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7の扉 グロッシュラー

道中

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「なんか、ありがとうな。」


灰色の大地を歩いている、途中。

私の前には青いローブが見えていて、隣には銀ローブ、背後には朝が歩いている。


なんとなく、空が見たくて白い雲を眺めていた私は、隣の青い瞳に視点を移した。

「………ううん。」

フルフルと首を振って、「嘘は吐きたくなかったから」という言葉を飲み込む。
余計な事は、言わない事にした。

私はただ、彼のこの瞳が空の様にある事が美しいと思うし、それが曇る事は望まない。
それだけ。

ふわふわと揺れる茶の短髪がなんだか彼の雰囲気も柔らかくした気がして、これまでの変化を思っていた。


「ベオ様と、二人でやったから捗ったでしょう?」

「そうだな。これ迄はそう、会わなかったけど。あっちへ戻ったらまた楽しいかもな。」

「てか、親戚なんでしょ?遊んだり、しなかったの?小さい頃とか?」

「うーん、何て言ったらいいか。あっちは筆頭だから今迄は僕から声を掛ける事は出来なかった。向こう次第なんだ、普通は。でも今回、ベオグラードの事はよく解ったから。でも、どうなんだろうな。ここと、向こうは違う。」

「そうなの?………面倒くさいね。」

「め、…………まあ、そうだな。」

「私、向こうに行ってちゃんとやってけるかなぁ?その、順番とか絶対覚えられなそうなんだけど…。」

「………なんか、お前は。大丈夫、じゃないか?」

「え?ランペトゥーザ、なんか諦めてない?教えてね?向こうで。こう、目配せとかしてさ。」

「ハハッ、それいいな。」


「あら。見えたわよ。」

「え?あ!ホントだ!」

朝が私達を追い越して、気焔の隣に並ぶ。

肩のベイルートは「俺は協力しないぞ。」と言っていて、私が「その順番」をベイルート頼みにしようとしている事がバレたのだろう。
キラリと背を光らせて、フードの下へ潜って行った。


大きな灰色の館は、もうすぐそばに見えていて小道の先に二人が待っているのが見える。

銀のローブが、二人。

近づくに連れて、二人がやはり似ている事がよく分かって、私は楽しくなっていた。

だって…………完全に、大きいベオ様だからさ…。

初めて会った時も「大きいベオ様だ!」と思った事を思い出して、ついニヤニヤしてしまう。

何故だかこのお兄さんの前では、なんとなくきちんとしていないと怒られそうな気がしている私は少しだけ態度を改めて、挨拶をした。

「おはようございます。」

そう、多分、向こうに着いたら。

テンション上がりまくりで、それどころじゃなくなりそうだもんね!


ランペトゥーザも挨拶を済ますと、ベオグラードと仲良く歩き出した。
それを見て、私もその背後を自然と歩き始めたのだけど。


何これ。
落ち着かないんだけど。

予想、していなかった訳じゃ無いけど。
いや、していなかった、のが正しいか。


先頭は相変わらず気焔が先導していて、その後ろをランペトゥーザ、ベオグラード。
そう、ブラッドフォードが。
気焔と、歩くか、と言うと。

歩きませんよね………そうですよね………でも、仲良くすれば、いいと思うんだ、うん。

チラリと振り返る気焔の視線が気になって、気まずい私。

でも多分、この順序は向こうの普通に違いない。

チラリと背後に視線を投げてみても「仕方ないんじゃない?」的な顔しか、見えなかった。


助けてくれてもいいじゃん!
ん?
でも猫が会話に参加する方が、変??
とりあえず話し掛けられたら答えればいっか………。

そう、思ってはみたけれど。

じっと、黙りこくっている事が苦手な私は気まずさを感じて、どうしてもそわそわしてしまうのだ。

えー。
でも、お兄さんと共通の話題?
そんなの、あるかな………。


チラリ、隣の銀ローブと薄茶のサラ髪を確認する。

ヤバ。

バッチリ、目が合ってワタワタする私。

しかしブラッドフォードはすぐに視線を前方へ移すと、気になる話を始めた。


「君は。あの、青の彼と婚約しているのだろう?」

えっ。その話?

急に不安になって、恐る恐る青い瞳を確認する。

ここの所、いつも向けられている「青と、銀の家」への不可思議な視線と軽視、嘲笑の色。

すっかり「こっち側」認定していた彼からその話が出て、急に胸がドキドキする。

何と言ったものかと考えあぐねている間に、再び彼が口を開いた。

「力の、バランスの話をしたと思うが。」

「………はい。?」

「端的に言えば。力の弱い者も、上にいる、という事だ。人は知らぬ物を知覚する事は出来ない。」

「はい。」

返事はしているけれど、私の頭の中は「???」になっている。

「私は、君の相手は彼でいいと思っている。だが、思わない輩の方が多かろう。それは、解るね?」

「はい。」

「場合によっては、私が隠れ蓑になってもいいぞ?」

「隠れ蓑?」

「そう。私が。婚約者だと言えば、誰も何も言うまいよ。」


多分、確実に、おかしな顔をしていたのだと、思う。

その顔を面白そうに見ながら、続けて彼は言った。

「表向きは、私と婚約。彼とは会ってもいいぞ?そこは自由だ。悪い話では、ないだろう?」


ああ、これか?

瞬時に納得して、あの時のベオグラードとエイヴォンの顔が浮かぶ。

「兄上は女癖が悪い」、のやつ。

なんて言うんだろう、この人。
「上手い」んだ、きっと。

レナに言わせれば、もっといい言葉があるかもしれない。
この、人をちょっと横道に逸らす様な。
少しだけ、はみ出させて上手く自分の道に乗せるみたいな。

でも、その彼の瞳から「負」の色は感じられなくて。

多分、心底私を騙してやろうと、そう言っている訳では無いのが判る。


多分、私がこの罠に引っ掛かるのか、どうなのか。
試されている、という事なのだろう。


じっと、その青い瞳を観察して色を確認して。
この人が信用に足る人物なのかを、確かめる。

私が、この人を信じるのか。

自分で、見極めるんだ。


白い雲が流れる背景、正面の青い瞳をじっと、見つめていたその時。

突然「あの声」が、耳に飛び込んできた。

「何してる。」

「ハハッ、何でもないよ。悪かったな。さあ、行こうか。」

どうやら私達は立ち止まっていたらしく、既に傍らにいる青ローブにキロリと睨まれているブラッドフォードは少し楽しそうに、そう言って先を歩き出した。

「大丈夫、か?」

「うん…。多分。」

「多分?」と訊き返す気焔の言葉を流して、ゆっくりと歩き始めた。



今度は先頭に朝、ランペトゥーザとベオグラード、それを見ながらブラッドフォードが歩いていて私達が最後尾だ。


私、返事してないけど大丈夫だよね………?

勝手に了承、した事になっていないのなら、いいけれど。


まだ目的地に着いてもいないのにぐるぐるを始めた私を、心配そうに見ている金色。
本日は茶の瞳である。

「大丈夫、大丈夫。」

自分にも言い聞かせる様にしてそう、言うと茶の瞳が何かを見つけたのが、判った。

ふと、その方向に視線を投げると見慣れた二人が待っている。
いつの間にかもう、貴石まで来ていた様だ。


そうしてレシフェとレナも、合流すると旧い神殿まではもう、すぐだ。

レナと話しながらアーチ橋を渡って、みんなの後ろをついて歩く。

朝のしっぽに先導されたあの二人は、ここまで来るのが初めてらしくキョロキョロと視線が忙しそうだ。
多分、ブラッドフォードも目だけは忙しく動いているに、違いない。

因みに私達の背後は、気焔とレシフェだ。
一番安心できる、順番かもしれない。


私はまたあの畑に行けること、大きな美しい石が見られる事、そして久しぶりに会ったレナにベオグラードの顔が面白くなっている事が可笑しくてこのテンションのやり場に困っていた。

けれども実は、この後そのテンションの使い道を知る事になるので、ある。


しかしまだ、そんな事には全く気が付いていない私は、ルンルンと足取りも軽く進んで行ったのであった。
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