透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

理由が必要だ

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「結果、丸く、治る。」


この話、か………。


そう、その、本部長の作戦は。

何処かで、聞いた様な、内容で。

「まあ、確かに?そう、なんでしょうけど………?」

私に、できるのか?


基本的に、「できない」と決めつける事はない、私だけど。

「この点」においては、自信が、ない。

「そう、まあ、そう、なりますか、ね………。」

「それ以外に思い付けば、教えろ。可能かどうかは考えてやるから。」

そう、優しく悟す本部長の作戦は私が最も、苦手とするもの。

そう、この、金色と、離れる事を、意味するものだ。


そんな事、できるの?

一時だって、言ったけど。
お兄さんも、「フリ」だけとか、言ってたけど。

騙されない?
本当になっちゃわない?
大丈夫?
側に、いないの?

無理じゃ、ない???


そう、その作戦は至極、シンプルで。

とても、分かりやすいものだ。

あの、お兄さんが私に試す様に言っていた、その内容。
それと、ほぼ同じだったからだ。


「お前がブラッドフォードの婚約者になれば、手っ取り早い。」

言い淀んでいた割には、スッパリと私を斬ったその内容。

うん。

皆まで言わずとも。

わかる。

分かるんだよ、その意図する事は。

利点も。

周りの、やり易さも。

私自身の、周囲も多分大人しくなるだろう。


きっと、「青の男」が婚約者のまま、デヴァイへ行けば周囲が騒がしい事は想像ができるからだ。

ここの所の、食堂や神殿の廊下での視線や噂話。
それだけだって、そこそこだ。

いつも盾にはなってくれるけど。
彼が心配にならない訳じゃ、ない。


意外にも、金の瞳は落ち着いている。
だから、ある意味私も落ち着いて、考えられるのだけど。

そう、もっと怒るかと思った。
意外。
ちょっと、寂しいくらい。

うっ。でも、それは駄目か………。


想像通りの味のお茶を啜りながら、この美味しさを心から楽しめない事を心底悔しいと、思う。

勿体ない。

あー。
香りを、嗅いで。熱いうちに口に含んで、紅茶は最初の一口が肝心なのよ??
それをボーッとして逃すなんて。

なんなの?デヴァイは。
空がそんなに問題?
なんで青の家じゃ駄目なの?
めんどくさっ。
いいじゃん、なんでも。

好きな様に、すれば。
みんな、自由で。

向こうでお茶沢山ありそうだけど。
楽しめるのかな?
こんなんで。
また、何かが気になって心から楽しめないんじゃ、ない?

どっかが、引っかかって。

何かに、邪魔をされて。

美味しいもの、綺麗なものがあったとしても。


それを、自分の、心から。

美しいと、美味しいと、いいな、と素敵だな、と思えなければ。

そんなの。

意味、無くない?



そう、考えると。

やはり、行く必要はあるし多少の我慢やカモフラージュは必要なのだろう。

始めから。
急に、変える、変わるとは。

思えないし、できないし、うまくいかないであろう事は流石の私も分かるからだ。


「うーーん。でも。できる、かなぁ?」

このメンバーだし。

本音が、漏れる。

いつもは言わない、こんな事も。

みんな、解って、くれるだろうから。


優しい花柄のカップ、花の形のソーサー。
私の心を和ませるこのセレクトに感謝しながらも、卓上の花に更なる癒しを求めて、しまう。

想像だけで、何かが足りなくなる、私。

でも。


わかる、分かるんだけど。


つい、いつもの相談役の薄茶の瞳を、探す。

その、瞳を受けたイストリアが優しく微笑んで、こう言った。

「大丈夫だ。解っているけど、なんだろう?それで、いい。それで、いいんだよ。そのまま、行っていい。」

その瞳はやはり私が真っ直ぐにある事を肯定していて。

多分、このモヤモヤを持って進めと。
それで、いいのだと言っている。

迷うし、嫌だし、不安だ。

でも。

やはり、彼を、彼等を。

信じろ、と信じていい、という事なのだろう。


そう、どうしたって。

不安になるのは、仕方のない事なのだから。


でもきっと、いつかは。
こんな、時もあるのだろうと心の片隅に無かった訳じゃない。

ここの所の視線でも、感じていたこと。
以前からの知らない人からの態度に見える、色への差別。

解ってる。

わかってる、けど。


「さあ。あとは、君たちの話だ。ゆっくり、考えていい。まあ、そう時間はないが、そう時間も掛からないだろう?大丈夫。できるよ。」

そう言って、私達を送り出したイストリア。


確かに。

もう、私の中でも答えは、決まっていて。

みんなの中でも、もうなんだろう。


あとは。

私の、心と。

話し合うだけ、なのだ。


「どうしても嫌なら、やめていいしな。」

その、帰り際のウイントフークの言葉がまた私を後押しして。

奮い立たせて、くれるのだけどすぐに足は立ち止まる。


「ある意味、凄いな。」

自分の中の金色の占める割合に自分で、驚く。

こんなに、侵食されていて。

私、大丈夫なのかな。

一人で、立ててる?

違うんじゃ、ない?


あの人がいないと。

駄目なの?

いや、駄目は、駄目なんだけど。

でも。一人で、立てないのでは。

困る。

問題。

それは、駄目だし、違う。



顔を上げて、辺りを見ると優しい、そこは桃色の空間で。

外に出た事は分かっていたのだけれど、私の心は何処かに行っていたのだと、また改めて思う。

駄目じゃ、ないんだけど。


「だめだ、よね………。」

この、気持ちを消化して。

進む、為には。

何が必要なのだろうか。


くるりと振り返って、尋ねる。

「ねえ、知ってる?」

静かに燃える金の瞳は、何も言わなかったけど。

黙って、ただ私を包んだから。


とりあえず、目を、閉じたんだ。










うん?

ここどこ?

いつもの、あそこかな??


辺りは、橙。

ただ、優しい色合いだけど。


それ、以外は何もない、この空間。

とりあえずは安心して、寝転んでみることにした。


「だって。」

「どう、した?」

目の前をチラチラと過ぎる少し大きな羽。

見覚えのある、その色にまた羽根になっているなぁと、思う。

なんだろ、これ。
新しい、形態とかなの??

ま、綺麗だから、いっか…………。


その、目の前にある大きな羽をパッと掴む。
根元を持って、フッと息を吹きかけて。

そうして愚痴を、言い始めた私。

うん、言ってもいいよね?
ここは気焔しか、聞いていないし。



ポツリと、零す。

「なんか、欲しいのかも。」

「何を?」

「証?印?でも、も、あるしなぁ。」

そっと、山百合に触れて。

その染み込んでくる温かさに、癒やされるのだけど。



そう、私には分かっていた。

あの子が、私に侵食してから。


「もっと、もっと」と思ってしまうこと。

私は知らないその「何か」しかしあの子は知っている、その「なにか」。

それを与えてくれるのはこの金色で。

多分、望めば。

くれるのだろう。

でもなんとなくだけど。

は、まだだって。

自分が、言ってるのが分かる。

彼が、それを心からよしとしないことも。

お互いが。

お互いを、認めて。

二人が其々、「ちゃんと」した時に。


きっと、そう、なるんだろう。

自然に。

多分。


…………どう、なるのかはわかんないんだけど。

うん。



じゃあ、それ、以外?

なんだろうな…………わかんないな…………。



橙の空間をゴロゴロと、転がり始めた私。

羽はまた、飛ばしておいた。

ふわりふわりと、私の周りを飛ぶ、それは。

くるりと回転して煌めき、沢山の色を、映す。


彼が燃えている時の。

激しい紅、濃い橙、なんとなく切ない山吹から薄い黄色、何かを求める檸檬色と満ちた金色。

沢山の色を含む、彼はこの頃その他の色も映して。

虹のように、輝くそのさまを見て堪らない気持ちに、なる。



ああ。

美しいな。


寝転びこの美しい羽を眺めていられる、この安心した空間。

ここに、ずっと。
いられれば。

どんなに、いいか。






でも。

うん、分かってる。

外に。

出たく、なっちゃうんだ。


きっと。

色で。

満たされるから。

私は、いつだって。


この、私の金色で、満ちて、しまうのだから。



「貰うものなんて、もう、これしか無いのかも。」


返事は、ない。

ただ ただ 美しく私の周りを舞い

時に慰め

癒し

優しく包んで

そして

結局

満たして。

鼓舞、されるんだ。


どうしたって。


次へ、進めるように。

彼と、並んで歩ける、ように。




「そう、だよね…………。」


「こんなこと」って、簡単には片付けられないけど。

でも、必要ならば。

楽しんで、それを越えて。

再び、彼の隣に、並び立つ為に。




まだ、私は弱い。

「弱い事は悪い事ではない」

そう、あの金色は言っていたけれど。


私は、強くなりたい。

あの、何よりも美しい、金色の隣にきちんと、立つ、為に。




ゴロリと寝転び上を見て、はっきり、口を開いて。

自分を。

鼓舞しろ。

きちんと、立てるように。

できる。

知ってる。

やれる。


私が、彼が、みんなが、信じて、いれば。

できないことなんて、無いんだ。



「よし!やるか!」


ガバリと起き上がり、辺りを見渡す。


どこだろう?
あの、美しい羽は。

私の、金色は?



ぐるりと、一周した私の視線は、隣にある人型と羽の姿に辿り着いた。

「うん?何これ。凄。」

形は、人、なんだけど。

周り、いや、境目?
縁取り?

なんだろうこれ。

でも、めっちゃ、綺麗だけど。


触ると、痛いだろうか。


ふんわりしているような、チクチクしているような、燃え盛る羽を纏った気焔はなんだか本当に不死鳥の様だ。


でも。

痛い筈が、ない。


それがわかる私は、そのまま彼の胸の中に入っていく。

少し、自分の姿に戸惑っていた彼は私が躊躇いなく飛び込んでくる様に、警戒していたけれど。


そんなの。
知ったこっちゃ、ない。

私は、いつだって。

この、美しい、金色に癒される権利が、あるのだ。


うん。



思った通り、柔らかく私を包む、その羽と焔の彼は。

なんとなく、戸惑いながらもその自分の姿に、徐々に、馴染んで。


「ああ、だから。飛べるのかなぁ。」なんて、思っている私に「そうなのかもな?」なんて、言っている。

大分、戻ってきたみたいだ。

あのまま、羽になられても困るし。

私はいつだって、この胸の中に。


帰りたいの、だから。




「仕方ない。やる、か。」

「仕方ないとは。」

「だって。嫌だよ。フリでも。いいの?気焔は。」

「………。」

「いざという時は。助けてね?」

「そんな事には、ならん。」

「うん。ありがとう。」


そのまま、彼が部屋に飛ぶのが分かって。


私は、いつものように目を閉じた。



そう、この心地の良い空間を今のうちにと、味わいながら。


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