透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

二人

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「俺からの注意点は、そんなところだ。」


そう、ウイントフークが言って。

私への祭祀の注意が終わってしまった。

実際、沢山の決め事や注意点を言われると思っていた私は、拍子抜けして椅子から落ちそうだった。


だって。
あの。

お小言大魔王が。

ほぼ、一言だけ。

「お前の好きな色沢山、降らせろ。」

そう、それだけ。

続きを待っていた私は一向に始まらないので、「で?」と訊いてしまったのだ。

そうしたら「もうない」的な事を言われて、困惑しているのである。


しかし何やら細かな準備でみんなが奔走している事を知っている私は、腑に、落ちなかった。

しかし。

きっと。

「それだけですか?」

なんて、言おうものなら。


返事はきっと「お前ができるのはせいぜいそのくらいだ」なんて、言われるに決まっているのである。


うん、それは心当たりが、ある。

自分でも思うけど。
多分。

その場に、なったら。

きっと、大事な事以外は綺麗さっぱり忘れるに、決まっているのだ。


うん、だから正解なんだけど。
なんだけど。
なんて、言うか、うん。

なんとなく、だけど。
今回の祭祀は、大掛かりだし?
大事、じゃん??

だからさ、なんかアレコレアドバイスして欲しかったと言うか、何というか………。


しかし私のモヤモヤぐるぐるに、救世主が現れた。

「で?どうだい?大体は、想像がついたかな?」

そう訊いてくれたのはイストリアだ。
勿論、さっきの「ギフト」の事だろう。

「はい。私、めっちゃいい事、思い付いたんですよ………フフフ。」


あっ。
また。
そんな、目して。

男達が「しょうもないものを見る目」を、している。

「仕方がないもの」よりも、なんだか残念なその目は私がまた何かをやらかそうとしていると、思っているに違いない。

いやいや、今回は。

最高の、案ですけど??
いや、これ迄も、別に良くなかった??
だよね??


私の不満気な顔を無視して、ウイントフークがこう、言った。

「正直に、言え。」

「えーっ。それは、失礼ですよ!今回はヤバいですよ??そんな事言うなら、教えませんよ?」

「いやお前そんな訳には……」

「じゃあ。「お母さん」って、言ってくれたら。教えます。」

「は?」

「はい。どうぞ。」

「「どうぞ」と言われて、言えるか!分かった、向こうに行く迄には、言うから。」

「ほんとですね??向こうに………行く、のか。」


そうだ。

大事な事、忘れてた。


チラリとイストリアの瞳を確認する。

目が、合った。
優しく、細まる瞳。


「少し、休憩だな。」

そう、ウイントフークが言って。

急に涙が出てきた、私は金色に包まれたのである。
うん、不覚。







「こうして、会えただけでも充分なんだけどね。」

そうイストリアが、言ってくれて。

ウイントフークは、黙ってお茶を、飲んでいる。


泣き止んだ私は背後に金色を携えたまま、イストリアが淹れ直してくれたお茶を飲んでいた。


糞ブレンドに似た、若い香りがまた涙腺君を脇に押しやろうとしたけれど。

なんとか、堪えて口を開く。
謝るのは、違う。

また、絶対会えるし。
多分、以前よりは行き来、しやすくなる筈だ。

私の、想像通りだと、すれば。


「大丈夫だ。」

珍しくウイントフークが、そう言う。
その気持ちが、嬉しくて私もこう言った。

「ありがとう、ございます。本当に。私じゃ、絶対思い付かないし。ウイントフークさんが、居てくれたら。全然、大丈夫な気がします。」

「俺の寿命は縮むかもしれないが。」

「まあ、そう言うな。その方が。君も、いいだろう。」

イストリアが「君」と言うのも、気になるけれど。
きっとウイントフークが約束を守って、言ってくれたなら。

少しずつ、変わっていくのかもしれない。

何しろ、二人の、事だ。


大丈夫、だよね…。

チラリと振り返って、確認して安心する。

最近、この金色は。
どうやら精神安定剤の、役割もするらしい。

とりあえず鼻を啜ると、気になっていた事を一つ、訊いてみた。

「あの。イストリアさんも、一緒に、行けたりはしないんですか?」

そう、それができるなら。
私も、百人力なのだけど。

しかし、事はやはり、そう簡単ではないらしい。

「私は、何しろ隠れてた身だからね。今回グラディオライトには連絡を取ったが。大っぴらに姿を現すと、面白くない者の方が多いだろう。それに。」

「私と、この子が「銀の家」へ入るという事は。何か、企んでいると思われる可能性が高い。白から急に二人、それも親子だ。それ自体、知らない者も、多いからね。まだ、隠しておいた方がいい。この子は、優秀だからね。あらぬ事を疑われると、困るんだ。」


ちょ。
見た?

私の視線に、頷く気焔。
一応、ウイントフークに気遣ってか小さく頷いた、だけだけど。

照れた!
照れたよ?!
見た??

初めて!見たけど!!
録画!録画したい!!!


「五月蝿い。それで?何を、思い付いたんだ?」

堪え切れなくてジタジタし出した私を、そう咎めるウイントフーク。

くぅっ!!

堪らない!

これで一週間は、笑えるな………。
いや、微笑ましいんだけど。


しかし、揶揄う雰囲気を出し過ぎても、まずい。

何しろ作戦を握っているのは本部長なのだ。
あまり、調子に乗るとマズイのは私なのである。

ま、仕方ない。

そうして私は、やっと自分の計画を話す事に、したのだった。



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