透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

祈り

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        祈れ   祈れ


   生命いのちの雫よ   全てに注げ


   放て  想え   謳え   踊れ


     与えるものは  「そら」にある




   響け  芯まで   魂の声よ


    のせろ 全てを   小さき 神に



    満たすものは   全ての心


   癒しを  救いを  求める者に



   開放しろ


              解放しろ

















「うぅ~ん…………。」

古語の本、祭祀の本と私のノート。

私が今、唸っているのは自室の小さな机の前である。

白いドレープが美しく下がる私のベッド脇に、ちょこんと鎮座している小さな机。

普段、殆ど図書室にいる事が多い私の机はあまり物も無く片付いている。
今日は祝詞の訳を本格的に決めようと、一人ウンウン唸っている所なのである。


「はーーーぁ。お茶でも、飲も。」

集中力が切れて、ダイニングへ向かう。

カンカン言うヤカンをじっと見つめながら、石から出る炎をボーッと眺めていた。



気分転換には、ここの方がいいかな?

そう考えて、そのままダイニングでお茶をする事にした。
窓の外の雲を横目に、テーブルにクロスを引いてティーセットを出す。
本格的に、やる気なのだ。

私は、脳みそを休める必要がある。うん。


春の祭祀は、雨の祝詞だ。
それに因んで、水色のクロス、白いティーセットを準備してセージも出してきた。

譲渡室から貰ってきた少し大き目の貝の皿。
虹色の遊色が綺麗なそれに、セージを入れ火を着ける。
葉を一枚、ヤカンの下に差し入れて、そのまま皿に置くと燃えてゆく白い葉。

立ち昇る煙を見ながら、パチンと指を弾いた。

何故だかこの部屋の窓は開かないのだが、代わりに換気機能があるのだ。
すぐ側が断崖だからなのか、ここの窓は開かない様に出来ているらしい。

「カンカンカンカン」

丁度カンカン言い出したヤカンの火を止め、お茶の葉を選ぶ。

「………基本に戻ろうか。」

そう、糞ブレンドだ。

コロコロとそれをポットに入れると、素早くお湯を注ぐ。

「うーん、いい香り。」

ややセージに燻され出した私は「パチン」ともう一度指を弾いて、換気のスピードを上げると座って茶葉が開くのを待っていた。


「悩んでんの?」

「あ、お帰り。」

猫用扉から帰ってきたのは、朝だ。

いやまぁ、ここから人は帰ってこないんだけど。

多分、ベイルートもここを使っているのではないだろうか。

「うーん、祝詞がね………。でも、これ以上訳しようが無いから、もういいかなぁ………。」

「どれ?」

先に茶葉を取り出してから、ノートを取りに行く。
お茶が渋くなるのは、許せないのだ。

朝にノートを広げて見せると、私は自分のカップにお茶を注いで香りを楽しんでいた。
多分、感想を言ってくれるだろう。

それを、待っていたのだけど。


「これ、最初に訳したのいつだったかしら?」

「うん?」

「多分、冬の時、一緒にやってなかった??」

「あー、………そうかも?」

朝に言われて、思い出したけど。

始めに、何故私が翻訳に余裕があったのかと言うとざっくりの訳がしてあったからだった。

確かに、そう言われれば。

「確か、同じ部分が多いからってついでにやってたわよね?それにしても、ピッタリじゃない。まるで、のを解ってたみたい。」

「そう、思う?」

「そうね。依るが悩んでるのは「小さき神」でしょ?確かに分からないわよね………。でもそれ以外なんか、もう今の状況が解ってたみたい。もう、ひたすら癒しの為に祈るって感じね。」

「そう、なんだよね………。だからこそ、この「小さき神」が分かんなくってさぁ………。」

「アレじゃないの?また、祈らないと判らないとか?」

「ええ~。解るものなら分かりたい。」

「まぁね。違いないわ。次またあんな展開になったら私も心臓、保つかどうか………。」

「止めてよ………。朝がいないと、無理。」

「はいはい。冗談よ。情緒不安定ね。」

「………。」

私が涙ぐんでいるからだろう。
しかし、私にとって朝がいないという状況は。

いつでも、泣ける自信がある。


「ま、でも。悩んで解るようなものでもないのかもね?いいんじゃない、いつも通りで。」

「まぁ。うん。そう思うよ。」

結局行き当たりばったりの私達である。

でも。特に、祝詞だから。

考えて、解るものでもないのだろうな、とも思うのだ。

「どうせ、みんなそれでいい、って言ったんでしょ?」

「そうだね。もう、自由にやれって感じ。」

「………次は一体、何が起こるのか。楽しみな様な、怖い様な………。」

「祭祀が怖いって、どういう事かな。」

「だって。まぁ、でも今回は別れるみたいだから前よりはそういう心配は無いかもね。」

「それは、ある。」


なんだかんだと、祭祀の準備は整い始めていた。

ブラッドフォードは上手く根回ししたらしく、旧い神殿に配置されるのは私、ウイントフーク、ブラッドフォード。
それに、シンだ。

それ以外はほぼ、全てがこちらの神殿の前庭に再び並ぶ事になる。

そう、気焔は。

こちらの神殿に配置される事になったのだ。



始めにウイントフークからその計画を聞いた時、私は耳を疑った。

私のストッパーになる筈の、気焔がいない。

その不安だけで、ザワザワとし出した私を納得させたのは、流石の本部長の作戦だった。


「シンを、向こうで気焔がこっちでも、いいんだが。お前が、向こうにいない状態で何が起こるか分からない祭祀。を、向こうに置くか。お前が決めていいぞ。」

そう、言われると。

沢山の人、みんなの祈り。
アラルエティーが祈ると、舞うと、どうなるのか。
光は、、降るのか。

扉は、どうなるか。

何かあった時に。
「私の望む様に」対応してくれるのは。

なのか。


そんなのは、決まってる。

キロリと睨んで、言った。

「狡いですよ。」

「仕方無いだろう。ま、お前はシンがいれば大丈夫だろうしな?何かあれば、気焔だって呼べばいい。」

「まぁ、そうですけど………。」

でも、誰も向こうにいないのも、心配だ。

「まあでもレシフェもいる。イストリア、ウェストファリア、シュレジエンもいれば、なんとかなるだろ。最悪の事態になって、気焔を呼んでもな。」

「最悪の事態って………やめて下さいよ。何だろうな、最悪の事態って………?」

その布陣で、気焔を呼び戻す様な事があるだろうか。

その時は、思い当たらなかった。


そう、まだ私には。

そこまでの、想像力は無かったのだ。


人が、利権を守るために。

どこまで、何を、するのかは。



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