透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
366 / 1,751
7の扉 グロッシュラー

アラルとヨル

しおりを挟む

「なんだか重装備になってきてない?」

「気の所為だよ。これでも足りないかも。」

「冗談よしてよ?できれば何も無いと、思いたいけれど。」

「まぁね…………。」


アラルの部屋の扉を叩いたのは、リボンが編み上がってすぐだ。
とは言っても、あの後ワンピースに取り掛かったから次の日では、あるのだけれど。


ローブに付けた石の事は、言っていない。

しかし、石が付いている事で守りになっているのが分かるのだろう、そのローブと並べられたリボン、赤い石。

私の石の中で、赤いものを選んで、持って来た。

なんとなく、だけれど。

この赤い光が打ち上がったら、私が「そっち」へ行くからと、伝えた時のアラルの顔は何かを予想している様で。
何も言わずにそれを受け取った彼女を守らなくては、と再び思う。


「どう?緊張してる?」

そう声を掛けた私に、そのまま返すアラル。

「そっちは?どうなの?大丈夫なの?」

どうして今回、祈りの場が別れたのか。

は説明していないが、多分気が付いてはいるだろう。

だって、は。
どうしたって、一つ、しか無いからだ。


「でも。ありがとう。あの後、あの人の態度も。少しは変わったわ。という気持ちが、芽生えなかった訳じゃ、なさそう。」

「うん?」

持って回った言い回しのアラルに混乱しつつも、明るい表情につられて微笑む。

「それなら良かった。でも。ねえ?いい、かな?」


「何が」とは、言わなかったけど。

多分、私の質問の意図は伝わったと、思う。

私の質問は「本当に「青の少女」になっても、いいのか」ということだ。

そのつもりでここへ来たと、ハッキリ言っていた彼女。
でも。

それは、危険を伴うことで。

結局、予言が未だハッキリしていないうちは結果が転ぶのかも、分からないのだ。

今は新説が有力視されて、「青の少女は救い」だと認識されつつ、ある。

けれどもほんの少し、前迄は。

「青の少女は滅び」を運んでくるもので。

多分「不吉」なものだった筈だ。


そんな私の心配を見透かした様にアラルは言う。

「私は、自分で決めたわ。だから、大丈夫。」

そうハッキリと言う彼女を前にして。

言葉を飲み込む、私。


「大事なことは何も決められない」と言っていたアラル。
どういう経緯で、「青の少女になる」事だけは彼女に委ねられたのか。

「ならない」という選択肢が、あったということか。
それとも、彼女でなければ。

他の子が、なったという事なのだろうか。


でもきっと、後者なのだろう。
デヴァイはそんなに甘い所では無い筈だ。

「使えないのなら次」

きっとそんな世界で。

しかし「最後の賭け」だと、ここへ来た彼女。


それなら、私のすることは決まっている。

「じゃあ、するから。最終的に、あの人と。結婚、してよ?」

「えっ。」

「だって。に、やるんでしょう?それに、アラルが結婚してくれないと。私は、嫌だよ。」

「嫌、って………。」

「え?じゃあ、いいの?」

「…………駄目。」

「フフッ、じゃあ決定ね?」


顔を見合わせ、笑う私達。
共犯の様な雰囲気が楽しくなってきて、二人で一頻り笑う。



ふんわりとした空色の髪が、明るく見えた事に安堵して、これからの事を少し思う。

うまく行くか、どうなのか。

でも。

私達の、望む方向に。

自分達で、持って行くんだ。


多分、私達が思っている事は同じだろう。

彼女を見ているとそれが判るのが、嬉しい。
それに、「どうにもならない」と言っていたアラルが。
こうして笑ってくれる様になったという事は、私の「ギフト」が届いたのだと、思っていいだろうか。

そういうつもりはなかった、あの光だけれど。

何しろ彼女の為に、みんなの為に降らせた光だ。

それが、力になったならば。

「言う事なし、ということで。」


「何、言ってるのよ?」

そう言いつつも一つ頷いて、アラルがまたお茶を淹れようと立ち上がる。

その様子を見ながらも、祭祀の事について注意事項を述べてゆく私。
心配事は、まだまだある。


「でも。向こうで、祭祀は無いの?初めて?この前見たのは。」

「そうね?それに、そもそもただ礼拝堂で祈るのかと思っていたら。のだったでしょう?驚いたわよ。ていうか、本当、するの?」

確かに。

きっと、前回同様の事を期待されているのが分かるのだろう。
アラルの顔には「心配」と書いてある。

私の心配点は一つだけだ。

予定通り、行けばだけど。

「そのね?扉は、出ると思う。が、どの辺に出るかだけなんだよね………。うん?でも二つ、出すって手もあるな…?無理かな?いや、デカすぎるよりはいいかもしれない。」

怪しげな事を呟き出した私に益々不安そうなアラル。

そうして至極当然の質問を投げ掛けられる。

「て、いうか。その「扉」って、結局なんなの?」

「うーん。」

どう、言えばいいのか。


でも。

正直、隠す様な事なんて、無いんだけど。

そう思って、とりあえず今回の目的を話す。

それに、アラルが祈って扉を出す事だって。
きっと、本気で祈ればできると、思うから。


「あの、ね?貴石、って知ってるよね?」

「………まぁ。」

ガリアと同じ様な反応をするアラル。
デヴァイの女の人は大体この認識なのだろう、苦い顔で私の話を聞いていた。




「そう、………なの。」

しかし、ある程度包み隠さず話した私。

静かな部屋の中、言葉を失ったアラルはお茶がすっかり冷めたカップをただじっと、見つめていた。


「なかったこと」にしたくないこと、貴石以外にもロウワのこと。

「何処にも行けない」人達が、いるであろうこと。


本当は私の中のぐちゃぐちゃな感情、行き場のない想い達、「あの場所」のことだって。

もっともっと、「重い」事は、沢山あって。

でも。

はアラルの所為ではないし、そこまで重いものを背負わせる事は、私にはできない。
してはいけない、とも思うし。

何れ分かってしまったならば、仕方が無いとは思うけれど。

未だ、この運命に乗って間もない私達の年代、それも敷かれたレールに乗る道しかない、女の子に。

この話は、酷だ。


それは私の望む所ではない。


ただ彼女の中に、この話が落ちるのを待ってお茶を飲む。

今日もいい茶葉であろう、この銀色の袋から出されたお茶は銀の家のお茶なのだろうか。

冷めても、美味しい。
アイスも、いけそう。


そんな事を考えられている、自分の変化も確認する。


重さが、抜けた訳じゃ、ない。

忘れている訳でもないし、投げやりでもない、ただ静かに「それ」を思って。

「怒り」がない訳じゃない。

沢山の、渦巻く感情、あの激しい想いは、いつだってすぐに引き出せるのだけど。


が。


「ある」ことを分かって、その上できちんと静かに話をして、こうして待てること。

、それに囚われずに冷静に話すことができること。

でもきちんと、「抱えて」「持って」「必要な時に」出して、あの中に。

「還せる」こと。


多分、今なら。

ちゃんと、祈れると、思う。


少し時間を置いたことで、冷静になれたのかもしれない。

エルバの話を聞いてすぐに、祭祀だったら。

きっと、は行かなかったろう。


それだってきっと。

意味がある、ことで。


「みんな。静かに、送って還せること。そうすれば。また、何か新しいものが見えるんだと思う。前回の祭祀も。祈ってみないと、分からないことも多かったから。」

そう、私が言うとアラルが顔を上げた。

「えっ。で、無計画って、こと?」

「いや、「無計画」まででは、ないと思うんだけど…まぁどうだろうね?」

「…………。」

少しおかしな目をされているが、仕方が無いのかもしれない。
まあ見なかった事にしておこう。


「とりあえず、始まりは。「光」が、飛ぶと思うから。そうしたら、祈り始めて?」

「光?」

「そう。気焔に光が飛ぶから。アラルから見やすい場所にいてもらう様にするね。」

「えっ?彼はあなたの側に居ないの?」

ぐっ。

言葉にされるとズンとくるな………。


頭をフルフルと振り、銀灰の瞳を見た。

私の表情に何かを察したアラルは「ごめん」と言ってカップに残ったお茶を、ぐっと飲む。

「で?何を、したらいいの?」

そう言って、くれたから。

再び詳細を話し始めた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...