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7の扉 グロッシュラー
置いていけない もの
しおりを挟むこのまじないの畑から店に戻るには、小さな林を抜ける必要がある。
イストリアの店の周りにある、あのキラキラしているやつだ。
こちらのまじない畑からは、普通の木立に見える「それ」。
意外に私はまだ、ここを自分で潜ったことはない。
前回は姫様が通り抜けたし、帰りは気焔が飛んだから。
その次はあの扉から、出入りしたのだ。
意外と、初めてなのである。
「ちょっと、楽しみ。」
何故だかこの通り道が心地良いものだと信じて疑う事なく、手を前に翳し触れ、入ってゆく。
あの子の中で、通り抜けることが楽しかったからだろうか。
イメージはそのまま、私は足を踏み入れた。
入った時、それはピンクだったと、思う。
しかし程なくして水色と薄灰色のガラスの様な空間になり、「あそこ」なのだとピンときた。
「ん?でも、なんで?」
石屈の中へと繋がったまじない空間に戸惑いつつも、お礼を言おうと思っていた事を思い出して口を開く。
もしかしたら、それを知っていたから呼んでくれたのかもしれない。
「そうなの?ありがとうね。本当に。私はあまり見えなかったと言うか、夢中で見てなかったんだけど、いい光が降ったみたいだよ…。アラルにとっても、いい方向になるといいけど。」
「また、力を貸してね?なんだか今度は、「抗えない魅力」とやらを実現しなきゃいけないから。なんか段々、ハードル上がってきたな………。」
前回の祭祀で「この世のものとは思えない美しい光」を目標としていた、私。
結果として、「やりすぎ」と言われなくもなかったが成功したと言っていいだろう。
だから。
多分、今回も、できるし。
きっと、私の中に。
答えは、ある筈なんだ。
だって、自分の中にあるものしか、出せないし出てこないんだから。
「なんだろうね………。とりあえず、ワクワクとか?ウキウキとかかな………。」
それは、抗い難いだろう。
ん?
でもそれ私だから??
レナが言っていた事を思う。
「囚われて、変えられない」
それは。
目の前にワクワクがあっても、やはり乗らない可能性は高い。
つまらないものに見えるかもしれない。
くだらないものに、見えるかも。
忌々しく思うことすら、あるかもしれない。
「それも、分かるんだよね………。」
あの子が、私に浸み込んでから。
分かる様になった、どうしようもない感情、行き場のない想い。
嫉妬、焦燥、妬み、意味のない比較や閉塞感。
そんな中でも、感じられるものとは。
どんなものだろうか。
人を、素直にさせてしまうものとは。
その壁を、崩してしまう、ものとは。
「でも………。どんな、美しいものがあったって。」
想像してみる。
何だろう?
お金?
モノ?服とか?食べ物?
とびきり美味しいものとか?
うーーーん。
でもMAX捻くれてる時って、何出されても「フンッ!」ってなる自信あるな。
「ケッ」ってね。
うん。
どうしてだろう?
素直に、なりたくないわけじゃない。
多分。
本当は。
そっちに、行きたいんだ。
だって。
きっと。
その方が、いいのはなんとなくでも、分かるから。
なに?
じゃあ、何が邪魔してる?
意地?
プライド?
そんなの、あるかな?
そりゃ意地もプライドもあるにはあるけど、そっちに行く事を阻む程の、「それ」なのか。
取っ払って、しまえるんじゃ?
うん?
どうしても、棄てれないもの。
置いていけないもの。
新しい一歩を、踏み出す事を躊躇わせるもの、とは。
「……………ああ。」
そうか。
それか。
そうね。
それは。
置いていけないよね。
わかる。
うん。
あ。
どうしよ。
めっちゃ涙出てきた。
まあ、いいか。
きっと誰にも、見えていない筈だ。
流れるに任せて、涙を流す。
そう、これは。
私のために、泣いているのだから。
いいんだ。
それで。
思いっきり、泣いて、いい。
だって。
置いていけないもの、それは
「辛かった、私自身」
だからだ。
「そうね、そうだよ。そりゃ、置いてけない。だって。無駄なんかじゃ、なかったもん。頑張ったもん。どうしようも、なかったんだもん。」
ボロボロ、ボロボロ涙が出てくるけれど、そのまま。
泣いて、いいし。
それに、愚痴ったっていい。
叫んでも、怒っても、暴れても。
どれだけ泣いたって。
いい。
だって、それも自分の為だし。
「私」の。
「私」のために、怒って、泣いて。
出すんだ。
全部、出していい。
だって。
悔しい。
辛い。
痛い、悲しい、怖い、寒い、気持ち悪い、嫌だ、どうして、何故こんな?
こんななの?
私が悪いの?
誰が?何が?今が?過去?
未来も、「こう」なの?
そんなの、嫌だ。
それは、無理。
抜け出したい、変わりたい。
でも。
あの時の、我慢した、我慢するしか無かった、「私」は?
どう、なる?
歩き出してしまえば。
どうなって、しまう?
ポッカリと穴の空いた様な、感覚。
何かを忘れている様な。
不足している様な。
満たされたとしても、どこか、何かが、足りない様な、この感覚は。
きっと。
その、「過去の私」だ。
置いていかれるの?
忘れられる?
「無かったこと」に、なる?
そんなの、嫌。
駄目。
置いていけない。
無駄だったなんて。
思いたく、ない。
だって。
あの時。
「あの時」の、「私」が。
無かったことに、間違ってたことに、駄目だったことに、なってしまったなら。
そんなの。
耐えられない。
「新しい私」にきっと影を落とす、「過去の私」。
もしかしたら。
戻ってしまうかも、しれない。
わからない。
だって。
いつだって。
光は、差さなかった。
神様も、誰も。
助けて、くれなかった。
その、ちっぽけな、「私」。
あそこに、一人で。
ある。
いる。
ポツンと。
「可哀想」な。
「哀れな」、私が。
いるの。
忘れることなんて。
置いていくことなんて。
できない。
置いていったら。
私が私を否定することになる。
私を、認められないと。
自分で。
自分が、認めることに、なる。
でも、連れて行ったら?
きっと、影を落とす。
深い、深い影を。
また、引き摺り込まれるかもしれない。
逆戻り、するかもしれない。
それは嫌だ。
でも。
ああ。
どうしよう。
駄目なの?
駄目かも?
でも。
待って。
「知ってる」筈よ。
「こたえ」を。
「私」は、「持ってる」。
「知ってる」んだ。
「私」の行先。
「私の地図」。
「道標」。
あの子から私にスライドして。
私は私の中を、探す。
私達のために。
私の中を。
私の持っている、ぜんぶを、使って、総動員して。
私のために、あの子のために、みんなの。
「ぜんぶ」の、ために。
ある。
私の中に。
見て?探して?
絶対、あるから。
どこ?私の、あの。
唯一の、光は。
必ず。
ある。
知ってるの。
どこ?
照らして?
光って?
早く、私を呼んで?
ここから、出して?
連れて行くから。
全部。
そう、ぜんぶなの。
みんな。
ぜんぶ。
そう、あの時も、思った、感じた筈だ。
「私は、ぜんぶ」だって。
だから。
アラルにも光を。
みんなにもギフトを。
「私は、持っている」筈なんだ。
みんなが持っていない、もの。
後ろめたくなんてない。
気を使わなくていい。
だって、持ってるんだもん、仕方ない。
奢りでもない、施しでもない。
ただ。
ただ、ただ、祈って。
撒くの。降らすの。配るのよ。
そう、配ればいいんだ。
撒くよ、空から。
うん、空からがいいよね?
ギフトだし。
パーっと。
みんなに、配って。
辛い自分も、過去の自分も。
ぜんぶ、みんなが持って、進む、進める。
そんな、ギフト。
何だろう?
何が、いい?
やっぱり…………光かなぁ。
なんだろ………。
光は、チカラ。
熱。
あたたかいもの。
パワー。
きっと、それでチャージして。
また、足を前へ一歩、踏み出せるもの。
光ね………。
開く、し?
「あ!」
そうだ!
それそれ!
あったまいい~!!
私、天才かも。
え?
ツッコミ不在?
いいのいいの、私の空間だし。
多分。
それだよ!
なんで思いつかなかったんだろ??
万物に必要な、アレがあるじゃない!
みんなの味方!
それを。
出せば。
万事、解決??
どうだろうな?
まぁ。
やるだけ、タダ。
やらずして諦める、それ私の辞書に、無い。
うん。
決まったぁ~!
わぁーなんか嬉しいな。
ふふ。
あんま浮かれてると怒られるな…。
あ、でもツッコミ不在なんだった。
うん。
そうと、決まれば。
えー。
さて?
帰り道は?どっち?
あっち?
こっち?
そっち???
「ねえ?」
上を見上げて。
呼びかける。
この、不思議に心地良い、空間。
透明で、澄んで、柔らかく涼やかな色と光。
少しだけ、また通り抜けて遊ぶ。
どこ?
返事、して?
帰り道は、どっち…………。
「そう、決めたか。」
どこからともなく、降ってくる気持ちのいい声。
声というより、音に、近い。
「うん。」
「さすれば。いつの世も。光と、共に。」
「うん、ありがとう。いっぱい、チカラ通すね?」
「ああ。あれは。別格だから、な。」
うん?
どれ?
別格?
あ。
遠くに金色の光が見える。
あれだ。
私の、光。
行こう。
きっと、待ってる。
そうして私は、ふわり、ふわりと光に向かって、進んで行った。
そう、私の唯一の、光に向かって。
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