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7の扉 グロッシュラー
アラルエティーと私
しおりを挟む二人きりになりたい。
まず、それを実行する為に下調べを始めた。
以前から、ずっと食堂や廊下では様子を見ていたけれど中々一人にならない彼女。
まだ、誰かと居る時に声を掛けた事はない。
でも。
声を掛けたところで、その一緒に居る人が私達を二人きりにするとは思えなかった。
明らかに、監視していたからだ。
それは勿論、彼女に近づく者を、という意味もあっただろう。
けれどもその窮屈さからは。
「彼女の事も」監視している様に、見えたのだ。
だから多分、二人きりにはなれないだろうと外で声を掛けるのは早々に諦めた。
ただ、話しかけるチャンスが無いかどうかは、ずっと様子を窺っていたけれど。
何しろ、私は未だ彼女に警戒されているとみて間違い無いだろう。
シリーに聞いたローブを試着した時の様子を思い出して、胸がギュッとする。
「やっぱり。行く、か。」
そう、既に空色のローブを一つ、抱えている私は灰青の廊下に佇んでいるのである。
結局、一頻り悩んだ結果部屋へ突撃するのが一番現実的だと思ったのだ。
しかし始めは彼女の部屋の場所が分からなくて、困っていた私。
今朝、丁度食堂でミストラスに会った時ちゃっかり聞いてきたのだ。
「何をするつもりです?」
「大丈夫です。ローブを渡すだけですから。」
そう言ってニッコリ笑った私の顔を、まじまじと見つめていたけれど。
仕方なさそうに溜息を吐いて、ミストラスは教えてくれた。
「本当は私もそちらが良かった」と祈りの配置について愚痴を言っていたのは、横に置いておこう、うん。
その、部屋の場所がなんと私の部屋の隣だったのだ。
「いやぁ、考えれば当然っちゃ、当然なんだろうけど…………。」
銀の家の部屋は、そう多く無い筈だ。
もしかしたら、まじないでなんとかするのかもしれないけど。
でもこれまでの事から考えて、女子階に銀の部屋がそう沢山ある筈がない。
よって、近く、若しくは隣なのは普通の事だろう。
「うーん。」
だから私が今、ここで一人ローブを抱えて唸っていたとしても。
そう不自然ではない筈なのである。
だって、自分の部屋の前、的な雰囲気だから。
「まぁ自分の部屋の前でなんで唸ってるんだって感じなんだけどね………早くノックしろって感じ…?」
そう、ただ踏ん切りがつかなくて悶々しているだけなのだ。
部屋にいないかもしれないし?と言い訳を見つけようとしたけれど、物音は、する。
在室中だ。
もしかしたらこれから図書室へ行くかもしれない。
そうだ、それならやはり早くノックを…。
「早く、しろ。」
「!」
あっぶな~~~!
叫ぶところだったぁ~!
口を抑えつつ、小さな声で話す。
「いたんですか?」
「一応、な。」
「それなら、イケるかも。よし、いざ行かん。」
「なんでだよ…。」
再びフードの中へ潜って行ったベイルートを横目に、やっと隣の扉の前に立ったのであった。
「うっ、緊張するっ。」
そう言いつつも、ノックをして暫く。
開いた隙間からは、警戒の瞳が覗いたけれど私の顔を見ると意外にも、すんなりと部屋に入れてくれたアラルエティー。
今はダイニングでお茶の支度をしてくれている、彼女の後ろ姿を眺めつつ、間取りのチェックに余念がないのはいつもの事だ。
しかし、予想通り私の部屋と同じ造りの、この銀の部屋はそう見るべき所はなく、私が注視するものはその壁の色くらいだった。
そう、私の部屋は青の壁紙に濃茶の腰壁である。
しかしアラルエティーの部屋は可愛らしいクリーム色に赤茶の腰壁だ。
なんだか意外な気もするが、この館の事も疑っている私は、きっとこの色が彼女を表しているであろう事も分かっていた。
きっと、本当はこんな感じで可愛らしいんだろうな………。
あの、アリススプリングスの前で見せている毅然とした表情からは、凡そ想像がつかないホンワリ感である。
その努力が偲ばれて、なんだかまたジンときてしまった。
しかし、彼女がお茶を注ぎ始めた所で私の頭は完全にそちらへスライドする。
「これ。凄く、いい香りだね?」
今までずっと黙っていた私が急に喋り出したので、やや驚いた顔をしているアラルエティー。
しかしお茶を前にそんな事は全く気にならない私は、テーブルに置かれた茶葉の箱に釘付けだ。
「あれは?どこの葉なの?デヴァイから持ってきたの?ちょっと、見てもいい?」
既に手を伸ばしている私に、戸惑いつつも箱を渡してくれる。
「ほうほう」言いながら、ひたすら箱をくるくると確認して香りも嗅ぐ私を、黙って見ていた。
「冷めるわよ?」
「えっ!」
何処かへ行っていた私を戻すのに、その一言はとても的確だった。
「ああ、ありがとう。いただきます。」
「どうぞ。」
静かに、お茶を飲む私達。
そのお茶は、どうやらミストラスの部屋で飲んだあの沢山色が選べるシリーズと同じ所が作っているものの様だ。
私の世界のように「◯◯社製」とは書かれていないが、同じ紋章が入っているのである。
普通に考えて、会社かなにか流通元が有るとみていいだろう。
ていうか、結局。
デヴァイって、どんな所なんだろう?
でもそれをここで彼女に訊く訳にはいかない。
てか、実際、この子って。
私の事、どこまで知ってるんだろうか。
ある程度聞いてると思っていいのかな?
ラピスから来てるとか?
フェアバンクスさんの所だってのは、流石に知ってるよね………?
チラチラと視線を投げたのに気が付いたのだろう。
顔を上げたアラルエティーは、こう言った。
「で。何しに来たの?」
「あ。」
すっかり、忘れてたわ………。
どうやってここへ来ようか、何を理由にすれば一番自然か。
散々考えて、ここへ来た筈なのにすっかり忘れてお茶を楽しんでいる自分に、半分諦めが入る。
だよね………。
こんなもんだよね、私って。
そうして私は、隣の椅子に置いてあったローブの包みをテーブルに乗せる。
そして、とりあえず頭の中に浮かんだ事から話し始めることに、した。
うん、もういいや。多分。
なんとかなる、でしょう。
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