女は救い」だと認識されつつ、ある。
けれどもほんの少し、前迄は。
「青の少女は滅び」を運んでくるもので。
多分「不吉」なものだった筈だ。
そんな私の心配を見透かした様にアラルは言う。
「私は、これだけは自分で決めたわ。だから、大丈夫。」
そうハッキリと言う彼女を前にして。
言葉を飲み込む、私。
「大事なことは何も決められない」と言っていたアラル。
どういう経緯で、「青の少女になる」事だけは彼女に委ねられたのか。
「ならない」という選択肢が、あったということか。
それとも、彼女でなければ。
他の子が、なったという事なのだろうか。
でもきっと、後者なのだろう。
デヴァイはそんなに甘い所では無い筈だ。
「使えないのなら次」
きっとそんな世界で。
しかし「最後の賭け」だと、ここへ来た彼女。
それなら、私のすることは決まっている。
「じゃあ、そうするから。最終的に、あの人と。結婚、してよ?」
「えっ。」
「だって。その為に、やるんでしょう?それに、アラルが結婚してくれないと。私は、嫌だよ。」
「嫌、って………。」
「え?じゃあ、いいの?」
「…………駄目。」
「フフッ、じゃあ決定ね?」
顔を見合わせ、笑う私達。
共犯の様な雰囲気が楽しくなってきて、二人で一頻り笑う。
ふんわりとした空色の髪が、明るく見えた事に安堵して、これからの事を少し思う。
うまく行くか、どうなのか。
でも。
私達の、望む方向に。
自分達で、持って行くんだ。
多分、私達が思っている事は同じだろう。
彼女を見ているとそれが判るのが、嬉しい。
それに、「どうにもならない」と言っていたアラルが。
こうして笑ってくれる様になったという事は、私の「ギフト」が届いたのだと、思っていいだろうか。
そういうつもりはなかった、あの光だけれど。
何しろ彼女の為に、みんなの為に降らせた光だ。
それが、力になったならば。
「言う事なし、ということで。」
「何、言ってるのよ?」
そう言いつつも一つ頷いて、アラルがまたお茶を淹れようと立ち上がる。
その様子を見ながらも、祭祀の事について注意事項を述べてゆく私。
心配事は、まだまだある。
「でも。向こうで、祭祀は無いの?初めて?この前見たのは。」
「そうね?それに、そもそもただ礼拝堂で祈るのかと思っていたら。あんなのだったでしょう?驚いたわよ。ていうか、本当、どうするの?」
確かに。
きっと、前回同様の事を期待されているのが分かるのだろう。
アラルの顔には「心配」と書いてある。
私の心配点は一つだけだ。
予定通り、行けばだけど。
「そのね?扉は、出ると思う。それが、どの辺に出るかだけなんだよね………。うん?でも二つ、出すって手もあるな…?無理かな?いや、デカすぎるよりはいいかもしれない。」
怪しげな事を呟き出した私に益々不安そうなアラル。
そうして至極当然の質問を投げ掛けられる。
「て、いうか。その「扉」って、結局なんなの?」
「うーん。」
どう、言えばいいのか。
でも。
正直、隠す様な事なんて、無いんだけど。
そう思って、とりあえず今回の目的を話す。
それに、アラルが祈って扉を出す事だって。
きっと、本気で祈ればできると、思うから。
「あの、ね?貴石、って知ってるよね?」
「………まぁ。」
ガリアと同じ様な反応をするアラル。
デヴァイの女の人は大体この認識なのだろう、苦い顔で私の話を聞いていた。
「そう、………なの。」
しかし、ある程度包み隠さず話した私。
静かな部屋の中、言葉を失ったアラルはお茶がすっかり冷めたカップをただじっと、見つめていた。
「なかったこと」にしたくないこと、貴石以外にもロウワのこと。
「何処にも行けない」人達が、いるであろうこと。
本当は私の中のぐちゃぐちゃな感情、行き場のない想い達、「あの場所」のことだって。
もっともっと、「重い」事は、沢山あって。
でも。
それはアラルの所為ではないし、そこまで重いものを背負わせる事は、私にはできない。
してはいけない、とも思うし。
何れ分かってしまったならば、仕方が無いとは思うけれど。
未だ、この運命に乗って間もない私達の年代、それも敷かれたレールに乗る道しかない、女の子に。
この話は、酷だ。
それは私の望む所ではない。
ただ彼女の中に、この話が落ちるのを待ってお茶を飲む。
今日もいい茶葉であろう、この銀色の袋から出されたお茶は銀の家のお茶なのだろうか。
冷めても、美味しい。
アイスも、いけそう。
そんな事を考えられている、自分の変化も確認する。
重さが、抜けた訳じゃ、ない。
忘れている訳でもないし、投げやりでもない、ただ静かに「それ」を思って。
「怒り」がない訳じゃない。
沢山の、渦巻く感情、あの激しい想いは、いつだってすぐに引き出せるのだけど。
それが。
「ある」ことを分かって、その上できちんと静かに話をして、こうして待てること。
私が、それに囚われずに冷静に話すことができること。
でもきちんと、「抱えて」「持って」「必要な時に」出して、あの中に。
「還せる」こと。
多分、今なら。
ちゃんと、祈れると、思う。
少し時間を置いたことで、冷静になれたのかもしれない。
エルバの話を聞いてすぐに、祭祀だったら。
きっと、こうは行かなかったろう。
それだってきっと。
意味がある、ことで。
「みんな。静かに、送って還せること。そうすれば。また、何か新しいものが見えるんだと思う。前回の祭祀も。祈ってみないと、分からないことも多かったから。」
そう、私が言うとアラルが顔を上げた。
「えっ。あれで、無計画って、こと?」
「いや、「無計画」まででは、ないと思うんだけど…まぁどうだろうね?」
「…………。」
少しおかしな目をされているが、仕方が無いのかもしれない。
まあ見なかった事にしておこう。
「とりあえず、始まりは。「光」が、飛ぶと思うから。そうしたら、祈り始めて?」
「光?」
「そう。気焔に光が飛ぶから。アラルから見やすい場所にいてもらう様にするね。」
「えっ?彼はあなたの側に居ないの?」
ぐっ。
言葉にされるとズンとくるな………。
頭をフルフルと振り、銀灰の瞳を見た。
私の表情に何かを察したアラルは「ごめん」と言ってカップに残ったお茶を、ぐっと飲む。
「で?何を、したらいいの?」
そう言って、くれたから。
再び詳細を話し始めた。
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