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7の扉 グロッシュラー
二人の話
しおりを挟む「これは凄いな。」
「ああ。流石にここまでのものは想像してなかったな………。」
「しかし、よくこれだけのものが………。」
「なあ。僕なんか相当馬鹿にされてたけどな?銀だから表立っては何も言われないが。あの視線………でもこれで僕の勝ちだ。」
「でも秘密なんだろう?」
「まぁな………。しかし言いたくなるよな、これは。」
「解る。」
石屈を覗きながら言いたい事を言っている、二人。
少し離れた所から、それを眺めていた私は一応ランペトゥーザに釘を刺す為に近づいて行った。
「大丈夫。」
振り返って、そう言うと花の間を縫って進む。
気焔はいない方がいい。
あの二人もその方が話し易い筈だ。
心配そうな瞳を残して手を振り、石柱までゆっくりと歩いて行く。
石柱の辺りは丁度、花畑になっていて白と灰色の大きな柱が彩りの良い花達を引き立てていた。
ハーブとは違う花の香りを楽しみながら、「やっぱり風があると違うな?」と進んでいると、耳に届く、小さな悲鳴。
あの二人だ。
「う、わっ!」
「大丈夫か?!」
「あ、あ………吃驚した…。」
「大丈夫?」
尻餅をついているランペトゥーザに手を貸すベオグラード。
私は声を掛けつつも、ムッとした様子のランペトゥーザに気が付いていた。
「覗いたらすぐに「バチッ」て弾かれたんだ。なんで僕が弾かれなくちゃならない………。」
「フフッ、嫌われちゃったね。」
「は、あ?銀の家の僕を弾く理由は無いだろう。」
そういう所じゃないかな…、ランペトゥーザ。
そうは思ったものの、この二人の間でさっきの身分的な話は解決していないのだろうか。
チラリとベオグラードを見ると、半分笑顔だが苦い顔をしている。
うーん、成功と失敗、半々ってところか。
「でもさぁ、ランペトゥーザ、この子に本気で嫌われたら多分、もうここに来られないと思うよ。」
何と説明したらいいのか。
考え付かなかった私は、とりあえず現実問題を口にした。
イストリアもああ言っていたし。
多分、ここの空間は「来るものを拒む」事は、ある筈だ。
しかし、次の瞬間。
彼は恐ろしい事を、口にしたのだ。
「なんだ。たかが石だろう?石が僕を嫌うって、そんな事…………。」
あ。
まず。
咄嗟に石屈へ顔を突っ込んで、「ごめん!ちゃんと言っておくから!ね?お願い。」と叫んだ私、ランペトゥーザを嗜めるベオグラード。
それをポカンとして見ている青い瞳には、まだ疑問符が沢山浮かんでいる。
それを横目で見つつも、空間に異常がない事を確認して、ホッと溜息を吐いた。
とりあえず私達二人はランペトゥーザを石柱から少し離れた場所へ連行する事にした。
何にせよ、離れていた方が安全だろう。
「一体、どうしたって言うんだよ?」
その言葉に、顔を見合わせる私達二人。
ベオグラードは、あの橙の迷路で私の石を見ている。
石達が意志を持つこと、それにあの大きさと透明度、美しさならば。
どのくらいの力があるのか、なんとなく判るのだろう。
「どう、言えばいいのか…。」
「ね。」
今更、ここに来てベオグラードがかなり既に私達に近い事に気が付いた。
この、二人の差が物凄く、際立つのだ。
「なんて言っていいのか…確かに。分かんないけど。」
でも、ランペトゥーザだってまじないの国の住人で。
不思議な事が起こるのは知っている筈だ。
何故、こうも受け取り方が違うのだろうか。
ウンウン、私が唸っているとベオグラードが口を開いた。
「僕達は、確かに神の一族と言われているが。」
あ。
そうだった。
え?もしかして、それ??
一言一言、考えながら発言するベオグラードをじっと見つめるランペトゥーザ。
しかし次の言葉に、キラリと瞳の色が変わった。
「その割には、世界を知らない。」
「しかし、知る必要があるのか?僕達は他を運営すればいい筈だ。ルールを作れば、回るだろう?実際、不都合は無くやっているじゃないか。」
「不都合は、ある。さっきも言ったろう?力は同じ、若しくは強い者だっている。生まれた場所が、違うだけなんだ。」
「だってそれは今更変わりようがないし、僕達は神の一族に選ばれた。結局、そういう事だろう?」
「いや、だから………」
なんだ、これは。
全然、解決してないな?
二人のやり取りを見ながら、腕組みをして考え込む。
「選ばれた神の一族」
そんな事、子供達に教えてる人、誰?
とっちめてやらないと………。
でも。
「選ばれた」のか、「無作為」なのかは。
証明の、しようは無い。
あの、ティレニアで。
ランダムに、輪に放り込まれるのか。
それとも神が、ピックしているのか。
いや、それはあり得ない。
ベイルートさんみたく、よっぽど徳がある………うーん?何か人助けで消えたとかなら、ともかく。
こんな悪の巣窟から次も、贅沢三昧だなんてそんな事ある??
ダメダメ、神が許しても私が許さないよ………。
うーーーーん………。
何やらまだあれこれ言っている、二人の会話は既に私の耳には届いていなかった。
そうして、ふと私の中に湧いてきた疑問。
「ねえ。じゃあ、ランペトゥーザは。もし、もしもだよ?自分がロウワに生まれてたら。それでも、いいって事だよね?この、現状のままで。それはそういう運命だから、って、文句は無いんでしょ?」
「………まあ。そうだな。俺達は神の一族。ロウワはどこまで行っても、ロウワだろう。僕が、今更ロウワになる事はまぁあり得ないからな。どうにもならないだろう?」
「ふぅん。絶対?」
「え?だって………。無理、だろう。」
「そうだね。でも、物事に「絶対」は、無いよ。残念ながら。」
「は…………?」
私の、空気がおかしい事を察したのだろう。
「まさか?」という表情。
狼狽える様子を見せている青い瞳、しかし私がそれを逃す事は、無い。
絶対?
あり得ない?
そんなの、生まれた時から虐げられてる方があり得ないよ。
いっそ。
赤ん坊になって。
やり直してみれば、いいんじゃないの………?
スズッと、その青い瞳の中へ侵入する様に、捕らえていた。
もう、少しで飲み込んでやろうか、という瞬間。
「ヨル。まあ、待てよ。」
バサリと銀のローブを翻して、私達の間を遮ったベオグラード。
ハッとして、少しチカラが漏れていた事に気が付く。
「ご、めん。」
「まあ解らなくもない。だが、…時間がかかる。」
「だね………。」
ベオグラードの向こう側に見える茶髪がサラリと動いたのを見て、気持ちを落ち着けようとその場に蹲み込んだ。
ランペトゥーザの方が、少し背が高い。
動いた彼と、目が合いそうな気がしてとりあえずの回避をしたつもりだった。
しかし頭上では怪しげな会話が繰り広げられている。
「もしかして………。いや、まさか?」
「まあ、何とも言えないな。」
「は?そんな事、あり得ないだろう。」
「まあでも。ヨルだからな…。」
「いや、力は強いのかも知れないが…え………ええ??!あり得ない。無理だ。そんな事が、出来るのは…。いや、それでも………?」
「言うなよ?」
「は?本当に?!あっちは?なんで二人?!」
「さあ。でもあっちは、アリススプリングスが連れて来たと、兄上が。」
「は…………ぁ。確かに。それ、はそうだ、けど………。しかし………いや…………でも…………。それで、か……………。」
えー。
何だろ。
まさかと言うか、何と言うか。
バレ、た??
でもベオ様、知ってたっけ?
まぁ………判るか………あれ見てるもんね………。
予言知ってれば、判るか。
いや、エイヴォンさんかもよ………?
あの人、しれっと訊かれたら言いそうだな………。
でも、今更か………。
チラリと顔を上げる。
ちょ。
私、ツチノコとかじゃ、無いんですけど???
ランペトゥーザの顔が、おかしい。
仕方が無いので、立ち上がり草の付いたローブを叩いた。
「まあ。て言うか、知らなかったのか?祭祀も見たんだろう?」
ベオグラードのツッコミに、まだおかしな顔のままのランペトゥーザ。
しかしベオグラード自身は知らなかった彼に自分が話してしまったと思い、焦っている。
「いや、不味かったのか?大丈夫か、これ。」
「うーん、でも。ここに来たし、私達と一緒に居れば。何れ、バレるのは時間の問題だよ。」
「うん?まあ、そうか?しかし兄上に怒られるかな………。」
「どうだろうね?お兄さんも、ハッキリとは言わなかったけど。気付いてるしね。多分。」
「まぁ、そうだろうな。じゃなきゃ、ここへ見に来てないだろう。」
「ま、そんな事はいいんだよ。問題は根深い、こっちの事。でも、確かにベオ様の言う通りすぐには変わらないよね………。なんかもう、ランペトゥーザも誰か好きな子でも作れば?あ、デヴァイ以外で。」
そうしてすぐに、脱線する私達の話。
真剣な空気は、やはり長くは続かなかった。
「言われてすぐに出来るなら、いいけどな。」
「確かに。これだけは、ままならないものよね………あ、それにしても。ちゃんと、レナと話したの?」
「うっ。いや………しかし二人に中々………」
「えー?二人きりになるのなんて待ってたら、おじさんになっちゃうよ??ちょっと、誘ってさぁ。散歩とか、すればいいじゃん。丁度花畑もあったのに、男二人でずっと歩いてた訳~?」
「いや………久しぶりだから、何を話していいか………。」
「最近どう?でいいじゃん。いや、これはアホっぽいか…………?」
「おい。」
「でもさ、あっちからは来ないんだから………あ、ごめん本当の事言っちゃった。」
「なあ。」
「お前、しばらく会わない間に酷くないか??」
「おい。」
「あ、ごめんごめん。悪気は無いの。」
「おい、二人とも!!」
「「え?」」
同時に、くるりと振り向いた私達。
どうやら少し前から呼び掛けていたらしいランペトゥーザは、苦笑いをしながら、しかしきちんと姿勢を正してこう言った。
「なあ。宿題に、させてくれないか。少しは、解った気も、する。もしかしたら。僕が、ロウワになったら。それはやはり………。うん。」
少し考えつつも、続ける彼は私達が脱線している間にもきちんと考えていた様だった。
「しかしまだまだ何も解っていない事も、分かるんだ。だから。時間を、くれ。」
さっき迄と全然違う、その瞳の青。
一体、何があったんだろう?
その、私の表情に気付いたのだろう。
「なんだ、意外か?」と訊くランペトゥーザ。
「え?…………だって。なんで?いいの?」
「いいのって、何がだよ。いや、思えば。僕だってシュマルカルデンの態度は気に入らない。それと、同じだって事だろう?」
「成る程。………確かに、そう、だね。」
あの、運営の授業の後の事を思い出す。
完全に馬鹿にしていた、シュマルカルデンに何も言えないランペトゥーザ。
銀の家の、中ですら。
格差が、差別が、あるのだ。
「まあ、あいつは特別嫌味だけどな。」
「ベオ様が言うなんて、よっぽどだね?」
「………もう、その辺は勘弁してくれ。」
「ごめんごめん。さ、じゃあレナのとこ行こうか!」
「あ、ああ。うん。」
「とりあえず、ランペトゥーザも話してみなよ?レナ、頭もいいし楽しいよ?」
「えっ。」
異議がありそうなベオグラードを放っておいて、ランペトゥーザも誘いレナ達の方へ歩き出す。
大分時間が経ったと思っていたけれど、このまじない空間はまだ美しい空色が広がっているのだ。
ここも、午後になると色が変わるのかな?
いや、もうお昼過ぎだよね??
自分の腹時計を確認しながら、青いふわふわの髪を目指して歩く。
少しずつ。
こうやって、少しずつ、やって行くしか無いよね?
まだ、ランペトゥーザも完全には理解していないだろう。
でも、自分で考えて、くれた。
「それって、凄い事だよね………。」
目を逸らさずに、「わからない事を考えること」「相手の事を考えて」向き合うこと。
それが出来ることの、貴重さ。
「分からないものは見ない」「無視する」、それにきっとここは「神の一族以外は関係ない」と切り捨てられる事の方が、普通なのだと、思う。
彼が特別なのか、それとも見えないだけで、実はもっと解ってくれる人がいるのか。
それは、分からないけど。
でも、二歩目くらいとしては上出来じゃないだろうか。
そうして、一人が二人になって。
二人が、三人、四人になれば。
「よし、やるぞ!」
「あまり、張り切るな?」
「えっ。ベオ様まで、そういう事言っちゃう??」
「まぁな。あいつが怖いんだ、僕は。」
その視線の先には、あの、金色。
じっと、こちらを見ているのが判る。
「確かに。」
そう、ゆっくりと頷きながら、みんなと合流したのであった。
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