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7の扉 グロッシュラー
扉を繋ぐもの
しおりを挟む「で?結局?みんな騙されて、力を吸い取られて。それで、その力で扉間を維持している、と。そういう事なのか?」
俺の疑問に次々と答えたイストリアは、溜息を吐きながらこう答えた。
「多分?簡単に言えば、そういう事だろうね?詳細を聞けばまた少しは変わるのかも、しれないけど概ねそんな所だろうと思うよ。やはり、あまりいい話では、ない。それにその時間が、長過ぎたんだ。疑問に思う事の無かった時間と、当たり前になってしまう、時間がね。」
「成る程。」
「そん、な………。」
まだ半分固まっているクテシフォンに、容赦なく問い掛けるイストリア。
「君だって、おかしいと感じた事は、「無かった」とは言えないだろう?礼拝堂であの絵に、祈る。小さな頃から。その前にある、あり得ない大きさのまじない石。どんどん変化し、溜まるであろう力は何処へ行くのか。その、「神」とされている人は何者なのか、実在するのかそれとも単なる偶像か。考えた事は本当になかったかい?」
「………。」
クテシフォンは押し黙ったままだ。
「まあ、私もあの子がそう、言うまでは。具体的に考える事は避けていたクチだ。偉そうな事は言えないが、何しろ奴らがそれを守る為なら何でもやるであろう事は、解るよ。それはもう、怖い程に、な。」
「………確かにそうだな。」
俺からしてみれば、よく、分かる。
世界の根底が崩れるのだ。
これまで上に従う事しかしてこなかった、デヴァイの者たち。
すぐには何も起こらないかも、しれない。
しかし。
この、問題は。
「流石に、デカ過ぎるよな………。」
その言葉を聞いて大きく頷くイストリア。
ずっと下を向いて考えていたクテシフォンが、ポツリとこう、言った。
「どれも、これも。何を………何が、本当なんだ?」
思わずイストリアと、顔を見合わせる。
多分、真面目な奴ほど。
この問題は、堪える筈だ。
クテシフォンなんぞ、その代表格みたいなものだ。
結局、俺はまだ他人事なのかも、しれない。
結局、ラピスは利用されていたとしても。
その、度合いというか程度というか。
人の、根本としての、「何か」。
搾取されている、「もの」が。
それが、全く違う話なのだ。
未だ抜け出していないクテシフォンを見ながら、俺はパズルのピースを嵌める為に再び質問をし始めた。
そうして少し経った頃、ラガシュが何処かへ出て行ってウイントフークが戻って来る。
とは言っても同じ部屋の中だが。
あいつらは隅に二人で、何の話をしていたんだろうな?
「エルバの所に行ってもらった。もう、祭祀までは一週間を切っている。何しろできる事は、早めにやっておかないとな。」
「そうか。私も行こうか?」
「ああ、そうだな?追い掛ければまだ間に合う。」
そう言ってチラリと背後に視線を飛ばすと、気焔が頷いてイストリアと出て行った。
あいつを顎で使えるのは、ヨルかこの男だけだな…。
そう思いつつも、話が纏まったのか気になって尋ねる。
「で?どうだ?何とか、なりそうか?」
長椅子に収まっているウイントフークの表情は微妙だ。
しかし暗くは、ない。
「そうだな。とりあえず今更かも知れないが「光が降るのは扉から」という噂を流す。それで扉が出るのは自然になるし、破壊、若しくは邪魔される事は無いだろう。確信がない故、疑いから破壊までは流石にしないだろう。光は、降らないと困るだろうからな。」
「そうだな。それで?」
俺の催促に嫌な顔をする。
それで終わらない事は、分かっているだろうに。
「何にしても。騒ぎを起こすとしても、方法はそんなに無いだろう。精々、力を飛ばし何かを破壊するか、「祈りを止める」か。やる事は限られる。」
そう、サラリと言ったけれどまあ、それが問題なんだけどな?
俺は表情には、出ない筈だが。
再びこちらを見て嫌な顔をした後、大きな溜息を吐いたウイントフーク。
そうして俺の頭の中と、同じ事を言った。
「そうなんだよ。どっちにしても。あいつは、黙ってない。直接、ヨルに危害が行くのもマズイんだが自分が代わりにした、「あの子」に危険が及んだなら。ハァ。………とりあえず、ラガシュが帰ってからだな。」
「何を聞きに行った?」
「そもそも、ヨルは向こうにいる。顔が見られる事は無いから、それはいい。しかし「記録」は、あるかもしれない。その「ディディエライト」のな。その、「色」についてと、容姿について。「そっくり」だという事は、描かれている可能性があるならまずいからな。特異過ぎるが故に、何か残っているものがあるかも知れない。そもそも、貴石の記録が館にあるのかどうか。もし、あるのならまた面倒な事になるが、まあ把握しておかねばならないだろう。それ如何によっては、面倒が増える。」
それは俺も、溜息が出そうだ。
そもそも、狙っているのは誰なのか、どの家なのか。
その館に「記録」とやらが、あるならば。
それは、今ある勢力と同調するのか、また別なのか。
「ああ、面倒だな………。」
「まぁな。しかし、仕方無い。あいつを巻き込んで、いるのは。俺達なんだからな。」
「…………確かに。」
たまに、忘れそうになる。
あの子が、あまりに真剣で、真っ直ぐ進んでいるから。
まるで、自分の事の様に。
他人の事も、寧ろ、自分の道理に反する者の、事ですら。
大切に持って、進もうとする、あの「青の少女」。
「俺達は、あいつに甘え過ぎかもな。」
「まあ、そうだな。だから、このくらいは。お安い、御用だ。」
白いローブを掴んで見せ、そう言うウイントフーク。
面倒くさがっていた彼がデヴァイへ行く気になった理由が、解る。
確かに。
これは。
俺達の、問題なのだから。
「お前だって。あいつの為に、虫なんだろう?助かるよ。気焔だけでは。難しい、部分も多い。」
そう言って貰えると。
「まぁな。」
俺だって、やってやろうって気に、なるじゃないか。
まぁ、やる気が無かった訳じゃあないが。
問題が、複雑になってきたからな。
あいつに感化されている俺も、面倒になってきたのだ。
「いけないな。初心忘れるべからず、だ。」
「それだな。ま、気持ちは解るよ。たまには、飲むか。」
「イヤミか、それは。」
「いや、コップにそのまま入れば酔えるんじゃないか?」
「阿呆。」
そうして俺達がふざけ合っていると、奥から白い幽霊が出て来て飛び上がってしまった。
いる事をすっかり忘れていたが、どうやらきちんと話は聞いていた様だ。
ウイントフークの向かい側に座ると、徐ろにこう言った、ウェストファリア。
静かな、声だ。
「昔は。力、のみで扉間を繋いでいたのでは、無いだろうがな。」
「やはり?」
「そういった話も、聞いた事がある。かなり昔の御伽噺じゃが。でないと説明のつかない事も、多かろう?」
「まあ、そうですね。」
「そうなのか?それ以外に何が?」
「ああ。石が共通していたり、普通にあっちにある物がこっちにもあったり。そこそこデカい物だ。「そもそも繋がっていた」と考えるのが、自然だろうな。」
ウイントフークが言うには、運石なんかも殆どはラピスのものだと、言う。
運ぶには、大き過ぎるものがシャット、グロッシュラーに、あるのだと。
この空にある、場所がどう繋がっていたのかは分からない。
「しかし、あの子を見てると。「繋がっていた」と自然に思えるのが、不思議だよな。」
「まあな。」
「いやいや、本当に私が死ぬ前に来てくれて、良かった。」
そのウェストファリアの言葉に、笑っていいのか悩む所だ。
時代の、変わり目か。
運命の、別れ道なのか。
「まあ、なんにせよ。悪い様には、ならないだろうと思える所が、凄いよな。」
俺の独り言に、頷く二人。
そうして再び、ウェストファリアは奥へと戻る。
さあ、どうしようかと向きを変えると、いつの間にか気焔が帰ってきていた。
「早いな?」
「時間が掛かるだろう。迎えに、行ってくる。」
さっき、鐘が鳴っていた。
ヨルを食堂へ連れて行くのだろう。
そのまま出て行った気焔を見送り、ウイントフークを振り返った。
「そういやお前、ここでは何扱いなんだ?」
「いや、今はただ紛れているだけだ。この様子じゃ。分かるまいよ。」
そう言って悪い顔をしている。
それならこれから店へ戻るのだろう。
「じゃあ、また何かあれば。」
「そうだな。よろしく頼む。」
少し羽を光らせて挨拶すると、そのまま俺も食堂へ飛ぶ事にした。
あそこは情報収集には最適だからだ。
さて、今日はどの家の側に留まろうか。
赤以外がいい、な。
赤ローブは煩いし、よく怒られる。
何故だか自分が怒られている様な気になるので、あまり留まりたくないのだ。
そうして廊下で様子を窺いつつも、広い食堂へ入って行った。
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