透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

私たちはここに「いる」

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「お願い。」

「お安い、御用よ。」

アラルエティーがローブを羽織り直している間に、ラギシーを蓮にお願いする。

「えっ?何それ?どこ??」

アラルエティーが、突然消えた私に焦るのを見ながら、その手を取って進んで行った。



私達は神殿から外へ出て、誰もいない脇道へ入っていた。

掴んできたアラルエティーのローブを渡し、自分はラギシーを手に取って。
パッと支度をして、神殿裏へ向かい歩いて行く。

「あの、木は見たよね?」

「うん、あれが?どうしたの?」

「ううん、いいの。アラルエティーがいれば、どれだけ歌っても大丈夫だから。フフッ。見てろよ、やってやるからね~。」

「ちょ、ちょっと怖いんだけど………。」


裏への角を曲がり、もう天空の門が見えてきた。

木はやはり、あれから伸びてはいない様だ。


天気は多分、いい。
白い雲が多い今日は、いい歌の舞台になりそうだ。

階段を上り、舞台の上に立ってからアラルエティーの手を離す。

「大丈夫?落ちないでね?」

「それはこっちのセリフよ。見えないんだから、気をつけなさいよ?どうなってるのかしら、全く………。」

ブツブツ言いながらも、私を怖がる事なくここまでついてきてくれた彼女。

その、彼女にこう言ってみた。

「ねぇ、アラルって呼んでもいい?」

「は?」

「だって長いんだもん、アラルエティーって。」

「………いいわよ、ヨル。それで、どうする、の?」

そのツンデレ具合に悶えながら、説明する。

今の私はアラルエティーから見えないから、多少おかしくても大丈夫だろう。

うん、だって懐かない猫が………。はい。


「いや、とりあえず歌うだけだよ。ただし、思いっきり歌うけどね。歌は………二人で歌えるやつだと、祝詞でいいかな?伸び過ぎちゃうかな??」

「え?」

「節はあの祭祀の時のやつでね?とりあえず、今思ってる事、全部、全部乗せればいいから。スッキリするように、ちゃんと歌うのよ?ここなら、どれだけ大きい声でも。大丈夫、だから。」

「う、うん、分かった。」

「じゃあ二人だとちょっと狭いから、動き回るのは無しで、手を動かすくらいかなぁ。とりあえずそれだけ、気を付けようか。では。いざ。」


とりあえず、一旦落ち着こう。

この、興奮と期待、そして苛立ち。
一旦落ち着けて、全部、歌に。

そう、乗せるんだ。


アラルエティーの立ち位置を確認して、自分も反対側に陣取る。

動いてしまうかもしれないので、階段近くにしよう。うん。
その辺、夢中になると自分の事が信用できない。



私から、始めた方がいいよね?


アラルエティーはそのまま、祈りの態勢で私の始めを待っているのだろう。
「祝詞で」と私が言ったので、構えて待っている。


真面目だなぁ。


それを見ながら、静かに、始める。


そうだよ。真面目なの。



考える。
迷う。

これで、いいのかって。

「思う」んだよ。私達だって、「なかみ」が、あるんだから。




さあ。

じかんだ。


思い知らせてやる、時間が、来た。


口を開けろ。

思い切り。

力強く。

遠く、伸びやかに響かせて、目にもの見せてやれ。


私達に、どのくらいの「なかみ」があるのかを。



全力で、見せつけてやるんだ。






     「祈れ   祈れ」



私が節をつけて、始まりを発するとすぐにアラルエティーが乗せてくる。


こんなに、真面目に祈って。
力も、納めて。

色々勉強したり、その結婚をする為に色々覚えさせられたりするのだろう。

そうして、一定の年齢まで育てられた後。

親の決めた人と結婚して。

子供を産む。

そうして、子供を育てて。

男の子なら、後継ぎ?どうするんだろう。
それなりに大変なんだろうけど。
でも。

でも女の子なら。

自分と同じ様に、どこかへ高く、売る為に育てるんだ。

なに?

ペットじゃないんだけど?
いや、ペットはまだいいのかな?
家畜?

どういう事?

なんなの?

そんなの、許されないよ。


ふっと、どちらにしようか一瞬迷ったが、もう氷は無理なので雨に、祈る。


   「 放て  想え  謳え  踊れ 」


ちょっと、踊ってやる。

階段ならぶつからないもんね。


なんなの?もう。

嫌だよ。変える。もう。駄目。

そんなの。

誰かの犠牲の上に成る、贅沢や成功なんて。

クソ食らえだよ。

ねえ?

そうじゃ、ない?


アラルエティーの声が、響く。


  「 降らす ものは 空 にある 」


あ、そうだ。

私と解釈が違うんだ。

ま、いいか。それはそれで、きっと届く。

今はただ。

彼女の想いを、飛ばす。


 音を重ねて、もっと、もっと畝っていいのだと声で語る。

私の顔は、見えないから。


 もっともっと。

  出して。   いいんだよ。


 いいんだ。


  わたしたち だけが。


   我慢しなきゃいけない そんなこと。



     全然、あるわけがないんだ。




    飛ばせ


           おもい を。




  「 響け 心に  魂の声を  」


 「 のせろ  全てを この 島に  」



  うん?   この島なんだ?


    よし  頼むよ



      あの子の 出番だね



    よろしく   チカラは 


      流すよ?




   あの   揺り籠まで


  この      灰色の大地を 通って


    ぐるりと  地殻を  


  
  全てを         取り囲め



   
    行き渡らせろ    チカラ  を。




   そう




  「 満たすもの 全て のもの 」


 「 癒しを  救いを  全てに  」



  うん


  「 開け 空よ  雨よ  雲よ  」



あれ? 最後   全然、違うな?


    空?   開くの?


それなら。   か。



ま、いいでしょ。

私、見えないし。

祈ってるの、「青の少女」だし?


アリ寄りの、あり。


雨でも雲でも、空でも、なんでも。


どんと、来いだよ。




 ほら、私たちはここにいる


    ある よ  生きてる


   ないものなんて無いし こんなに


  輝いてるじゃあ、ないか。


  さあ、  光よ 

    もっと、照らして?


    この子が。



   「青の少女」だと。



    思いきり  光を当てて。



   知らしめて、やればいいんだ。


  
  そう。 「青の少女」なんて。




    誰がやっても、いいんだから。







その時、私の頭の中にはイストリアの言葉があって。


大事なのは、誰が「青の少女」かではなく。


「みんなで」変えていくこと。


遅れる人がいてもいいけれど、少しずつでも変化を促すこと。

そうしてできる事ならば、漏らす事なく。


みんなが、変われるように。




      風を、吹かせること。





ふわりと空の、青い匂いが、する。



 剣はないけど。


大きく、振りかぶって腕を思いっきり、空に上げて。

雲を切って、空を、出して見せて?


いくよ?



      よし  ここだ!




    いっ    け ぇーーーー !!!





グッ、と。


      見えない剣を

             振り下ろして


     
  風を。


空からの、一陣の風を。


   そう、ブワリと吹かせたんだ。





    そうして風が吹いた、その瞬間。



降りてきた青い閃光と、空の匂いを運んできた青い、風。



「アラルエティー!」

同時に、声がした。


アラルエティーのローブが風にブワリと舞い上がり、それを抑えようとくるりと回った彼女の顔が、綻ぶのが見える。


「うん?」

そう、くるりと振り返った私が見たのは走って来るアリススプリングスと色とりどりの、ローブと。


青い空と、キラキラの雨粒、そして彼女のキラキラの笑顔、だった。



ヤバい。
泣きそう。

そうしてすぐに階段を降り、「早く」というベイルートの声に山百合に触れる。


多分、その場では金色の光が光った様にしか、見えなかっただろう。
それもアラルエティーの、光に見えたなら、いい。




そうして私は金色に回収されて、再びあの木の揺り籠に避難したのだった。


地上の騒めきを耳に入れながら、鼻水を啜っていたけれど。

小言を言いたそうな金の瞳を避ける為に、そのまま泣く事にした。

いいよね、その位は。うん。


そうして地上が静かになるくらいまでは、ゆっくりと金色の中で微睡む事にしたのだ。





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