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7の扉 グロッシュラー
作戦本部
しおりを挟む「おやまあ。姫は。そんな事を、言い出しましたか。」
こいつの言葉にドキリとした。
「姫」と、そう呼ぶラガシュはこれからも深く、ヨルに関わるうちの一人だ。
だから多分、いいんだろうが。
いつもの白い部屋、奥で話を聞いているのかいないのか、相変わらずの部屋の主はまだ何か実験をしている様だ。
「会議をする。」
そのウイントフークの一言で集められた人数は、六人。
俺(一匹か?)、気焔、ラガシュ、イストリア、クテシフォン、ウェストファリア。
まあいつものメンバーだ。
そうして開口一番、「ヨルが太陽を現す」と宣ったウイントフークは仏頂面で腕組みをしたまま。
イストリアは知っていたのだろう、驚く素振りもなく笑っているし、ウェストファリアはいつも通り。
同じく金色も壁際で微動だにしない。
クテシフォンだけは素直に驚いていて、ある意味新鮮な反応だ。
そしてラガシュ。
「姫」と普段からポロリと漏らすラガシュは、一体ヨルを「何」だと思っているのだろうか。
実際、俺は詳細を説明された訳じゃあない。
しかし、あれだけ一緒に居れば。
あの子の中に、「誰か」が居るのは知っているしそれがどうやら「姫様」と呼ばれているものだということ。
その「姫様」が赤い髪になって会いに行っていたのは、シンだということ。
それが、判れば。
後は自ずと、「そうなのだろう」という仮説が導き出される。
「そうか、だから。」
初めから、「何かある」と気にかけていたヨルにそんな秘密があったとしても、俺にとっては。
今更大したことのない、問題だったのだ。
そう、誰かが中に、居たとしても。
俺が守ったのは、紛れもなく「あの子」なのだから。
「まぁ実際、自分だって今は「虫」なんだからな。もう、何があっても不思議じゃ、ない。」
いつものポジションで皆の話を聞いている俺に、奇異の瞳を向ける者は、何故だか始めからいなかったしな。
まあ、この姿も中々、気に入っているのだ。
ラガシュの話の続きを聞きながら、そんな事をつらつらと考えていた。
しかしどうやら、彼はご不満らしい。
「しかしそのブラッドフォードがきちんと、約束を守りますかね?」
確かにそれは、俺も心配だ。
デヴァイの人間は基本的に信用ならない。
俺が取引していた、あの家も。
その家も、どの家も。
皆、基本的に自分達の事しか、考えていないのだ。
ま、ヨルが来るまでは俺もそれが普通だと、思っていたがな。
しかしそのラガシュの心配に関しては、ウイントフークとイストリアが心配無いと言う。
「あの子が得意な事、それを彼は欲している筈だからな。取引ができると思うよ。」
そう言って、余裕の笑みを浮かべている。
この二人が、そう言うならば。
きっと心配は無いのだろう。
ラガシュの表情を確認して、ウイントフークがその他の注意点を並べていく。
「まず、石だが。祈った結果、できた事にすれば良いし、向こうの神殿にできるからな。これは問題無いだろう。」
「どう、持って行く?」
心配そうにクテシフォンが言う。
確かにあそこの池にあるだけならば、そもそも発見されない筈なのだ。
怪しまれない様に、石を持って行くには。
そうして光の恩恵として、配るにはどうするのか。
何か、考えがあるのか余裕の表情の二人。
すると奥から資料を持って、ウェストファリアが加わった。
「まあ見ておるじゃろうよ。」
「だろうね。」
「えっ。誰か、旧い神殿に配置されるのですか?」
「いや。勿論、表立っては「誰も来ない」じゃろうて?しかし、そのままという事は無いだろう。誰かしら寄越されると思うが。しかしあの子はどこで祈るつもりかの。場所によっては………うむ。」
「その辺はシンに伝えておけば大丈夫だろう。」
成る程、確かに。
その場にいたとしても、見ていなければ。
まあ、なんとでもなるだろう。
そうして多分、光が降ってその後辺りを確認する筈だ。
その時に、池を発見させればいいって事か。
ふぅむ、と唸っている間にもウイントフークの話は続いていく。
「配置確認だが。子供達の石の事もある、シュレジエン達には持たせておこう。」
「そうじゃが、まだだったか。」
「ああ。まず子供達だ。遠慮してたんだろう。何しろ訓練は進んでいるが、最終手段だ。あの子達が出る様になるんじゃ、本命が出てくるからな。」
チラリと気焔に視線を投げるウイントフーク。
今回、ヨルは気焔とは別々だ。
呼ばれればすぐには行くんだろうが、あいつがどの程度、ヨルの意向を汲むのか。
そう、思っているのだろう。
気焔は金色の瞳をキラリと光らせただけで、何も喋らなかったけどな。
まあ、それもいつもの事だ。
あいつはあまり、余計な事は言わないのだ。
ウイントフークが他にも順に、注意事項を述べていく。
「空が出た後の影響」、「扉がヨル側に出るかどうか」、「あいつがそっくりだという話」、「エルバに聞きに行くこと」。
それら諸々の問題を割り振りつつ、大体の話を決める。
「一つ、相談があります。」
そうして纏まり出した頃、ラガシュが徐ろに話を切り出した。
ラガシュは多分、俺達が知らない話を知っている。
それは図書室での話や、ヨルの事を「姫」と呼ぶ事からも感じていた。
しかし俺は、それを奴が話す気は無いのだと、思っていた。
隠したい様だったし、多分それは「青の家」の話だ。
俺達が知りたいと、思ったとしても。
きっと奴の一存で、どうこうできる話では無いと思っていたのだ。
だが、ここにきてその話をするという事は。
それが、この祭祀で重大な部分を左右するという事なのだろう。
「恐らく。彼等が何か、起こすとすればそれは扉が出た、後です。そうしてその後、動きがあった時。」
「どうして、そう思う?」
ラガシュが話し出すのを待っていた様に、ウイントフークが問い掛ける。
ある意味これも、作戦通りか。
ヨルの言う通り、本部長の考えは俺にも、読めない。
「彼等にとって、都合が悪い事。それは、「扉から出てくるものが神だ」という事です。もっと言うならば。」
「あの絵、以外に祈られると、都合が悪い。そういう事です。」
静かになる、白い部屋。
ウェストファリアの表情を確認したが、何も見えない。
きっと彼にとっては興味が薄い内容なのだろう。
神よりも、光なのか。
イストリアは、どうか。
しかしこちらも不思議そうな顔で、少し楽しそうにラガシュを観察している。
金色は、目を閉じたまま。
最後にウイントフークへ視線を戻すと、頷いてラガシュに続きを話す様に示している。
やはり何か、知っているのか。
ウイントフークの意図を察しているかの様に、ラガシュも再び口を開いた。
「お察しの通り。既に、この世界は壊れ始めています。予言では確か「世界は白となる」のですよね?それで、ラピスの森が白く、なり始めた。しかしあそこはまだ、保てている筈だ。空も、あるし姫も居た。」
?!?
思ったよりも、ラガシュがラピスについて知っている事に驚く。
「もう、こちらはギリギリです。デヴァイとの扉が途切れるのは時間の問題だ。祈りの絵に力を送る事が無くなれば、もう運石を使わざるを、得ない。奴らは異変に気付かれたくない筈です。まさか、力が減っている、弱まっているなんて。知られたら、どうなるか。自分達が、一番よく知っている筈ですから。そもそも、「これまで自分達が何に祈っていたのか」を知られてしまえば。都合が悪いでは、済まないでしょう。」
そう一息に言って、大きく息を吐いた。
それを聞いて頷いたウイントフークは、予想通りの話だったに違いない。
物騒な話に、満足気な顔をしている。
「やはり、か。向こうでは、何処にある?あの聖堂のアレか?」
「多分そうだと思います。流石に隠せる様な、ものじゃない。」
「ずっと昔に………「そういう風に」作ったのだろうな。空が、消えてから。」
「そうだと思います。僕も正直、詳細までは知りません。知りたく、なかった。しかし。」
「そう、あの子が現れたからね。どうしたって。期待、してしまうのは解るよ。君の所は、家がそうなのかい?」
「多分。今回の祭祀でうちの当主が来ます。多分、嗅ぎつけたんでしょうね………。どこからだろうな…。」
おいおい、俺とクテシフォンがついて行けてないんだが?
ウェストファリアなんて、奥へ戻って行ったぞ?
しかし、ラガシュとウイントフーク、イストリアが話している内容から推測するに、どうやらデヴァイでも何やら石か何かに、力を溜めているらしい。
そして、その祈りが止まれば、都合の悪い奴がいる。
自分達に力があるのではなく、みんなから力を集めているという事。
それが、バレると確かにまずいだろう。
そいつらが祭祀を邪魔する可能性がある、って事でいいんだよな?
ラガシュとウイントフークが詳細を話し始めて、イストリアが首を傾げている俺達に説明を始めた。
しかし未だ飲み込めていない表情のクテシフォン。
俄には信じ難い内容だったらしい。
俺はラピスから来たし、商売で奴らの汚さはある程度見てきているが。
それにそもそも、デヴァイへのいい印象など無い。
どうやら彼は、箱入りの様だ。
ま、向こうの殆どがそうかもしれないが。
「それで具体的には、どうするんだ?防げるのか、それは。」
奴らが何をするつもりなのか、本当に、やるのかどうか。
そもそも「祭祀」を、邪魔するということ。
それが、できるのか、でき得るのかどうか。
正直俺も、半信半疑だ。
しかしイストリアには、確信がある様だった。
「残念ながら。扉の話は向こうに伝わっている。それに、あれから出ようとしていたものが、神ではないかという噂は。かなり、広まっていると見ていい。実際、今回の作戦はもってこいなんだ。場所が、分けられた。あの子の所にはうちの子と、「シン」?がいる。それで何とか、なるだろう。全員一緒よりは安全だし、あの子の好きな様に祈らせれば、それが一番いい。問題は、こっちなんだ。さて、どうするかな………。」
「まだ決まってないのか?」
「そうだね。本当は扉は「出なかった」のが、一番いいんだが。あの子は、やる気だ。止められないし、何と言っても「ここの人達のため」に出す、と言う。止められる訳がなかろうよ。」
そう言って緩く笑うイストリア。
ヨルの事を大事に思ってくれる、味方が増えたのは嬉しい。
ハーシェルもいないここでは、あの子にとって心強いだろう。
「しかし流石に、何かいい手を見つけないとまずいな…。さて、あちらの話は進んだかな?まだ何か、質問はあるかい?」
そう言って、ラガシュ達の方を見る。
立ち上がったイストリアと未だ混乱中のクテシフォン、両方を眺めながら俺もヨルの様に「ぐるぐる」、していたのだ。
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