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7の扉 グロッシュラー

秘密の場所へ

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「あ!ウイントフークさん!迎えに来てくれたんですか?」


興奮したまま、更にウイントフークまで見つけて駆け寄った私に、いい笑顔で応えるウイントフーク。

なにやら、雲行きが怪しい。

「よし、予想通りだな。」

「え?」

なにが?

その私の疑問をそのままに、「神殿を見るか?」とみんなに訊いているウイントフーク。

しかしやはり、デヴァイではこの旧い神殿は良く思われていない様で銀ローブの三人は首を振っている。

私はそれを眺めつつも、回廊に少しだけ足を踏み入れているレナの所へ向かった。


「どう?レナは、中へ行く?」

「そうね………でもここで、あまりのんびりもしてられないんじゃないの?」

「確かに。それはあるね。ちゃんと見ようと思ったら、結構時間かかるからね………。」

「それはあんただけよ。それにしても、この人数、何処から行くわけ?」

うん?

確かに??


レナでさえ思う疑問に、全く気が付いていなかった私。
くるりとウイントフークを振り返る。

しかしウイントフークはレシフェと気焔、三人で話をしていてこちらを見る様子は無い。
銀ローブ達はお堀の様な川を珍しそうに覗き込んでいて、意外と神殿を過剰に忌避する様子は無いようだった。

もしかして、レシフェに何か言われたのかも、しれない。
彼も始めは、酷く嫌がっていたから。


それにしても、どうやって降るのだろうか。
みんなはまじないで降りられるのか、どうか。

さっきブラッドフォードが「力のバランス」と言っていたけれど、あの三人はどうなんだろうか。

銀ローブだから?
それなり?
それとも、関係無いのかな??


シャットでのベオグラードの光の色を思い出しながら、つらつらと考え事をしていた。

すると、男達がゾロゾロと神殿の中へ進んで行く。

「え?行くの?」

「そうみたいね?」

レシフェを先頭に銀のローブが続いて、回廊を進んで行った。

「さて。出番だ。レナはあいつらについて行け。さ、行くぞ。」

「えっ?何処に??」

背後から来たウイントフークがそう言い、レナは頷いて小走りで後を追う。
朝がついて行ったから大丈夫だろう。

対してウイントフークと気焔に連れられて、私も奥へ進む。


なんで?別々?
何処行くの??


とりあえずずんずん進んで行くウイントフークは、きっと目的地に着くまで説明するつもりはないだろう。

仕方がない。

「ほら、行くぞ?」

そう言いながらフードから這い出てきた玉虫色に頷いて、二人の後を追って行った。








「さて。」

そう言って、くるりと振り返ったウイントフーク。

辿り着いたのは、あの円窓の下。
ハキを見つけた、あの丸い印があるあそこだ。

私達三人だけ、ここへ来たのである。

みんなは、何処行ったんだろ??


キョロキョロしている私にウイントフークの説明が始まった。
とりあえず、彼のタイミングで何事も突然始まるのは、いつもの事なのだ。


「少し考えたんだが、あいつらを運ぶのに往復するのも面倒だ。それに、きちんと入り口を作った方がいいだろう。これからは、他の奴も来ないとも限らないからな。」

「えっ。あの、畑にって事ですよね?」

「そうだ。もうイストリアも上に出る事が多くなるだろう。あの店だけ隠しておけばいい。」

ウイントフークの口から出る「イストリア」と言う言葉に違和感を覚えて、つい口から滑り出る言葉。
お節介だろうか、しかし気になるものは気になるのだ。

「えっ。「お母さん」って呼んでないんですか??」

「は?今更だろう。」

「ふぅん?………喜ぶと思うけど。じゃあ私へのご褒美として、一回は呼んで下さいね??絶対、絶対ですよ??」

「…………善処しよう。それでだが………。」

少しだけ、嫌な目をして私を見た後誤魔化す様に説明を始めるウイントフーク。


うーん。
諦めないからね??ちゃんと、ここにいるうちに、絶対呼んで貰うんだから………!

変な所で闘志を燃やしつつ、話半分で聞いたウイントフークの説明はその、入り口の作り方の話だった。




「まぁ理論的には、そうなるな。」

「じゃあ、とりあえずやってみればいいって事ですね?」

「そうだ。得意分野だろう?」

「………。」

頼まれているのに、扱いが酷い。
どういう事だろうか。


以前、イストリアに聞いた話だとここで祈ってみた後に、あの倉庫に扉が出現したのではないか、という話だった。

私達は、いつもあの不思議な穴を降りているけれど。

まじないが弱いと、変な場所に飛んでしまうかもしれないらしい。やはり不思議な穴なのだ。

それで「祈ればいい」という事になったらしいのだけど、丁度元気が有り余っていそうだと始めから私にアタリを付けていたらしい。

そうして色々な要素で浮かれた私が、まんまと到着した、という訳で。

まさにカモがネギを背負って、やって来たのである。


なんだか大分、間抜けな気がしなくも、ないけれど。


「まぁ、事実なんだからしょうがない、のか………。」

ブツブツ言いながらも、円窓を見上げ、一つ深く深呼吸する。

ウイントフークは既に「あっちで見ている」と言って倉庫へ行ってしまった。
もし、本当に扉が現れるならばその瞬間を見なければ気が済まないのだろう。

その気持ちも、分かる。

誰か、代わりに祈ってくれないかな………。


しかし私は、自分で自分が最適だという事も解っていた。

この、ワクワクとドキドキ、さっきのお兄さんの対応となんだかスッキリしたいという、気持ち。

うん、これは軽く、イケる。


見守ってくれている金色にチラリと視線を飛ばすと、頷いたのが見えて自分の心が少し、凪いだのが分かった。


さて。
何に?祈る?

みんなに?
再会に?それもいいね………。

ベオ様の、あの顔!レナと話してるかなぁ………。
それも含めて、あっちでは上手く行くといいな………。

ああ、今日も綺麗だ。


あの曲線、窓の縁の厚みと影、雲からの緩い光の陰影と、切り取られた白い雲。

この前、石をくれてありがとう。
あれは、みんなの力になってるよ。
ここで、貰った力をここで、正しく使う。

それで、いいんだよね?

また祈るから、また頂戴ね?
今度は何色がいいかなぁ………。

この後、みんなで畑で石を見るんだ。

あの、凄いやつ。

知ってるでしょう?

凄いよね、アレ。
あれも、祈ったら出来たのかなぁ?

前は、空が、あったから?
もっと、宇宙のパワーが貰えたら。

あんな風に、素晴らしい石が出来てまた豊かになる?
うん、でも変えてからじゃないと駄目だよね。
それは、分かる。
じゃあ、頑張るから。

よろしくお願いします。


うん?

熱い、な…………?





「依る!」

少し硬い、声が聴こえた。

目を開けるとただ眩しくて、程なく気焔に抱えられたのが、判る。

「大丈夫か?」

「うん、ちょっと、熱かっただけだよ………?」

でも、眩し…………。




少し、目が慣れてきた。

気焔が飛んだのは、まだ円窓の下、踊り場の端。

もう殆ど光が消えかかるあの、床の魔法陣の様なものはキラキラと光の粒を飛ばして輝いている。

初めの眩しさは、きっと太い光の柱だったに違いない。
それが上から消えてゆき、今は根元が少し、残るのみ。

それも、光の粒となってフッと最後には何も、無くなってしまった。


「ハキがいないのに、光った、ねぇ?」

腕輪と、金色を見ながらそう呟く。

気焔はチラリと腕輪に目をやると、袖に仕舞って「行くぞ。」と私の手を引いた。


少し、名残惜しかったけど。

何も無くなった、中央の円をじっと眺め「あの文字だ」と思う。

また時間がある時、トリルと来よう。

確かに扉が出ていれば、向こうは大変かもしれない。

振り返り、円窓に「ありがとう」を呟くと手を引かれながら階段を下って行った。






「それにしても。私、まだ祈ってなかったんだけど。」

「…………まあ。お前は、な。」

なんだか意味深な事を言って、倉庫の扉を引いた気焔。

私は自分が祈る前の前置き、くらいの気持ちであの円窓に報告をしていた。
なんなら、近況報告くらいの感じだ。

あそこから、ポーズを取ったり、なんなら踊ろうかと、思っていたのに。


「早いんだよね………。」

「お、来たな。」

「あれ?みんなは?」

「もうとっくだよ。あの人がを見て、我慢が出来る訳がない。」

そう、倉庫で待っていたのはレシフェ一人だけだった。

「うっわ!これは酷いね………。」

「だろ?」

扉を開けて、一番に飛び込んできたのは。


倉庫の扉と同じ丸い上辺、木目が美しく現れている繊細な彫刻。
鉄の、装飾であろう縁飾りと、中央にある大きなドアノッカー。
ビシビシと鋲が打ってあるその縁飾りは、その扉を無骨に重苦しく、見せている。
しかしその余りあるオーラは「私は不思議な扉だ」と主張して止まない。

それは壁の殆どを占める、大きくて豪華な、扉であった。


「なんでこんな、暑苦しいやつ出ちゃったかな………。」

そんなつもりが全く無かった私は、もっと妖精でも出てきそうな扉が出るものだとばかり、思っていたけど。

「そんな事、考えてたんじゃないのか?まぁいい。行くぞ?」

そう言ってドアノッカーに手を掛けるレシフェ。

「はぁい。ま、そんな事もあるよ、ね?」

隣の金色を見上げると、なんだか楽しそうな顔を、しているけれど。


ま、いっか。
なんか、楽しそうだし?

その金の瞳が細まっているのを見て、私もなんだか楽しくなってきた。
扉を開けたら、すぐあそこなのだろうか。


そうして金色の瞳に頷いて見せて、一緒に扉へ向かう。

ぐっと、引き寄せられる腕に温かさを感じながら、安心してその扉を潜って行った。
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