透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

畑の面々

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反射的に、目を閉じた私。


しかし、すぐに失敗した、とも思う。

だって。

そう、次に開けるタイミングが掴めないからだ。


多分、私は今あの橙の焔の中に、いる。
あの、金色に抱えられて。

あそこから、外には出たんだよね………?
ポイって放り出されたのかな?


しかし、金色が心配のあまりこうなっている事も、よく解るのである。

それに…………。

多分、まだ畑だよね?
みんなは?

私達、どう見えてるんだろう?


段々と冷静になってくると、やはり目を開けるしかないという結論に辿り着く。

うん。
それもなるべく早めに、だ。


とりあえず、私は今地面に寝かされた状態の様になっていて、それを抱えられている体勢である。
心地の良い腕、いつもの感覚だ。

そしてきっと、目を開けるとそこにはあの金の瞳があるのだろう。
どんなに気まずくても。

やるしかない。

「フフッ」

自分で気合を入れて、可笑しくなってきた。


なんでこんな事やってるんだろ…………。

「…………コラ。」

クスクス笑い出した私を咎める様な声が降ってくる。

一頻り、笑い終わった後でパッチリと目を開けた。


「ごめん、ね?」

始めよりは幾分柔らかくなっている金色は、しかし未だ不満気な姿勢を崩す事はない。
その燃える瞳をチラつかせて、私を無言で責めているのだ。

うーむ。
でも、しょうがなくない?
「あれ」は、入るでしょ。ねぇ。

しかも、ちゃんとお願いしてきたし?
一石二鳥?
結果オーライ?


目の前の瞳をじっと、観察していると少しの変化に気が付いた。

「えっ。」

いつもは、金から橙迄のグラデーションで彩られている、この美しい瞳に一瞬違う色が見えたのだ。

「ちょ、っと待って?」

ガバリと起き上がると、顔をぐっと引き寄せ瞳の中を覗き込む。

「うっわ。ナニコレ。またグレードアップしてる。」

その、金色の睫毛に縁取られた美しい瞳の中には、いつもと違う煌びやかな色が有るのである。

猩猩緋、青、紫、常磐緑。

私の動きに合わせてキラリ、キラリと色が出る場所も変わる。
まるで、あの石屈に見えた虹の様なのだ。


「うわ………すご…………。」

あちこち、自分の顔まわりを彷徨く私が鬱陶しくなったに違いない。

長い溜息を吐いた気焔はパッと私の顔を挟んで、そのままギュッと抱き締めた。


あれ………。
チカラじゃないの、かな…?

いやっ、いやいや。この頃ちょっと緩すぎるかもしれない。
そんな、ホイホイ注いじゃ駄目だよね??
駄目、なのかな?

うん??


一人ぐるぐるが始まった時点で、察したのかどうか顔を上げられ形の良い唇が目に入る。

そうして私がどっちつかずになっているうちに、やはりチカラは流し込まれたのだった。



うーーむ。

「余計な事は考えなくてよい。で良いのだ。」

私を解放すると、そんな事を言う金色。

しかしこの人はこの頃、おかしな目をよくするし、少し距離を置こうとしている事も、私は知っている。

どっちなんだろう。


じいっと、その焔を観察しているとフッとその空間を解いた気焔。

「さあ。」

それだけ言うと、私をしっかりと立たせたのだった。







「私だって止められたのに、君は狡いな。」

そんなイストリアの言葉に迎えられ、みんなの所に戻る。

畑は未だ、珍しがる銀ローブ達が散策をしていてレナとレシフェは何やら二人、真剣な話をしている様だ。

ウイントフークの姿は見えない。
店に戻ったのだろうか。
自由人はいてもいなくても不思議に思わないので、そのままぐるりと視線を移動させてゆく。

少し離れた場所で、朝が気持ち良さそうな草の上で寝ているのが見える。
何とも平和な空間である。


「いや、凄かったですよ。」

「阿呆。」

「まあ、真似しない方が良いだろうね。」

「そうですか?」

「私はに気に入られているという、自負はあるが。中にまで入って無事かどうかは分からないな。まぁ止めておいた方が無難だ。」

「そっか………。」

あれは、凄いんだけど。

みんなにも見て欲しかった気もするけれど、イストリアの言葉が正解なのだろう。

石柱を見上げて、少しだけあの空間を想う。


「それにしても、ありがとうございます。みんなを連れて来てくれて。」

イストリアは私の為に、秘密を暴露したようなものなのだ。
申し訳ない気持ちもあるけれど、何より、嬉しい気持ちが勝つ。

イストリアが「みんなで」の方向に舵を切ってくれた事。

それはやはり凄い事だ。
特に、この世界では。


「私もね。やはり思うところがあるよ。」

私の心を読んだかの様に話し始める。

「この世界の、一端を担う者として。私は、狡いからね。ここへ、一人で隠れていた事。それはやはり「無関心」からの行動だ。これまではそれが普通で、皆だったから甘えていたし、気付いてだけれどいたのだろう。君を見てると、本当に考えさせられるよ。正直、こんなのはお安い御用だ。」

そうして私の肩をバンバン叩くと、「まあ、まだ始まったばかりだ。」とレシフェ達の所へ歩いて行った。

彼女なりの、償いのつもりなのだろうか。

私には、どう答えていいか分からなかったけれど。


以前、レシフェも「落とし前をつける」と言っていた。
多分、私が口を出せる事じゃない。

各々が、それぞれの方法で。
きっと納得できる事を、して行くのだろう。


ハーブの香りがふっと、鼻に届き風の動きを感じる。

この大切な空間も。
みんなの為に、使えるともっといいよね。


視点を上げて、傍らに佇む金色を確認した。

その気配を察知したのか、私をチラリと視界に入れると「見ろ」という様に視線を動かす気焔。

その先にいたのは、さっきの二人だった。








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