透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

変わること

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ずっと、レナの言っていたことを考えている。


「ねえ。変えられる未来を、「そっち」に、引き摺られて。「変えない」選択なんて、間違ってるよね?」


確かに。

思う。

でも、以前ウェストファリアと話した内容が私の頭の中をぐるぐる、回る。


「お前さんは。なのじゃろうな。」


そう、私にとっては普通でも。
この世界の人にとっては。

私の方が異質だということ。

レナはかなり、私達に近い性格だ。

その、レナの事が好きなベオグラード。
ベオグラードとランペトゥーザの、ハッキリとした差。

姉さん達の、話。



「うぅ~~ん。」

悩む。

悩んで解決するのか、分からないけど、悩む。


「同じようになればいい」という姉さんの言葉も。
分からなくは、ない。

もしかしたら高みの見物に見えるのだろう。

安全な場所から。

綺麗事を、言っているだけだと。


「でもさ。同じ立場にならないと何も言えないんだったら殆どの発言は不要になるワケで、それはちょっと違うしその感情だけで同じ所をぐるぐると回るのも不毛な気がするんだけどそれも本人がそうしたいと言うのならそのままにすべきなのかどうなのか………」

「何を言っている。」

ギュッと、背後から抱き締められ温かさに包まれる。

この、温かさも。


くるりと振り返って、金の瞳を確認する。

すると無言で、グッと力を流し込まれる。


む。むぅ。


あったかい。


でも、これも。


持たない人は、多いもので。

私が、やろうとしている事は。


もしかしたら、持っているが故の自己満足でしか、ないかもしれなくて。


「ちょ、ちょっと、ストップ!」

なんだか半分、後ろめたくなってぐいと彼の胸を押しのける。

「待て。吾輩とて快く送り出した訳では、無い。」

え?そうなの?


複雑な色の瞳を確認すると、心配になり金髪を抱える。

撫ぜる、元気のいい髪。
温かい、彼の温度。
私の背後に手を回して、髪を梳いてくれる、この気持ち良さ。


うーーーーーーーーーーーーーん。


なんだろ、これ。

この、心からホワホワ癒されない、癒されてはならない的な、感じは。


そう、私はあそこから帰ってきて少しの罪悪感を感じていた。


「私が恵まれていること」

それは、どうしようもない。

それも、分かるのだけど。


「仕方が無いな。」


長く、深い溜息と共に私を抱えた気焔。

そうしてふんわりと飛ぶ彼に、身を、任せた。







どこに行くのかと思っていたら、目的地は木の揺り籠の様だ。

天空の門をふわりと越して、気焔は灰色の大地の下にぐっと降って行く。


相変わらずの岩肌、少し太くなっている幹。
今飛んできた時に見た感じ、木はあれからそう、伸びてはいないらしい。
しかし、初めに伸びた時よりは大きくなっているからか、幹はしっかりとして座り易くなっている。
これなら気焔に抱えられなくても、座っていられそうだ。


あの、私が祈って、伸びてしまった時。
結局私は見に行くのを止められて、「このくらいだ」というクテシフォンの話を聞いただけなのである。

その、示された高さはクテシフォンの腰程度だった。
あそこに下りてはいないが、多分私の背よりは低かった筈。

「そんなに伸びないんだね?」

その私の問いに、少し考えるとこう言った気焔。
何か通じる所があるのか、頷きながら私を見た。

「普通の木ではないのだろう。力で、伸びるのだ、きっと。」


それって、「私の」って事ですかね………?

その視線の意図を考えながら、灰色の雲に視線を移した。



今は、夕方と夜の間。

しかしきっと夕暮れは終わったであろう時間である。

諦めの悪い私は、眼下の雲を念入りに確認したがやはり紅い色は、見えなかった。

白と、灰色が一番入り混じる、この時間。


「この感じも、いいよね…………。」

とりあえずの思考を放棄した私の頭は、取り急ぎ雲達の追いかけっこを眺める事でチャージをしようとしていた。


同じ、この空の中で。

どうして追いついて追い抜く雲と、ゆっくりな雲があるのか。

形を保ったまま、ウサギの様に走ってゆく雲と分裂して小さなヒヨコの様になる雲は何が違うのだろう。

自然って、ホント不思議。

ああ、全部流れて一緒になっちゃった。

あ、大変。灰色の濃いやつが追いかけてきたよ。
逃げて!
闇に染まっちゃう!


「おい。」

「え?」

ん?アレ?

ポンと口に手を当て、漏れていなかった事を確認する。

え?なんで?
口に出してないよ??


そのまま、金色の瞳を確認した。


それを見た瞬間胸が、ギュッとする。

何故だか気焔はとても柔らかく燃える焔を私に見せて、微笑んでいたからだ。


そうして、彼は言う。

「吾輩が。何故、お前を守ると。決めたのか、解るか。」


この、セリフ………。

気焔の言いたい事が分かった気がして、じんわりと目頭が熱くなる。


あの、ラピスへ一度帰った時に。

やっぱり、ずっとぐるぐるしていた私に、彼が言った、言葉。


私は、答えが解っていたけれど。

ちょっと、甘えてみたくなった。

だって。

少し、落ち込んでるんだ。



私、やっぱり、駄目かな、って。

自己満足なのかな、って。

偽善者なのか、ええカッコしいなのか。

こんなの、綺麗事なのか。

やっぱり、迷うよ。

だって、私は想像する事しか、できないから。

その人には、なれないから。


自分が正しいと思う、これでいい、と思える道は進みたいけれど。

たまには、背中を押して欲しいんだ。


「うん。教えて?」


そう、解ってるけど。

言って欲しいの。

ねぇ、いいでしょう?


一瞬だけ少し嫌なものを見る目をした、気焔。


しかしすぐに切り替えて、私の願いを叶えてくれる。
きっと、その為にここへ連れて来てくれたのだろう。

優しくしかし、芯のある声で話し始めた。


「お前は。普通は、人が折れる所でも真っ直ぐ、進む事ができる。」

ゆらり、燃える焔が少し激しさを含む。

「解って、いるのだろう?は弱い者の、言い分だと。光は、見たいと思う者にしか見えないのだということを。闇の中にいる事に、解決はない。ただ「居たい」と思うのならば心ゆく迄居れば良い。しかし、「出たい」と「光が見たい」と、気が付いた時に。を、用意しておきたいのだろう?」

黙って、頷く。

「弱い事は悪い事ではない。人は、強くもあり、弱くもあるものだからだ。しかし、自ずと必ず、は、来るのだ。そう、必ず、朝が来るようにな。」

うん。

私も、そう思う。


眼下の雲がどんどん、濃い灰色に塗り替えられてゆく。
一抹の不安と共に、その変化を見守る。


誰でも。
一度は。

闇の、心地良さを味わうことも、あるだろう。

闇以外は、無いのだと。
思う時も、あるだろう。


でも。

光は。


いつでも、そこに有ると。



気付いて欲しい。
知って、欲しい。

思っていて。

欲しいんだ。



ゆらり、私を包む、焔の動きが変わる。


「ただひたすらに、真っ直ぐ走るのも、時には辛かろう。その為に、吾輩は、居るのだ。」

本当?

ずっと、だよ?


口は開いていない。
ただ、その金の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「約束しよう。お前が、望む限りは。共に、在ることを。」


思わぬところで。

私が聴きたかった、望んでいた言葉が彼の口から出て来た事に驚く。


そう、私は真っ直ぐ進みたいんだ。

道は、逸れたくない。

たまには、休みたいけれど。
それは誰かを堰き止めたり、立ち止まらせたりするものではなくて。

流れは止めずに、ただそこで私は休み、また力が溜まったら。
追いつくような、休みが良くて。

それは誰でも、同じこと。

闇に、囚われていたとしても。

闇が、心地良かったと、しても。

それは、きっと色々なものを休める為に、必要で。

癒されたなら、時が、来たならば。


再び立ち上がり、歩き出す。

諦めなければ。

「生きる」、ことを。




ここに来て、「生きる」ことの意味をよく、思う。

「それ」に、どんな意味を見出すのか。

そもそも、意味は、あるのか。

私はあると、思いたいし、それがいい意味ならば。
もっといいとは、思うけれどきっとそれもまた、人それぞれで。

「目的」?
「価値」?
「必要性」?

そんなことを考えるのって、人間だけじゃないだろうか。


どうして人は。

答えの出ない、問いを持つのか。

答えは。


あるのか、ないのか。




ふと、気が付いた。

視界に白が増えて来て、再び眼下を確かめる。

そこには、いつの間にか塗り変えられた白と、薄い灰色の空が、あった。




明るくなった雲、変化する空。

私の腰に回る、この力強い腕の温かい感覚。

肌寒くないのは、薄い焔で包まれているからだろう。


チラリと見上げた、その金の瞳はまた新しい色を含んで。

やはりこの変化した空も相まって、とんでもなく美しいのだ。


この、金の石は。

私と共に「生きて」くれるのだろうか。

「在る」と「生きる」は、きっと違う。



ああ。それか。

パッと思い浮かんだあの言葉。


「「我、人の事は預かり知らぬが。このの事は多少知れるしお前は、人では無いからな。」」


  「「のだぞ。」」



あの時。

「あの人」が強調していたこと。


解ってる。


しかし私は考えたくなくて、その問題に蓋をした。

姫様と、気焔。

どちらが正しいのか、正解なのかは分からない。


でも、どうしたって、絶対。


「信じたい方を、信じて、いいよね?」


私の呟きにキラリと青をも映した彼の瞳は、私の色を反射したのだろうか。
これ迄は、そんな事は無かったのだけど。


「勿論だ。」

私の意図を、察してかどうか。
それは、分からないけど。


今は、これで充分だ。

まだ、私達の先は長い。



その答えに安心して頷くと、そのままずっと、雲の流れを映していた。


きっとこの景色も。

次の、扉に行ったら思い出すだろうなぁと、思いながら。

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